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国内の暴力
ダマスカス県では、内外の反体制勢力がバーブ・トゥーマー地区で軍・治安部隊と反体制武装勢力による「初の交戦」があったと相次いで発表した。
シリア人権監視団によると、バーブ・トゥーマー地区での交戦で少なくとも1人が死亡した。
地元調整諸委員会によると、バグダード通り、マリク・ファイサル通り、アマーラ地区、バーブ・トゥーマー地区で「激しい銃撃戦」があった。
シリア革命総合委員会によると、カダム区で、治安部隊が一斉捜索を行った。
また、AFP(8月1日付)は、目撃者の証言として、バーブ・シャルキー地区前の軍の拠点が武装集団に襲撃され、25分にわたって激しい交戦があったと報じた。
一方、SANA(8月1日付)も、アマーラ地区で警察当局が反体制武装勢力のアジトに突入し、戦闘員複数を殺害、逮捕した、と報じた。
また逮捕した容疑者の聴取から、別のアジトがあることをつきとめ、警察当局が突入、戦闘員複数を殺害、逮捕した、という。
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ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団や地元調整諸委員会によると、ジュダイダ・アルドゥーズ市に軍・治安部隊が戦車・装甲車を投入し、反体制武装勢力の掃討作戦を行い、商店などを破壊した。
一方、SANA(8月1日付)によると、ヤルダー地方、バッビーラー地方で軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦し、戦闘員多数を逮捕、武器を押収した。
またジュダイダ・アルトゥーズ地方では、軍・治安部隊が反体制武装勢力の「残党」を追跡した。
このほか、「アフバール・シャルク」(8月1日付)によると、ダーライヤー市で、政府による弾圧で衛生状態が悪化したことに対処するため、反体制運動の一環として、若者、子供らが清掃道具をもって街を清掃しながら、抗議行動を行った。
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アレッポ県では、シャーム・プレス(8月1日付)が、武装集団がアレッポ市アグヤル地区にあるウサーマ・ブン・ザイド・モスクのイマーム、マフムード・ハッスーン師を誘拐したと報じた。
同師は共和国ムフティーのアフマド・バドルッディーン・ハッスーン師の弟。
一方、SANA(8月1日付)によると、サラーフッディーン地区などで軍・治安部隊が反体制武装勢力の「残党」を追跡、複数の外国人多数を含む戦闘員多数を殺害、逮捕した。
またアレッポ市郊外のアターリブ地方で、軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦し、殲滅した。
さらにカフル・ハラブ村、サフバ・ジュブール村、ジャンダラート地方などでも軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦し、複数の外国人を含む戦闘員を殺害した。
『ワタン』(8月1日付)も、軍部隊が反体制武装勢力が多数潜伏するアレッポ市東部の複数の地区に対して作戦を行い、甚大な被害を与えたと報じた。
またバーブ・ナイラブ地区の掃討を行い、バアス党アレッポ支部施設を襲撃していた反体制武装勢力に人的被害を与えた、という。
これに対して、自由シリア軍のアブドゥンナースィル・ファルザート准将は、AFP(8月1日付)に、バーブ・ナイラブ地区、サーリヒーヤ地区南部、イブラーヒーム・ハナーヌー地区の警察署3カ所を7月31日に制圧し、「小さな勝利を収めた」と発表した。
またシリア人権監視団などによると、ザフラー地区にある空軍情報部本部の制圧をめざす反体制武装勢力と軍・治安部隊との間で激しい戦闘が行われた。
しかし、シリアの治安筋はAFP(8月1日付)に対して、「破壊分子はこの5日間、空軍情報部本部を制圧しようとしているが、何らの成果も上げられずにいる」と述べた。
反体制武装勢力は、ユーチューブ(8月1日付)に、アレッポ市内でビッリー部族の軍・治安部隊兵士たちを処刑するビデオをアップした。
シリア人権監視団のラーミー・アブドゥッラー所長によると、ビッリー部族(スンナ派)は「親体制の部族」としたうえで、「体制がこうしたスンナ派の諸部族を戦闘に参加させ、軍を支援させることは、国を内戦に陥れたいからだ」と支離滅裂な反体制武装勢力擁護を行った。
なおユーチューブにはこの他にも、ビッリー部族の民間人に対する反体制武装勢力の虐殺の映像が複数アップされている。
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ダイル・ザウル県では、SANA(8月1日付)によると、ダイル・ザウル市の複数カ所で、軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦し、複数の戦闘員を殺害した。
またマヤーディーン市では、軍・治安部隊が反体制武装勢力を追跡した。
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イドリブ県では、SANA(8月1日付)によると、アリーハー市近郊で、軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦し、戦闘員多数を殺害した。
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ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ヒムス市のカラービース地区を軍・治安部隊が完全制圧した。
この完全制圧は、反体制武装集団の撤退を受けたものだという。
また同監視団によると、ヒムス市ダイル・バアルバ地区では、軍・治安部隊と反体制武装勢力が激しく交戦し、バーブ・フード地区、旧市街、スルターニーヤ地区、ジャウバル区などが砲撃に曝された。
一方、SANA(8月1日付)によると、タッルカラフ市郊外、クサイル市郊外、タルビーサ市郊外で、軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦し、戦闘員複数を殺害した。
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ラタキア県では、シリア革命総合委員会によると、ラムル・ジャヌービー地区(パレスチナ難民キャンプなど)で重火器の発砲があり、一時停電した。
シリア政府の動き
アサド大統領(軍武装部隊総司令官)は、軍の機関誌『人民軍』を通じて、シリア・アラブ軍創設67周年の祝辞を発表し、反体制武装勢力掃討にあたる将兵を鼓舞した。
SANA(8月1日付)によると、祝辞の主な内容は以下の通り。
「我々が敵と行っている戦いは、多様な形態ではあるが目的や方針は明らかな戦いである。それは、過去、現在、そして未来にわたる我々国民そして民族の行方がかかった戦いである…」。
「彼ら(敵)は、我々国民が愛国的決定を下すことを阻止し、武装放棄させようとしてきた。しかし、彼らはこの高貴なる国民が一丸となって、こうした計略に対抗・挑戦したことに驚愕し、敗北を喫し、出口を探すことを余儀なくされ、揺るぎない抵抗を続ける我々の国にさまざまな計略をめぐらせようとしている…。しかし我々国民は断固たる意志をもって、これらの計略を鎮めた…」。
「祖国を守る男たちよ。貴方たちは…、これまで我々の国が曝されている戦争を戦い、犯罪テロ集団と対峙することで、強固な意志と活力に満ちた自己を備えていること、そして自らが属す国民の価値観を託された者であり、国民の歴史と文明に忠誠を誓う者であることを証明してきた…。貴方たちは今後もこうした称号にふさわしい者たちであり続けるだろう…」。
「貴方たち(軍)は、自らの名誉と尊厳を護り、自身への大きい信頼と、神聖なる義務を履行しようとする強い意志をもって…、祖国の安定を回復し、市民の安全を回復するだろう…。貴方たちは今日、祖国を守る武装部隊たるべく、さらなる準備…を求められている。貴方たちへの私の信頼は大きい。我々国民は貴方たちが安全を作りだし、誇りの源泉であることを…期待している…」。
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シリア・アラブ軍創設67周年の祝典がダマスカス県のカシオン山麓にある戦没者慰霊塔で行われ、ファフド・ジャースィム・フライジュ国防大臣(軍武装部隊副司令官)ら軍幹部が参列した。
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『クッルナー・シュラカー』(8月1日付)は、アレッポ市A部門選出のムハンマド・アナス・ムハンマド・シャーミー人民議会議員(無所属)がアレッポ市での戦闘激化を受け、カイロに避難した、と報じた。
シャーミー議員はいまだ離反の有無を発表していないが、最近親戚のアブドゥッラティーフ・シャーミー氏が暗殺された、という。
反体制勢力の動き
シリア国民評議会のアブドゥルバースィト・スィーダー事務局長は、AFP(8月1日付)に対して、ハイサム・マーリフ氏の暫定政府首班就任宣言とシリア革命評議会発足を「我々が望んでいない拙速な行為」と批判し、「こうした方法での政府の発足は反体制勢力を弱体化させる」と述べた。
また暫定政府発足に関して「発足するには充分な時間をかけなければならず…、現地情勢や(社会の)多様性を反映しなければならない」と付言した。
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自由シリア軍国内合同司令部のカースィム・サアドッディーン大佐は、AFP(8月1日付)に対して、ハイサム・マーリフ氏の暫定政府首班就任宣言とシリア革命評議会発足を「死産」と批判、「本件に関して我々に何の相談もなかった…。一部の人間が特定の人物を首班に指名するというのは無責任な行為だ」と述べた。
暫定政府発足に関して、他の反体制勢力と接触しているかとの問いに対して、サアドゥッディーン大佐は「すべての政治家と話し合っている。我々はすべての反体制勢力と等距離だ」と述べた。
また自由シリア軍国内司令部が30日に発表した暫定政府構想(「最高国防評議会」構想)については、「国内の反体制勢力の分断を回避するため」と答えた。
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トルコで暮らす自由シリア軍のリヤード・アスアド大佐はアラビーヤ(8月1日付)に対して、「我々の革命に便乗し、犠牲者の血をもてあそんでいる」と批判した。
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自由シリア軍アレッポ軍事評議会のアブドゥルカーディル・アカイディー大佐はAFP(7月31日付)に対して、「アレッポ市およびその郊外に自由シリア軍の兵士が数千人いる」と述べるとともに、「アレッポ市を解放するまで政府軍の兵士を追跡するだろう」との意思を示した。
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自由シリア軍国内合同司令部のカースィム・サアドッディーン大佐はAFP(7月31日付)に対して、「アレッポ市のほぼ50%を制圧し、アレッポ市郊外はほぼ完全に制圧した…。もちろんイドリブは100%制圧しており、アレッポ県とイドリブ県に緩衝地帯を設置し、ダマスカスに進軍する」と述べた。
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自由シリア軍アレッポ軍事評議会のアブドゥルジャッバール・アカイディー大佐は『ハヤート』(8月2日付)に対して、アル=カーイダが反体制武装勢力に参加しているとの報道・情報を否定した。
アカイディー大佐は、「外国から来た戦闘員がいるとしたら、それは革命に参加するために祖国に戻ってきたシリア人で、こうした組織(アル=カーイダ)とは関係はない…。政府は戦闘員やシリアの革命のイメージを貶めるためこの手の嫌疑を広めている」と述べた。
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ロイター通信(8月1日付)によると、自由シリア軍のバッサーム・ダーダー政務顧問は、反体制武装勢力が地対空ミサイルを入手したとの報道を否定したが、近く「サプライズ」を起こす準備をしている、と述べた。
レバノンの動き
ヒズブッラーのハサン・ナスルッラー書記長がマナール(8月1日付)を通じてイフタールのテレビ演説を行った。
演説のなかで、ナスルッラー書記長は、2004年の国連安保理決議1559号採択に先だって、湾岸アラブ諸国がアサド大統領に「レバノンに留まりたいのなら、南部に入ってもいい。しかし、ヒズブッラーとパレスチナ人の武装解除がその代償だ」と迫ったと暴露した。
ナスルッラー書記長によると、レバノンとパレスチナのレジスタンスをアラブ民族の安全保障政策の一部とみなすアサド大統領はこの要求を拒否したという。
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内務省総合治安局は、身柄拘束中のシリア人14人をシリア当局に引き渡したと発表した。
諸外国の動き
イラクのヌーリー・マーリキー首相はロシアのミハイル・レオニドヴィッチ中東問題担当大統領特使とバグダードで会談し、シリア情勢などについて協議した。
イラク首相府が発表した声明によると、この会談で、「シリア人の流血を停止するための平和的解決策の案出が必要」だとする点で意見が一致した。
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アムネスティ・インターナショナルは、アレッポ市での戦闘に関して、軍・治安部隊がデモ参加者に実弾を使用する一方、武装テロリストからの発砲だと主張している、と非難、シリア政府が「人道に対する罪」を犯している疑いがあるとして、国際社会にシリア政府に圧力をかけるための具体的な行動をとるよう呼びかける報告書を発表した。
またこの報告書では、反体制勢力による武器供与が、人権侵害や戦争犯罪を伴うような物資が使用されないことを保証するステップを伴うべきだと付言し、反体制武装勢力の武装を暗に認めた。
AFP, August 1, 2012、Akhbar al-Sharq, August 1, 2012、Alarabia.net, August 1, 2012、Cham Press, August 1, 2012、al-Hayat, August 2, 2012、Kull-na Shurakaʼ, August 1, 2012、Naharnet.com, August
1, 2012、Reuters, August 1, 2012、SANA, August 1, 2012などをもとに作成。
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