治安機関がカーミシュリー市に展開しシリア・クルド国民評議会メンバーを逮捕、西側諸国の高官らがダーライヤー市での「虐殺」を実行した政府を激しく非難(2012年8月27日)

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国内の暴力

自由シリア軍のバドル大隊なる組織が、ダマスカス県カーブーン区上空で午前9時30分頃、「ダーライヤーでの虐殺の報復」として軍のヘリコプターを対空砲で撃墜した、と発表した。

Youtube, August 27, 2012

Youtube, August 27, 2012

ウマル・カーブーニーを名のる同大隊報道官によると、このヘリコプターはザマルカー町やダマスカス県ジャウバル区を空爆していた、という。

またヘリコプターは大破し、パイロットは焼死したという。

ユーチューブ(8月27日付)には墜落した戦闘ヘリコプターの映像がアップされた。

http://www.youtube.com/watch?v=pylnWX4p7MA&feature=youtu.be

また焼死したパイロットの画像も公開された。http://www.youtube.com/verify_age?next_url=/watch%3Fv%3DCwKYtONlscE

なおシリア・アラブ・テレビ(8月27日付)は、ヘリコプターの墜落を速報したが、詳細については報じなかった。

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同じく、ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、フーリーヤ市が軍の激しい砲撃に曝された。

またダーライヤー市で新たに14体の遺体が発見された。

一方、SANA(8月27日付)によると、ジャルマーナー市で反体制武装勢が仕掛けた爆弾が爆発し、1人が犠牲となった。

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ダマスカス県では、『クッルナー・シュラカー』(8月27日付)によると、ドゥワイラア地区、カシュクール地区で大きな爆発音が聞こえた。

上空にはヘリコプターが旋回しており、空爆したものと思われる。

またシリア人権監視団によると、ジャウバル区が軍の激しい砲撃に曝された。

アブー・ウマルを名のる住民(商人)はロイター通信(8月27日付)に対して、ジャウバル区では軍・治安部隊が100人以上を恣意的に逮捕した、と語った。

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アレッポ県では、SANA(8月27日付)によると、アレッポ市イザーア地区、アーミリーヤ地区、タッル・ザラーズィール地区、サイフ・ダウラ地区、インザーラート地区、マサーキン・ハナーヌー地区、マイサルーン地区、マシュハド地区、ブスターン・カスル地区で軍・治安部隊が反体制武装勢力の「残党」を追跡、多数の戦闘員を殺傷・逮捕、大量の武器弾薬を押収した。

またバーブ市でも、軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦、殲滅した。

これに対して、シャフバーの鷹師旅団大隊なる組織は、アレッポ市のイザーア地区とサイフ・ダウラ地区を「完全制圧」したと発表した。

同大隊広報局のアブー・ラウワーハなる活動家が明らかにした。

またアレッポ革命家連合のアブー・ルワイユ・ハラビーなる活動家もAKI(8月27日付)に対して、シャフバーの鷹師旅団大隊による制圧を認めた。

一方、ナハールネット(8月27日付)によると、ギリシャ・カトリック教会アレッポ司教区が戦闘激化を受け、レバノンに退避した。

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ハサカ県では、クルディーヤ・ニュース(8月27日付)によると、治安機関(軍事情報局)がカーミシュリー市に展開し、シリア・クルド国民評議会のサーリフ・ユースフ氏(40歳)を逮捕した。

同市は軍・治安機関のほとんどが撤収し、PKK系の民主統一党が自治を行っているとされているが、同党は治安機関進入のため検問所を開放したものと思われる。

ユースフ氏はアームーダー市政、とりわけ運輸や課税問題に介入しようとしていた民主統一党の政策に反対していた。

一方、SANA(8月27日付)によると、カンタリー村でガソリンや灯油を積んだ燃料タンク車が反体制武装勢力の襲撃を受けたが、関係当局が反撃し、複数の戦闘員を殺傷した。

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ハマー県では、SANA(8月27日付)によると、ハマー市で軍・治安部隊が反体制武装勢力のアジトに突入し、多数の戦闘員を逮捕、大量の武器弾薬を押収した。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、アリーハー市、マアッラトミスリーン市に対して軍が空爆を行った。

一方、SANA(8月27日付)によると、アリーハー市で軍・治安部隊が反体制武装勢力の「残党」を追跡し、甚大な被害を与えた。

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ダルアー県では、SANA(8月27日付)によると、フラーク市で軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦し、多数の戦闘員を殺傷し、同市の「浄化」を完了した。

またブスラー・シャーム市では、軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦し、戦闘員1人を殺害した。

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ヒムス県では、SNN(8月27日付)によると、ヒムス市のシヤーフ地区とラスタン市を軍が砲撃した。

一方、SANA(8月27日付)によると、クサイル市郊外で軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦し、複数の戦闘員を殺傷した。

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イフバーリーヤ・チャンネル(8月27日付)はシリア国内で行方不明となっていたトルコ人記者のジュネト・ウナル氏のインタビュー・ビデオを放映した。

Youtube, August 27, 2012

Youtube, August 27, 2012

ビデオのなかで、ウナル氏はフッラ・チャンネルの契約記者で、反体制勢力とともにトルコからアレッポに不法入国し、取材を行っていたと語った。

また「私と一緒にいた人はみな武器を手にしていた。武装集団にはチェチェン人、リビア人、カタール人、スーダン人がいた」と証言した。

この武装集団はアレッポで別の集団と合流したが、アレッポ市マイダーン地区での軍との戦闘中、ウナル氏は逮捕された、という。

ウナル氏は、8月20日、フッラ・チャンネルの契約記者でパレスチナ人(ヨルダン)のバッシャール・ファフミー氏、ジャパンプレスの山本美香氏、佐藤和孝氏とともにシリアに入っていた。

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『アフバール・シャルク』(8月27日付)は、アレッポに医療ボランティアに入ったサウジアラビア人歯科医タラール・ムハンマド氏の現地での体験レポートを掲載した。

それによると、ムハンマド氏は反体制武装勢力の臨時訓練基地でのイフタールで、その場にいたある男から「我々を誤解しないでください…。我々はあなたと迎え入れることはできますが、もしお金か武器を持ってきていたら、その方がもっとよかった」と言われた、という。

同氏によると、戦闘員のなかには、イラク、アフガニスタン、チェチェン、リビアで経験を積んだ戦闘員がおり、自由シリア軍の指揮官らは彼らの紛争への参加が西側やアラブ諸国政府の懸念を高め、自分たちを害をもたらすと考えていたという。

またシリア入国当時、「解放まであとわずかだと思っていたが、過酷で血塗られた紛争が生じていることが判明し、歯科医師としての能力や医師としての義務感は…戦闘員にとって重要ではなかった」と吐露した。

シリア政府の動き

アリー・ハイダル国民和解問題担当国務大臣は記者会見で、「提案は完全に拒否された。なぜなら諸外国が提起したものだからだ」と述べ、イランがアサド大統領の退任に反対していることを明らかにした。

イラン学生通信(8月27日付)が伝えた。

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AFP(8月27日付)は、2011年3月以降の「無認可」のデモを実施・参加した理由で逮捕された市民数十人が当局によって釈放された、と報じた。

反体制勢力の動き

8月26日からカイロで行われていた反体制勢力代表の会合(アラブ連盟主催)が終了した。

クルディーヤ・ニュース(8月27日付)によると、会合では、7月にカイロで原則合意された「国民誓約文書」の文言などをめぐる協議が行われ、同文書などを修正の是非をフォローアップする委員会の設置し、対立の解消をめざすことで合意した。

al-Kurdīya News, August 27, 2012

al-Kurdiya News, August 27, 2012

会合に参加したシリア・クルド国民評議会のメンバーであるカーミーラーン・ハーッジューによると、「会合は前向きな雰囲気だった」もの、クルド人の権利をめぐる文言の修正はなされず、署名は依然として見送られている、という。

また民主的変革諸勢力国民調整委員会に関しては、「最近のイニシアチブ(停戦の呼びかけ)がカイロ会議での憲章の文言や精神に合致していない」とみなし、同イニシアチブの撤回と憲章遵守を求めた。

なお会合には参加した反体制勢力の代表は以下の通り。

シリア国民評議会:ナジャーティー・タイヤーラ、タウフィーク・ドゥンヤー、ハサン・ハーシミー
シリア・クルド国民評議会:カーミーラーン・ハーッジュー、ムハンマド・ムーサー
シリア国民変革潮流:シャーディー・ハッシュ
シリア革命総合委員会:ムウタスィム・スユーフィー
シリア国民ブロック:サアド・マシュラフ
トルクメン運動:ズィヤード・ハサン
シリア革命調整連合:ウマル・シャアバーン
自由シリア軍:ハーリド・ムトラク
シリア民主フォーラム:サミール・イータ
民主的変革諸勢力国民調整委員会:マフムード・マリー
自由シリア軍国内合同司令部:アドナーン・シャンマーウ
シリア支援委員会:ヤクザーン・シーシャクリー
自由シリア軍事評議会:ムハンマド・タルカーウィー

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『イクティサーディー』(8月27日付)は、財務省消息筋の話として、当局がテロ撲滅法第4条に基づき、ミシェル・キールー(シリア民主フォーラム)、サーリヤ・アブドゥルカリーム・リファーイー(シャイフ)、アブドゥッラティーフ・ダッバーグ(前駐UAE大使)、マイ・スカーフおよび両名の家族の資産を凍結した、と報じた。

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シリア民主フォーラムは声明を出し、キールー氏らの資産凍結を強く非難した。

レバノンの動き

25日にベカーア県バアルベック郡ハウシュ・ガナム地方で誘拐されたクウェート人のイサーム・フーティー氏が釈放された。

諸外国の動き

ヨルダンのザアタリー国営避難民キャンプで、避難生活の不満を訴え、帰国を求めるシリア人数百人が投石するなどして抗議行動を行い、ヨルダンの治安当局と衝突した。

SANA, August 27, 2012

SANA, August 27, 2012

キャンプでの抗議行動に関して、サミーフ・マアーイタ内閣報道官は、シリア政府の支持者が関与しているとの一部情報を否定した。

しかし複数の治安筋は『ハヤート』(8月28日付)に対して、ザアタリー・キャンプ内でスパイ活動や武器・爆発物の使用を試みた「シリア政府の工作員」10人を逮捕したと語った。

同様の工作員はこれまでに21人逮捕されている、という。

なお同様の抗議行動は26日夜間にも発生、約700人のシリア人避難民がキャンプを一方的に去り、帰国しようとした。

ヨルダンの治安当局は催涙弾を用いて強制排除を試み、双方に複数の負傷者が出た。

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アンマンのスワイリフ地区でシリア人2人が何者かに撃たれ、1人が死亡した。『ハヤート』(8月28日付)が報じた。

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フランスのフランソワ・オランド大統領は、パリで在外フランス大使を前に外交政策に関する演説を行い、反体制勢力が暫定政府を発足すればただちにそれを支持するとの意思を示すとともに、同盟国との協力のもとシリア国内に緩衝地帯を設置し、避難民の保護をめざすとの意思を示した。

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トルコのアフメト・ダウトオール外務大臣はウナル氏の証言ビデオ放映後にアンカラで記者会見を開き、「証言を強要されている」としたうえで、証言内容を曲解(誤解)し、「記者の仕事をするために現地に入ったウナル氏が過激派になる可能性などあるのか?こうした言い分を決してまじめに捉えはしない」と述べた。

またダウトオール外務大臣は、トルコ領内のシリア人避難民の数が80,000人を越えたことを明らかにし、周辺諸国だけでな避難民の重荷を背負いきれないと述べた。

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国連のマーティン・ニスルキー事務総長付報道官は、ダーライヤー市での戦闘(虐殺)に関する報道に関して、衝撃を受けたとしたうえで、「野蛮な恐るべき犯行」と非難、「中立的な調査の即時実施」を求めるとともに、「流血から政治的対話に向けて早急に行動する」べきと強調した。

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米国家安全保障会議のトミー・ビーター報道官は、ダーライヤー市での戦闘(虐殺)関して、アサド大統領が「正統性を完全に失っている」としたうえで、国際社会がその退任に向け圧力を強化すべきと強調した。

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フランス外務省のフィリプ・ラリオ報道官は、ダーライヤー市の戦闘(虐殺)に関して「遺体発見に深い衝撃」を受けたとする一方、「国際調査員会が虐殺の状況を完全に解明することを望む」と述べた。

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キャサリン・アシュトンEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長付報道官のマイケル・マン氏は、ダーライヤー市の戦闘(虐殺)に関して、「こうした暴力を遺憾に思い、強く非難する。受け入れられない」と非難、事件発生の状況に関しては「明らかでない」としつつも「シリア国民に対するアサド政権の暴力を留保なく非難する」述べ、「民主的転換」を呼びかける一方、「人権と民主主義を信じるすべての反体制勢力を支持する」との意思を示した。

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UNICEFは、ヨルダン国内に非難するシリア人避難民救済に必要な5,400ドルを寄付・支援を呼びかけた。

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エジプトのムハンマド・ムルスィー大統領は、ロイター通信(8月27日付)に対して、自身の外交政策の基本方針を語った。

そのなかでムルスィー大統領はシリアへの軍事介入に反対し、危機の平和的解決を支持するとしつつ、「流血を止め、シリア国民が完全な権利を獲得し、国民を殺戮するこの体制が姿を消す時が来た」と述べ、アサド政権が退任すべきだとの立場を示した。

また「我々はこれまでに中国やロシアなどのシリア国民の友人にシリア国民を支持しなければならないと言ってきた」と付言した。

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ヴィクトリア・ヌーランド米国務省報道官は、「我々はシリアの反体制勢力に国内外のシリア人の活動を調整するため緊密に連携するよう呼びかけてきた…。彼らがまずしなければならないのは、(政治的)移行についての合意だ…。(そのうえで次期政府の)人選を行う時期を決めればよい」と述べた。

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中東通信(8月29日付)などによると、27日深夜、カイロのアラブ連盟本部を爆破すると脅迫したシリア人が逮捕された。

男性はダマスカス郊外県での戦闘に巻き込まれて両親が死亡したことを知って、犯行に及んだという。

AFP, August 27, 2012、Akhbar al-Sharq, August 27, 20122, August 28, 2012、al-Hayat, August 28, 2012、al-Iqtisadi, August 27, 2012、Kull-na Shurakaʼ, August 27, 2012, August 28, 2012、al-Kurdīya
News, August 27, 2012、MENA, August 29, 2012、Naharnet.com, August 27, 2012、Reuters,
August 27, 2012、SANA, August 27, 2012、SNN, August 27, 2012などをもとに作成。

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