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シリア政府の動き
『インディペンデント』(8月28日付)は、ロバート・フィスク記者によるワリード・ムアッリム外務在外居住者大臣とのインタビュー記事を掲載した。
そのなかでムアッリム外務在外居住者大臣は「米国がシリアに敵対する主要なプレーヤーで、それ以外はその道具だと考えている」と述べた、という。
また「欧州に言いたい。シリア国民の福祉に反する17もの決議を指示しておきながら、シリア国民の福祉を云々するあなた方のスローガンを理解できない、と…。米国に言いたい…。シリアのテロを支援しておいて、国際テロと戦うというスローガンを掲げていることを理解できない、と」と欧米諸国を痛烈に批判する一方、カタールの対シリア政策については「何が起きたんだ?」と述べ、その豹変ぶりを非難した。
そのうえで「私のように、自分たちの治安に誇りを持てるような在りし日に戻りたいと考えるシリア人は多くいる」と述べた。
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『ワタン』(8月28日付)は、ファールーク・シャルア副大統領が「シリアにおける政治的正常化はすべての当事者による暴力停止を基本条件としており…、そのうえで国民対話が行われる」べきと述べた、と報じた。
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『クッルナー・シュラカー』(8月28日付)は、ナジュム・ハマド・アフマド法務大臣が国民安全保障会議の指示に基づき、ダマスカス第一検事に対して、リヤード・ファリード・ヒジャーブ前首相、アブドゥルハリーム・ハッダーム前副大統領、フィラース・トゥラース氏、ナウワーフ・シャイフ・ファーリス前駐イラク大使、ジョルジュ・ヤーズジー(教授)を国家反逆罪で起訴するよう要請、これに基づき7月16日から8月16日にかけて起訴手続きが行われたと報じた。
なお同様の起訴は、ジョルジュ・サブラー報道官、アンマール・カルビー、ブルハーン・ガルユーン前事務局長らシリア国民評議会の主要メンバーに対してもすでに行われている、という。
国内の暴力
ダマスカス郊外県では、各紙によると、ジャルマーナー市のティシュリーン地区の墓地脇で車に仕掛けられた爆弾が爆発し、26日の爆破テロでの犠牲者2人の葬儀に参列していた市民ら12人が死亡、48人が負傷した。
ジャルマーナー市での犠牲者はその後、シリア人権監視団によると、27人にのぼった。
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同じくダマスカス郊外県では、SANA(8月28日付)によると、グータ東部で軍・治安部隊が反体制武装勢力の「残党」の追跡活動を継続した。
一方、シリア革命総合委員会によると、ザマールカー市が軍・治安部隊の砲撃を受けた。
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アレッポ県では、SANA(8月28日付)によると、アレッポ市のサイフ・ダウラ地区、イザーア地区、シャイフ・サアド地区、アシュラフィーヤ地区などで軍・治安部隊が反体制武装勢力の「残党」と交戦し、多数の戦闘員を殺傷し、大量の武器弾薬を押収した。
またアアザーズ市郊外やザルバ地方の村などでも、軍・治安部隊が反体制武装勢力の「残党」の掃討活動を継続した。
一方、クルディーヤ・ニュース(8月28日付)は、地元消息筋の話として、アサド政権がラアス・アラブ市・タッル・タムル町間の村々の住民に武器を配給している、と報じた。
武器配給はアラーッディーン・ラズィークーを名のる人民議会議員が設置した小委員会が管轄しており、武器携帯を許される家族と、禁じられている家族に分けられている、という。
しかし、アラーッディーン・ラズィークーという名の人民議会議員はいない。
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ヒムス県では、SANA(8月28日付)によると、ヒムス市東部のマシュラファ村やクサイル市郊外で軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦した。
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ハマー県では、SANA(8月28日付)によると、カルアト・マディーク町などで軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦し、多数の戦闘員を殺傷、大量の武器弾薬を押収した。
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ハサカ県では、SANA(8月28日付)によると、カーミシュリー市で関係当局が反体制武装勢力と交戦し、11人を逮捕した。
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イドリブ県では、SANA(8月28日付)によると、アリーハー地方などで軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦し、多数の戦闘員を殺傷・逮捕した。
反体制勢力の動き
国内で活動する反体制組織と野党は9月12日にダマスカスでシリア国民救済大会を開催するとの共同声明を発表し、広く参加を呼びかけた。
声明によると、大会は、①専制体制の存続と軍事的・治安的事態解決への固執、②国家・社会の衰退・解体、③内戦勃発の前兆、④外国の軍事介入、⑤生活状況の悪化、という5つの危機に対処することを目的としており、「民主的変革、国民統合と主権の維持、国民平和の保護」をスローガンとする。
また、革命大衆への弾圧と自衛行為から逸脱した暴力停止を火急の課題とし、外国の介入拒否、平和的手段を通じた政治的解決、民主主義実現のための平和的糸口の模索をめざす、という。
同声明によると、大会に先立って、以下の活動家からなる大会準備小委員会が設置された。
ラジャー・ナースィル(委員長)、ルワイユ・フサイン(シリア国家建設潮流)、祖国連立代表(氏名は公開されず)、ジャマール・ムッラー・マフムード(クルド運動)、アイマン・サイイド(国民成長党)、バースィル・タキーッディーン(国民潮流)、民主的変革諸勢力国民調整委員会代表(氏名は公開されず)。
また以下の政党・政治組織がすでに大会参加を決定しているという。
アラブ社会主義連合民主党
民主統一党
共産主義行動党
シリアのための「共に」運動
アラブ社会民主主義バアス党
アラブ社会主義者運動
シリア共産党政治局(シリア民主人民党)
共産主義者委員会
イスラーム民主潮流
リベラル無所属潮流
民主的変革諸勢力国民調整委員会参加組織
シリア・クルド民主党(アル・パールティ)
シリア・クルド民主パールティ
シリア・クルド民主左派党
シリア国家建設潮流
民主社会党
国民潮流
国民成長党
祖国連立
アンサール党
アレッポ宣言青年
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シリア国民評議会のジョルジュ・サブラー報道官は、ジャルマーナー市での爆破テロに関して、アサド政権が「残忍な虐殺を隠蔽する」しようとしていると非難し、「政権の指紋は明らかだ」とし、政権の自作自演だと疑った。
反体制勢力は過去数ヶ月にわたって、国内での爆破・暗殺テロを武装勢力の「戦果」だと宣伝してきたが、サブラー報道官のこの発言は、アサド政権が国内での支配力を回復しつつあることを示唆しているとも解釈できる。
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シリア医療救援機構連合なる組織の使節団は、アレッポなどシリア国内に40カ所の野戦病院を設置し、医療活動に当たっていることを明らかにした。
これに先立ち、パリで27日、ローラン・ファビウス外務大臣と会談、フランスに213万ユーロの支援を求めた。
フランス外務省によると、フランスは既に3月に20,000ユーロ、6月に15万ユーロを提供している、という。
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国民誓約および移行期間プログラム文書フォローアップ・連絡委員会は前日までのカイロでの会合とそこでの決定を受けて、委員会の活動内容などを定めた声明を出し、活動開始を発表した。
http://all4syria.info/wp-content/uploads/2012/08/لجنة-المتابعة-والاتصالf.pdf
クルド民族主義勢力の動き
クルディーヤ・ニュース(8月28日付)によると、アレッポ県「セレカーニー市」(アラビア語名はアイン・アラブ市)で、シリア・クルド国民評議会の地方議会の正副議長選挙が実施され、アブドゥルアズィーズ・アイユー氏が議長に、ムハンマド・サーリフ・アティーヤ氏とムスタファー・アール・ラシー氏が副議長に選出された。
3人はいずれも無所属。
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クルディーヤ・ニュース(8月29日付)によると、ハサカ県ダイリーク市で、「デリク・ハムコークルド青年調整」なる組織の呼びかけのもとアサド政権退陣を求めるデモが行われ、シリア・クルド国民評議会支持者が参加した。
しかし西クルディスタン人民議会は参加しなかった。
シリア・クルド国民評議会の参加は、クルド最高委員会結成時の合意にもかかわらず、西クルディスタン人民議会を主導する民主統一党がダイリーク市の福祉・治安などへの評議会の参加を認めないことへの反感があった、という。
レバノンの動き
アドナーン・マンスール外務大臣はイランでの非同盟諸国外相会合に先だって、「シリアのような加盟国が、主権や政治的・経済的権利を維持しようとしていることを理由に不当な制裁の餌食になることを放置できようか?」と述べ、アサド政権の退陣を求める動きに異議を唱える姿勢を改めて示した。
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AFP(8月28日付)によると、ベカーア県バアルベック郡カーアのシリア・レバノン国境地帯でシリアの国境警備隊と反体制武装勢力が交戦、迫撃砲が民家に着弾し、レバノン人3人が負傷した。
諸外国の動き
アナトリア通信(8月28日付)は、トルコの国家安全保障会議(アブドゥッラー・ギュル大統領が議長)がアンカラで会合を開き、シリアの政治的空白に「テロ組織」(PKK)が乗じるのを認めないことを改めて確認した。
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トルコの非常事態局報道官は、数週間中に40,000人を収容可能な複数の新避難民キャンプを解説し、シリア人避難民の流入に対処することを明らかにした。
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クルディーヤ・ニュース(8月28日付)は、ハタイ県アンタキヤ市で避難生活を送るクルド人非難民約50人をトルコ当局が国境地内ないしは国外に追放しようとしていると報じた。
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ロシア軍のニコライ・マカロフ参謀長は、シリア情勢に関して「この程度でなぜシリア情勢に懸念するのか?…我々が策定した計画はすべて成功している…。シリアから退避すると言ったり結論を出したりするには時期尚早だ」と述べた。
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UNHCRは、国外に避難しようとしていたシリア人の乗ったボートがキプロス沖で沈没し、子供2人を含む7人が水死したと発表した。
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ヨルダンのサミーフ・マアーイタ内閣報道官は、記者会見で、27日から28日朝までの間に4,597人のシリア人がヨルダン領内に避難してきたことを明らかにしたうえで、「すべての可能性を検討せざるを得ない」と述べ、新たな非難民キャンプの設置などを通じて増加する避難民流入に対応する意思を示した。
ヨルダン総合治安局報道課は声明を出し、ザアタリー国営避難民キャンプで、シリア人避難民約200人がキャンプでの状況改善を求める抗議行動を行い、ヨルダン警察・治安当局が投石などを受け、26人の警官・治安要員が負傷した、と発表した。
同声明によると、ヨルダン当局は、暴行に関与したシリア人非難民を追放処分にするという。
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『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月28日付)は、イランの現役および元革命防衛隊幹部らの話として、アサド政権支援のため、革命防衛隊戦闘員や歩兵数百人がシリアに派遣されている、と報じた。
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アラブ連盟の諮問機関であるアラブ議会のアリー・サーリム・ディクバースィー議長は、シリア情勢に関して「虐殺からシリア国民を救済するため、迅速且つ断固たる国際社会の介入」が必要だとの立場を示した。
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チュニジア大統領報道官は、「非合法なシリア大統領」の国際司法裁判所への起訴を呼びかけた。
AFP, August 28, 2012、Akhbar al-Sharq, August 28, 2012, August 29, 2012、al-Hayat, August 29, 2012、The Independent, August 28, 2012、Kull-na Shurakaʼ, August 28, 2012, August 30, 2012、al-Kurdiya News, August 28, 2012, August 29, 2012、Naharnet.com, August 28, 2012、Reuters, August 28, 2012、SANA, August 28, 2012、The Wall Street Journal, August 28, 2012、al-Watan, August 28, 2012などをもとに作成。
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