ラブロフ露外務大臣とクリントン米国務長官がシリア情勢をめぐって会談、前者はアサド大統領の排除を前提とする暫定政府構想に反対の意を示す(2012年6月29日)

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アサド政権の動き

シリアのウムラーン・ズウビー情報大臣はトルコのハベル・チャンネル(6月29日付)に対して、「イスラエルの戦闘機はトルコ戦闘機に酷似しており、ともに米国製だ。おそらくシリアは(撃墜されたトルコ空軍の)戦闘機をイスラエル軍機だと考えたのだろう」と述べた。

反体制デモ

『ハヤート』(6月30日付)によると、各地で金曜礼拝後に小規模なデモが発生した。

デモはアレッポ県、イドリブ県、ハサカ県、ダルアー県、ダマスカス県、ダマスカス郊外県などで散発し、参加者は全国で数千人にとどまった。

インターネットでは反体制活動の支持者が「アッラーの勝利を信じる」金曜日と銘打ってデモを呼びかけていた。

国内の暴力

ダマスカス郊外県では、SANA(6月29日付)によると、ドゥーマー市で治安維持部隊が反体制武装集団の掃討作戦を継続し、テロリスト数十人を殺害、多数を逮捕した。

一方、シリア人権監視団によると、ドゥーマー市での軍・治安部隊の掃討作戦で3人が死亡した。

ドゥーマー調整は「女、子供、そして自分自身を守るための市民がドゥーマー市を去る手段を欲しているが、アサドの悪党どもが去ることを阻止している」と発表し、軍・治安部隊の包囲により住民の避難が阻止されていると主張した。

またムウダミーヤト・シャーム市では、軍・治安部隊と反体制武装集団が交戦し、軍兵士3人が殺害された。

『クッルナー・シュラカー』(6月30日付)は、反体制武装集団がマルジュ・スルターン航空基地を破壊し、ヘリコプター3機を破壊した、と報じたが真偽は定かでない。

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ラタキア県では、SANA(6月29日付)によると、ハッファ地方で関係当局が武装テロ集団のアジトを強制捜査し、大量の武器弾薬を押収した。

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ダイル・ザウル県では、SANA(6月29日付)によると、ダイル・ザウル市で治安維持部隊が武装テロ集団と交戦し、ムハンマド・イドリース氏が率いるテロリスト全員を殺害した。

一方、シリア人権監視団によると、ダイル・ザウル市での軍・治安部隊の掃討作戦で1人が死亡した。

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ハマー県では、SANA(6月29日付)によると、ハマー市郊外で治安維持部隊が武装テロ集団のメンバー多数を逮捕、大量の武器弾薬を押収した。

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ヒムス県では、SANA(6月29日付)によると、ヒムス市ジャウラト・シヤーフ地区で、軍・治安部隊による武装テロ集団掃討作戦が続けられ、テロリスト多数が殺害された。

一方、シリア人権監視団によると、タッルドゥー市で軍・治安部隊と反体制武装集団が交戦し、軍兵士2人が殺害された。

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ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、ジャウバル区で軍・治安部隊と反体制武装集団が交戦した。

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イドリブ県では、在外の反体制武装集団筋によると、シリア軍がトルコ国境から約4キロの地点を攻撃ヘリコプターで砲撃した。

しかし、ヘリはトルコ軍が国境地帯に配備している防空システムの射程内には入らなかった、という。

一方、人権監視団によると、マアッラト・ニウマーン地方で軍・治安部隊の要撃により反体制武装集団の司令官1人が殺害された。

またマアッラト・ニウマーン市の検問所で1人が射殺され、ライヤーン村でも2人が砲撃で死亡した。

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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、ダルアー市、ダーイル町で各1人が射殺された。

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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、アレッポ市のサラーフッディーン地区で治安部隊が発砲し、多数が負傷した。

反体制勢力の動き

自由シリア軍最高軍事評議会のムスタファー・シャイフ准将(トルコ在住)はロイター通信(6月29日付)などに対して、シリア軍の戦車約170輌、兵士2,500人がトルコ国境に近いムスリミーヤ村近郊の歩兵学校に集結していることを明らかにした。

シャイフ准将によると戦車のほとんどが第7機甲師団の所属で、トルコ軍の国境地帯への地対空ミサイルなどの増強に対する再展開か、国境地帯の反体制武装集団に対する掃討作戦が目的だ、と述べた。

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ザマーン・ワスル(6月29日付)は、自由シリア軍が28日に拉致したファラジュ・シハーダ・マクト空軍少将と、2011年9月にトルコからシリアに引き渡されたとされる離反兵のフサイン・ハルムーシュ大佐(自由将校運動司令官)との「捕虜交換」の交渉を当局と行っている、と報じた。

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Elaph.com(6月29日付)は、7月2、3日にカイロで開催予定のシリアの反体制勢力の大会で審議される「国民誓約文書」草案における憲法案の内容について報じた。

それによると、新憲法案は、シリアをアラブ世界の一部と位置づけつつ、クルド人、アッシリア人、トルクメン人といったエスニック集団の民族としての権利を認める文言を含んでいる、という。

また大統領の資格に関して、宗教・宗派、民族、性別にかかわらず立候補できる、としている。

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「シリア抗議行動統計無所属センター」なる団体によると、反体制デモは全国540カ所で740件発生したとの集計結果を発表した。

http://iscsp.wordpress.com/

http://iscsp.wordpress.com/

その内訳は以下の通り:イドリブ県156、ハマー県145、アレッポ県126、ダマスカス県62、ダマスカス郊外県60、ダイル・ザウル県55、ダルアー県48、ハサカ県37、ラタキア県22、ヒムス県11、ラッカ県12、タルトゥース県3。

デモ参加者の総数が「数千人」だったことを鑑みると、1つのデモの参加者は多くて13人だということになる。

https://www.facebook.com/iscsp2012
http://iscsp.wordpress.com/2012/
http://goo.gl/m1Ucg

諸外国の動き

『ハヤート』(6月29日付)は、米国がイランの核開発やアフガニスタン情勢といった優先課題に対処するためにロシアの協力を必要としており、またシリアが米国の国益に直接関係がないため、シリア情勢をめぐって、軍事介入ではなく、ロシアとの協力のもとに政治的解決をめざしている、と報じた。

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ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣とヒラリー・クリントン米国務長官がサンクトペテルスブルグで会談し、シリア情勢について協議した。

『ハヤート』(6月30日付)によると、この会談でラブロフ外務大臣は、「ジュネーブでの(シリア作業グループ)会合で一部の国が押しつけようとしている出来合いの計画」を拒否するとの姿勢を示し、アサド大統領の排除を前提とする暫定政府構想に反対の意を示した。

そのうえで「会合の目的はすべての当事者の議論の扉を開き、政治的解決に向けた共通のイメージを作り、アサド大統領の退任の是非などを決するためのシリアの当事者の対話を促すことだ」と付言した。

また「シリアへの軍事支援に関して国防長官に弁明する」意思はないと述べ、軍事支援が正式な合意に基づいてなされていることを強調した。

AFP, June 29, 2012、Akhbar al-Sharq, June 29, 2012、Elaph.com, June 29, 2012、al-Hayat, June 29, 2012, June 30, 2012、Kull-na Shurakaʼ, June 29, 2012, June 30, 2012、Naharnet.com, June 29, 2012、Reuters, June 29, 2012、SANA, June 29, 2012、Zaman al-Wasl, June 29, 2012などをもとに作成。

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