2012年6月30日のシリア情勢

シリア作業グループ会合

スイスのジュネーブでアナン特使の主催により、シリア作業グループ会合が開催された。

会合には、米英仏露中、カタール、クウェート、イラク、トルコの外務大臣が参加した。

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『ハヤート』(7月1日付)はフランス高官筋の話として、アナン特使が提出した声明案、とりわけアサド政権の処遇をめぐって、ロシア、中国、イラクと、それ以外の国々との間で意見が対立した、と報じた。

同高官筋によると、英米仏、カタール、トルコ、クウェートは、アナン特使の案が、①アサド政権による暴力停止を強く求めており、②移行期間に関する対話の人選は反体制勢力が行い、現政権のメンバーを実質的に排除できる点を高く評価、支持した。

これに対して、ロシア、中国は、すべての当事者による暴力停止をより強く求めるべきだと主張し、この修正提案は上記6カ国によって拒否された、という。

またロシアは、「反体制勢力はアサド政権と移行期間に関して対話せねばならない」との文言を追加するよう修正提案を行い、これも上記6カ国によって拒否された。

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『ハヤート』(7月1日付)によると、シリア作業グループ会合でアナン特使が提出した声明案の骨子は以下の通り。

1. 国連安保理決議2042号、2043号の遵守。
2. 上記決議に基づき、すべての当事者による武器を用いた暴力の停止の遵守。
3. 同じく上記決議に基づき、シリア政府による都市部、人口密集地区からの重火器の使用停止と即時撤退。
4. 暴力行為や恣意的逮捕の停止、逮捕者の釈放、記者の活動の自由保障、平和的デモの権利保障、人道支援受入の保障などを通じたシリア政府によるアナン特使停戦案の実施の意思の明示。
5. シリア人が指導する開かれた政治的対話の設置。
6. 危機の政治的解決のため、期限に基づき、すべてのシリア人が国の将来を決定するプロセスに参与。
7. 次期体制における民主主義と多元主義の実現。人権、司法の独立の保障。危機の責任者の処罰。宗教・宗派・言語に基づく差別のない平等とマイノリティの権利の保障。
8. 挙国一致移行政府の設置により移行期間の中立性を確保し、明確な行程に基づき変革を遂行。
9. 挙国一致移行政府には、現政権、反体制勢力のメンバーが参加するが、移行プロセスの信頼性を低下させ、安定と和解を脅かす現政権メンバーは除外する。

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会合で審議された閉幕声明(案)に関して、ヒラリー・クリントン米国務長官は、「ポスト・アサド段階の挙国一致政府」に向けた合意だと評価し、国連に対してシリアへの制裁強化を呼びかけた。

国内の暴力

ダマスカス郊外県では、複数の反体制活動家やシリア人権監視団によると、ドゥーマー市で、軍・治安部隊との戦闘で反体制武装集団が同市から撤退、軍・治安部隊が市内に入った。戦闘により、数十人が死亡、数百人が負傷したという。

Kull-na Shurakāʼ, June 30, 2012

Kull-na Shurakāʼ, June 30, 2012

ドゥーマー市住民によると、数百人が街から避難、また多数の遺体が建物の下敷きになっている、というが真偽は定かでない。

これに対して、SANA(6月30日付)によると、ドゥーマー市、ジュダイダト・アルトゥーズ町などで、関係当局が武装テロ集団のアジトの摘発・掃討を行い、テロリスト多数を殺害、数十人を逮捕した。

一方、「アフバール・シャルク」(7月1日付)は、複数の反体制活動家の情報などをもとに、ザマルカー町で犠牲者の葬儀の会葬者を狙ったとみられる大きな爆発があり、「約85人」が死亡した、と報じた。

しかしYoutube(6月30日付)に公開された爆発の前後の映像には、下着姿の男性の遺体が映っているほか、葬儀で弔われた遺体がそのまま放置されているなど、不審な点が多い。

http://www.youtube.com/watch?v=p9Ab519P27Y&feature=youtu.be

『クッルナー・シュラカー』(7月1日付)は、ザマルカー町での爆発に関して、反体制活動家や葬儀参列者の証言をもとに、迫撃砲、車爆弾の爆発ではなく、軍・治安部隊が攻撃用ヘリコプターによる攻撃だったと報じた。

またシリア人権監視団は、ザマルカー町の犠牲者の葬儀の参列者を標的とした爆発で、1人が死亡、数十人が負傷した、と発表した。

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ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、カーブーン区で大きな爆発が発生したが、犠牲者は出なかった。

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アレッポ県では、SANA(6月30日付)によると、ジャミーリーヤ地区の財務局近くで車爆弾が爆発した。死傷者はなかった。

SANA, June 30, 2012

SANA, June 30, 2012

この爆発に関連して、シリア人権監視団は、アレッポ市ジャミーリーヤ地区で軍・治安部隊が掃討作戦を行ったが、死者は出なかったと発表した。

シリア革命総合委員会やシリア人権監視団によると、マーイル町やアターリブ市に対する軍・治安部隊の砲撃が続き、マーイル町では1人が死亡した。

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ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ヒムス市ハーリディーヤ地区で軍・治安部隊が砲撃を再開した。

また地元調整諸委員会によると、ラスタン市でも軍・治安部隊が砲撃を行った。

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ハマー県では、SANA(6月30日付)によると、ハマー市ハーディル・サギール地区で治安維持部隊と武装テロ集団が交戦し、フィラース・イマード・トゥウマ容疑者率いるテロ集団全員が殺害された。

またムーリク市・マアーン市間の農地で治安維持部隊と武装テロ集団が交戦し、3人が死亡した。

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ダイル・ザウル県では、SANA(6月30日付)によると、ダイル・ザウル市のハミーディーヤ地区、アルディー地区で治安維持部隊と武装テロ集団が交戦し、テロリスト数十人が殺害された。

一方、シリア人権監視団によると、クーリーヤ市で石油パイプラインが爆破された。

またダイル・ザウル市では、軍・治安部隊と反体制武装集団の戦闘が続き、離反兵1人、医師などが死亡した。

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ダルアー県では、シリア人権監視団やシリア革命総合委員会によると、イブタア町、ヒルバト・ガザーラ町など各地で軍・治安部隊が掃討作戦を継続し、カフルシャムス町では地雷が爆発し、反体制武装集団戦闘員1人が死亡した。

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イドリブ県では、SANA(6月30日付)によると、アリーハー市で治安維持部隊が武装テロ集団と交戦し、テロリスト1人を殺害、2人を逮捕した。

またマアッラト・ニウマーン市南部では、治安維持部隊が武装テロ集団と交戦し、ハーリド・マアルーフ容疑者、フサイン・ガーズィー容疑者などテロリスト多数を殺害した。

さらにマアッラト・ニウマーン市・サラーキブ市間でも、治安維持部隊が武装テロ集団と交戦し、ラッダード・ハッルーフ容疑者、マフムード・キーターズ容疑者、マフムード・タナーリー容疑者、マフムード・ハッスーン容疑者らテロリスト多数を殺害した。

加えて、イドリブ・ハーリム街道を付さしていた武装テロ集団と治安維持部隊が交戦し、ハーリド・サジーヤ容疑者、ムハンマド・カースィム・イーサー容疑者らテロリスト4人を殺害した。

このほかジスル・シュグール市などでも、治安維持部隊が武装テロ集団と交戦し、テロリスト多数を殺害、逮捕した。

一方、シリア人権監視団によると、ヒーシュ村への砲撃で男性2人が死亡した。

反体制勢力の動き

シリア・ムスリム同胞団元最高監督者のイサーム・アッタール氏(ドイツ在住)が声明を出し、現下のシリアが地域紛争・国際紛争の渦中にあると指摘、国民に党派、血縁、宗派などを越えたより信頼の高い有能な指導力を発揮するよう呼びかけた。

Kull-na Shurakāʼ, June 30, 2012

Kull-na Shurakāʼ, June 30, 2012

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シリア・クルド国民評議会は声明を出し、PKK系のクルド民族主義政党、民主連合党に属す「人民保護諸委員会」が複数のクルド人市民を誘拐していると非難した。

諸外国の動き

イランのムハンマド・ハッザーニー国連代表大使は記者団に対して、「イランの国力と影響力」を考慮しない「米国など」西側諸国の姿勢を批判し、シリア作業グループ会合に招待されたなかったことへの不快感を示すとともに、シリア危機解消に関してイランが影響力を行使する準備があると述べた。

AFP, June 30, 2012、Akhbar al-Sharq, June 30, 2012, July 1, 2012、al-Hayat, July 1, 2012, July 2, 2012、Kull-na Shurakāʼ, June 30, 2012, July 1, 2012、Naharnet.com,
June 30, 2012、Reuters, June 30, 2012、SANA, June 30, 2012などをもとに作成。

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