アサド政権がヒジャーブ内閣第1回閣議を主催し新内閣の基本方針を説明「シリアは真の戦争状態」、NATOがトルコの要請のもと緊急会合を開きトルコ空軍機撃墜事件に関して審議(2012年6月26日)

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国内での主な動き

アサド大統領は6月23日に発足したリヤード・ヒジャーブ内閣の閣僚を認証、第1回閣議を主催し、新内閣の基本方針を述べた。

SANA, June 26, 2012

SANA, June 26, 2012

SANA(6月26日付)によると、アサド大統領は閣議において、「シリアが現在挑むべきは、基本物資、インフラであり…、国民の社会的構成実現のための仕組みを確立し…、行政改革、汚職撲滅、人的資源の拡充…に関わる法律を早急に実施する」よう新内閣に求めた。

また西側による制裁への対応として国営セクターの必要が増していると指摘、生産部門に関しては農業、農業加工部門、そして外国の情勢の影響に左右されない中小規模の産業を育成すべきとの方針を示した。

さらに、知的産業育成の重点化することが重要だと指摘した。

一方、外交に関しては、ロシア、東・東南・南アジア諸国、南米、アフリカ諸国との関係を強化し、そのなかで民間セクターを支援すべきとの方針を示した。

シリアをめぐる情勢に関して、アサド大統領は「人民議会での演説でも述べた通り、我々はあらゆる面で、真の戦争状態にあり…、戦争状態にあるなか、我々の政策や指導のすべて、そしてすべてのセクターはこの戦争での勝利のために向けられねばならない」と述べた。

SANA, June 26, 2012

SANA, June 26, 2012

そのうえで、新内閣がシリアの困難な状況のなかで「重大な責任」を有していると鼓舞した。

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「アフバール・シャルク」(6月26日付)は、世銀の報告書が2012年のシリアのGDP成長率がマイナス6.4%、貿易収支が16.5%の赤字になると試算したと報じた。

国内の暴力

ダマスカス郊外県では、クドスィーヤー市、ハーマ町、ダマスカス県ドゥンマル区にある共和国護衛隊の施設や士官の自宅周辺で、反体制武装集団と軍・治安部隊が激しく交戦した。

ロンドンの反体制組織、シリア人権監視団のラーミー・アブドゥッラフマーン所長がAFP(6月26日付)に明らかにした。

クドスィーヤー市、ドゥンマル区には共和国護衛隊の士官や公務員、有識者が多く暮らしている。

またシリア革命総合委員会によると、ミスラーバー市に対して軍・治安部隊が激しい砲撃を加えた。

一方、SANA(6月26日付)によると、反体制武装集団が治安維持部隊と市民を攻撃し、旧ダマスカス・ベイルート街道を封鎖し、バラダー渓谷街道に検問所を設置し、ザバダーニー市、マダーヤー町方面に武器密輸を試みた。

これに対して治安維持部隊が応戦し、テロリスト数十人を殺害・負傷させ、シリア人およびアラブ国籍を持つ複数名を逮捕、大量の武器弾薬を押収し、制圧した。

このほか、ドゥーマー市では、治安維持部隊が武装テロ集団の追跡を継続、テロリスト多数を殺害、逮捕した。

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ダマスカス県では、シリア革命総合委員会が配信した映像によると、カーブーン区で複数回爆発があり、黒煙があがった。

一方、SANA(6月26日付)によると、アダウィー地区で武装テロ集団がファラジュ・シハーダ空軍少将の車を襲撃し、同少将を誘拐した。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、サラーキブ市、マアッラト・ヌウマーン市に対して軍・治安部隊が砲撃を加えた。

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Akhbar al-Sharq, June 26, 2012

Akhbar al-Sharq, June 26, 2012

ヒムス市では、シリア人権監視団によると、複数の活動家によると、ヒムス市の旧市街、ジャウラト・シヤーフ地区、バーブ・アムル地区、ジャウバル区、スルターニーヤ地区、バーブ・フード地区が軍・治安部隊の激しい砲撃に曝され、バーブ・アムル地区周辺では軍・治安部隊と反体制武装集団が激しく交戦した。

シリア革命総合委員会によると、ラスタン市に対して、軍・治安部隊が激しい砲撃を加えた。

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ハマー県では、シリア人権監視団によると、反体制武装集団の司令官がスーラーン市での軍・治安部隊との戦闘で殺害された。

一方、SANA(6月26日付)によると、マアルダス村とタイバト・イマーム市間にある武装テロ集団のアジトを治安維持部隊が襲撃し、テロリスト多数を殺害、武器弾薬を押収した。

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ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、ジャウバル区で治安当局が1人を射殺した。

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ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団によると、ダイル・ザウル市各地区に軍・治安部隊が砲撃を続けた。

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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、1人が射殺された。

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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、カフルシャムス町での軍・治安部隊と反体制武装集団の戦闘で3人が死亡した。

反体制勢力の動き

シリア国民評議会のブルハーン・ガルユーン前事務局長は、AFP(6月26日付)の電話取材に対して、26日にシリア国内に密入国し、「数時間にわたって革命家らと会談した」と発表した。

ガルユーン前事務局長によると、密入国後、イドリブ県内の複数カ所を訪問、国内での反体制武装集団と会談し、同日晩にトルコ領内に再び避難した、という。

また「政権は何も規制できないほどまでに弱っており…、領内に対する支配を失いつつある…。このことが政権とその支持者たちを絶望させている…。新たなシリアが生まれつつあるのを目の当たりにした…。すべての村に地元の委員会があり、支援活動、行政、組織などを行っている」と述べた。

http://www.youtube.com/watch?v=pFNXoejZ0VU&feature=relmfu

http://www.youtube.com/watch?v=bPshRSd_J24

http://www.youtube.com/v/2WWSvWknnAg&hl=en_US&feature=player_embedded&version=3

https://youtube.com/watch?v=2WWSvWknnAg%26hl%3Den_US%26feature%3Dplayer_embedded%26version%3D3

Youtube, June 26, 2012

Youtube, June 26, 2012

Youtube, June 26, 2012

Youtube, June 26, 2012

Youtube, June 26, 2012

Youtube, June 26, 2012

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シリア国民評議会のジョルジュ・サブラー報道官は『ハヤート』(6月27日付)に対して、シリア軍によるトルコ空軍機撃墜が「シリア政府が国内の危機を地域全体に波及させようとする明確な試み」と非難した。

またシリアの危機への対処をめぐる国際会議へのイランの是非に関して、「イランは危機を仲介する政策を実施する準備などできない。なぜなら一部の当事者、すなわち問題を引き起こしている当事者を支援しているからだ」と述べ消極的な姿勢を示した。

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スカイ・ニュース(6月26日付)は、反体制武装集団が捕捉した軍・治安部隊兵士の話として、軍・治安部隊の高官レベルから村落の攻撃、住民の殺害の指示が出されている、と報じた。

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自由シリア軍のリヤード・アスアド大佐(トルコ在住)は、『シャルク・アウサト』(6月26日付)に対して、「自由シリア軍の兵士へのシリア国民評議会による給与支給の動きは…いまだに実行に移されておらず、武器支給は依然として不足している」と述べた。

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『シャルク・アウサト』(6月26日付)は、スワイダー県でハーフィズ・ジャーッドル=カリーム・ファラジュ空軍中尉が離反した、と報じた。

自由シリア軍副参謀長を名のるアーリフ・ハンムード大佐なる離反兵は、ファルジュ中尉はこれまで離反したドゥルーズ派のなかでもっとも階級が高い、と述べた。

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シリア国民変革潮流は声明を出し、EUの追加制裁に歓迎の意を示した。

諸外国の動き

トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相は、AKPの議員らを前に「トルコ軍の交戦規則は変わった。トルコ国境で安全保障上の脅威・危険をなすシリアからのいかなる軍事的要素も、(トルコ軍の)軍事的標的とみなされるだろう」と強い調子で述べた。

またトルコ空軍機の撃墜事件に関して、「この事件は、アサド政権がトルコとその国民の安全保障にとって明確且つ差し迫った脅威となったことを示している」としたうえで、「トルコは、国際法が定める権利を断固として行使し、自ら時間、場所、方法を定め、必要な措置を講じるだろう」と述べた。

加えて、トルコが「血塗られた独裁者の体制を打倒するまでシリア国民を支援し続ける」と述べ、シリアへの領空侵犯という過失を放置したまま、シリアへの内政干渉を続け、自国の安全保障を脅威に曝し続けるとの意思を示した。

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NATOはトルコの要請を受け、ブリュッセルで緊急会合を開き、シリア軍のトルコ空軍機撃墜に関して審議した。

アナス・フォー・ラスムセンNATO事務局長は、記者団を前に、シリア軍のトルコ空軍機撃墜が「受け入れられず、我々はもっとも強い表現でそれに抗議する…。NATO加盟国はトルコへの強い支持と連帯の意を表明した」と述べた。

しかし、ラスムセン事務局長は「我々は大いなる懸念を持って、NATOの南東部国境地帯での進展を集中的にフォローアップし続ける」と述べ、軍事的な対応については言及しなかった。

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EUはシリア政府に対する追加制裁(第16弾)を決定、シリア国際イスラーム銀行、シリア石油運輸社との取引を禁止するとともに、ブサイナ・シャアバーン大統領府政治情報補佐官のEU領内への渡航を禁止、資産を凍結した。

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ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は中東歴訪の最後の訪問先であるヨルダンを訪問し、アブドゥッラー国王と会談した。

会談で、アブドゥッラー国王は、「シリアの危機の政治的解決を通じて、シリアの統合と安定を維持し、暴力と流血を制限する」ことを呼びかけた。

プーチン大統領は、「地域および国際的なレベルでのヨルダンの立場を尊重する」と述べた。

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ロシア外務省は声明を出し、シリア軍によるトルコ空軍機撃墜に関して「情勢不安定化をもたらさないようこの事件を導くことが重要であり…、内外の当事者にアナン特使の計画に資するよう振る舞う」よう呼びかけた。

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国連安保理は、シリア情勢に関してヘルヴェ・ラドス国連平和維持活動担当事務次長の意見を聴取した。

ラドス次長は「シリア情勢はきわめて危険で、UNSMISの活動再開を許さない」と証言、また「シリア政府は監視団が衛星電話を用いることを拒否した」と非難した。

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シリアでの人権侵害を調査するための国連人権理事会調査委員会のパウロ・セルジオ・ピネイロ委員長(ブラジル)がダマスカスを訪問した、と国連が発表した。

同委員長がシリアを訪問するのは2011年8月の委員会設置以来初めて。

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ジェイ・カーニー米ホワイトハウス報道官は、バラク・オバマ米大統領の選挙遊説に同行、「バッシャール・アサド体制が次第に国内での支配力を失いつつあることは明らかだ」と述べた。

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ロイター通信(6月26日付)は、米諜報機関高官の話として、(西側の政府高官やメディアの認識やプロパガンダとは対象的に)アサド政権のインナー・サークルの結束はいまだに揺らいでいないと報じた。

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オーストリアの法廷は、2011年10月にウィーンのシリア大使館に不法侵入したクルド人青年11人のうち、10人に無罪判決を言い渡した。また残る1人については禁固2ヵ月(求刑3ヵ月)を宣告した。

AFP, June 26, 2012、Akhbar al-Sharq, June 26, 2012、al-Hayat, June 27, 2012、Kull-na Shurakaʼ, June 26, 2012、Naharnet.com, June 26,
2012、Reuters, June 26, 2012、SANA, June 26, 2012、al-Sharq al-Awsat, June 26, 2012、Sky News, June 26, 2012、UPI, June 26, 2012などをもとに作成。

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