2012年6月25日のシリア情勢

アサド政権の動き

シリア外務在外居住者省のジハード・マクディスィー報道官は記者会見を開き、トルコ空軍のF4戦闘機撃墜に関して、公海上で撃墜されたとのアフメト・ダウトオール外務大臣の発言(24日)が根拠がなく不正確だとコメントした。

SANA, June 25, 2012

SANA, June 25, 2012

戦闘機が射程距離2.5キロの高射砲によりシリア領海上で撃墜され、その弾痕が残る機体の残骸をトルコ側に引き渡したとしたうえで、公海上で迎撃する場合は地対空ミサイルを使っていたと述べ、トルコ側の主張を否定した。

そのうえで、シリア政府はトルコが政府に公式の書簡を送り、トルコ空軍機が22日午前11時40分にシリア領に向かって飛行しているのがレーダーで捕らえられ、北東方向に向かって降下し、レーダー網から姿を消し、シリア領沖1~2キロの地点で上空100メートルで目視された、高射砲で迎撃・撃墜された、との経緯を伝えた、という。

撃墜時のトルコ空軍機は時速700~800キロで飛行していた、という。

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シリアの外務在外居住者省のジハード・マクディスィー報道官はエジプト大統領選挙でのムハンマド・ムルスィー氏の勝利に関する記者団の質問に対して、「シリアが国民の民主的選択のみを支持するということを皆が確認せねばならない…。我々が言えるのは、エジプト国民が彼(ムルスィー氏)を選ぶことで彼を受け入れているということだけだ」と述べた。

国内の暴力

ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団によると、ダイル・ザウル市各地区での軍・治安部隊と反体制武装集団の戦闘で8人が死亡した。

一方、SANA(6月25日付)によると、ダイル・ザウル市バアージーン地区で治安維持部隊が武装テロ集団のアジトを襲撃、イスマーイール・アリー・ウザイルを長とするテロリスト多数を殺害した。またシュハダー地区でも治安維持部隊が武装テロ集団と交戦し、テロリスト全員を殺害した。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、カフルナブル市で軍・治安部隊と反体制武装集団が交戦し、3人が死亡した。

またマアッラ・ニウマーン市でも反体制武装集団戦闘員1人を含む3人が死亡した。

さらに、ハビート市では、治安部隊の発砲で1人が、アリーハー市での砲撃で1人が死亡した。

このほか、サラーキブ市での軍・治安部隊と反体制武装集団の戦闘で、反体制武装集団戦闘員2人を含む8人が負傷した。

一方、SANA(6月25日付)によると、カフルナブル市で武装テロ集団が仕掛けようとしていた爆弾が爆発し、テロリスト4人が死亡した。

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ヒムス県では、シリア人権監視団によると、軍・治安部隊が反体制武装集団の籠城するヒムス市ハーリディーヤ地区、ラスタン市などへの砲撃を続け、ヒムス市で5人が死亡した。

また自由シリア軍によると、クサイル市、タルトゥース・ヒムス街道、シンシャール村方面に軍の戦車約100領が向かっており「歴史上最大規模の虐殺」が行われようとしていると警鐘を鳴らした。

一方、SANA(6月25日付)によると、ヒムス市のジャウバル区、スルターニーヤ地区などで治安維持部隊と武装テロ集団が交戦し、ラーディー・ハーリドを長とするテロリスト多数が殺害された。

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ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、軍・治安部隊の掃討作戦により、マディーラー市で7人、ドゥーマー市で6人が死亡した。

一方、SANA(6月25日付)によると、ドゥーマー市で治安維持部隊が武装テロ集団と交戦し、テロリスト10人を殺害した。

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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、マジュダ市で治安部隊が発砲し2人が死亡した。

またブスラー・シャーム市では、軍・治安部隊の兵士3人が爆弾の爆発で死亡した。

一方、軍・治安部隊はジャムリーン市、マアルバ町、カフルシャムス町などに対して砲撃を加えた。

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ハマー県では、シリア人権監視団によると、ハルファーヤー市で治安部隊の発砲により1人が死亡した。

また県内での軍・治安部隊と反体制武装集団の交戦により、離反兵1人が死亡した。

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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、クルド山での軍・治安部隊の掃討作戦で1人が死亡した。

また同監視団によると、軍の戦車や装甲車100輌以上がダマスカス・アレッポ街道をアレッポ市に向かって進軍した。

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『クッルナー・シュラカー』(6月25日付)は、ダマスカス県のティシュリーン軍事病院の軍医筋の話として、反体制武装集団との戦闘で重傷を負った負傷兵を治療せず殺害するよう軍指導部が指示した、と報じた。

この指示は、負傷兵が弾圧で犯した罪を隠蔽することが目的だというが、その真偽は定かでない。

反体制勢力の動き

アナトリア通信(6月25日付)は、シリア軍の少将1人、大佐2人、士官5人、兵士24人が未明にトルコ領内に逃走してきた、と報じた。

離反兵の所属や氏名については明らかにしていないため、トルコ側のプロパガンダの可能性も否定できないが、彼らの家族はすでにハタイ県(シリア領アレキサンドレッタ地方)の避難民キャンプに避難している。

CNN Turk(6月25日付)によると、離反した士官とすでに避難している家族を合わせると総勢199人に上るという。

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シリア国民評議会はエジプト大統領選挙でのムハンマド・ムルスィー氏の勝利を「エジプト革命の大いなる勝利、シリア国民の希望の源泉」と評し、歓迎の意を示した。

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シリア・ムスリム同胞団のムハンマド・リヤード・シャカファ最高監督者は声明を出し、エジプト大統領選挙でのムハンマド・ムルスィー氏の勝利を祝福した。

諸外国の動き

リア・ノボスティ通信(6月25日付)は、ロシアの専門家の話として、シリア軍が撃墜したトルコ空軍のF4が、NATOのためにシリアの防空システムの能力を試すための偵察活動を行っていた可能性が高いと報じた。

同通信は「戦闘機は低空で飛行していた。これは防空システムを破る基本である」との専門家の見解を紹介したうえで、その任務がシリアの防空システム、とりわけ中距離ミサイル(Buk-M2E、Pechora-2M )や防空システム(Pantir S1)の能力を試すことが目的だったと報じた。

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トルコのブレント・アリンジュ副首相兼報道官は、シリア軍によるトルコ空軍機F4の撃墜を「警告なしに航空機を標的することは最大級の敵対行為だ」を非難した。

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UPI(6月25日付)は、ヨルダン当局がヨルダン領内への脱走(21日)のために用いられたMiG21戦闘機を26日にシリア側に返還すると報じた。

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AKI(6月25日付)によると、EU諸国外相がルクセンブルクで会談し、アサド政権へのさらなる制裁への決意を示すとともに、シリアの反体制勢力に対して移行期間の包括的計画を提示するよう呼びかけた。しかし、シリア軍によるトルコ空軍機撃墜に対しては「穏健」な対応をめざそうとする発言が目立った。

フランスのローラン・ファビウス外務大臣は、シリア軍によるトルコ空軍機撃墜に関して、「この戦闘機は非武装だった…。警告なく撃墜された。これは決して受け入れられない」と述べた。

ドイツのギド・ヴェスターヴェレ外務大臣は、シリア軍によるトルコ空軍機撃墜に関して、「すべての当事者が混乱の緩和が必要で、さらなる混乱が誰の利益にもならないとと認識している」と述べた。

オランダのウリ・ローゼンタール外務大臣は、シリア軍によるトルコ空軍機撃墜へのNATOの対応に関して「シリアへの軍事介入は提示されていない…。こうした問題はオランダ政府としては検討していない」と述べた。

キャサリン・アシュトンEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長は、トルコ空軍機撃墜に関して深い懸念を示しつつ、トルコに「穏健」な対応を求めていると述べた。

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ヒラリー・クリントン米国務長官は、シリア軍によるトルコ空軍機撃墜を「生意気で受け入れられない行為」と非難した。

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オーストラリア政府は、シリアとの石油、石油製品、金融取引、通信、奢侈品などの取引を制限する追加制裁を発動すると発表した。

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AFP(6月25日付)は欧州外交筋の話として、シリアの防空システムが地中海上空を飛行中のトルコ空軍のCASA CN-235海洋哨戒機を捕捉し、迎撃警告を行ったと報じた。

AFP, June 25, 2012、Akhbar al-Sharq, June 25, 2012、AKI, June 25, 2012、al-Hayat, June 26, 2012、Kull-na Shurakāʼ, June 25, 2012、Naharnet.com, June 25,
2012、Reuters, June 25, 2012、SANA, June 26, 2012、UPI, June 25, 2012などをもとに作成。

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