シリア・クルド国民評議会の使節団が米国務省の招聘を受け同国を訪問、アナン特使はシリア情勢に関する報告のなかでアサド政権、反体制派双方の非妥協性を非難(2012年5月8日)

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第10期人民議会選挙をめぐる動き

SANA(5月8日付)は、ダマスカス県旧市街の投票所2カ所で投票箱が開封されていたことが発覚、ダマスカス選挙監視司法小委員会はこの二カ所での投票のやり直しを決定したと報じた。

al-Hayat, May 9, 2012

al-Hayat, May 9, 2012

投票用紙が入った投票箱は、各投票所から開票会場に集められ、有権者、マスコミの前で開封されたのち、集計がなされることになっていた、という。

国内の暴力

ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ヒムス市クスール地区で治安部隊が検問所で市民1人を射殺した。

また軍・治安部隊と離反兵の交戦で負傷していた1人が死亡した。

地元調整諸委員会によると、カルアト・ヒスン市に対して軍・治安部隊が砲撃を加えた。

一方、SANA(5月8日付)によると、ヒムス・ハマー街道で武装テロ集団がバスを襲撃、市民3人を殺害した。

SANA, May 8, 2012

SANA, May 8, 2012

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ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、ドゥーマー市で治安部隊が大規模な逮捕・摘発を行った。

地元調整諸委員会によると、ザバダーニー市に軍・治安部隊が戦車、軍用車輌を進入させた。

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ダマスカス県では、地元調整諸委員会によると、バルザ区でパレスチナ人が治安部隊の発砲した流れ弾にあたって死亡した。

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ハマー県では、ハマー革命広報局報道官を名のるマリヤム・ハマウィーヤなる女性活動家によると、反体制もが続いていたカルアト・マディーク町が軍・治安部隊の砲撃にさらされた。

一方、SANA(5月8日付)によると、ハマー市で武装テロ集団に殺害されたと思われる市民の遺体が発見された。

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SANA, May 8, 2012

SANA, May 8, 2012

ダルアー県では、地元調整諸委員会によると、タファス市などで第10期人民議会選挙に抗議するゼネストとデモが行われた、という。

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ダイル・ザウル県では、SANA(5月8日付)によると、武装テロ集団は、ジャースィム市近くのジュダイド・アカイダート村のシャイフ、マフムード・ハサン・ガンナーシュ師を暗殺した。

アサド政権の動き

シリアのバッシャール・ジャアファリー国連代表は、シリア情勢をめぐる国連安保理での非公式会合後に、シリア国内で逮捕された「武装テロ集団」メンバーのうちシリア人以外のアラブ諸国籍を持つ者が26人におり、彼らが「トルコとレバノンを経由して、リビア、チュニジアなどから来たことを自供した」と述べた。

またシリア政府が「アナン特使の停戦案におけるすべての項目を実施しているが、テロリストに資金・武器を支援している当事者らは…これらを実施していない。こうした国々は武装テロ集団への支援を停止せねばならない」と付言した。

国内のその他の動き

シリアのスィフヤーン・アッラーウ石油鉱物資源大臣は声明を出し、西側諸国の経済制裁によって、石油部門に30億米ドル相当の損失が生じていることを明らかにした。

アッラーウ大臣によると、制裁により原油の輸出量は380,000バレル/日から150,000バレル/日に落ち込み、石油鉱物資源省は原油の減産、一部油田の閉鎖を余儀なくされているという。

また武装テロ集団の破壊工作によって、25人の技術者が殺害され、100以上の機器が盗まれ、40件以上の爆発事故などが発生している、という。

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ロイター通信(5月8日付)は、ロシアやイランから供給されるはずの燃料約30,000トンが4週間にわたってバーニヤース港、タルトゥース港に届いていないと報じた。

同報道によると、これらの燃料のなかには、戦車、装甲車などの燃料となる灯油が含まれている、という。

反体制勢力の動き

在外の反体制組織、シリア人権監視団は、2012年4月の停戦発効後に831人が殺害されたと発表した。

この数値は現地活動家からの情報のみをもとにしている。

同監視団によると、831人中民間人は589人にのぼり、2011年3月以降の死者数は11,925人(うち民間人は8,515人)に達する、という。

また25,000人が反体制抗議行動に関連して逮捕されている、という。

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『クッルナー・シュラカー』(5月8日付)は、シリア・クルド国民評議会のメンバーの一人の話として、同評議会使節団が米国務省の招聘を受け、米国を訪問した、と報じた。

訪米したのは、アブドゥルハキーム・バッシャール代表(シリア・クルド民主党(アル・パールティー)党首)、サアドッディーン・ムッラー氏(シリア・クルド・イェキーティー党)、ワリード・シャイフー氏(無所属)、カーミーラーン・ハッジ・アブドゥー氏(シリア・クルド民主統一党(イェキーティー)。

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シリア国内の活動家が組織したとされるシリア暫定議会のナーイフ・シャアバーン報道官は、AKI(5月8日付)に対して、「体制打倒は解放戦争を通じて行われる…。体制は国内の革命(勢力)が軍事的、政治的に結集すれば1ヵ月ともたない」と述べ、武装闘争を支持した。

Kull-na Shuraka', May 8, 2012

Kull-na Shuraka’, May 8, 2012

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シリア国民評議会メンバーのアブドゥッラー・トゥルクマーニー氏はAKI(5月8日付)に対して、第10期人民議会選挙によって、「操り人形の新たな劇場」が作られるだけだ、と非難した。

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アナン特使の政治顧問が民主的変革諸勢力国民調整委員会の本部を訪問し、ハサン・アブドゥルアズィーム代表らと会談した。

会談では、危機の政治的解決と民主的体制への転換に向けた政府との対話について意見が交換された。

同顧問はその際、UNSMISが監視活動以外の活動を行わないことを確認するとともに、民主的体制への転換には、アサド政権の退陣が必要であるとの見方を示した、という。

民主的変革諸勢力国民調整委員会は11日に声明で明らかにした。

諸外国の動き

コフィ・アナン・シリア危機担当国連・アラブ連盟合同特使はジュネーブから国連安保理非公式会合にシリア情勢に関する報告を行った。

アナン特使はこの報告のなかで、「6項目停戦案が失敗したとの結論に達したら、それはシリアと地域全体にとって困難な日となるだろう」と述べ、シリア政府が砲撃・暴力継続や人権侵害に関してもっとも大きな責任を負っていると非難の意を示した。

しかしアナン特使は同時に反体制勢力に対しても「武器を置き、対話のテーブルに着くことの責任を負っている」と述べ、その非妥協的な姿勢を非難した。

一方、第10期人民議会選挙に関しては、「政府のイニシアチブのもとに行われたが、我々が話していたのは政府と反体制勢力の対話に至るような政治プロセスである…。この選挙は我々が話していたものではなく、シリア政府は政治的対話の結果が別の選挙として表されるということを理解しているはずである」と述べた。

アナン特使は安保理への報告後記者団に対して、シリアを近く訪問する予定だと述べる一方、「和平案の失敗の可能性に関して多くの問いがなされている。将来、和平案が成功しなかったとの結論に達し、別の選択肢を選ぶかもしれない。しかし私はシリアのことを第一に考え、交渉のテーブルに向かう者を賞賛する」と述べた。

テリー・ロード=ラーセン国連中東問題担当特使は、シリア情勢に関する国連安保理非公式会合後、「我々の情報によると、レバノンからシリア、シリアからレバノンという双方向での武器の流れがあると考えられる複数の要因がある」と述べた。

ラーセン特使はまた、「中東地域で目の当たりにしている事態は、「死の舞」であり、早晩戦争になるかもしれない」と付言し、シリア情勢の混乱が地域全体を混乱に陥れる危険に警鐘を鳴らした。

安保理筋によると、ロシアのヴィタリー・チュルキン国連代表大使は、ヘルヴェ・ラドス国連平和維持活動担当事務次長に対して、UNSMISのヘリコプターでの監視活動の安全をシリア政府が保障するとの案を示したが、ラドス事務次長はUNSMISの活動の独立性が失われるとして却下した。

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『ハヤート』(5月9日付)は、複数の外交筋の話として、安保理の非公式会合において、アサド政権による停戦違反への西側諸国の非難のなかで、ロシアはほぼ孤立していたと報じた。

また、第10期人民議会選挙を「前向きな兆候」と評価すべきだと中国とインドの見解も、選挙に信頼性がないとの西側諸国の主張によってかき消された、という。

モロッコの国連代表は、4月末のアラブ連盟外相会合での連盟の立場を会合で伝えたが、何ら具体的な措置を求めることはなく、「暴力停止、逮捕者釈放、政治的プロセスの開始」を強調しただけだった、という。

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スーザン・ライス米国連代表大使は、米国がアサド政権への圧力を強化し、退任に追い込むべく努力を続けていると述べ、「アナン特使の停戦案が実行されるための論理的結論とは体制転換が生じることである」と述べた。

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UNSMISのネーラジュ・シン報道官は、ダマスカスで記者団に対して、停戦監視活動に関して、ダマスカス郊外県への短距離の視察から開始し、その後ヒムス県などへの遠隔地への活動を拡大していく意向を示した。

シン報道官によると現在、監視団はヒムス県に9人、イドリブ県、ハマー県、ダルアー県で4人が活動している。

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国連の潘基文事務総長は、「包括的な政治対話のみがシリアの真に民主的な未来をもたらすことができる…。しかし選挙はこうした枠組みのなかで行われていない…。しかも民主的プロセスは暴力が続くなかで成功し得ない」と第10期人民議会選挙を否定するような発言を行った。

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AFP(5月8日付)は、イラン外務省報道官が第10期人民議会選挙を「シリア政府が行う改革の第2弾だ」としたうえで、「選挙への参加は、シリア人が平和的手段を通じた問題解決の必要を充分認識していることを示している」と高く評価した、と報じた。

また報道官は、「一部の反体制勢力が選挙に参加しなかったこと」に遺憾の意を示すとともに、「これらのグループは改革実施を可能とするような方法を遵守すべきだ」と非難した。

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マーク・トナー米国務省副報道官は、第10期人民議会選挙に関して、「国民の基本的人権が拒否され、政府が国民を攻撃しているなかで信頼に値する選挙を行うことは不可能だ…。このような状況下で国会選挙を行うことはほとんどばかげている」と述べた。

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キャサリン・アシュトンEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長付報道官のマイケル・マン氏は、第10期人民議会選挙に関して、「シリア情勢は国際的な希望とは逆の動きをしている…。選挙は危機の解決に資さないだろう…。この選挙は国連監視団がいるにも関わらず暴力が続く状況下で行われた」と述べた。

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トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相は、イタリア首相との会談後の記者会見で、「我々には1,000、2,000ないしは3,000人の監視団が必要だ」と述べつつ、「アサド政権へのあらゆる希望を失っている」と落胆の意を示し、アナン特使の和平案の成功を暗に悲観視した。

トルコの作家、イスメト・オズチェリク氏は『アイドゥンルク』(5月8日付)で、エルドアン首相率いるAKPが、テロリストに自国の領土をシリアでのテロ活動の前線として利用させていると非難、シリア国民に対するテロの共犯者だと断じた。

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アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長は訪問先の中国で、「シリアでの軍事行動はがエスカレートし、国が内戦に陥るかもしれない。こうしたことは誰も見たくない…。シリア人がこのような事態に直面するような存在だとは思わない」と述べた。

また中国に対しては、「中国は誰かが圧力をかけられるような国ではない…。アラブ連盟は敢えてそのようなことはしない」と述べ、アナン特使の停戦案を引き続き支持するよう呼びかけた。

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国際移民機構(IOM)報道官は、イラク北部のシリア人避難民の数が急増していると発表した。

同報道官によると、イラクのドホーク県にあるドゥーミーズ避難民キャンプにはシリア人世帯約98世帯が避難してきたという。同キャンプには2,835人のシリア人非難民がおり、イラク北部に避難してきたシリア人総数は4,200人程度になるという。

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赤十字国際委員会のジャコブ・ケレンベルガー総裁はシリア情勢に関して、「一部の地域での戦闘はきわめて激しく、アサド大統領に対する蜂起は「内戦」と評さざるを得ない状況に陥っていることさえある」、と述べた。

AFP, May 8, 2012、Akhbar al-Sharq, May 8, 2012、AKI, May 8, 2012、al-Hayat, May 9, 2012, May 10, 2012、Kull-na Shuraka’, May 8, 2012, May 11, 2012、Naharnet.com,
May 8, 2012、Reuters, May 8, 2012、SANA, May 8, 2012などをもとに作成。

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