ダルアー市でUNSMISの車列を狙ったと思われる爆弾テロが発生、シリア国民評議会事務局長が訪問先の中国から「評議会がアナン特使の和平案を支持する」ことを表明(2012年5月9日)

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第10期人民議会選挙をめぐる動き

『ワタン』(5月9日付)などは、ダマスカス県、スワイダー県、タルトゥース県、アレッポ市、クナイトラ県の選挙結果を速報で発表した。

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SANA(5月10日付)など各紙によると、ダマスカス県旧市街の投票所2カ所に続いて、ハサカ県の2カ所でも投票箱が開封されていたことが発覚、この二カ所での投票のやり直しが決定されたと報じた。

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変革解放人民戦線はダマスカスで記者会見を開き、代表で人民意思党党首のカドリー・ジャミール氏が、第10期人民議会選挙の投票において「数々の違反がなされた」と指摘、「選挙の公正性に多いに疑問を投げかける」と非難、選挙の実態を評価したうえで、5月12日に戦線の最終的な立場を発表する、と述べた。

変革解放人民戦線はジャミール氏がダマスカス県選挙区から出馬するなど、複数の立候補者を出馬されているが、全員の落選が確定している。

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『ワタン』(5月9日付)は、第10期人民議会選挙に「パレスチナ人も投票した」と国民民主団結党が異議を申し立て、近く司法小委員会に申し立てを行う、と報じた。

国内の暴力

ダルアー市入口の街道でUNSMISの車列が通過した数秒後に爆弾が爆発、監視団に被害はなかったが随行するシリア軍兵士6人(『ハヤート』(5月10日付など)が負傷した。

UNSMISの車列(6台の車輌)にはロバート・ムード司令官も乗っており、シリア軍、シリアと外国の記者団が同行していた。

犯行はアサド政権の「自作自演」ではなく、反体制武装集団によるものと思われる。

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事件に関して、潘基文国連事務総長は、「シリアの都市部で暴力が続くなかでの敵対行為は、当事者らが停戦を遵守しているのとの問いを喚起するものであり、監視団の活動の将来に直接の影響を与えるだろう」と述べた。

また国連筋によると、潘事務総長はムード司令官に対して電話で「UNSMISの車列を狙った爆破かどうかの証拠はないが、その活動をめぐって困難や挑戦が存在することを示している」と述べたという。

一方、国連筋によると、ムード司令官は「爆発が受け入れられないが、シリア国内で暴力が続くことも同じレベルで受け入れられない」と述べたという。

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ダマスカス郊外県では、反体制活動家(ムハンマド・サイード)によると、アルバイン市で「シャッビーハ」を乗せたバスがロケット弾攻撃を受け、少なくとも7人が死亡した。

またドゥーマー市では、シリア人権監視団などによると、軍・治安部隊による砲撃が続き、ハラスター市などでは、治安部隊による逮捕・摘発活動が行われた。

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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、アレッポ市アシュラフィーヤ地区で軍・治安部隊と離反兵が交戦したという。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、ジスル・シュグール市近くのアイン・ハムラー村で、軍・治安部隊が発砲、市民1人が死亡、またマガーラ村で退役士官が射殺された。

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ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ヒムス市ハーリディーヤ地区とカラム・ザイトゥーン地区で2人が射殺された。

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ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団によると、ダイル・ザウル市で治安部隊兵士1人が爆殺され、またスファイラ市、クーリーヤ市、ヒサーン村で治安部隊による逮捕・摘発活動が行われた。

反体制勢力の動き

中東通信(5月9日付)は、中国訪問中のシリア国民評議会のブルハーン・ガルユーン事務局長が、「評議会はシリアの危機を解決するため政治的解決に依拠し、アナン特使の和平案を支持し、外国の干渉に反対する」と述べたと報じた。

シリア国民評議会は、これまで武装闘争や外国の干渉による政権打倒を支持してきた。

ガルユーン事務局長は楊潔チー外務大臣らと会談した。

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シリア国民評議会は声明を出し、中国への使節団派遣の成果を発表した。

同声明によると、使節団は、ブルハーン・ガルユーン事務局長を含む6人のメンバーから構成されており、中国外相、中国共産党幹部と会談、以下の立場を伝えた。

1. 暴力停止と民主的体制建設をめざすアナン特使の和平案を「期限つき」で支持。
2. アサド政権の暴力を停止させるための制裁発動を伴う国連決議の必要。
3. 暴力停止を条件としたアサド政権との民主的体制建設に向けた交渉。

一方、中国側からは、アナン特使の和平案にもとづく停戦のための努力継続の意思などを確認した。

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シリア国民評議会のサミール・ナッシャール運営委員会メンバーはAFP(5月9日付)に対して、ダルアーでの爆発事件に関して、「民衆がUNSMISの増援を望むなか、監視団を現場から遠ざけるための爆発」と断じ、アサド政権が「シリア国内に原理主義者やテロリストがいると主張するため」に行った自作自演だと非難した。

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自由シリア軍のリヤード・アスアド大佐は、『シャルク・アウサト』(5月9日付)に対して、「我らが国民は、国連安保理が真剣な措置を講じないなかで、我々に保護を求めており…、おかげさまで…、我々は次の段階のための新たな行動計画を策定し、我々の軍事行動は体系的に変更されるだろう」と述べた。

また爆弾テロを行うのかとの問いに対しては、「爆破は我々の道徳に沿ったものではなく、それを必要としていない…。我々の目的は軍車輌を標的とし、爆発物のみを使用する」と曖昧に答えた。

その他の国内の動き

『ナハール』(5月9日付)は、進歩国民戦線加盟政党のシリア民族社会党のイサーム・マハーイリー党首が、党の活動全体を統括するレバノンのシリア民族社会党のアアド・ハルダーン党首の承認を得ずに、政党法に基づいて公認申請を行い、党が事実上の分裂状態に陥ったと報じた。

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ロイター通信(5月9日付)は、欧州の複数のトレーダーからの情報として、シリアがレバノンを経由して西側などへの穀物の輸出を行っている、と報じた。

アサド政権の反体制運動弾圧を受け、2011年に西側が発動した制裁には、食糧品の取引禁止は含まれていないが、シリアの金融機関との取引停止などの影響で直接の取引は困難になっている、という。

レバノンの動き

AFP(5月9日付)は、レバノンの地元高官の話として、ベカーア県バアルベック郡カーア地方で、レバノン人女性1人がシリア軍の発砲により死亡、1人が負傷したと報じた。

シリア領と接するカーア地方はシリア・レバノン両国で国境画定がなされていないため、その領有権は曖昧である。

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『ムスタクバル』(4月10日付)によると、北部県アッカール郡アブーディーヤ村にシリア軍が越境進入し、シリア人1人を逮捕し、シリアに連行した、と報じた。

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レバノン・シリア最高評議会のナスリー・フーリー議長は、『ハヤート』(5月10日付)に対して、「レバノンのシリア人避難民を帰国させるときが来た」とのシリア側の帰国要請を受けていると語った。

諸外国の動き

UNHCRはヨルダンにおけるシリア人避難民の数が14,500人に達したと発表した。

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国際通貨基金(IMF)のニウマト・シャフィーク副専務理事は、混迷するシリア情勢を受け、シリア・ポンドが為替市場で45%、公定レート25%下落し、シリアの証券価格も40%下落したと述べた。

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トルコのベシル・アタライ副首相は記者団に対して、シリア政府が身柄拘束中のトルコ人記者2人を「人質」にとり、トルコ領内のシリア人避難民との「交換のカード」としようとしている、と述べた。

AFP, May 9, 2012、Akhbar al-Sharq, May 9, 2012、ʻAks al-Sayr, May 9, 2012、DP-News, May 10, 2012、al-Hayat, May 10, 2012、Kull-na Shuraka’, May 9, 2012 MENA, May 9, 2012、al-Mustaqbal,
May 10, 2012、al-Nahār, May 9, 2012、Naharnet.com, May 9, 2012, May 10, 2012、Reuters, May 9, 2012、SANA, May 9, 2012、al-Sharq al-Awsat, May 10, 2012、al-Watan, May 9, 2012などをもとに作成。

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