2011年3月29日のシリア情勢

アサド政権の動き

大統領府が声明を出し、バッシャール・アサド大統領が「ムハンマド・ナージー・アトリー内閣の総辞職を受理し、新内閣組閣までの期間、同内閣を暫定移行内閣に任じた」と発表した。

アトリー内閣の変遷については「シリア内閣」(現代東アラブ地域の政治主体に関する包括的研究:非公的政治空間における営為を中心に科学研究費補助金(基盤研究(B))」を参照。

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SANA(3月29日付)は「100万人規模の民衆大行進」がダマスカス県、アレッポ市、イドリブ市、ハサカ市、ラッカ市、タルトゥース市、ダイル・ザウル市、ハマー市、スワイダー市など、シリア各県で行われた、と報じた。ダマスカス県のウマウィーイーン広場には数十万人が集まった。同行進は「祖国への忠誠」と銘打たれ、アサド大統領支持、大統領が指導する「包括的改革プログラム支持」、「挙国一致」の確認、外国による「暴動扇動」の試みの拒否が訴えられた。シリア国旗が家々のバルコニーや車に掲げられ、プラガードには「挙国一致は試されるまでもない」、「シリアがめざすものはレジスタンスのプログラムがめさすもの」、「腐敗反対、改革プログラム賛成」、「改革賛成、我々はあなたとともにある」などと書かれていた。image

al-Ḥayāt, March 30, 2011

al-Ḥayāt, March 30, 2011

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人民議会は今日予定されているアサド大統領の演説に先だって、マフムード・アブラシュ議長のもと臨時会を招集し、「シリアが享受し、最近の事件で強化された挙国一致」、「シリアに対する挑戦や陰謀に立ち向かう能力、国民の生活状況改善のための決定や立法の重要性、腐敗との戦い、戒厳令解除、政治生活への参加拡大」の必要を確認した。

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複数の人権擁護活動家によると、シリア当局は、ダマスカスの裁判所前で3月27日(日曜日)に逮捕されたフサイン・イーサー氏など、反体制デモを支持した弁護士4人を釈放したと述べた。なおシリア人権監視団はフサイン・イーサー弁護士(ダマスカスの裁判所前で逮捕)、ターミル・ジャフマーニー弁護士(ダマスカスのジャーナリスト・クラブで逮捕、スライマーン・ヌハイリー弁護士(ヒムス市のデモに参加したとの理由で逮捕)、ニダール・シャイフ・ハンムード弁護士(ヒムス市のデモに参加したとの理由で逮捕)、ムハンマド・イブラーヒーム・イーサー弁護士(ダマスカス郊外県でフェイスブック上での活動が原因で逮捕)されたと発表していた。

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『シャルク・アウサト』(3月29日付)は、ダルアー県で反体制運動が最初に噴出した遠因として、ハーフィズ・アサド前大統領のもとで培われていた政権とハウラーン地方の政治エリートとの関係が、アサド政権のもとで崩壊した事実があることを示唆する記事を掲載した。

この記事によると、ハーフィズ・アサド政権のもと、ダルアー出身のファールーク・シャルア、マフムード・ズウビー、ルストゥム・ガザーラがそれぞれ外務大臣、首相、レバノン駐留シリア軍治安偵察機構課次長(その後課長)に登用され、政権とハウラーン地方の政治エリートの間に「友好関係」が築かれたいたが、アサド現政権のもと、シャルア外務大臣は副大統領という閑職に追いやられ、ズウビー首相は「自殺」に追い込まれ、ガザーラは少将に昇進したもの、「反逆罪」で粛清することを脅迫されるようになった、という。

反体制運動

DP-News(3月31日付)は、29日にラタキア市内のカルア地区、スライバ地区などで始まった座り込みの解散を説得するために、ラタキア県のリヤード・ヒジャーブ県知事、県議会議員らが現場で市民と対話を行ったと報じた。

同報道は、ラタキア県議会議員の一人が匿名を条件に以下のように述べたと報じた。

「座り込みを行っている人々の要求のほとんどは個人的なものだった。住宅、仕事、ヒッティーン(サッカー・チーム)に関するものなどである。むろんこのほかにも、政治犯釈放を求める声もあったが…」。

同議員によると、ヒジャーブ県知事が政治犯釈放を拒否する姿勢を示すと、座り込みを行う人々は憤慨し、県知事らに投石したという。

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SANA(3月30日付)は、シリア・アラブ・テレビがレバノンのトリポリ市からシリア国内に武器が密輸されていると報じたと伝える。同報道によると、武器密輸にはムスタクバル潮流が関与しているというが、ムスタクバル潮流のアフマド・ハリーリー報道官はこれを否定している。

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Akhbār al-Sharq, March 29, 2011

Akhbār al-Sharq, March 29, 2011

「アフバール・シャルク」(3月29日付)は、タルトゥース県バーニヤース市で反体制デモを指導しているシャイフ、アンス・アイルート師が脅迫を受けていると報じる。

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「アフバール・シャルク」(3月29日付)は、経済学者のアーリフ・ダリーラ氏(ラタキア出身)が、宗派主義反対のため、ラタキア市で様々な宗派の識者と会談していると報じる。

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AFPやロイター(3月29日付)は、シリアの複数の有識者と人権活動家が「国民誓約」と題した声明を出し、「民主的民生国家の建設」、「多様性の尊重」、「宗派主義反対」、「あらゆる状況下での非暴力」を主唱したと報じた。

同声明の署名者のなかには、思想家のサーディク・ジャラール・アズム氏、脚本家のムハンマド・ムリッス氏、同じく脚本家のサミール・ズィクラー氏、風刺漫画家のアリー・ファルザート氏が含まれている。また同声明には政治活動家や人権活動家も署名しており、そのなかにはハイサム・マーリフ氏、アーリフ・ダリーラ氏、ミシェル・キールー氏、フィダー・アクラム・ハウラーニー氏、リヤード・サイフ氏、アブドゥルカリーム・リーハーウィー氏、フサイン・アウダート氏、アブドゥルハミード・ダルウィーシュ氏、ガッサーン・ナッジャール氏、ワッザーン・ザイトゥーナ氏、ムンタハー・スルターン・アトラシュ氏、アフマド・トゥウマ氏、ファーイズ・サーラ氏、ファウワーズ・タッルー氏が名を連ねている。

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アラブ社会主義連合民主党のラジャー・ナースィル氏はシャアバーン顧問の記者会見の内容を「依然として曖昧さがぬぐえない」としたうえで、アサド政権が政治的対話を無視して、治安機関を通じた圧力の行使という対話を認めるのみである」と非難した。

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シリア・クルド政治評議会は声明を出し、各地での反体制抗議行動との連帯、支持を表明するとともに、憲法改正を通じたクルド民族の存在の保障、一般的自由の保障、すべての政治犯・言論犯の釈放を求める。

諸外国の動き

ロイター(3月29日付)は、ヒラリー・クリントン米国務長官がシリア政府によるデモ弾圧を改めて激しく非難し、マーク・トナー国務省副報道官が、シリア大統領が政治改革のさらなる進展を実現し、国民の要望に応えねばならないと述べたと報じた。

ロンドンでのリビア問題に関する国際会議に出席中のクリントン国務長官は「会議と並行して行われた一連の会合で、シリアなどの問題について議論する機会があった」と述べた。また「シリア政府がデモ参加者に対して行った厳しい弾圧、とりわけ治安部隊による市民への暴力と殺戮に対して強い非難の意を表明する」と付け加えた。

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フランスのアラン・ジュペ外務大臣は、シリアに対して政治改革の導入、国民との対話の開始を求めたが、現状において国連による制裁や介入はふさわしくないと述べた。

またシリアが新内閣の組閣を決定したことにフランスが何を期待するかとの質問に対して、ジュペ外務大臣は「国民のデモに対するあらゆる暴力と抑圧を非難する」と述べたうえで、「我々は改革と対話を求めているが、現時点において安保理による制裁や決議を検討してはない」と付け加えた。

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米国務省のマーク・トナー報道官は29日、米国人3人がシリアで逮捕され、うち1人が釈放されたことを確認したと発表した。3月27日にシリア・アラブ・テレビが米国籍を持つエジプト人の証言映像を放映していた。

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複数の消息筋によると、ロイターのヨルダン人記者2人、スライマーン・ハーリディー特派員と写真家のハーリド・ハリーリー氏が3月29日に失踪。シリア当局は「2人の行方を捜査中」と述べているが、治安組織に拘束されたと考えられている。

Akhbār al-Sharq, March 29, 2011, March 30, 2011、DP-News, March 31, 2011、al-Ḥayāt, March 30, 2011, April 1, 2011、Kull-nā Shurakā’, March 29, 2011, March
30, 2011, March 31, 2011、Reuters, March 29, 3011、SANA, March 30, 2011、al-Sharq al-Awsaṭ, March 29, 2011などをもとに作成。

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