Contents
アサド政権の動き
バッシャール・アサド大統領は国営のシリア・アラブ・テレビのインタビューに応じ、3月半ば以降の国内の反体制抗議行動について語った。アサド大統領がSANAのインタビューに応じるのは大統領就任以降初めて。
インタビューでアサド大統領は、軍・治安部隊によるデモ弾圧を次のように正当化し、治安回復作戦が一定の成果を上げているとの見解を示した。
「現在の治安状況は、過去数週間、とりわけ先週金曜日、武装活動の性格を強めており、軍・警察・治安機関などの拠点が襲撃され、爆弾が投げ込まれ、暗殺作戦、民間のバスや軍用バスへの要撃が多発している。これは危険に思える…が、我々は実際問題として、これらに対処し得ている。我々は現在必ずしも成功しているとは言い得ない治安維持活動に関して調査を開始したが、現在のこうした事態を懸念していない。そう、治安面で現状は改善していると言える…。治安的解決、治安的選択といった言葉など存在しない。政治的解決があるだけだ。これは軍事的な目的でなく、政治的目的を実現するために軍をもって戦争を行う国の場合においてもである…。シリアの解決策は政治的なものだが、警察、治安部隊、対暴動部隊、対テロ部隊など、治安維持を担当する機関を通じて対処せねばならない治安状況が存在する…。我々が事件発生当初、政治的解決を選択していなかったら、我々は改革に向かっていなかった…」。
そのうえで、国内でのデモ弾圧を正当化する一方、西側諸国による退任要求については、こう述べた。
「(退任要求に)答えることを控えることで、我々はあなた方(西側)の言葉には何の価値もないと言っている…。この言葉は、地位に固執しておらず、また西側が選んだ訳でもない大統領に対して言われるものではない。シリア国民が選んだ大統領に対して言われるべき言葉ではない。大統領は米国が作り出したものではない」。
西側諸国の改革要求に関しては「彼らの目的は改革ではない。なぜなら彼らは改革を望んでいないからだ。とりわけ西側の植民地主義諸国はレジスタンスの権利、自衛権などを奪おうとしている」としたうえで、「シリアに対するいかなる軍事行動も耐えられないほどのきわめて大きな影響をもたらすだろう」と述べた。
国内での改革については「憲法第8条であれ、他の条文であれ、憲法再検討がなされていることは自明のことだ」としたうえで、人民議会選挙を来年2月に実施する予定であると述べた。
アサド大統領のインタビュー全文アラビア語はhttp://www.sana.sy/ara/2/2011/08/22/365273.htmを参照。
**
SANAによると、安全、民主的、独立したシリアを実現すべく活動するシリアの無所属の青年らが、反体制勢力や国際社会に対抗するため「シリアは元気です」と称するキャンペーンを主催した。
この運動には、エドワード・L・ペック元駐イラク米大使、ロシア、フランス、トルコ、イランのテレビ局など、アラブ諸国・諸外国18カ国の国会議員、政治家、メディア関係者・機関、有識者約250人が参加。聖マリア教会、アズム宮殿、旧市街のスークを訪問。近々にシリア国内の事件現場を訪問し、実際に起きていることを明らかにすることが目的だという。
「シリアは元気です」に参加したペック元駐イラク米大使はSANAに対して、「シリアが直面している危機の解決はシリア内でなされるべきであり、外部から押しつけられるべきでない」と述べた。
**
SANAによると、ジスル・シュグール市およびその近郊からトルコに避難していたシリア人避難民121人が帰国。
**
税関当局はシリア・イラク国境で、バグダードからシリアに向かって入国しようとしたイラク車輌に隠された大量の武器弾薬を押収。
反体制デモをめぐる動き
国連の人権調査チームの訪問(20日)を受けるかたちで、軍・治安部隊は日中の治安回復作戦を停止し、大規模な弾圧、逮捕、追跡は行われなかった。しかしアサド大統領のインタビュー放映後、ダマスカス、アレッポ、ハマー、ヒムス、ダイル・ザウル、ハウラーン地方(ダルアー)などで政権打倒とアサド大統領の処刑を叫ぶデモが発生した。これに対して、治安部隊は実弾で対応した。
**
一方、シリア国民評議会の発足をめざすイスタンブールでの反体制勢力の会合は、シリア革命総合委員会との対立を助長し、評議会発足も見送られた。
シリア革命総合委員会は声明を発表し、「多くの大会開催、大会の呼びかけがなされ、その一部は暫定評議会や暫定政府の発足を呼びかけている…。しかしこれらは革命に消極的な影響を与える…。シリア革命を支持する国内害の反体制勢力統合の真の努力を支持する」としつつ、「国益と革命」のため「シリア国民を代表しようとするいかなる計画も延期することを望む」と述べ、シリア国民評議会の発足に異議を唱えた。
これに対して、イスタンブールでの会合では、とりわけイスラーム主義者が評議会発足に積極的な姿勢をとった。アブドゥッラフマーン・ハーッジ氏は「この会合の目的は評議会発足宣言であり、それは国内の活動家60人、国内の活動家60人、合わせて120人によって構成されるだろう」と述べた。また「行われた議論は、さまざまな国民諸勢力、国内外のオピニオン・リーダーたちをどのように代表するかという基準を画定することに集中した」ことを明らかにし、「イスラーム主義、クルド人、リベラリスト、左派などすべてのシリア社会の成員が参加し、女性はメンバーの16%を占めるだろう」と述べた。
シリア革命総合委員会が評議会発足のための会合を開催することに慎重な姿勢を示したことに対しては、ハーッジ氏は「我々と総合委員会高官の間で対話が行われている。(評議委員会発足)をめぐる決定を待って欲しいとの要請が総合委員会からあったので、我々は評議会宣言を延期した」と述べた。
**
国内で反体制活動に加わっていたブルハーン・ガルユーン氏の弟、ムハンマド・ハイイル・ガルユーン氏が逮捕された。
シリア・アラブ人権機構事務局メンバーのラースィム・サイイド・スライマーン・アタースィー氏が逮捕された。同機構のマフムード・マルイー会長よりElaph.comが入手した声明によると、アタースィー氏はヒムスで身柄拘束され、2人の人物にそれぞれ10,000ポンドと小銃を与え、ヒムス市のデモに参加するよう依頼したとの証言を治安当局によってねつ造され、逮捕となった、という。
**
ロンドンでシリア人ら数千人が「シリア革命」を支持する行進を行った。参加者はロンドン市内の首相官邸に向かって行進した。
諸外国の動き
イラン外務省のホセイン・エミール・アブドゥッラフヤーン中東湾岸局長はイランのメフル通信社に対して、間接的な介入の試みが失敗したのを受け、米国が武装テロ集団の支援増強を通じてシリアへの直接的であからさまな介入を始めた、と米国を非難する一方、シリア国民が外国のあからさまな介入と真の要求を区別でき、シリアの治安と安定を揺るがそうとする敵の計略を挫折させるとの自らの確信を表明した。
国際赤十字委員会は声明を出し、近く同委員会が抗議行動開始以来逮捕身柄拘束された数千人を訪問視察することになると発表。
レバノンの北部県ミニヤ郡市民社会諸組織が、ミニヤ市内でシリア国民との連帯を表明する集会を開催。またイスラーム解放党がトリポリ市、ベカーア県のバアルベック、サアドナーイル、カラウーン、ラーラー、バアルール、シリア国境近くのマスナアでシリア国民との連帯を求めるデモを組織。アサド政権による弾圧を非難する一方、駐ダマスカス・レバノン大使の召還を求めた。
一方、ダフル・バイダルにはレバノン国軍が展開し、デモ発生を抑止した。
AFP, August 21, 2011、Akhbar al-Sharq, August 21, 2011、al-Hayat, August 21, 2011, August 22, 2011, August 23, 2011、Kull-na Shuraka’,
August 21, 2011、Reuters, August 21, 2011、SANA, August 22, 2011, August 23, 2011などをもとに作成。
(C)青山弘之All rights reserved.