アサド政権に対する猶予をめぐって米国とトルコがコンセンサスに立つなか、シリア人権連盟のリーハーウィー所長が逮捕される(2011年8月11日)

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反体制デモ

シリアの活動家はフェイスブックの「シリア革命2011」で「我々はアッラー以外にはひれ伏さない金曜日」とデモを呼びかけた。ラマダーン月に入って、反体制勢力がデモを呼びかけるのは先週金曜日の「我々はアッラーとともにある金曜日」に次いで2度目。ラマダーン月に入って、反体制勢力は「アッラー」、「ひれ伏す」(ラカア)といったイスラーム教への信仰心を連想させる用語を用いるようになっているが、こうした稚拙なシンボルの使用が「宗派主義的内乱を助長する」といった非難を(バッシャール・アサド政権側から)招くことは必至であろう。

複数の活動家によると、軍・治安部隊は早朝、イドリブ県サラーキブ市、ヒムス県クサイル市、ダマスカス郊外県のザマルカー、アルバイン、ハムーリーヤに進入。

シリア人権監視団によると、クサイル市では少なくとも18人が殺害、数十人が負傷、数百人が逮捕され、住民の多くが避難した。また攻撃に先立って通信などが遮断された。

サラーキブ市では、シリア人権監視団監視団によると、複数の戦車など軍用車輌が進入、子供35人を含む数百人が逮捕された。同市では連日、反体制デモが行われていた。治安部隊は商店の扉を壊し家宅捜索を行い、電気も遮断されているという。

一方、ダイル・ザウル市でも3人が殺害されたという。

シリア人権監視団によると、ダマスカスのヒジャーズ駅近くの老舗喫茶店ハバナで、シリア人権連盟のアブドゥルカリーム・リーハーウィー所長が逮捕された。リーハーウィー所長は3月のデモ開始以来、シリア国内からBBCなどに情報を提供していた人権活動家。

スワイダー県の技師らが、技師組合スワイダー支部ビル前で軍・治安部隊による弾圧に抗議するための座り込みを呼びかけた。

シリア人権監視団によると、ヒムス市のバーブ・アムル地区などで激しい銃声が聞こえた。

アサド政権による弾圧に荷担しているとの一部報道に対して、シリア民主統一党が否定する声明を出す。

シリア人権機構のアンマール・カルビー所長はCNNのインタビューに対して、これまでの死者数が民間人だけで2100人にのぼり、26000人が逮捕されたと述べる。

アサド政権内の動き

バッシャール・アサド大統領は、ジャースィム・フライジュ中将をダーウード・ラージハ国防大臣の後任の参謀長に任命した。Al Watan Online(11日付)によると、フライジュ中将はハマー出身で、副参謀長を務めてきた。フライジュ中将のほかには、アースィフ・シャウカト副参謀長(中将)、ムニール・アドヌーフ中将が参謀長候補だった。なかでもシャウカト中将の処遇に注目が集まっていたが、デモ弾圧を行う現状において、宗派主義的緊張を高める可能性を配慮し、参謀長への就任は見送られたと見られる。

Akhbar al-Sharq, August 11, 2011

Akhbar al-Sharq, August 11, 2011

ダルアー県のナビール・ウムラーン知事は、息子が留学中のカナダの入国ビザの取得申請を行ったが、カナダ当局が却下。ダルアー県でのデモ発生の責任をとるかたちで解任されたファイサル・クルスーム前知事の後任として県知事となったウムラーン氏は汚職の噂が絶えず、追求を免れるためカナダに逃れようとしたとの見方が濃厚。

親政府系の通信社‘Aks al-Sayr(11日付)やDamaspost(11日付)が複数の信頼できる消息筋の話として伝えたところによると、総合情報究局長のアリー・マムルーク少将が8月10日にイドリブを訪問し、住民と会見。遺族、ウラマーなどと会見したマムルーク少将は市民を傷つけた者の処罰を約束した。

Kull-na Shuraka’(11日付)が複数の消息筋から得た情報として、リフアト・アサド前副大統領が、今月初めからシリアに帰国し、作戦本部付となっていると報じた。同消息筋によると、リフアト・アサド前副大統領が3月のデモ開始以来、政治の表舞台に姿を現すことを避けていたことは、シリアへの帰国の準備だったと見られる。数日前に国民民主イニシアチブを立ち上げたムハンマド・サルマーン元情報大臣の活動の活発化との関係は明らかではない。(なおリフアト・アサド前副大統領の帰国の事実は今のところ確認されていない)。

シリアでのデモの影響で食糧品などの不足が指摘されるなか、Kull-na Shuraka’(11日付)は、砂糖の供給不足が、生活必需品の販売取引を独占する「マフィア」のタリーフ・アフラス氏が配給制限していることに起因すると報道。アフラス家はアレッポ、ハマー、ヒムスの名望家でアスマー・アフラス氏はバッシャール・アサド大統領の夫人。

Kull-na Shuraka', August 11, 2011

Kull-na Shuraka’, August 11, 2011

ヒムス市の住民らが、ヒムス市住民連帯委員会発足を宣言し、ヒムス市の様々な社会集団、階級、階層に和解と改革のための対話を呼びかけた。バアス大学理学部のザカリヤー・ズィラール教授らが署名・参加。

レバノン

レバノン民主党のタラール・アルスラーン党首がシリアを訪問し、ムハンマド・ナースィーフ副大統領と会談。最近のシリア・レバノン情勢について協議。

ベイルート県中心に位置するハムラー地区のシリア大使館前でレバノン・イスラーム集団の支持者によるシリア国民支持デモとアサド大統領支持者が衝突。

ベカーア県のマジュダル・アンジャル、カーミド・ルーズ、ジュッブ・ジャニーンなどシリア国民との連帯を求めるデモが夜の礼拝後に発生。

アラブ・レバノン青年党が声明を出し、「シリアに対する陰謀の拠点、通過地とならないという憲法の規定に対する明確な態度」を示すようナジーブ・ミーカーティー内閣に求めた。

そのほか

バラク・オバマ米大統領は昨日、トルコのタイイップ・レジェップ・エルドアン首相との電話会談で、「民主制への移行」の必要、「今後数日間の両国による情勢監視の強化」を行うことで合意した。これにより、アサド政権にアンカラが猶予を与えたことをめぐって、米国とトルコがコンセンサスに立ったことになる。しかし米高官によると、オバマ政権は近く、国内でのデモ弾圧を停止させるべく、制裁強化とともに、アサド大統領に退任を求める模様。

トルコのジャーナリスト取材チームが、トルコからシリアへ派遣された。ハマー情勢の取材を継続することが目的と考えられる。

エジプト、ヨルダンの若者たちがフェイスブック上で、両国に駐在するシリア大使を追放する署名を呼びかける運動を始めた。

カナダ首相がアサド政権によるデモ弾圧を、「蛮行」と非難。

シリア人権筋によると、サウジ人諜報員約100人がシリアのサイドナーヤー刑務所に収監されている。サウジの日刊紙『ワタン』(11日付)に対して明らかにした。かつては200人もの諜報員が身柄拘束されていたという。在リヤド・シリア大使館はサウジ人の逮捕を否定。サウジ人権協会によると、身柄拘束されている諜報員は3月半ばのデモ開始以前に身柄拘束されていた。

イラク国民議会のウサーマ・ヌジャイフィー議長は、ヌーリー・マーリキー首相およびクルディスタン自治政府の指導者たちに、シリアでのデモ弾圧を非難し、シリア政府に暴力停止を求めるよう呼びかけた。

AFP, August 12, 2011、Akhbar al-Sharq, August 11, 2011, August 12, 2011、Alarabia.net,
August 12, 2011、‘Aks al-Sayr, August 11, 2011、CNN, August 12, 2011、Damaspost,
August 11, 2011、al-Hayat, August 12, 2011, August 13, 2011、Kull-na Shuraka’, August 11, 2011, August 12, 2011、Naharnet.com, August 12, 2011、NNA, August 12, 2011、UPI, August 11, 2011、al-Watan (Riyad), August 11, 2011、Al Watan Online, August 11, 2011などをもとに作成。

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