ハマー市、ヒムス市に続き、シリア軍・治安部隊はダイル・ザウル市、イドリブ市および郊外を制圧した模様。西側諸国のシリアへの圧力にもかかわらず、バッシャール・アサド政権は着実に戦果を上げている。一方、ダーウード・ラージハ国防大臣就任に伴い、副参謀長という「閑職」に追いやられてきた大統領の義理の兄、アースィフ・シャウカト中将の動静がにわかに着目されている。シャウカト中将が参謀長の職を代行しているとの見方が浮上するなか、彼が「弾圧の顔」としての「復権」を果たすか否か今後の動きが見逃せない。
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弾圧
AFPがシリア人権監視団の話として伝えたところによると、ダイル・ザウル市はシリア軍に制圧された。これまで60人が逮捕されたという(ダイル・ザウル市攻撃の資料映像)。
地元調整委員会などヒムス市の複数の活動家によると、18人が同市で軍治安部隊の銃撃でイフタール前に殺害された。うち11人がバーブ・アムル地区で、7人がインシャーアート地区でそれぞれ殺害された。AFPによると、軍治安部隊は市民に無差別発砲を行ったという。また目撃者によると、デモが行われていなかったにもかかわらず、突如銃撃が始まった。
アラブ人権監視団のラーミー・アブドゥッラフマーン所長は、ダマスカス郊外県のザマルカー町、アルバイン市、ハムーリーヤ市で軍が突入、多数が逮捕された。逮捕の直前、通信が完全に遮断されたという(ダマスカス郊外アルバインでの弾圧の資料映像1、資料映像2)。
シリア人権監視団によると、イドリブ県では、トルコ国境近くのタフタナーズ市に軍・治安部隊の戦車など12輌が進入し、女性1人を殺害。またサルミーン市でも女性1人が殺害され、3人が負傷。
軍・治安部隊による治安回復作戦が振興するなか、外国の新聞・テレビ37機関の記者、特派員合計72人がシリア当局に伴われ、ハマー市を訪問した。AFP特派員によると、朝、軍の車輌数十両がハマーを撤退するのが目撃された。撤退する兵士は「魂と血を貴方に捧げる、バッシャールよ」「アッラー、シリア、バッシャールのみ」と連呼し、「勝利」をアピールしていた、という。
アサド政権の動き
SANAによると、シリア軍部隊がハマー市から10日早朝撤退を開始。また同日昼、イドリブ市および郊外からも撤退を開始。外国記者団へのハマー市開放(上述)は、こうしたなかで行われた。
SANAによると、ダマスカス県サブウ・バハラート広場、アレッポ市サアドゥッラー・ジャービリー、ラタキア市、ジャブラ市、タルトゥース市など、各地でバッシャール・アサド大統領の改革、外国による干渉反対を求める集会が行われる。
ワリード・ムアッリム外務大臣は南アフリカ、ブラジル、インドの使節団と会談。シリアの各都市での状況が「武装テロ集団」の破壊活動によるものだとしたうえで、政府が国民対話と改革を計画していることを改めて明言した。
『アフバール』(10日付)によると、ダーウード・ラージハ参謀長の国防大臣就任に伴う新参謀長人事に関して、アースィフ・シャウカト副参謀長(治安担当)が参謀長になり、デモ弾圧の「顔」にすげられる可能性が濃厚、と指摘。シャウカト副参謀長はヒズブッラーのイマード・ムグニーヤ暗殺やイスラエルによるキバルの核疑惑施設空爆の責任をとるかたちで軍事情報局長を解任され、副参謀長という閑職に追いやられていた。
レバノンへの影響
野党3月14日勢力事務局は、アドナーン・マンスール外務大臣のシリア訪問を非難するとともに、ミシェル・スライマーン大統領に対して、駐ダマスカス・レバノン大使を召還し、対応を協議すべきだと述べる。サウジアラビアなどによる大使召還に迎合しようとする動き。
進歩社会主義党のワリード・ジュンブラート党首がシリアを訪問。ムハンマド・ナースィーフ副大統領補と会談し、最近の情勢について協議。会談後、シリアの体制の運命について心配はしていない、と述べた。
『サフィール』(10日付)によると、ベイルート港のソリデール社のマリーナからバーニヤースへの武器密輸事件に関して、すでに逮捕された3人に対する調査が進んだ。治安筋によると、主犯格のM.A.の消息不明。M.A.はレバノン北部に住むとされる。「彼は北部県の3月14日勢力の指導者たちときわめて近い人物だ」。
ビカーア県のマジュダル・アンジャル、サアドナーイル、タアルバーヤーでシリア国民との連帯を求める夜間デモが行われ、それぞれ数十人の若者が参加。
そのほか諸外国の動きなど
対シリア非難安保理議長声明に基づく事務総長報告(現地での民間人への暴力行使、トルコ、レバノンへの避難民を憂慮)をめぐる審議を行うための国連安保理非公式会合が開かれる。
西側諸国は事務総長に来週再度報告を提出するよう求めた。また英仏独ポルトガルの代表は、来週の会合までにシリア情勢に改善が見られない場合、安保理は追加措置をとる必要があるとの立場を示した。米国もまた、スーザン・ライス大使が欧州諸国とともにアサド政権への追加制裁を行う意思を示した。
しかしロシアは、「我々は自制、改革、対話を呼びかけている」と述べ、反体制勢力がアサド政権との対話を拒否し続けることを批判した。
これに対してシリアのバッシャール・ジャアファリー国連代表は、シリア情勢と英国での暴動を比較し、「英国首相が、暴徒について言及し、彼らをギャングと呼ぶことに耳を傾けることは有用である…。我々には我が国の武装テロ集団について言及する際、同じ言葉を用いることが許されていない。これは偽善であり、傲慢だ」と反論した。
国連のスーザン・ライス米大使は、国連安保理会合前に、アサド政権が「正統性を失った」、「彼がいない方が状況はシリア国民にとってよくなる」と述べた。また米国が現在、国連人権委員会や、国際刑事裁判所への人道に対する罪、戦争犯罪での起訴を検討していることを明らかにした。
一方、米財務省はシリア国営のシリア商業銀行、同行のレバノン支店であるシリア・レバノン商業銀行、携帯電話会社シリアテル(ラーミー・マフルーフのシャーム・ホールディングスが筆頭株主)を制裁対象に追加。
フランス外務省副報道官は、国連安保理でのシリア非難議長声明に基づき潘基文国連事務総長が安保理に提出したシリア情勢に関する報告について、シリアは「国連安保理のメッセージを無視し続けることはできない」と述べ、アサド政権による弾圧を改めて非難。
トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相はAKP党員との会合で、10日に駐ダマスカス・トルコ大使がハマー市を訪問したと述べ、同市からシリア軍が撤退を始めたことを明らかにした。首相はこの動きをトルコのイニシアチブの結果と自賛。また火曜日のダウトオール外相の訪問に関して、「我々は昨日、アサド大統領に、これらの都市を外交官やメディアに開放することが重要だと述べた」とし、報道の自由が国際社会や国民に政権のパフォーマンスを評価させることを可能にするとの見方を示した。
また、駐ダマスカス・トルコ大使がハマー市訪問・視察。
アルジェリア外務省報道官は、シリアでのデモに関して、暴力の応酬への遺憾の意を表明する一方、すべての当事者に自制を求め、危機回避のための包括的国民対話と政治改革の実行を呼びかける。
モロッコ外務省は声明を出し、シリアでの暴力激化への懸念を表明。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ、アムネスティ・インターナショナルは国連安保理にさらなる圧力を求める。
al-Akhbar, Augusut 10, 2011、Akhbar al-Sharq, August 10, 2011, August 12, 2011、AFP,
August 10, 2011、BBC, August 10, 2011、DamasPost, August 10, 2011、al-Hayat, August 11, 2011, August 12, 2011、Kull-na Shuraka’, August 10,
2011、Naharnet, August 10, 2011、Reuters, August 10, 2011、al-Safir, August 12, 2011、SANA, August 11, 2011、UPI, August 10, 2011などをもとに作成。
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