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反体制勢力の足並みの乱れ
シリア・クルド・イェキーティー党メンバーで暫定国民会議のメンバーとして名前が挙げられているアブドゥルバースィト・ハムウ氏は、暫定国民会議発足をめぐる動きへの支持を改めて表明するとともに、一部のクルド民族主義政党や反体制勢力が同会議に参加してない理由に関して、意見の相違ではなく、体制への恐怖がある、と指摘。またクルド民族主義勢力がアサド政権打倒後に連邦制の確立や分離をめざすとの一部報道が、体制側のプロパガンダに過ぎないと一蹴した。
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シリア革命支援国民連盟(ハイサム・ラフマ総合調整役)は声明を出し、暫定国民評議会の発足に向けて、ブルハーン・ガルユーン氏との対話・調整を行ったことを明らかにし、同氏のイニシアチブに賛同していると明言した。
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反体制活動家で経済学者のアーリフ・ダリーラ氏は『ラアユ』(9月4日付)に対して、ガルユーン氏が進める暫定国民評議会発足の動きを「個人的で時期尚早な動き」と非難し、「国内の政治的停滞と国外の意見の相違に対する反応」とみなした。
反体制運動とその弾圧
デモの勢いは過去数日に比べて弱まったもの、複数の活動家などによると、各地でのデモ参加者、会葬者への治安作戦、さらには軍用バスに対して行われた攻撃により、軍人、女性を含む21人が殺害された。
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ハマー県では、SANAが軍消息筋の話として、武装テロ集団がムハルダ市近くで士官や民間人労働者などが乗ったバスを要撃したと報じた。同消息筋によると、要撃によって、士官1人、准尉5人、民間労人労働者3人が殺害され、多数が負傷した。
またSANAが軍消息筋の話として伝えたところによると、治安部隊がハマー・ガーブ街道での殺人事件を追跡中に、9月3日にイドリブ県サラーキブ市のラジオ・テレビ・センターでピックアップトラックを盗んだ武装テロ集団4人と戦闘、治安部隊兵士1人が負傷、テロ集団メンバー3人を殺害、残る1人は負傷。大量のカラシニコフ銃、爆弾、医療機器を押収。
一方、地元調整諸委員会のスポークスマンであるウマル・イドリビー氏によると、ムハルダ市近くのカルナーズ町で4人が殺害された。
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ヒムス県では、シリア革命調整連合によると、15人がヒムス市で軍・治安部隊の激しい銃撃を受けて負傷した。この銃撃は3日晩からバーブ・アムル地区西のバサーティーンで続いているという。
またシリア人権監視団によると、3日晩からハーリディーヤ地区、バーブ・フード地区、バーブ・スィバーア地区、クスール地区、バイヤーダ地区などでデモが発生し、軍・治安部隊の発砲があったが、死者はでなかった。
ダイル・バアルバ地区では軍・治安部隊が土曜の晩から日曜日にかけて大規模な捜索活動を行い、25人を身柄拘束。一方、軍・治安部隊はハムラー地区通りでの大規模な逮捕・捜索活動(17人を身柄拘束)を終えて撤退。なお軍・治安部隊はインシャーアート地区、バーブ・アムル地区にも展開している。
タルビーサ市で朝、2日(金曜日)のデモに参加して負傷していた青年が死亡。
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イドリブ県では、地元調整諸委員会のスポークスマンであるイドリビー氏によると、女性1人を含む4人が軍・治安部隊の発砲で殺害された。またイドリブ市で治安部隊がバスに発砲し、1人が殺害された。
シリア革命調整連合によると、ハーン・シャイフーン市に軍・治安部隊が突入し、市内の病院を包囲、負傷者の搬入を阻止した。他方、サラーキブ市で約3週間前に身柄拘束されていた青年が拷問を受け死亡。
イドリブ県での作戦は、アドナーン・バックール検事総長捜索を目的としている、という。これに関して、『ワタン』(9月4日付)は、カルナーズ町付近で誘拐されたアドナーン・バックール検事総長がイドリブ県ザーウィヤ山にいる、と報じ、誘拐した「武装テロ集団」の捜査当局の追跡が大詰めに入ったことを示唆。
しかし反体制活動家でビジネスマンのムハンマド・マアムーン・ヒムスィー元人民議会議員は、アラビーヤのインタビューで、アドナーン・バックール検事総長がシリアを出国しトルコに逃れたことはほぼ確実だと述べた。
一方SANAは、9月2日(金曜日)晩に、ハーン・シャイフーン市で内務治安局のワーイル・アリー大尉が武装テロ集団によって誘拐された、と報じた。
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ダイル・ザウル県では、ダイル・ザウル市で軍・治安部隊による大規模な逮捕・捜索活動が行われ、23人が身柄拘束。
反体制運動をめぐるそのほかの動き
『クッルナー・シュラカー』(9月4日付)はハラスター市の信頼できる消息筋の話として、市民の抗議行動を弾圧するために同市に展開し、無差別発砲を行っていた空軍情報部の治安部隊の一部の兵士が離反、弾圧を指揮するアブドゥッラフマーン大佐の命令を拒否したと報じた。
同消息筋によると、空軍情報部の部隊および作戦に参加している車輌管理局内で激しい銃撃戦となり、双方合わせて35人の兵士が負傷した。
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ジャーナリストのアーミル・マタル氏が逮捕。
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在米シリア議会議長で政治学者のルワイユ・サーフィー氏は『シャルク・アウサト』(9月4日付)に対して、「シリア国民評議会は10日以内にメンバーの氏名を発表し、行動計画を明示し、反体制活動を調整するための部局・委員会を設置するだろう」と述べた。
また「国内外の反体制勢力のほとんどが武力による解決を拒否している」と述べ、「武装革命」への反対の意思を示すとともに、「政権打倒は…数ヶ月で実現する問題だ」と明言したうえ、「とりわけアレッポとダマスカスでの、学生の秋に期待する」と述べ、主要都市での学生の決起への期待感を示した。
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パリ在住の反体制活動家、アブドゥルハリーム・ハッダーム前副大統領は自らが指導するシリア国民救済戦線のウェブサイト「自由シリア」を通じて声明を発表。「シリアの革命運動家たち」に充てた声明のなかで、ハッダーム前副大統領は、国際社会の軍事介入に反対する一部の反体制活動家を批判、「軍事干渉ではなく国際的な監視団の派遣を要求する声が一部から発せられているが、それは敗北主義的な姿勢を隠そうとするペテンである」としたうえで、「軍事介入は占領を意味しない」と述べた。
またハッダーム前副大統領は『シャルク・アウサト』(9月4日付)のインタビューに応じ、アラブ連盟の対応に関して、「犯罪」を議論することが遅すぎたと非難した。またイランによるアサド政権支持については、一貫して変わらないだろうとしつつ、シリアでの「革命」が成就すれば、イランのシリア、レバノン、イラク、そして中東地域全体の影響力が低下するだろうと指摘した。
一方、シリアの反体制勢力の活動については、「シリアの現実と何ら関係のない声」が一部から発せられていると非難し、国際社会への軍事介入の必要を指摘した。
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『クッルナー・シュラカー』(9月4日付)によると、ダマスカス県内の学校に通っていた女子学生の一人が、大学への入学登録を行うため、高校の卒業証明書を受け取ろうとした際、学校当局から「貴方は反体制派か親体制派か?」と尋ねられたという。女学生の父によると、学校当局は、学生の政治的帰属、反体制デモへの態度を集計している、という。
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ストックホルムのスウェーデン議会で、在外シリア・クルド人が9月3日から2日間の予定で在外クルド人青年大会を開催、欧州諸国の活動家やスウェーデンの議員らの参加のもと、シリアの反体制運動における在外クルド人の役割、国内のシリア革命調整連合への支援方法、大会閉幕時に発足が宣言される在外委員会の任務、組織編成などを議論した。
大会2日目にあたる4日には、ブルハーン・ガルユーン氏が参加。「クルド人はこの体制の抑圧の先頭に立ち、抑圧装置に対するレジスタンスの先頭に立ってきた」と述べた。
アサド政権の動き
SANAは、バッシャール・アサド大統領の指示に沿って、県・大学レベルでの国民対話が9月5日から2週間の予定で行われると発表した。
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ワリード・ムアッリム外務大臣は、赤十字国際委員会のヤコブ・ケレンベルガー総裁と会談し、「当局が治安と安定回復、そして改革路線強化の努力を行っている」ことを伝えた。
ケレンベルガー総裁は5日、アサド大統領と会談する予定。同総裁はシリア高官と、政治状況改善や大統領退任を求める身柄拘束中の反体制活動家の支援を検討するためにシリアを訪問中。
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『シリアステップス』(9月4日付)はシリア高官筋の話として、アーディル・サファル内閣の改造が統一地方選挙前に行われ、無所属および反体制活動家の入閣が検討されていると報じた。
同消息筋によると、この改造内閣をもって、統一地方選挙と2012年2月に実施が延期となっている人民議会選挙が監視されるという。
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DP-News(9月4日付)によると、『クドス・アラビー』(9月1日付)で、アンマンのサウジ大使公邸での恒例のイフタールの祝典に出席したバフジャト・スライマーン・シリア大使が、(遅れて会場入りしたため)偶然同席したヨルダンの元首相らの前で「我々は倒れれば、我々とともにあなたたちも倒れる」と話したと報じられたことに関して、スライマーン大使が「断片的な作り話」と述べる。
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サウジアラビアのインターネットサイト『ジダール』(9月4日付)によると、開発メディア局長のガーズィー・アブドゥルガフール氏は、シリアの報道番組やシリア・アラブ・テレビ報道局の監視命令を拒否したため、アドナーン・マフムード情報大臣がブサイナ・シャアバーン大統領府政治情報担当報道官の指示のもと解任。
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アリー・アッバース石油公社総裁は『シャルク・アウサト』(9月4日付)に対して、「あらゆる状況下において、西欧の制裁は金融、技術、さらには機器供給、ハイテクのソフトなどといったレベルにおいて大きな影響を及ぼす。しかし、これに対して、我々もまた石油・ガス部門で巨大な中国系企業がついており、その財政的な能力は巨大である」と述べ、西側の制裁に対処するための中国の役割に期待を寄せた。
SANAは、ジスル・シュグールからトルコに避難していたシリア人避難民103人が帰国したと報じた。また人民諸委員会のスィバーヒー・ハマドゥー会長が、トルコに避難したジスル・シュグール地域住民のほとんどが帰国、その数は14,300人を越えたと発表したと伝えた。
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SANAは、シリア人権ネットワークが一部の反体制勢力が武装していると批判したと報じた。
諸外国の動き
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣は、BRICs5カ国がシリアでリビアのシナリオが再来することに反対すると述べ、シリアへの空爆や軍事作戦への扉を開くようないかなる安保理決議に対しても反対するとの立場を示した。「新興5カ国、すなわちブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカは、リビアで行われたようないかなる行為にも反対する」と発表した。
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アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長は、シリア政府の合意のもと「今週中」にダマスカスを訪問すると記者会見で発表した。この訪問は8月28日のアラブ連盟外相会議での声明を受けた動きで、「事態へのアラブの懸念」を伝えることを目的とした。
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ベカーア県バッル・イリヤース市のレバノン・イスラーム集団支部で、シリア国民との連帯を訴える世俗主義会合の第4回大会が実施され、ダール・ファトワーのアースィム・ジャッラーフ書記長、サラフィー運動創設者のダーイールイスラーム・シャッハール氏ら多くのシャイフが出席した。
AFP, September 4, 2011、Akhbar al-Sharq, September 4, 2011、Alarabia.net, September 4, 2011、AP, September 4, 2011、DP-News, September 4, 2011、Free-Syria.com, September 4, 2011、al-Hayat, September 5, 2011、Jidar.com, September 4, 2011、Kull-na Shuraka’, September
4, 2011, September 5, 2011、al-Quds al-‘Arabi, September 1, 2011、al-Ra’y, September 4, 2011、Reuters, September 4, 2011、SANA, September 5, 2011、al-Sharq al-Awsat, September 4, 2011、Syriasteps.com, September 4, 2011、al-Waṭan, September 4, 2011などをもとに作成。
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