最新論考(再)「アサド政権にさらなるフリーハンド:和平会議「破綻⼨前」の裏事情」(Astand)

青山弘之「アサド政権にさらなるフリーハンド:和平会議「破綻⼨前」の裏事情(特集II・シリアの隘路)」
e-World、2014年2月26日号 https://janet.jw.jiji.com/
Astand、2014年3月10日 http://astand.asahi.com/webshinsho/jiji/eworld/product/2014030400003.html

■シリア政府に有利な戦況
■自国出身活動家の帰還恐れる西欧諸国

シリアでの紛争解決に向けた政府とシリア国民連合による初の直接和平交渉「ジュネーブ2会議」が、1月22日から2月15日にかけてスイスで開催された。2ラウンドにわたる会議は、「テロとの戦い」を優先しようとする政府代表団と、現政権を排除した形での移行期統治機関(移行期政府)の樹立を訴える「国民連合」の対立により紛糾し、今後の交渉日程についても合意できないままに閉幕した。
だが閉幕直前の12日の会合で、国民連合が政権退陣を求める文言の明記を取り下げ、また仲介者であるアフダル・ブラヒミ国連・アラブ連盟共同特別代表が13日の米ロ外務次官との協議を経て、移行期統治機関の審議を先送りにすると決断したことで、シリア政府は事態収拾のフリーハンドを得た形となった。

◇シリア政府に有利な戦況

シリアの紛争は「アラブの春」の体制転換劇からの類推で、政権退陣に解決の糸口があるようなイメージがつきまとう。しかし拙稿(「せめぎ合いのなか友好的敵対に軟着陸したシリア和平会議」Synodos、2月5日付)で詳述した通り、ジュネーブ2会議が履行を目指す2012年6月のジュネーブ合意は「現政権、反体制組織…から構成される移行期統治機関を当事者の総意の下に発足させる」と規定し、アサド政権の存続を含意していた。
このことは、昨年半ばにアサド政権が化学兵器廃棄に責任を有する「正統な代表」として、欧米諸国を含む国際社会から承認されたことで既定事実となり、今回の会議で改めて追認された。
国内の暴力についても、アルカイダ系武装集団に対する掃討作戦など軍のあらゆる行為を「たる爆弾による住宅地への無差別殺りく」と断じる一部の活動家のプロパガンダゆえ、政権の残忍さが強調されるきらいがある。しかし、ロンドンを拠点とする反体制人権団体のシリア人権監視団が発表した死者総数14万人のうち、約5万4000人が軍や親政権民兵の将兵であることは看過されるべきでない。むろん、同監視団によると、民間人(武装した市民を含む)の犠牲者も5万人弱に達するという。だが、民間人の死者数は過去2カ月でなぜか2万人も「減少」し、代わってジハード(聖戦)主義武装集団の戦闘員の死者が3万人強に急増した。武力紛争が政権の一方的暴力だとの主張はますます成り立たなくなっている。

アサド政権は昨年末以降・・・