アラブ連盟事務総長がシリア国内で活動する反体制勢力の使節団と前日に引き続き会談、米国務次官補が同国上院の公聴会でアサド政権を「地域の安定に対する危険な要因」と描写(2011年11月10日)

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反体制勢力の動き

アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長はシリア国内で活動する反体制勢力の使節団と改めて会談した。

使節団は、国民民主諸勢力国民調整委員会のハサン・アブドゥルアズィーム総合調整役とシリア国家建設潮流のルワイユ・フサイン代表、リーム・トゥルクマーニー氏、そして無所属のムンズィル・ハッルーム氏、ハーズィム・ナハール氏、ミシェル・キールー氏、サミール・イータ氏からなっていた。

会談は9日のアブドゥルアズィーム総合調整役とアラビー事務総長の会談に続き2回目。

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シリア国家建設潮流のフサイン代表は、『ハヤート』(11月11日付)に対して、「国際的保護を含むいかなる措置も、シリア情勢の国際問題化と軍事的介入をもたらす」とアラビー事務総長に述べたことを明らかにした。

また「我々は民間人の保護が…安保理を通じて行われると…直接軍事介入の余地を与えると見ている」と述べた。

さらに、飛行禁止空域に関しては、「我々はこれを支持しない…。それは軍事介入につながり、さらなる犠牲をもたらすからだ」と続けた。

一方、シリア国家建設潮流は声明を出し、9日に使節団が暴行を受けた後、アブドゥルアズィーム総合調整役が単独でアラビー事務総長と会談したことに反対していたことを明らかにした。

同声明によると、「会談直前、合同使節団メンバーは多くの点で合意に達することができなかったが、国民調整委員会指導部は単独で会合にのぞむと主張した。調整委員会はアラブ連盟事務局長との会談が局長側の呼びかけによると考えているが、実際は逆である…。使節団は…、サミール・アティーヤ、ムンズィル・ハッルームが委員会の立場を受け入れられないとの理由で使節団から身を引いたのちに単独でなされた。またそれゆえ、ミシェル・キールー、ハーズィム・ナハールらも行かなかった…」。

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アブドゥルアズィーム総合調整役は、カイロで声明を出し、国民調整委員会やシリア国家建設潮流がアサド政権と結託しているとの一部非難に関して、「そのようなことは聞いたこともない。我々と政府との間にいかなる接触もない」と述べた。

またアラブ連盟におけるシリアのメンバーシップ凍結に関しては、「この問題については議論しなかった」と述べた。

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RT(11月10日付)、Damas Post(11月10日付)によると、シリア・アラブ人権機構のハイサム・マンナーア氏は、アラブ連盟本部前での暴行事件(9日)に関して「恥ずべき行為で話題にしたくもない」と非難した。

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SANA(11月10日付)は、国民民主諸勢力国民調整委員会、シリア国家建設潮流などからなる使節団がアラビー事務総長との会談後、記者団に対して、外国の干渉拒否の姿勢を表明したと報じた。

反体制勢力掃討

各地でデモ参加者と治安部隊が衝突、また各地で治安部隊による大規模な逮捕・追跡作戦が行われ、30人以上が死亡した。

在外の反体制勢力は10日にゼネストを呼びかけていた。

複数の活動家によると、ハマー、イドリブ、ダルアー、ダマスカス郊外などシリア国民総合委員会の呼びかけに応じるかたちでゼネストが行われた、という。

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ヒムス県では、ヒムス市で、8歳の少女1人を含む14人が殺害された。

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SANA(11月10日付)は、イドリブ県ジスル・シュグール地域のマアラカ村で、武装テロ集団が仕掛けた爆弾が爆発し、少年二人が巻き沿えとなって死亡したと報じた。

また同地域クファイル村で、武装テロ集団の襲撃で、軍・治安部隊兵士2人が死亡した。

さらにハーン・シャイフーン市では武装テロ集団がしかけた爆弾が爆発し、軍・治安部隊兵士3人が死亡した。

これに対して、反体制活動家は、マアッラト・ヌウマーン市近くのハーッス村の検問所が武装集団に襲撃され、兵士5人が殺害されたと発表した。またハーン・シャイフーン市では、15歳の少年が殺害されたという。

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ダイル・ザウル県では、マリーイーヤ村の検問所が武装集団に襲撃され、中尉1人と兵士1人が殺害された。

またダイル・ザウル市では、活動家によると、治安部隊がデモ参加者約2,000人に発砲した。

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SANA(11月1日付)は、ダマスカス郊外県ドゥーマー市で治安維持部隊3人が武装テロ集団の襲撃を受け負傷したと報じた。

一方、活動家の一人によると、ハラスター市では離反兵3人が治安部隊に殺害された。

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ハマー県、SANA(11月10日付)は、武装テロ集団がムハルダ市・サクラビーヤ市街道を占拠・封鎖したと報じた。

アサド政権の動き

SANA(11月10日付)は、ワリード・ムアッリム外務大臣がアラブ連盟のナビール・アラビー事務総長に書簡を送ったと報じた。

同報道によると、ムアッリム外務大臣はそのなかで、「米国務省がアラブ諸国に対して、アラブ連盟憲章に反するような対シリア政治的・経済的制裁への参加を奨励していること」への不快感を示し、米国の「扇動」を非難した。

またアラブ連盟外相委員会のワーキングペーパーに関しては、「その条項のほとんどを1週間にわたって遵守した」と主張した。

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SANA(11月10日付)は、カイロのアラブ連盟本部前でのシリア国民評議会支持者が国民民主諸勢力国民調整委員会メンバーらからなる使節団に暴行を加えたことを報じ、前者を厳しく非難した。

同報道は、「他者を退け、拒否するという政策の明確な表明が、アラブ連盟本部前で国民調整委員会の使節団への暴行…を通じて、カイロの「イスタンブール・グループ」(シリア国民評議会)によってなされた。このことは使節団メンバーがシリアへの外国の干渉を拒否したからである」と報じた。

諸外国の動き

ジェフリー・フェルトマン米国務次官補(中東問題担当)は、米上院の公聴会でアサド政権を「地域の安定に対する危険な要因」とみなし、体制転換への意思を示した。

フェルトマン国務次官補はまた、「アラブ人はアサドにシリアでの殺戮を止めて欲しいと思っている…。私が話したアラブ諸国の指導部、外務大臣のほとんどは同じことを言った、「アサドの支配は終わりを迎えつつある。これは避けられない」と…。このように述べたアラブ人のなかには、アサドに早急に国を去るよう求め、そのために身の安全が確保できる場所を提供しようとしている者もいる」と述べた。

フェルトマン米国務次官補は、2000年代半ばに在レバノン米大使として、レバノンのラフィーク・ハリーリー元首相暗殺事件に端を発するシリア・バッシングの急先鋒として、アサド政権に対峙してきた人物である。

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レバノンのミシェル・スライマーン大統領はアシュラフ・リーフィー内務治安総軍総局長ら治安機関幹部と会談し、シリア人反体制活動家の失踪(シリアへの身柄引き渡し)に関する「明確かつ完全な報告」を行うよう求めた。

AFP, November 10, 2011、Akhbar al-Sharq, November 10, 2011, November 11, 2011、Damas Post, November 10, 2011、al-Hayat, November 11, 2011、Kull-na Shuraka’, November 10, 2011、Naharnet.com, November 10, 2011、Reuters, November 10, 2011、RT, November 10, 2011、SANA, November 10, 2011などをもとに筆者作成。

 

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