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アラブ連盟をめぐる動き
アラブ連盟閣僚委員会はカイロのホテルでシリア問題への対応を事前協議した。
委員会に近い消息筋によると、協議では、12日(土曜日)に予定されている連盟の外相会議で、連盟のワーキングペーパーの実施状況に関するアラブ・国際監視団の派遣をシリアに対して求めること、ワーキングペーパーの即時実施を求めるため連盟加盟資格凍結などさらなる強い制裁を科すことが提案された。
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アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長は、国外で活動する二つの反体制組織、シリア革命総合委員会とシリア国民評議会の使節団とそれぞれ会談した。
シリア国民評議会の使節団メンバーの一人バスマ・カドマーニー書記官は、会談で、シリアのアラブ連盟加盟資格停止、あらゆる合法的手段を通じた民間人保護、アラブ・国際監視団のシリアへの派遣を求めた、と述べた。
シリア革命総合委員会の使節団を率いるハリール・ハーッジ・サーリフ氏は、会談で書簡を提出し、アラブ連盟のワーキングペーパーの完全履行、とりわけ民間人の保護、連盟加盟資格停止、駐シリア大使の召還、シリア国民評議会の承認を求めた、と述べた。
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「アフバール・シャルク」(11月11日付)は、アラブ諸国内にアサド政権への強硬姿勢、とりわけ加盟資格停止といった措置に反対する国が依然として多くあると報じた。
同報道によると、これらの国は、サウジアラビアなどGCC諸国が進める強硬姿勢が西側のアサド政権への圧力を増長させ、内政干渉をもたらすと懸念しているという。
アサド政権の動き
SANA(11月11日付)は、ユースフ・アフマド・アラブ連盟シリア代表がアラビー事務総長宛に対して、シリア政府がアラブ連盟代表団の訪問を歓迎し、その活動に完全に協力すると伝えるとともに、連盟のワーキングペーパーを遵守していると報告したと報じた。
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SANA(11月11日付)は、シリアのバッシャール・ジャアファリー国連代表が11日(米東部標準時で10日)の安保理会合において、「国際社会は、武力紛争における民間人保護の問題に関して、恣意的、選択的であってはならず、武装紛争のみに限定されるべき」と述べ、シリア内政への干渉に改めて異議を唱えた。
また「イスラエルの占領下にあるパレスチナ人、シリア人、レバノン人民間人の保護こそが国際社会の努力が向けられるべき主要な問題だ」と述べた。
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『スィヤーサ』(11月11日付)は、ムーサ・ムスリム在クウェート・シリア領事がクウェート国内の商況機関などを秘密裏に訪問し、反体制的な立場の駐シリア人を監視していると報じた。
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『フィナンシャル・タイムズ』(11月11日付)は、シリア政府がロイヤル・ダッチ・シェル社とフランス石油(TOTAL)に対して、国内で生産された石油の代金の支払いを停止したと報じた。
反体制デモ
各地で金曜日の礼拝後に反体制デモが発生し、治安部隊が弾圧、複数の活動家・目撃者によると19人が殺害された。
また反体制活動家は、ヒムス県、ダルアー県、ダマスカス郊外県、ダイル・ザウル県などでゼネストを行う商店に軍・治安部隊が発砲したと述べたが、祭日にあたる金曜日のシリアではほとんどの商店は閉店している。
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ヒムス県では、国内調整諸委員会など複数の活動家によると、ヒムス市バイヤーダ地区で軍・治安部隊が迫撃砲などを発射し、激しい爆発音が聞こえた。
シリア革命総合委員会によると、治安部隊はまた、大規模な逮捕・追跡・掃討活動を行い、バイヤーダ地区、カラム・ザイトゥーン地区、ナーズィヒーン地区などで多数が逮捕された。
またシリア人権監視団、国内調整諸委員会によると、ヒムス市ではインシャーアート地区、ハムラー地区、クスール地区、バーブ・ドゥライブ地区、ジュッブ・ジャンダリー地区、バーブ・スィバーア地区、同市郊外のフーラ地方など大規模な反体制デモが行われた。
しかしSANA(11月11日付)は、ヒムス市バイヤーダ地区で武装テロ集団が治安維持部隊に発砲し、2人が負傷したと報じた。
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イドリブ県では、シリア人権機構、シリア人権監視団によると、1人が治安部隊に射殺された。
またシリア人権監視団によると、イドリブ市で反体制デモが発生し、治安部隊に強制排除された。このほか、活動家によると、カフルルーマー村でも治安部隊が市民に発砲した。
しかしSANA(11月11日付)は、マアッラト・ヌウマーン市近郊のハーッス村で治安部隊が武装テロ集団が戦闘し、後者の戦闘員を多数逮捕、逮捕したと報じた。また同地方マアッルディブサ村で市民が1人武装テロ集団に殺害された。
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ダマスカス県では、複数の活動家によると、カダム区などに治安部隊が展開し、デモ発生に警戒し、約20人を逮捕した。
複数の活動家によると、マイダーン地区、ザーヒラ地区、バルザ区でデモが発生した。
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ダマスカス郊外県では、複数の活動家によると、サクバー市でデモ発生を阻止するため、治安部隊がモスクに突入した。
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ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団によると、ダイル・ザウル市で反体制デモが発生し、治安部隊に強制排除された。
またシリア革命総合委員会によると、ダイル・ザウル市、ブーカマール市でのデモに対する治安部隊の弾圧で、複数が死傷した。
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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、ジャースィム市で反体制デモが発生し、治安部隊に強制排除された。
またダルアー市のアマル病院、ウマリー・モスク周辺で激しい戦闘があり、市民が多数逮捕された。このほかヒルバト・ガザーラ町でも治安当局により市民が逮捕された。
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ラタキア県では、シリア革命総合委員会によると、ジャブラ市でのデモに対する治安部隊の弾圧で、複数が死傷した。
またラタキア市のオガレット広場でもデモが発生し、治安部隊が強制排除した。
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ハサカ県では『クッルナー・シュラカー』(11月11日付)は、カーミシュリー市、アームーダ市、ダルバースィーヤ市、ラアス・アイン市、ダイリーク市で大規模な反体制デモが行われた。
このデモはクルド人青年、調整組織、シリア・クルド・イェキーティー党(ハサン・サーリフ)、シリア・クルド民主党(ムハンマド・イスマーイール)などが呼びかけ、約15,000人が参加した。しかしクルド民族主義政党の一部はデモへの参加と協力を拒否した。
また『クッルナー・シュラカー』(11月11日付)によると、カーミシュリー市のアッシリア教徒青年は反体制デモに参加した。
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SANA(11月11日付)は、ハマー県ムハルダ市近くで武装テロ集団が市民を襲撃し、女性1人を含む3人が殺害されたと報じた。またダイル・ザウル市、ダマスカス郊外県、ダルアー県、ハマー県などで時限爆弾が発見され、爆弾処理班が解除したと報じた。
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フェイスブックの「シリア革命2011」などでは、「加盟資格停止の金曜日」と銘打って反体制デモが呼びかけられていた。
反体制勢力の動き
シリア国民評議会のブルハーン・ガルユーン事務局長は、イタリアのローマで開かれた民主主義と未来」大会で、アラブ諸国に対して、駐シリア大使の召還を呼びかけた。
シリア国家建設潮流はカイロで記者会見を開き、アラブ連盟のアラビー事務総長との会談で国内の反体制勢力使節団が提示した書簡の内容を明らかにした。
同声明によると、使節団はアラブ連盟のワーキングペーパーの実施状況をフォローアップするための常駐事務所のダマスカスでの設置などを求めた。
全文はhttp://all4syria.info/web/archives/36056を参照。
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国内の反体制勢力使節団に参加した国民民主諸勢力国民調整委員会メンバーのサミール・イータ氏(『ルモンド・ディプロマティーク』アラビア語版編集長)は『ラアユ』(11月11日付)に対して、アラブ連盟のアラビー事務総長との内容を明らかにした。
同報道によると、使節団は会談で、シリア情勢を監視するための人権メディア委員会の設置などが話し合われた。
またイータ氏によると、国民調整委員会は、アサド政権との対話を拒否しており、またシリア国民評議会との意見の相違が、「バッシャール・アサド退任の方法をめぐる」ものだとしたうえで、シリアのアラブ連盟加盟資格の停止に疑義を呈した。
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自由シリア軍をトルコで指導するリヤード・アスアド大佐はBBC(11月10日付)のインタビューに応え、自身がトルコで避難しているにもかかわらず、外国からの支援は受けていないと述べた。
同大佐によると、自由シリア軍は士官約100人を含む15,000人の兵士からなっており、そのほとんどがトルコ国境で活動し、作戦はインターネットや衛星電話を通じて調整されている、という。
また「シリア革命の軍事化」に拒否の姿勢を示し、自由シリア軍が現在までのところ、民間人の義勇兵としての参加を拒んでいるが、近い将来、民間人を受け入れる可能性を否定していないと述べた。
またアスアド大佐は『ミッリーイェト』(11月11日付)のインタビューに応え、22の「師団」がアサド政権と戦っており、彼らは国内で武器を入手したと述べた。
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シリア国民評議会執行部メンバーのサミール・ナッシャール氏(イスラーム民主無所属潮流)とファールーク・タイフール氏(シリア・ムスリム同胞団)は自由シリア軍司令官でトルコに避難中のリヤード・アスアド大尉と会談した。シリア国民評議会事務局情報課のリーマー・フライハーン氏が声明で明らかにした。
会談において、ナッシャール氏らは、デモ参加者への発砲を拒否し離反した自由シリア軍の立場を支持、両者の政治的立場の統一や支援にシリア国民評議会に関心を示している旨伝えた。一方、自由シリア軍は、シリア国民評議会の政治的なビジョンに従うことを表明した。
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ハーフィズ・アサド前政権時代に閣僚を務めた経験を持つアスアド・ムスタファー元ハマー県知事は、アラビーアのインタビューに応え、「バッシャール・アサド大統領は政権に就いて以来、何らの約束も履行しておらず、改革を求める人々に背いてきた」と批判した。
そのうえでムスタファー氏は、「国民は政権交代、自由の保障、民主主義的雰囲気、立憲議会を心から欲している」と述べ、アサド大統領に退任を求めた。
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クウェートの『ワタン』紙はタイイブ・ティーズィーニー氏(社会学者)がインタビュー(電話取材)で、「シリアの衰退を回避して救済し、外国の干渉や外国による解体を免れるため、シリアの体制には去り、改革を主唱するそれ以外の者にチャンスを与える以外にない」と述べたと報じた。
また「戦車、迫撃砲による砲撃が続くなかで体制と交渉・対話はできない。すべてを所有し、すべてにおいて腐敗した者がいるため、改革の前に道は閉ざされている」と政権を厳しく批判した。
国内で活動してきたティーズィーニー氏がアサド政権の退任を主張するのはこれが初めて。
諸外国の動き
ヒューマン・ライツ・ウォッチはヒムスでの弾圧に関して報告書を発表し、「人道に対する罪」が行われていると非難した。
http://www.hrw.org/news/2011/11/11/syria-crimes-against-humanity-homs
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『ナハール』(11月11日付)は、米国財務省のダニエル・グラザー財務次官補がナジーブ・ミーカーティー首相、リヤード・サラーマ・レバノン中央銀行総裁らと会談し、シリアとの送金に関する技術的な問題に関して意見が交換され、レバノンの「銀行セクターがいかなる制裁の対象ともならない」ことが確認されたと報じた。
しかし『リワー』(11月11日付)は、ミーカーティー首相、サラーマ総裁らとの会談で、「シリアへの送金がレバノンを通じて行われたら、国際社会はレバノン中央銀行への直接的制裁に躊躇しないだろう」と圧力をかけたと報じた。
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『サフィール』(11月11日付)は、レバノンのナビーフ・ビッリー国民議会議長が「レバノンは(シリアでの)改革実施を支持している。(シリア)政府は改革を実施せねばならない。ゆえにいかなる否定的な要因をも排除して、改革を行わせるための機会が与えられねばならない」と述べ、12日のカイロでのアラブ連盟外相会議でアサド政権に圧力をかけるようないかなる決定にも反対する意思を示した。
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レバノンの地元消息筋によると、シリア・レバノン国境(北部県アッカール郡にシリア軍が敷設した地雷で、レバノン人1人(イマード・ハーリド・ウワイシー氏)が負傷した。
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『ナハール』(11月11日付)は、レバノン軍高官筋が、レバノン国内でシリアの反体制活動家が誘拐されたことはないと述べたと報じた。
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イタリアの通信監視会社Area SpA社のアンドレア・フォルマンティCEO会長は、数ヶ月前から同社職員が現在シリアに駐在しておらず、シリアとの契約解消を検討していると述べた。
同社は、ブルームバーク(11月4日付)が、シリアのムハーバラートのため反体制運動を監視するためのシステムを導入したと報じていた。
Akhbar al-Sharq, November 11, 2011、AFP, November 11, 2011、Alarabia.net, November 11, 2011、BBC, November 11, 2011、The Financial Times, November 11, 2011、Kull-na Shuraka’, November 11, 2011, November 11, 2011、al-Hayat, November 12, 2011、al-Liwa’, November 11, 2011、al-Nahar, November 11, 2011、Naharnet.com, November 11, 2011、al-Ra’y, November 11, 2011、Reuters, November 11, 2011、al-Safīr, November 11, 2011、SANA, November 11, 2011、al-Siyasa, November 11, 2011、UPI, November 11, 2011、al-Watan (Kuwait), November 11, 2011などを参照。
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