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反体制勢力の動き
反体制活動家ルワイユ・フサイン氏は10日のブサイナ・シャアバーン大統領府政治情報補佐官との会談に関して、AFP(5月13日付)に「シャアバーン報道官は…アサド大統領がデモ参加者に発砲しないよう断固たる命令を出し…、発砲した者がその行為を処罰されるだろうと述べた」ことを明らかにした。
フサイン氏によると、シャアバーン報道官との会談は、「国民対話ではなく、意見交換のための会合」であり、「治安的解決から政治的解決への移行方法が取り上げられ、街の治安、暴力の停止に議題は集中した」という。
また「弾圧が行われているなか、そのことについて話す必要がなかったため、改革に話題はいたらなかった。また我々は街頭で政治活動する当事者ではないがゆえに、行動に訴えたり、街頭で平静を保ったりすることはできない」と付け加えた。
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反体制活動家のミシェル・キールー氏は、10日のブサイナ・シャアバーン大統領府政治情報補佐官との会談に関して、AKI(5月13日付)に「対話ではなく、単なる意見交換だった」としたうえで「すべての政治、経済、社会勢力が参加する国民対話大会」を呼びかけることが真の解決策につながる、との見方を示した。
シリア政府の動き
アドナーン・マフムード情報大臣は、軍がバーニヤース市および周辺地区から「段階的に撤退を開始」したと述べる一方、「治安、平静、安定の回復が確実となった」ダルアー市および同郊外からの軍の撤退を完了したと発表した。
また政府が「政治、社会、経済に関する包括的改革計画をシリア社会のために実行しようとしている」と述べ、「改革とともに治安と安定が不可欠」だと強調した。
そのうえで危機解決に向けて、「通日中に包括的国民対話」が行われると述べた。
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SANA(5月13日付)によると、ダルアー県での暴動弾圧時に「過激派テロ集団」に殺害された軍兵士の葬儀がダマスカス県のティシュリーン軍事病院で行われた。
国内の暴力
『ハヤート』(5月14日付)によると、インターネットなどで「シリア女性解放者の金曜日」と銘打った反体制デモの実施が呼びかけられ、各地で平和的な抗議デモが発生、軍・治安機関の発砲により、ヒムス市で2人が、ダマスカス県で3人が死亡した。
反体制デモが起きたのは、ダマスカス郊外県のドゥーマー市、カタナー市、ダーライヤー市、サクバー市、タッル市、ハサカ県のダルバースィーヤ市、アームーダー市、ラッカ県のタブカ市、ダイル・ザウル県のブーカマール市、マヤーディーン市、ヒムス県ヒムス市、ハマー県ハマー市など。
軍・治安部隊は各都市で街区を完全に封鎖、検問所を設置して、デモを阻止しようとしたが失敗した。
『ハヤート』(5月15日付)は、13日の反体制デモに関して、西欧の外交筋が「発砲は(これまでに比べて)少なかった…。国際社会の圧力を受けて、アサド大統領が対応を変化させたことが窺い知れることができる」との評価を下したと報じた。
なお目撃者の一人がロイター通信(5月13日付)に述べたところによると、「数千人の市民がハマー市の広場で民主主義を求めるデモに参加するために集まった」。
これに関して、ザマーン・ワスル(5月13日付)は、ハマー市ではタキーヤ・モスク、マナーフ・モスク、アブー・バクル・モスク、シャルキー・モスク、ハミーディーヤ・モスク、カビール・モスク、サルジャーウィー・モスク、アブドゥッラー・マスウード・モスクなど10のモスク前で金曜礼拝後に反体制デモが行われたと報じた。
また、クッルナー・シュラカー(5月13日付)は、ハマー県サラミーヤ市で、サウラ通りに市民数百人が集まり、反体制デモを行ったと報じた。
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ダマスカス県では、シリア人権監視団ラーミー・アブドゥッラフマーン所長によると、バルザ区で、女性弁護士カーティリーン・タッリー氏が逮捕された。
レバノンの動き
ナハールネット(5月14日付)は、北部県アッカール郡ワーディー・ハーリド地方にシリア領内から負傷者4人を含む多数のシリア人が避難してきたと伝えた。
負傷したシリア人のうち2人は女性で、重傷を負っていた30代の男性はレバノン国内の病院に搬送後に死亡したという。
ヒムス県からの避難民の数は過去数週間で5,000人に達するという。
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AFP(5月13日付)によると、ヒムス市バーブ・スィバーア地区、タッルカラフ市などの住民約50世帯が、国境を越えてレバノンの北部県アッカール郡・ワーディー・ハーリド地方に避難した。
諸外国の動き
トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相は、米国のブルームバーグTV(5月13日付)とのインタビューで、アサド大統領を「友人」と評したうえで、シリアで抗議行動が発生する前に大統領に改革実施を忠告していたと述べた。
エルドアン首相は「(改革は)遅れた。(アサド大統領がこれまでと)同様の(改革)措置を実施し、国民と一つになることを望んでいる。なぜなら、シリアを訪れるたび、アサド大統領に対する国民の大いなる情熱を見てきたからだ」と述べた。
またアサド大統領が退任すべきかとの質問に対して、「決断するには時期尚早だ。なぜなら最終決定はシリア国民がするものだからだ…。シリアの統合と領土保全が維持されねばならない」と答えた。
また昨年、戒厳令解除、政治犯釈放、選挙制度改革、複数政党制などの必要性についてアサド大統領と「長時間にわたる対話を繰り返した」ことを明らかにした。
そのうえで「必要であれば、我々のもとに人を派遣して欲しい。そうすれば政党組織の方法と、国民とそれがどのように結びついているかを見せましょう」と私は彼に伝えた…。我々はこの問題で合意した。しかし事態は急転を遂げ、ドミノの影響がシリアにも波及した」と付け加えた。
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フランスのアラン・ジュペ外務大臣は『ハヤート』(5月13日付)のインタビューに応じ、「シリア政府は、政治方針を変えなければ、壁に突き当たるだろう」と述べた。
またジュペ外務大臣は、EUの制裁リストにアサド大統領が含まれなかったことに関して、「多くの同盟国が忍耐を示さねばならないと考えていたが…、これはフランスの立場ではない。なぜなら、我々は数百人が死亡した弾圧の責任が彼(アサド大統領)にあると考えているからだ」と強調した。
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米国務省高官は『ハヤート』(5月14日付)に、米国がアサド政権に「デモ参加者への発砲の即時停止、平和的デモの認可、逮捕の停止、政治犯の釈放、改革を求める国民の要求への対応、真の民主的変革の開始」を呼びかけていると述べた。
また米国が、現地での状況に応じてその立場を修正し続け、「野蛮で不正に満ちた弾圧を行うシリア指導部を制裁するため、国際社会と行動し続ける」との意思を示した。
さらに「確かなことが一つある。それはシリアでの事件はもとに戻すことができないということで、政治変動が生じているということである。民主主義、シリア国民の人権尊重へと至らねばならず、これこそが「シリア安定の唯一の方途だ」と強調した。
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英国外務省は声明を出し、「シリアの現下の情勢に対する英国の激しい懸念を表明するため、駐シリア大使を召還する」と発表、デモ弾圧が続く場合は、EUとともに「新たな制裁」を科すと警告した。
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ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣は、シリア国内での危機解決に向けた対話プロセスが進まないことに懸念を示す一方、「反体制勢力が外国勢力を呼び込み、支援を受けようとしている」と非難した。
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国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)報道官は、2011年3月半ばに始まったシリア国内でのデモに伴う混乱により、この2ヶ月で約850人が死亡し、デモ参加者数千人が逮捕されたとの試算を発表した。
報道官はそのうえで、シリア政府に対して自制と暴力停止を呼びかけた。
ロイター通信(5月13日付)が伝えた。
AFP, May 13, 2011, May 14, 2011、Akhbar al-Sharq, May 13, 2011、AKI, May 13, 2011、AP, May 13, 2011、al-Hayat, May 14, 2011 , May 15, 2011、Kull-na Shuraka’, May 13, 2011、Naharnet, May 13, 2011、Reuters, May 13, 2011、SANA, May 13, 2011、Zaman al-Wasl, May 13, 2011などをもとに作成。
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