トルコで「シリア変革大会」が閉幕、米国務長官によるとアサド大統領の正統性は「消滅してはいないが、ほぼ失われた」(2011年6月2日)

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反体制勢力の動き

トルコのアンタルヤ市で開催されていたシリア反体制勢力の大会(シリア変革大会)が声明(閉幕声明)を発表し、閉幕した。

閉幕声明では、アサド大統領の「即時退任」と「副大統領への権限移譲」を求め、体制打倒への決意が改めて表明された。

しかし、『ハヤート』(6月3日付)によると、大会閉幕声明発表直前まで、出席者は激しい議論を交わし、日程が遅れ、執行委員会、監視委員会の選挙が先送りになるかに思われた。

この対立は閉幕声明に盛り込む政治的課題をめぐるもので、一部の出席者は抗議行動のみに重点を置こうとしたのに対し、他の出席者は、体制打倒に向けた「移行期」の準備を進めることを主張したという。

さらにこれ以外にも、「過渡期」だけでなく「新国家の形態」についてのヴィジョンを示すべきだと主張する出席者もいたという。

また、大会出席者は、政教分離の是非をめぐっても対立したという。

最終的に、閉幕声明では「憲法作成のための暫定会議の選出したうえで、国会、大統領選挙を大統領辞任から1年以来に実施する」と呼びかけることを確認、「目的実現まで我らが国民の革命を支援し続け、領土の統一性の維持、外国の介入拒否という国民的な基軸を誇示し、革命が特定の集団に利用されるものではないことを強調する」との姿勢を打ち出した。

また「シリア国民はアラブ人、クルド人、アッシリア人、チェルケス人、アルメニア人などさまざまな民族からなっており、シリアの新憲法ではこれらの集団すべての法的且つ対等な権利を保障することを確認する」と明言し、「多元的議会制に基づく文民国家」を呼びかけただ、政教分離問題に関しての言及は避けられた。

なお閉幕声明発表直後、出席者は31人からなる「国民委員会」を選出した。

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AFP(6月2日付)によると、トルコのアンタルヤ市での「シリア変革大会」に参加していた一部反体制活動からが、新たな反体制組織「世俗主義勢力連立」を結成した。

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シリアで抗議行動を行う活動家らは、「自由な子供たちの金曜日」と名づけた新たなデモを6月3日に実施するよう呼びかけ、ハムザ・ハティーブくん(13歳)など抗議行動で犠牲となった子供たちを抗議行動の象徴に掲げた。

ハムザくんは反体制勢力によると「拷問で死亡した」とされ、UNICEFによると、抗議行動開始以来治安部隊の手によって30人の子供が殺害されたという。

抗議行動を呼びかけるフェイスブック上の最大ページ「バッシャール・アサドに対するシリア革命2011」には「貴方たちの罪のない血と澄んだ魂のため、我々の革命は、体制を打倒するまで続く、“自由な子供たちの金曜日”も」と記された。

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シリア人権監視団は、シリア当局が5月31日の大統領恩赦に従い、政治犯数百人を釈放したと発表した。

釈放された政治犯のうち約50人がタルトゥース県バーニヤース市出身者で、ダマスカス県、ダマスカス郊外県、ヒムス県、ラタキア県、ダルアー県の政治犯も釈放されたという。

また釈放された政治犯のなかには、シリア・クルド・ムスタクバル潮流のミシュアル・タンムー氏、のマフナド・フスニー弁護士、詩人のアリー・バルバーク氏(76歳)が含まれているという。

シリア政府の動き

信頼できる複数の消息筋が『ハヤート』(6月3日付)に述べたところによると、アサド大統領が設置した「国民対話委員会」が第1回会合を開き、対話の仕組みや形式に関して議論した。

議長はファールーク・シャルア副大統領が務めた。

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シリア・アラブ・テレビ(6月2日付)は、ヒムス市で破壊活動を行ったとする犯罪集団メンバーの証言映像を放映した。

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SANA(6月2日付)によると、トルコのアンタルア市で、反体制活動家による「シリア変革大会」の会場前で、ラタキア県殉教者バースィル・アサド国際空港から現地入りした若者約250人が抗議の座り込みを行った。

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SANA(6月2日付)によると、6月1日にヒムス県ラスタン市で武装テロ集団に殺害された兵士4人の葬儀が、ヒムス軍事病院で行われた。

国内の暴力

ヒムス県では、『ハヤート』(6月3日付)によると、ラスタン市で市民15人以上が殺害された。

諸外国の動き

ヒラリー・クリントン米国務長官はチェコのカレル・シュワルツェンベルグ外相との会談後の記者会見で、「アサド政権の変革を期待するあらゆる人にとって、正統性は重要で不可欠な問題」としたうえで、この正統性が「消滅してはいないが、ほぼ失われた」と述べた。

クリントン国務長官はまた「アサドが改革を指導しない場合、去らねばならない」と明言し、「どこに?それは彼の問題だ」と付言した。

一方、シリア問題に関する決議案をめぐって国連安保理内で対立があると指摘し、「国際世論は現在一つではない…。我々は安保理の一部のメンバーと合意に達していない」と述べ、ロシアと中国との意見の不一致を示唆した。

そのうえで「我々の考え方に彼らを近づけようとしており、彼らが自分で決めねばならない…。我々は歴史の正しい側に身を置くべきだと考えている」と付け加えた。

さらに「もっとも強い調子で、(シリアの当局に対して)明確な行動をとるよう呼びかけ続ける。それは恩赦の宣言に限定されるものではなく、政治犯の釈放、恣意的逮捕の停止、人権監視団の(シリアへの)入国である」と国際社会に訴えた。

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ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣は、国際社会において「シリア体制転換を促そうとする試み」があると非難した。

インテルファクス通信(6月2日付)によると、ラブロフ外相は「国際社会は状況全体に目を向けねばならず、シリアの体制転換を求める動きを許すべきでない…。このような試みは現に存在し、我々はそれが停止されねばならないと考えている」と述べた。

また「シリアの体制だけでなく、反体制勢力にも自制を求めねばならない。なぜなら反体制勢力の武装集団も激しい暴力に訴えているからだ…。シリアは地域の軸となる国家で、その安定を揺るがそうとする試みは、悲惨な結果をもたらすだろう」と続けた。

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トルコのアフメト・ダウトオール外務大臣は、アサド大統領による恩赦(5月31日)に歓迎の意を示しつつ、「包括的改革」を行うよう呼びかけた。

AFP, June 2, 2011、Akhbar al-Sharq, June 2, 2011、al-Hayat, June 3, 2011、Kull-na Shuraka’, June 2, 2011、Naharnet, June 2, 2011、Reuters,
June 2, 2011、SANA, June 2, 2011などをもとに作成。

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