ナスルッラー書記長が3年超ぶりに大衆の前に姿を現しアサド政権への支持を改めて表明、シリア国民評議会のメンバーらがジュネーブでクリントン米国務長官と会談しポスト・アサド体制について議論(2011年12月6日)

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ヒズブッラー書記長の演説

ヒズブッラーのハサン・ナスルッラー書記長がアーシューラーを記念してベイルート郊外(ダーヒヤ)に姿を現し、支持者らの前で演説、アサド政権への支持を改めて表明、シリアの反体制勢力を非難した。

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ナスルッラー書記長が大衆の前に姿を現すのは、2008年7月以来初めてで、会場には数十万人が集まった。

演説で、ナスルッラー書記長はシリア情勢に関して以下のように述べた。

「我々の立場は当初から明確だ。我々はシリア政府が同意し、シリア国民が主唱している改革を支持している…。また我々はレジスタンスを行い…、レジスタンス運動を支援してきた国家を支持する…。しかしシリアで改革、安全、治安、対話、国民の平和を望まず、破壊を望んでいいる者がいる…。イスタンブールで結成され、一部の西側・アラブ諸国が支持するシリア国民評議会は、米国とイスラエルへの信任状を提示した…。シリアにおいて(反体制勢力によって)求められているのは、改革、汚職撲滅、多元主義などではない。裏切りと屈服の体制だ…」。

http://www.youtube.com/watch?v=l30bz-9R-48

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反体制(武装)闘争

イドリブ県では、SANA(12月6日付)によると、アイン・バイダー村のシリア・トルコ国境地域において、トルコ側から武装テロ集団約35人が潜入を試み、国境警備隊が交戦の末にこれを阻止した。

同報道によると、この交戦によって、武装テロ集団メンバー多数が負傷し、一部はトルコ側に逃げ去った。

また逃げ去ったトルコ領内では、逃げ帰った負傷者らを搬送する車の音が聞こえた、という。国境警備隊側に死傷者はなかった。

しかし、トルコ外務省は、シリア側のこの報道を否定した。

またシリア革命総合委員会によると、県内で1人が治安部隊によって殺害された。

このほか、複数の活動家によると、カフルタハーリーム村に、17台の軍車輌が侵入し、弾圧を行った。

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ヒムス県では、シリア革命総合委員会によると、ヒムス市で21人が治安部隊によって殺害された。

複数の活動家によると、ヒムス市ダイル・バアルバ地区では、12回にわたった爆発音が聞こえ、激しい銃声が鳴り響いた。

一方、シリア人権監視団によると、ヒムス市ズハラー地区でシャッビーハに誘拐されたとされる市民34人の遺体が発見された。ズハラー地区はアサド政権支持者が多く住む地区。

これに対し、SANA(12月6日付)は、武装テロ集団が、空軍パイロットのクサイ・ハーミド・ムスタファー大佐をヒムス市マサーキン・ミスファー地区にある自宅前で襲撃、暗殺したと報じた。

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ダルアー県では、シリア人権監視団と地元調整諸委員会によると、ダーイル町で離反兵と軍が激しい交戦を行う一方、治安部隊が同市周辺地域で大規模な逮捕・追跡活動を行った。

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ハマー県では、シリア革命総合委員会によると、1人が治安部隊によって殺害された。

一方、SANA(12月6日付)によると、ハマー県郊外で、武装テロ集団が、教員2人を誘拐、殺害した。

またこのほかにも市民3人を惨殺したという。

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ダマスカス郊外県では、複数の活動家によると、ハラスター市で共和国護衛隊に援護された治安部隊が逮捕・追跡活動を行った。

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アレッポ県では、シリア・クルド青年調整連合アレッポ調整委員会は声明を出し、アレッポ大学経済学部前で学生が反体制デモを行ったと発表した。

しかしまもなく治安部隊が排除し、学生数十人を逮捕したという。

反体制勢力の動き

シリア国民評議会のブルハーン・ガルユーン事務局長はパリでCNN(12月6日付)のインタビューに応え、イランがシリア国民の弾圧に「荷担している」と非難し、アサド政権支持を止めるよう求め、「これが、シリア・イラン関係に関して我々が望んでいない結末を回避する最後のチャンスだ」と警告した。

ガルユーン事務局長はまた、レバノンのヒズブッラーに関して「シリア国民は、ヒズブッラーを完全に支持していた。しかし今日、国民はヒズブッラーがこの善意に答えず、自由のためのシリア国民の闘争を支持していないことに驚いている」と述べた。

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シリア国民評議会メンバー7人からなる使節団がヒラリー・クリントン米国務長官とジュネーブで会談した。

使節団は、ブルハーン・ガルユーン事務局長、バスマ・カドマーニー報道官、ハイサム・マーリフ弁護士ら。

会談でクリントン米国務長官は、「体制打倒以上の内容の民主的平和的プロセス」を保障し、ポスト・アサド体制において、「法による支配、人権尊重を宗派、人種を問わず保障する」ことを反体制勢力に求めた。

シリア国民評議会のナジーブ・ガドバーン氏(在米)は、ヒラリー・クリントン米国務長官との会談で、評議会の使節団が、「ボスニア紛争時のようにシリアの民間人を保護するための回廊の設置を求めた」と述べたうえで、同回廊の設置が「ある種の航空禁止空域の設定」をもって始動するべきだとの考え方を示した。

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その後、シリア国民評議会の使節団(ガルユーン事務局長ら)はアルジェリアへと発った。

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シリア国民評議会のバスマ・カドマーニー報道官は、評議会のメンバーがEU議会でのシリア情勢に関するシンポジウムで、300万人の生活必需品が不足しているとしたうえで、事態が「急速に悪化し、深刻な人道的危機に達しつつある」と窮状を訴えたと述べた。

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トルコのアンタリアを拠点とするシリア変革大会のアンマール・カルビー事務局長とウマル・ミクダード氏は、アンカラのドイツ大使館の招きで西側諸国10カ国の代表と会談した。

カルビー事務局長はこの会談で、アサド政権打倒や反体制勢力統合の必要を訴えた。

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12月6日、英国のスカイ・ニュースがヒムス県への潜入ルポを放映した。

http://www.youtube.com/watch?v=j4OtU7ZqaFs&feature=player_embedded

http://www.youtube.com/watch?v=j4OtU7ZqaFs&feature=player_embedded

アサド政権の動き

AFP(12月6日付)は、ABCがアサド大統領に単独インタビューを行ったと報じた。西側のテレビ局が大統領にインタビューするのは3月以降で初めて。12月7日に放映予定。

諸外国の動き

イスラエルのエフド・バラク国防大臣は、占領地ゴラン高原での軍事演習後に、アサド政権の崩壊は「数週間ないしは数ヶ月」という時間の問題だと述べた。国防相が明らかにした。

またアサド政権が崩壊し、シリアの反体制勢力が先進兵器を接収しないよう、ヒズブッラーがこれらの兵器をシリアから持ち出そうとしていると警鐘をならした。

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『サバフ』(12月6日付)は、トルコがシリアに対シリア経済制裁と合わせて、シリアの諜報機関との協力を停止したと報じた。

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ヨルダンのナースィル・ジャウダ外務大臣は、ヨルダン上院外交委員会で、シリア情勢に関して「アラブの家の枠組みのなかでシリア情勢を解決する」ことを支持すると述べ、西側諸国や国連の介入に消極的な意思を示した。

またアラブ連盟の対シリア経済制裁に関しては、「ヨルダンにはシリアと経済的な利益をともにし、国境、水をめぐる問題を共有し、シリアには多くのヨルダン人学生がいる。それゆえ、経済制裁に関する例外を近隣諸国に設けるよう求めた」と述べた。

ヨルダン公式筋によると、ヨルダン政府は、対シリア経済制裁の被害を抑えることを任務とした経済セクター最高委員会を設置した。

一方、信頼できる消息筋が『ハヤート』(12月7日付)に述べたところによると、ヨルダンの銀行は、連盟の制裁発動前にシリア中央銀行やシリア商業銀行との取引を停止していたという。

これは西側諸国などがすでに科している対シリア経済制裁の被害が及ぶことを回避するための措置だとのこと。

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米高官は、10月下旬にシリアから「避難していた」ロバート・フォード米大使が12月7日にダマスカスに戻ることを明らかにした。

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『ハヤート』(12月7日付)は、アラブ連盟のアフマド・ベン・ヒッリー事務副長の話として、ナビール・アラビー事務総長がシリア政府からの議定書調印に関するメッセージへの対応として、事務局長による回答、緊急外相会議の会合という二つの選択肢があり得ると報じた。

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ロシアのミハイル・ボグダノフ外務次官は、イタル・タス通信(12月6日付)に対して、ロシアがシリアに監視団を派遣する準備があることを明らかにした。

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フランスの石油会社Total社は、EUによる対シリア追加制裁に応じるかたちで、「授業員の安全を何よりも確保するため」、ダイル・ザウル県でのガス開発計画など、シリア国内での操業を停止したと発表した。

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アルジェリアのムラード・マドリスィー外務大臣は、フランス議会で演説し、シリア情勢に関して内戦突入への懸念を表明し、アラブ連盟イニシアチブに「完全なる機会」を与えるべきだとしたうえで、「我々はシリア政府に対して圧力をかける一方で、反体制勢力に対話にふさわしい状況を準備するよう話している」と述べた。

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『タイムズ』(12月6日付)は、複数のパレスチナ高官の話として、ハマースがダマスカスから事務所やメンバーを退避させようとしていると報じる。

同報道によると、この動きは、ハマースがアサド政権への支持を控えるようになったことをうけたもので、これと関連してイランがハマースへの資金供与を停止すると脅迫している、という。

AFP, December 6, 2011、Akhbar al-Sharq, December 6, 2011, December 8, 2011、al-Hayat, December 7, 2011、Kull-na Shuraka’, December 7, 2011、Naharnet.com, December 6 ,2011、Reuters, December 6, 2011、SANA, December 6 ,2011、al-Shuruq, December 6, 2011、The Times, December 6, 2011、Youtubeなどをもとに作成。

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