アラブ連盟事務総長がアラブ監視団派遣に関する議定書をシリアが「条件付きで受諾」したと述べる一方、アサド政権は12月12日に控える統一地方選挙への各県ごとの立候補者数を公表(2011年12月5日)

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アラブ連盟をめぐる動き

アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長は12月4日(日曜日)にワリード・ムアッリム外務大臣から受け取ったメッセージに関して、「これまで聞いたことのない新たなことが含まれている」と述べ、シリア側がアラブ監視団派遣に関する議定書を条件付きで受諾する意思を示したことを明らかにした。

アラビー事務総長はこの「条件」に関してアラブ諸国の外務大臣と検討中で、現在まだのところ結論には達してないとしつつ、対シリア経済制裁に関しては、10月27日の決議で発動が決定済みで、その解除には新たな決議を採択する必要があると述べた。

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シリアのジハード・マクディスィー外務省報道官は、ムアッリム外務大臣のメッセージに関して、「条件」を示したのではないとしたうえで、シリア側の理解に基づきアラブ連盟の行程表に協力する意思を改めて明らかにした。

SANA, December 5, 2011

SANA, December 5, 2011

マクディスィー外務省報道官は「条件とは協力の構造や本質が変わったときに示されるべきものだが、シリアが提示したものはその構造、本質のいずれにも抵触していない」と述べた。

なお『ハヤート』(12月6日付)によると、ムアッリム外務大臣が12月4日にアラビー事務総長に伝えたメッセージは、①議定書の署名をカイロの連盟本部でなく、ダマスカスで行う、②シリアの内政問題への外国の介入拒否という姿勢を議定書案と不可分なものとする、③シリアの加盟資格停止など、シリアの代表不在のなかで採決された決議・決定を破棄する、④合意内容を文書化する、といった内容が含まれている。

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ヨルダン外務省のムハンマド・カーイド報道官は、アラブ連盟の対シリア経済制裁に関して、同国が通商部門、航空機乗り入れを制裁対象から除外することを求めたと述べた。

ヨルダンの公式統計によると、2000年以来、ヨルダンはシリアに対して1,400,000ディーナール(2,000,000,000ドル相当)を輸出、シリアからは35,000,000,000ディーナール(5,000,000,000ドル相当)を輸入しており、サーミー・カムーフ産業通商大臣によると、ヨルダンの貿易収支の60%をシリアに依存している。

アサド政権の動き

『クッルナー・シュラカー』(12月5日付)は、統一地方選挙に関して、12月12日の投票日を1週間後に控えているにもかかわらず、各地での選挙運動はほとんど行われていないと報じた。

同報道によると、ダマスカス県で選挙運動を行っているのは、ハイサム・アブー・ハルブ氏(第4区)、シリア共産党バクダーシュ派のジュムア・ミッリー氏(第3区)だけだという。

また一部の県では反体制(武装)運動により選挙そのものも実施できないという。

なおSANA(12月5日付)が発表した各県の立候補者数は以下の通り:

立候補者総数:42,889人
ダマスカス県数1,926人
ダマスカス郊外県:4,146人
ヒムス県:3,655人
アレッポ県:7,850人
ラタキア県:3,083人
タルトゥース県:3,040人
イドリブ県:2,706人
ダイル・ザウル県:3,245人
ハマー県:1,921人
ラッカ県:2,473人
ハサカ県:4,353人
ダルアー県:2,127人
スワイダー県:1,603人
クナイトラ県:828人

また選挙区総数は1,335(153市、501村、681自治体)。

一方、内務省のハサン・ジャラール民事担当次官は、ハサカ県の外国人(クルド人)に対して、同県などで身分証明書取得申請を済ませ、統一地方選挙の投票登録を行うよう呼びかけた。

シリア商業銀行は、シリア・ポンドの為替レートを1米ドル=54シリア・ポンドに引き下げると発表した。

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SANA(12月5日付)は、ヒムス県東部のラカーマー村および同村周辺の住民が外国の介入拒否、アサド政権の改革支持を訴えるデモ行進を行ったと報じた。

SANA, December 5, 2011

SANA, December 5, 2011

反体制(武装)闘争をめぐる動き

シリア人権擁護連盟は、治安当局がシリア軍の士官・兵士64人を逮捕し、サイドナーヤー軍事刑務所(ダマスカス郊外県)に収監したと発表し、その氏名を公開した。

逮捕者の内訳は、大佐2人、中佐2人、少佐3人、大尉7人、中尉18人、少尉12人、軍曹4人、兵卒16人。

また同連盟は、11月初めにタドムル軍事刑務所(ヒムス県)に収監されていた逮捕者に対して「体系的な集団粛清」が行われたと発表した。

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シリア人権監視団などは、アサド政権による反体制運動弾圧に関して、以下の通り発表した。

ヒムス県:ヒムス市のダイル・バアルバ地区で、犠牲者の葬儀に参列していた会葬者に対して、治安部隊が発砲、市民4人が殺害され、5人が負傷した。また市内の国立病院近くで治安部隊の発砲により市民1人が殺害された。

ダルアー県:ダーイル町で離反兵が、中尉1人、警官1人を含む3人の軍・治安部隊要員を殺害した。また学生30人が逮捕された。

ダマスカス郊外県:ハラスター市での反体制デモに参加した学生10人が治安機関に逮捕された。反体制派の学生は親体制派の学生や治安当局の嫌がらせを受けているという。

ラタキア県:ジャブラ市でアサド大統領を侮辱したとされる高校生8人が逮捕された。またラタキア市のティシュリーン大学の学生60人が退学となった。

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一方、SANA(12月5日付)は以下の通り報じた。

ヒムス県:ヒムス市ハーリディーヤ地区で、治安維持部隊が武装テロ集団メンバー3人を殺害し、7人を負傷させ逮捕。市内の国立病院に向けて武装テロ集団が発砲する一方、農業局職員を乗せたバスを襲撃。ラスタン市で指名手配者8人を逮捕し、武器を押収。フーラ地方で1人を殺害。

イドリブ県:ザーウィヤ山でテロリスト11人を逮捕。

ラタキア県:ラタキア市スライバ地区で爆発物処理班が武装テロ集団のしかけた爆弾を撤去。

反体制勢力の動き

『クッルナー・シュラカー』(12月5日付)は、トルコ政府がシリア国民評議会や自由シリア軍への支援を強めるなかで、PKK系のクルド民族主義反体制組織である民主統一党が、アサド政権の打倒をめざす反体制勢力支持と、アサド政権支持という二つの路線に備えて準備を始めた、と報じた。

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シリア国民評議会は声明を出し、国内各地の調整委員会などが12月11日からの開始を呼びかけているゼネストに関して、シリア国民に対して参加を呼びかけた。

なお12月12日は統一地方選挙投票日。

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『クッルナー・シュラカー』(12月5日付)は、「シャッビーハ」がダルアー県選出の者フィーク・ハリーリー人民議会の息子を誘拐し、身代金500,000ドルを要求したと報じた。

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シリア情報表現の自由センターは、映画監督のフィラース・ファイヤード氏が、11月30日から12月1日にかけて、訪問中のUAE(ドバイ)からシリアに空路で帰国する途中失踪した、と発表した。

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国連の潘基文事務総長は、クナイトラ県ゴラン高原のUNDOF展開地域内の村々で反体制デモが発生していることを明らかにした。

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『シュルーク』(12月5日付)は、シリア・ムスリム同胞団のズハイル・サリーム報道官に対するインタビュー記事を掲載した。

同記事によると、サリーム報道官は「大国は、ゴラン高原における対イスラエル国境を保護者である政権(アサド政権)に代わり得る体制を探せないでいる」と述べる一方、イランが、アサド政権延命のためにイラクのヌーリー・マーリキー内閣、サドル潮流、そしてレバノンのヒズブッラーとともに結んでいる「宗派主義的結束」は「役にたたない」との見方を示した。

諸外国の動き

ジョー・バイデン米副大統領は、滞在中のイスタンブールで記者団に対して、アサド政権の崩壊は必ずしも大規模な宗派紛争にはならないとの見方を示した。

またアサド政権崩壊後、シリアへの支援のありようを再検討する旨合意したが、具体的な内容については議論しなかったと述べた。

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フランスのエリック・シュヴァリエ在シリア大使は12月5日、ダマスカスに戻った。

AFP, December 5, 2011、Akhbar al-Sharq, December 5, 2011、al-Hayat, December 6, 2011, December 7, 2011、Kull-na Shuraka’, December 5, 2011、Reuters, December 5, 2011、SANA, December 5, 2011、al-Shuruq, December 5, 2011などをもとに作成。

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