PKKのオジャラン前党首がアサド政権に対し反体制運動弾圧を支援するため「1000人の戦闘員を派遣する」とのメッセージを送付したと報じられる(2011年12月10日)

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反体制運動掃討

シリア人権監視団によると、ヒムス県で民間人3人、ダルアー県(農村)で2人、イドリブ県(マアッラト・ヌウマーン市での葬儀)で4人が治安部隊の弾圧で殺害された。

またダマスカス郊外県のハラスター市では治安機関の拷問の末、市民3人(3週間前に逮捕されていた)が死亡した。

一方、ハマー県では、活動家によると、7人が負傷した。またシリア人権監視団によると、ダイル・ザウル県ハジーン市に武装部隊が突入し、13人を逮捕した。

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一方、SANA(12月10日付)は、イドリブ県マアッラ・ニウマーンの発電ユニット救急センターを武装テロ集団が襲撃したと報じた。

またSANA(12月11日付)は、イドリブ県のハーン・シャイフーン地方で、軍・治安部隊が武装テロ集団と交戦し、武装テロ集団指導者3人を殺害した。

さらにカフルタハーリーム町で軍・治安部隊が武装テロ集団と交戦し、武装テロ集団メンバー多数を殺害、逮捕、武器を押収したが、軍・治安部隊兵士1人が戦死、6人が負傷したと報じた。

一方、ジスル・シュグール地方のアリーハー市内の行動を武装テロ集団が封鎖しようとして、軍・治安部隊と交戦した。

これにより、武装テロ集団メンバー1人が死亡、複数が負傷、軍・治安部隊兵士も複数名が負傷した。

ヒムス県では、軍・治安部隊が武装テロ集団と交戦し、フーラ地方で誘拐されていた男女11人を釈放した。他方、ヒムス市で消火活動に向かっていた消防車が武装テロ集団に襲撃された。

ハマー県では、当局が指名手配中の武装テロ集団メンバーと交戦し、3人を殺害し、8人を逮捕した。

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NNA(12月10日付)は、10日未明にシリアからレバノン領内(北部県アッカール郡)に負傷して避難してきたシリア人女性が搬送先の病院で死亡した、と報じた。

諸外国の動き

『シャルク・アウサト』(12月10日付)は、トルコの複数の消息筋の話として、PKKのアブドゥッラー・オジャラン前党首(トルコで収監中)がシリア政府に宛てたメッセージをトルコの諜報機関が入手したと報じた。

同報道によると、このメッセージは「2週間前にクルド民族主義者の拠点の一つで押収された文書の一つ」、そのなかでオジャラン前党首は、アサド政権による反体制運動弾圧を支援するため1,000人の戦闘員を派遣すると記されているという。

なお複数のトルコ筋によると、PKKの現指導部メンバーのほとんどはシリア出身のクルド人であり、またイラク領内のキンディール山地にはシリア出身のクルド人戦闘員が多く潜伏し、同地からトルコに対する武装闘争を行っている、という。

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AFP(12月10日付)は、トルコのアンタキア市(シリア領アレキサンドレッタ地方)で暮らす住民の多くは、アサド政権の改革を支持していると報じた。

同市の住民の多くはアレヴィー派。

トルコ国内のアレヴィー派の数は推計で数十万人で、その多くがハタイ県(アレキサンドレッタ)のアンタキア市などに暮らしている。

ハタイ県(アレキサンドレッタ地方)は1930年代、当時シリアを委任統治していたフランスからトルコに割譲され、現地住民らによる激しい抵抗が行われた。

この運動を指導したザキー・アルスーズィー氏はその後、ダマスカスでアラブ・バアス党(現在のアラブ社会主義バアス党)を結成した。

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『ハヤート』(12月11日付)は、対シリア経済制裁を審議するためにカタールのドーハで開催予定だったアラブ連盟外相会議が延期となったと報じた。

延期の理由は、ナビール・アラビー事務総長からワリード・ムアッリム外務大臣へのメッセージの回答を待つため。

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潘基文国連事務総長はジャズィーラ(12月11日付)で、「アサド大統領はシリアの大統領として、現在起きていることすべてに対する責任を負っている。彼は、国民保護という重要な責任を果たさねばならない。改めて、国民殺戮を直ちに停止するよう求める」と述べた。

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フランスのベルナール・ヴァレロ報道官は、シリア情勢に関して「ヒムスに対する治安部隊の軍事攻撃準備に関する情報に深い懸念」を表明し、アサド政権による民間人弾圧を強く非難した。

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米国のヴィクトリア・ノーランド報道官は、ヒムスへの「攻撃が行われた場合、シリア政府は責任を免れない。アサド大統領は、行われるあらゆる殺戮作戦の責任者とみなされるだろう」と述べた。

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英国の中東担当大臣も同様の懸念を表明した。

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サウジアラビア滞在中のサアド・ハリーリー・レバノン前首相は、UNIFIL(フランス軍)の攻撃に関して、ツイッターで「バッシャールからの別のメッセージだ」と綴り、アサド政権の関与を疑った。

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米国務省のジェニファー・ラサミマナナ中東・北アフリカ局担当報道官は、反体制テレビ局のオリエント・ニュースのインタビュー(12月10日付)に応え、米国がシリア国民評議会をシリア国民の正当な代表として承認するだろうと述べた。

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アラブ議会連盟のアリー・サーリム・ディクバースィー議長はシリア情勢に関して「集団虐殺」が行われていると非難した。

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アサド大統領との単独インタビューを行ったABCの取材チームは、アサド政権が国内での自由な取材を約束したにもかかわらず、ダルアー県への訪問を「武装集団の攻撃の危険がある」との理由があるとして認めなかったことを明らかにした。

反体制勢力の動き

『クッルナー・シュラカー』(12月10日付)は、反体制運動弾圧で負傷した市民をヒムス市で治療してきたイブラーヒーム・ナーヒル・ウスマーン医師がトルコ国境で治安部隊によって殺害されたと報じた。

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シリア国民評議会のブルハーン・ガルユーン事務局長はオーストリア外相と会談した。

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シリア国民評議会メンバーでアラウィー派のムンズィル・マーフース氏は、シリア国内のアラウィー派の大多数は反政府だ、と断じた。

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3月15日革命殉教者委員会は、反体制運動弾圧で死亡した4,300人の氏名を公開した。

http://all4syria.info/web/wp-content/uploads/2011/12/Torture-Victims-in-Syria.xls

アサド政権の動き

『クッルナー・シュラカー』(12月10日付)は、統一地方選挙においてバアス党が作成した立候補者のリスト「国民統合リスト」に進歩国民戦線加盟政党のシリア共産党ユースフ・ファイサル派の立候補者が記載されていないと報じた。

ファイサル派排除の背景に関して、同報道は、反体制デモに同派の青年組織が参加しているためと報じ、メンバーの一人バッシャール・アフマド氏が8月1日に逮捕され、刑事裁判所ダマスカス第三法廷で裁判を受けていることを明らかにした。

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SANA, December 10, 2011

SANA, December 10, 2011

SANA(12月10日付)は、ダマスカス県のサブウ・バハラート広場で数千人の市民がロウソク集会を開き、軍・治安部隊の犠牲者を追悼したと報じた。

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SANA(12月10日付)は、タルトゥース県タルトゥース市で、青年らが組織する社会団体が、バアス党タルトゥース支部前に国内で2番目に大きい垂れ幕を掲揚し、会場に多くの支持者が集まったと報じた。

SANA, December 10, 2011

SANA, December 10, 2011

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『クッルナー・シュラカー』(12月10日付)は、国内の灯油、ガス供給状況に関してレポートした。

同レポートによると、灯油の価格は15シリア・ポンドから27シリア・ポンドに上昇しているという。

またプロパンガスは、反体制運動が行われている地域では、1ボンベあたり、270シリア・ポンドから1,000シリア・ポンドに上昇している。

しかし、共和国護衛隊隊員などが多く住む地域には十分な供給がなされているという。

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フェイスブックはシリア・アラブ・テレビのページを閉鎖した。これに関してシリアのラジオ・テレビ機構は声明を出し、真実を隠蔽する試みだと非難した。

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『クッルナー・シュラカー』(12月10日付)は、アーディル・サファル首相がスワイダー県知事に宛てた書簡で、「デモ抑止基金」を設置し、デモ参加者の反体制活動を抑止するため可能な限りの物的支援、金銭的支援を行うよう指示したと報じ、文書のコピーを掲載した。

AFP, December 10, 2011、Akhbar al-Sharq, December 10, 2011、al-Hayat, December 11, 2011、Kull-na Shuraka’, December 10, 2011、NNA, December 10,
2011、Reuters, December 10, 2011、SANA, December 10, 2011, December 11, 2011などをもとに作成。

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