イドリブ県でシャーム解放機構とフッラース・ディーン機構の緊張高まる(2020年4月19日)

英国を拠点に活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、ロシア・トルコ首脳会談で合意された停戦が発効(3月5日深夜)してから45日目となる4月19日、シリア・ロシア軍、トルコ軍の爆撃は確認されなかった。

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ロシア国防省は声明を出し、過去24時間で「緊張緩和地帯設置にかかる覚書」への違反を1件(イドリブ県1件、ラタキア県0件、アレッポ県0件、ハマー県0件)確認したと発表した。

トルコ側の監視チームは停戦違反を確認しなかった。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構が、マアーッラト・イフワーン村にある支援物資用の倉庫をメンバーの住居として転用するとして、明け渡すよう、地元評議会に強要した。

これに対して、地元評議会は、倉庫は近く住民向けの医療クリニックとして転用される予定であるため、明け渡すことができないと回答した。

だが、シャーム解放機構は、国内避難民(IDPs)を収容している学校をクリニックとして転用すればいいとして、これを拒否した。

また、シャーム解放機構が軍事・治安権限を握るイドリブ市で、外国人司令官が乗った車にしかけられていた爆弾が爆発し、この司令官が負傷した。

外国人の国籍、所属組織は不明。

一方、アルマナーズ市では、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構と新興のアル=カーイダ系組織の一つフッラース・ディーン機構の緊張が高まった。

シャーム解放機構が、アルマナーズ市に複数の拠点を構えているフッラース・ディーン機構を排除しようとしたことがきっかけ。

シャーム解放機構の嫌がらせにフッラース・ディーン機構が反発、非難する声明を出した。

こうしたなか、シリア軍は「決戦」作戦司令室の支配下にあるファッティーラ村、カンスフラ村、スフーフン村、バーラ村、アルナバ村を砲撃した。

「決戦」作戦司令室は、シャーム解放機構とトルコの庇護を受ける国民解放戦線(シリア国民軍)などからなる武装連合体。

対するトルコ軍は、兵站物資などを積んだ貨物車輌など約70輌からなる車列をカフル・ルースィーン村に違法に設置されている国境通行所からシリア領内に新たに進入させた。

トルコ軍はまた、ザーウィヤ山地方のバサーミス村に新たな拠点を設置した。

これにより、シリア領内のトルコ軍監視所・拠点は61カ所となった。
(シリア人権監視団の計算だと59)

トルコ軍の監視所・拠点が設置されている場所は以下の通り:

監視所

イドリブ県:サルワ村、タッル・トゥーカーン村、サルマーン村、ジスル・シュグール市(イシュタブリク村)
アレッポ県:登塔者聖シメオン教会跡、シャイフ・アキール山、アナダーン山、アレッポ市ラーシディーン地区(南)、アイス村(アイス丘)
ハマー県:ムーリク市、シール・マガール村
ラタキア県:ザイトゥーナ村

拠点

イドリブ県:マアッル・ハッタート村、サラーキブ市(3カ所)、タルナバ村、ナイラブ村、クマイナース村、サルミーン市、タフタナーズ航空基地、マアーッラト・ナアサーン村、マアッラトミスリーン市、マストゥーマ軍事キャンプ、タルマーニーン村、バルダクリー村、ナフラヤー村、ムウタリム村、ブサンクール村(2カ所)、ナビー・アイユーブ丘、バザーブール村、ラーム・ハムダーン村、アブザムー町、ムシャイリファ村、タッル・ハッターブ村、ビダーマー町(2カ所)、ナージヤ村、ズアイニーヤ村(2カ所)、ガッサーニーヤ村、クファイル村、バクサルヤー村、フライカ村、バルナース村、アリーハー市、ジャンナト・クラー村、バサーミス村
アレッポ県:アナダーン市、アレッポ市ラーシディーン地区、ジーナ村(2カ所)、カフル・カルミーン村、タワーマ村、第111中隊基地、アターリブ市、ダーラト・イッザ市、カフル・ヌーラーン村、バータブー村
ハマー県:ムガイル村

なおこのほかにも、トルコ軍はM4高速道路沿線に監視ポスト14カ所を設置している。

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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、スワイダー県のハラバー村に近い県境の街道に仕掛けられていた爆弾が爆発し、街道を走行していたシリア軍の車輌に乗っていた兵士1人が死亡、2人が負傷した。

AFP, April 19, 2020、ANHA, April 19, 2020、AP, April 19, 2020、al-Durar al-Shamiya, April 19, 2020、Ministry of Defence of the Russian Federation, April 19, 2020、Reuters, April 19, 2020、SANA, April 19, 2020、SOHR, April 19, 2020、UPI, April 19, 2020などをもとに作成。

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