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国内の暴力
シリア革命総合委員会によると、離反兵が「制圧」(占拠)していると主張するヒムス県各地、ダマスカス郊外県各地で軍・治安部隊が掃討作戦を継続、少なくとも30人が死亡した。
またシリア人権監視団によると民間人43人、軍人12人を含む62人が死亡した。
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ダマスカス郊外県では、ドゥーマー市で軍・治安部隊が大規模な掃討作戦を行い、シリア人権監視団によると、200人以上が逮捕された。
またアルバイン市、ハラスター市でも、住民らによると、夜間銃声が鳴り響いていた、という。
「自由シリア軍のフサイン」を名のる男性はロイター通信(1月26日付)に対して、自由シリア軍がドゥーマー市、ハラスター市の大部分を制圧したと語った。
「アブー・サーイル」を名のる別の脱走兵によると、「軍は迫撃砲、対空砲を装備しているが、我々には手榴弾、ロケット弾しかない」と語った。
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ヒムス県では、ワアル地方で、武装テロ集団がルワイユ・ムハンマド・ナクリー大佐を自宅前で襲撃・殺害した、とSANA(1月26日付)が報じた。
またクサイル市でも引き続き軍・治安部隊による掃討作戦が続き、負傷者が出た。
シリア人権監視団によると、ヒムス市でも市民2人が殺害された。
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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、ヒルバト・ガザーラ町近郊で離反兵が武装治安部隊を要撃し、曹長1人(スライマーン・アリー曹長)を含む兵士4人を殺害、5人を負傷させた。
しかしSANA(1月26日付)によると、アリー曹長らは武装テロ集団がしかけた爆弾を撤去作業中に爆発に巻き込まれて死亡した、と報じた。
またシリア人権監視団によると、ナワー市で学生が反体制デモを行い、若者1人が治安当局に殺害された。
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ハマー県では、シリア人権監視団によると、ハマー市ジャラージマ地区で狙撃兵が女性を射殺した。
アサド政権の動き
ダマスカス郊外県のフサイン・マフルーフ県知事はアラブ連盟監視団と会談、当局が武装集団の一部と停戦に向けた対話を始めたと語った。
マフルーフ県知事は「彼らの誤解は解け、最終的には正しい道に戻るだろう」と述べたうえで、当局がザバダーニー市での停戦と同様の措置を各地で準備していることを明らかにした。
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SANA(1月26日付)によると、アサド政権の改革支持を訴える大規模な集会が各地で開催された。
集会が開催されたのはダマスカス県サブウ・バフラート広場、アレッポ県アレッポ市サアドゥッラー・ジャービリー広場(サアドゥッラー・ジャービリー地区)、ラタキア県ラタキア市、タルトゥース県タルトゥース市、ハサカ県ハサカ市、ダイル・ザウル県ダイル・ザウル市、ラッカ県ラッカ市など。
反体制勢力の動き
AKI(1月26日付)は、民主変革諸勢力国民調整委員会の執行委員会筋の話として、同調整委員会が2月半ばに新執行部を選出するとともに、新たな政治綱領と政治プログラムを発表すると報じた。
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アラブ社会主義連合民主党は声明を出し、民主的変革諸勢力国民調整委員会からの脱退を発表した。
脱退の理由として、声明は、委員会の政治的立場、広報活動、そして指導部そのものが民主的でなく、党の方針と「革命の目的」と合致していないといった理由を挙げている。
アラブ社会主義連合民主党は民主的変革諸勢力国民調整委員会の代表であるハサン・アブドゥルアズィーム弁護士が書記長を務める。また左派系の反体制政治同盟のシリア国民民主連合(アブドゥルアズィーム弁護士が代表)における指導党でもある。
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エジプト訪問中のシリア国民評議会運営委員会のメンバーはカイロでカマール・ハサン・アリー在エジプト・スーダン大使と会談し、連盟監視団のムハンマド・アフマド・ムスタファー・ダービー団長の声明に関して意見を交換した。
会談内容に関して、ムハンマド・ヤースィーン渉外局長は『ハヤート』(1月26日付)に対して、「ダービー団長の政府は…スーダンの役割を弱化させ、同国の立場をゆがめようとする」ものだと批判した。
またスーダン大使が「シリア革命への支持を確認した」と付言した。
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「民主化のためのシリア人キリスト教徒」を名のる集団が声明を出し、ハマー市郊外のカフルバフム村でのキリスト教神父バースィリユース・ナッサール氏の殺害に関して、アサド政権の犯行だと断じた。
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アブドゥルハリーム・ハッダーム前副大統領は『ル・フィガロ』(1月26日付)に対して、アサド政権が「先ずアラウィー派が住む都市や村々に爆弾、機関銃を配布した…。先月、重火器の搬入が始まり、丘や山に隠されている…」と述べ、同政権が「宗派主義的内戦を発生させようとしている」と批判した。
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アラビーヤ(1月26日付)は、シリアの反体制シャイフ、アブドゥルジャリール・サイード氏が、ウラマーの使節団を近くカイロのアズハル機構に派遣し、シリア人ウラマー約1,000人が署名した共和国フムティーのアフマド・バドルッディーン・ハッスーン師の宗教的資格停止を求める書簡を提出すると述べたと報じた。
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自由シリア軍は声明を出し、ヒムス県ヒムス市でイラン人兵士5人を逮捕したと発表、最高指導者アリー・ハーメネイー師に対して、イラン兵のシリア駐留を認め、即時撤退するよう要求した。
声明によると、5人を逮捕したのはファールーク大隊で、彼らは空軍情報部ヒムス支部で活動しており、出入国スタンプの押されていないイランのパスポートを所持していたという。
またこれとは別に、ヒムス市内のジャンダル発電所で働いているイラン人技術者2人も逮捕したと発表した。
アラブ連盟の動き
アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長は声明を出し、「シリアでの暴力と殺戮の継続」への懸念を表明するとともに、アサド政権に対して「治安・軍事措置のエスカレートを回避」するよう呼びかけた。
レバノンの動き
進歩社会主義党党首のワリード・ジュンブラート議員は訪問先のモスクワでセルゲイ・ラブロフ外務大臣と会談し、シリア情勢などを協議した。
会談後、ジュンブラート議員は、シリアの危機に関して、政治的解決に達することが重要だと指摘するとともに、アラブ連盟のイニシアチブ以外に解決策はないとの見方を示した。
またロシアの姿勢に関して、「ロシアが正しい人々の声を支持することを希望する」と述べた。
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レバノン軍団のサミール・ジャアジャア代表はシリア国民評議会の公開書簡に対して、レバノン・シリア関係を正しい方向に導こうとしていると高く評価した。
またシリア当局によると北部県アッカール郡のレバノン人漁民の拘束・殺害に関して、レバノンの主権を侵害するこうした事態が再発した場合、国連安保理に問題を付託し、レバノンへの攻撃を回避すべきだ、と述べた。
イスラエルの動き
イスラエルのガビ・アシュケナジ前参謀長はテルアビブ大学で講演し、アサド政権の崩壊やシリアの内戦が、イスラエルを困難な状況に追いやると述べた。
アシュケナジ前参謀長は「ヒズブッラーへの最大の武器供給国がイランだとの誤った評価があるが、実際にはシリアがヒズブッラーに武器を供与している…。シリアにはいかなる実行力のある政府も発足しないだろう。ないしは内戦が生じるかもしれないし、失敗国家となるかもしれない。そうなればイスラエルは困難な挑戦に曝されることになるだろう…。エジプトとは異なり、シリア軍は命をかけている…。彼(アサド大統領)が地域の安定の錨だということを無視できない」と述べた。
さらにシリアが国際社会の「陰謀」に曝されていると付言した。
諸外国の動き
『タイムズ』(1月26日付)は、サウジアラビアとカタールがシリアの反体制勢力の武器購入に対して資金援助を行うことを秘密裏に合意していたと報じた。
同報道はシリアの反体制活動家筋の話として、1月22日のアラブ連盟外相会合や閣僚委員会会合後に、サウジアラビアとカタールはシリアの反体制勢力と、GCC諸国の連盟監視団の撤収とともに、武器供与に対する資金援助を秘密裏に合意したという。
また同報道は、『マナール・マクディスィーヤ』紙からの情報として、米国、イスラエル、フランスがトルコとレバノン領内で、カタールの資金援助のもとに、反体制活動家へのリクルート、教練、武器供与を行っていると指摘した。
さらにカタールはハマド・ブン・ハリーファ首長とハマド・ブン・ジャースィム首長の指導のもと、アラブ諸国で「テロリスト」の教練やネットワーク構築を行っているとされ、シリア国境ではレバノンのサアド・ハリーリー前首相とレバノン軍団代表のサミール・ジャアジャア氏がこれに協力している、という。
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ナバネセム・ピレイ国連人権高等弁務官はシリアでの弾圧の被害者の正確な数を提示することはできないと白状した。
プレイ弁務官は、「我々は5,000人という数字を示してきた…。犠牲者数は現在より大きくなっている」と述べる一方で、「ヒムス市内の地域など一部の地域が完全に閉鎖されている」ため正確な数値を把握できないと付言した。
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国際赤十字委員会のベアトレス・メゲヴァンド・ロゴ(Béatrice Mégevand-Roggo)中近東事業局長はシリア情勢に関して、同委員会の内戦の定義にはいまだあたらないと述べた。
一方、同委員会は、イドリブ県ハーン・シャイフーン市での赤新月社イドリブ支部長のアブドゥッラッザーク・ジュバイルー氏の殺害事件の調査と真相究明をシリア政府に求めた。
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ロシア外務省報道官は、シリア問題に関して、自国が作成した決議案を依然として支持していると述べるとともに、現在西側諸国と一部アラブ諸国が作成している決議案を受け入れることができない、との意思を示した。
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トルコのアフメト・ダウトオール外務大臣は、ロシアのインテルファクス通信(1月26日付)に対して、トルコ政府が武装反体制勢力と接触してないと述べるとともに、反体制勢力に対して平和的方法で活動するよう呼びかけた。
しかし、トルコが、シリアを脱走したリヤード・アスアド大佐(自由シリア軍司令官)をはじめとする上級士官を保護していることは周知の事実である。
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カナダ政府は、治安機関などに所属する政権関係者22人、政府系銀行4行、石油企業3社を追加制裁の対象としたと発表した。
AFP, January 26, 2012、Akhbar al-Sharq, January 26, 2012、Alarabia.net, January 26, 2012、al-Hayat, January 27, 2012、Kull-na Shuraka’, January 26, 2012, January 27, 2012、Le Figaro, January 26, 2012、Naharnet.com, January 26, 2012、Reuters, January 26, 2012、SANA, January 26, 2012、The Times, January 26, 2012などをもとに作成。
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