化学兵器禁止機構(OPCW)は2017年にドゥーマー市で発生した化学兵器攻撃に関して、シリア空軍が行ったと信じるに足る合理的根拠があると指摘(2023年1月27日)

化学兵器禁止機構(OPCW)は、シリアでの化学兵器使用疑惑事件にかかる調査識別チーム(IIT)による第3回報告書(139ページ)を、技術事務局の覚書(S/2125/2023)として公開し、2017年4月7日にダマスカス郊外県ドゥーマー市で発生した化学兵器攻撃に関して、シリア空軍が行ったと信じるに足る合理的根拠があると指摘した。

IITが報告書を発表するのは、2021年4月12日の第2報告書が発表されて以来、1年9ヵ月ぶり。

報告書は、2021年1月から2022年12月にかけての調査に基づくもので、標本、弾薬の残骸、ガス拡散のモデル、シリンダー投下実験、コンピューターモデリング、衛星画像、認証済みビデオ、写真、専門家、法医学機関からのアドバイス、その他の関連資料および情報に基づいて作成された。

報告書によると、IITはまた、19,000以上のファイルに検討を加え、1.86TBのデータを収拾、女性5人を含む66人の証人から意見を聴取、70サンプルに関連するデータに検討を加えた。

その一方で、シリア当局やその他の締約国が示した調査内容やシナリオを徹底追跡したが、それらを裏づける具体的な情報を得ることはできなかったとしたうえで、シリア国内の事件現場にアクセスできないなどの課題に直面した指摘、このことに遺憾の意を示した。

IITは、「トラ部隊」、すなわち「トラ」の愛称で知られるスハイル・ハサン准将が指揮する現シリア軍第25特殊任務師団の精鋭部隊のMi-8/17ヘリコプター少なくとも1機がダマスカス郊外県のドゥマイル航空基地を離陸し、塩素ガスを装填した黄色いシリンダー2本を、民間人が居住していた集合住宅2棟に投下し、43人を殺害、数十人に被害をもたらしたと指摘、改めてシリア軍の関与を断定した。

またIITは、「シリア軍は2018年2月18日、ロシア軍の支援を受けた「トラ部隊」、シリア人や外国人の民兵とともに、東グータ奪還に向けた全面地上攻撃を開始した」、「複数の情報源を通じて、ロシア軍部隊がドゥマイル航空基地で、「虎部隊」と共に駐留していたことを裏づける信頼できる情報を受け取りました」と明記するとともに、シリア政府やロシア側の主張を裏づけることができなかったとして、ドゥーマー市での化学兵器攻撃へのロシアの関与を示唆した。

AFP, January 27, 2023、ANHA, January 27, 2023、al-Durar al-Shamiya, January 27, 2023、Reuters, January 27, 2023、SANA, January 27, 2023、SOHR, January 27, 2023などをもとに作成。

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