仏政府が「アサド政権による大規模で組織的な化学兵器攻撃が行われた」と断じる報告書を公開するなか、NATO事務局長は米国が準備するシリアへの軍事攻撃に参加しない意向を改めて示す(2013年9月2日)

Contents

反体制勢力の動き

民主的変革諸勢力国民調整委員会の執行部はダマスカスで声明を出し、21日のダマスマス郊外県での化学兵器攻撃がアサド政権によるものだとの考えられるとしつつ、米国が準備するシリアへの軍事攻撃が、米国とシオニスト政体の国益に資するだけでシリア国民のためにならないと非難・拒否した。

そのうえでジュネーブ2会議開催を通じて紛争の政治的解決を改めて主張した。

なお化学兵器をアサド政権によるものだと見ている点に関して、声明は、攻撃が反体制武装集団の制圧地域で行われたこと、そして軍による集中的な攻撃のなかで化学兵器が使用されたとの二つの根拠を示している。

シリア政府の動き

アサド大統領は『フィガロ』(9月2日付)のインタビューに応じた。

インタビューのなかでアサド大統領は、米仏がシリアを軍事攻撃すれば「地域戦争に発展する危険がある」と警鐘をならした。

また「中東は火薬庫だ。爆発すれば誰にも制御できない。混乱を招き、過激主義が台頭する」と付言した。

さらにシリア政府が化学兵器を使用したと断じる米仏の姿勢については「オバマ大統領とオランド大統領はそれぞれの国民に対してさえ、証拠を示すことはできていない」と反論した。

http://www.lefigaro.fr/international/2013/09/02/01003-20130902ARTFIG00532-la-mise-en-garde-d-el-assad-a-la-france.php

**

クッルナー・シュラカー(9月2日付)によると、軍事情報局パレスチナ課と第215課が米国の軍事攻撃に備えてバラームカ地区のダール・タウリード病院内に施設・スタッフを移転した。

また軍事情報強地域課もマッザ区の大学寮内に施設・スタッフを移転した。

**

AFP(9月2日付)は、アサド政権を支持するハッカーが、米海兵隊のウェブサイトにサイバー攻撃をかけたと報じた。

国内の暴力

ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、反体制武装集団が1日から攻撃を激化させていたルハイバ市を軍が砲撃、また両者が交戦し、反体制武装集団の戦闘員20人、子供4人、女性5人を含む42人が死亡した。

またアドラー市北方のドゥマイル街道で、軍と反体制武装集団が交戦し、戦闘員約30人が死亡した。

このほか、バイト・サフム市、ダーライヤー市、キスワ市および郊外、ザバダーニー市郊外、ランクース市郊外、ムウダミーヤト・シャーム市、ザマルカー町で、軍と反体制武装集団が交戦、軍が砲撃を加えた。

一方、SANA(9月2日付)によると、ハーマ町郊外、ザバダーニー市郊外、マダーヤー町、ザマーニーヤ市、カースィミーヤ市、ズィヤービーヤ町、ルハイバ市、フサイニーヤ町、フジャイラ村、ブワイダ市、ドゥマイル・アドラー街道で、軍が反体制武装集団と交戦・要撃し、シャームの民のヌスラ戦線の外国人(リビア人、ヨルダン人)戦闘員らを殺傷、拠点・装備を破壊した。

**

ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、タダームン区、ヤルムーク区、カーブーン区で、軍と反体制武装集団が交戦した。

またマーリキー地区に迫撃砲弾が着弾した。

クッルナー・シュラカー(9月2日付)によると、治安当局がハリーカ地区の両替商(ジャージャ両替社)に立ち入り捜査を行い、社長、従業員、その場に居合わせていた顧客らを逮捕した。

一方、SANA(9月2日付)によると、マーリキー地区にあるジャーヒズ公園近くに迫撃砲弾が着弾した。

**

ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ヒムス市ジャウラト・シヤーフ地区などで、軍が反体制武装集団と交戦した。

一方、SANA(9月2日付)によると、ヒムス市カラービース地区、バーブ・フード地区、ワルシャ地区、ラスタン市、カルアト・ヒスン市、ザーラ村、タドムル市郊外で、軍が反体制武装集団と交戦し、レバノン人戦闘員らを殺傷、拠点・装備を破壊した。

**

イドリブ県では、シリア人権監視団によると、アルバイーン山、カンスフラ村を軍が砲撃・空爆、2日にわたる反体制武装集団との交戦の末、軍がカフルズィーター市を制圧した。

一方、SANA(9月2日付)によると、アブー・ズフール航空基地に潜入しようとした反体制武装集団を軍が撃退した。

またラーミー村、カフルズィーター市、ナフラ市、アルバイーン山、マジュダリヤー村、バザーブール村、カフルルーマー村、ヒーシュ村、カフルサジュナ市、マアッラト・ヌウマーン市、シュグル市、ミシュミシャーン市、ブワイディル村、ウンム・ジャリーン村で、軍が反体制武装集団と交戦し、シャームの民のヌスラ戦線戦闘員らを殺傷、拠点・装備を破壊した。

**

アレッポ県では、シリア人権監視団によると、ダイル・ハーフィル市を軍が砲撃した。

また反体制武装集団はクワイリス航空基地への突入を準備、駐留するシリア軍将兵に24時間に離反・投降するよう最後通告を出した。

アレッポ市マイダーン地区、シャイフ・マクスード地区で軍とクルド戦線旅団が交戦し、軍に複数の死傷者が出た。

またアシュラフィーヤ地区、マサーキン・ハナーヌー地区、ブスターン・バーシャー地区などで、軍と反体制武装集団が交戦し、軍が砲撃・空爆した。

一方、SANA(9月2日付)によると、ハーン・アサル村、ズィヤーラ村、アレッポ中央刑務所周辺、ダイル・ハーフィル市で、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

またアレッポ市では、ブスターン・バーシャー地区、サラーフッディーン地区、ライラムーン地区で、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

**

ダイル・ザイル県では、反体制勢力によると、軍の戦闘機が墜落したという。

**

ハマー県では、SANA(9月2日付)によると、ハウラート・アムーリーヤ村を反体制武装集団が迫撃砲で攻撃、これに対して軍が反撃し、シャームの民のヌスラ戦線戦闘員を殲滅した。

また軍はカッサービーン村などで、反体制武装集団の拠点を攻撃、シャームの民のヌスラ戦線戦闘員らを殺傷した。

諸外国の動き

バラク・オバマ米大統領は、シリア軍事攻撃決議案への支持を求めるため、共和党のジョン・マケイン上院議員、リンゼー・グラハム上院議員をホワイトハウスに招いて会談した。

マケイン上院議員は会談後、「決議案が否決されれば、大統領だけでなく、米国の信用にも大打撃になる」と述べ、攻撃を基本的に支持する姿勢を示した。

しかし「同僚を説得する前に、大統領が私を納得させる必要がある」とし、「より具体的な(作戦の)詳細を見る必要がある」と付言した。

**

米ホワイトハウスは、シリア軍事攻撃の承認を得るため、上下両院の議員を対象に、アサド政権が化学兵器を使用したと断定した根拠などについての説明会を開催した。

説明会は非公開で行われ、約70人の議員が出席した。

**

ロイター通信(9月2日付)は、米国防総省当局者が、米海軍の原子力潜水艦ニミッツおよび駆逐艦3隻、巡洋艦1隻をアラビア海から紅海に向けて移動させたことを明らかにしたと報じた。

**

フランス政府は、8月21日の化学兵器使用疑惑に関する諜報機関の調査報告書と資料となったビデオを公開し、アサド政権による「大規模で組織的な化学兵器攻撃が行われた」と断じた。

報告書は全9ページで、機密部分は削除されている。

報告書の主な内容は以下の通り:

1. 47本のビデオを分析した結果、ダマスカス郊外県東西グータ地区での化学兵器攻撃による死者数は281人にのぼった。
2. 異なる8カ所の地点で、致死性の高い化学兵器攻撃による激しい症状を示し、短期間に大勢の患者が病院に運び込まれた。
3. 反体制勢力が政権による化学兵器使用を演出・操作したとは考えられない。
4. 諜報機関は、ダマスカス郊外県以外(イドリブ県サラーキブ市、ダマスカス県ジャウバル区)で、土、弾薬、被害者の血液や尿のサンプルを入手・検査し、サリン・ガスが使用されたことが判明した。
5. シリアの化学兵器開発は1970年代に始まり、現在1,000トン以上の化学兵器(未完成のものを含む)を保有している。
6. 数百トンのイペリット・ガス、数十トンのVXガス、数百トンのサリン・ガスを保有している。

**

フランスのジャンマルク・エロー首相は、調査報告書公開に先立ち、報告書を上下両院の与野党議員団長に提示した。

またその後の演説で、アサド政権に「罰を与えるべき」だと主張したが、シリアへの軍事攻撃そのものについては「フランス単独では行わない」と述べ、米国の動きに従う意向を示した。

**

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣はモスクワの大学での講演で、アサド政権が8月21日に化学兵器を使用したとの証拠を米国などから提示されたことを明らかにしたうえで、「米英仏から見せられた証拠はまったく納得できない。裏付けとなるものを求めると秘密だから明かさないと言われた」と批判した。

**

アナス・フォー・ラスムセンNATO事務局長は定例記者会見でシリア情勢に関して「NATOは加盟国間の協議やトルコの防衛を通じて役割を果たしている。現段階でそれ以上の役割は想定していない」と述べ、米国が準備するシリアへの軍事攻撃に参加しない意向を改めて示した。

**

『ハアレツ』(9月2日付)は、イスラエル軍戦闘機(F15)が8月31日にシリア(ラタキア)とレバノンの上空を低空で領空侵犯していたと報じた。

**

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、シリアから周辺諸国への避難民の数が、200万人に達したと発表した。

同事務所によると、8月末の時点で、避難民の数はレバノンが約71万6,000人、ヨルダンが約51万5,000人、トルコが約46万人など。

毎日約5,000人のペースで増えていたが、バラク・オバマ米政権がシリアに軍事攻撃を行う方針を示したことで、避難民流出に拍車がかかっているという。

また国内避難民の数は425万人に及ぶという。

アントニオ・グテーレス国連難民高等弁務官は声明を出し、シリア情勢に関して「この悲惨な状況は最近の歴史で並ぶものがない」と深刻さを指摘した。

AFP, September 2, 2013、Le Figaro, September 2, 2013、al-Hayat, September 3, 2013、Kull-na Shuraka’, September 2, 2013, September 4, 2013、Kurdonline,
September 2, 2013、Naharnet, September 2, 2013、Reuters, September 2, 2013、SANA,
September 2, 2013、UPI, September 2, 2013などをもとに作成。

(C)青山弘之 All rights reserved.