シリア国内で活動する約30の政治組織が、首都ダマスカスのアルミタージュ・ホテル記者会見を開き、シリア平等市民権同盟を結成すると発表した。
略称はタマースク(結束)。
結成発表に先だってフェイスブックに開設された専用アカウントなどを通じて発表された結成声明の前文は以下の通り。
シリア平等市民権同盟(タマースク)設立声明
2024年12月8日、シリアは新たな歴史的な段階を迎えた。50年以上にわたって人々の首を締めつけ、人と礎に甚大な損害を残した専制的支配からの解放によってである。この国は、あらゆる領域で疲弊しているが、新たな段階において、統一と主権を取り戻し、その二の足で再び立ち上がらんと決意している。シリア国民が数十年ぶりに自らの運命を自ら決定する歴史的な機会が与えられている
現在のこの歴史的な転換点が、シリア人に対して大きな課題や使命を課しているにもかかわらず、それは同時に、シリアの男女の献身と、2011年3月以降、いや、それ以前の数十年にわたる苦難の長い道のりに見合ったより良い未来を築くための大きな希望、決意、意志によって支えられている。
本声明に署名した政治勢力、市民・社会団体は、互いに連絡を取り合い、過去3ヵ月間にわたる首都ダマスカスで行われた協議を通じて、現段階においてシリア人が直面する国民的使命には、シリアの父祖であるシリア大反乱を指導者たちの精神と思想に立ち返る必要があると見ている。彼らは、愛国主義に先んじていた民族、宗教・宗派、部族、さらには政治、イデオロギーといった狭い帰属意識を超えて、「宗教はアッラーのもの、祖国はすべての人のもの」という包摂的な愛国的スローガンのもとに団結した。
今日もまた、国は、あらゆる出自を持つすべてのシリアの愛国主義者たちの間でより広範な同盟と合意にいたることを必要としており、主要な任務の明確を定義し、これを実現するために協力することを必要としている。主要な国民的任務
1. 一つの国家、一つの国民軍のもと、シリアの領土と国民の統一を強化すること。そこでは、武器の保有は軍に限定され、その任務は国防に特定され、国の政治において中立性を保持する。
2. 社会平和を維持し、これを擁護すること。これは、復讐的思考や憎悪の言説の封じ込め、宗派的扇動を犯罪とみなし、崩壊した体制による犯罪と残虐行為の否定することによってなされる。また、シリア沿岸部で起きた痛ましい事件、犯罪、人権侵害を教訓とし、その再発を防ぐために、明確かつ透明な移行期正義のプロセスが求められている。これは、他国の経験を模倣するのではなく、国益に沿うかたちで、自らの目で見た具体的な現実に即していなければならない。
3. 極度の貧困に苦しむ大多数のシリア人を救済し、尊厳ある生活を保障すること。これは、国民経済を再始動し、まずは地元の能力に依拠し、制裁解除を継続的に要求しつつも、それが早期に実現するという期待は持たないことでめざされる。これは、生産部門(農業、工業)に重点を置いたシリア型の経済モデルを構築することを必要とし、より深い社会的公正と高水準の成長を、シリアの経験と知恵に基づいて実現することで成り立つ。
4. すべての手段を通じて、ゴラン高原をはじめとする占領下のシリア領土の奪還に取り組むこと。
5. クルド問題を民主的、愛国的、そして公正に解決すること。
6. シリアの女性とその権利、若者とその役割の問題は、すべてのシリア人にとっての根本的問題である。国民総会と移行期
これらの国民的任務を実効するには、広範なシリアの政治的・社会的勢力の間での継続的で責任ある対話が求められる。そこには、現政権とその政治的表現主体も含まれ、彼らには、国民総会の準備や移行期全体のプロセスにシリアの愛国主義者を参加させる責務を負っている。そのなかには、新憲法の起草準備、シリアを民主的で多元的な文民国家として再建することに注力することも含まれる。その憲法は、各地域において国民が自らの権限を直接的に行使することを保障し、全国的な富の公平な分配と発展を実現する地方分権と、基本的な問題(外交、防衛、経済)にかかる中央集権との関係において、発展した形式を実現するものとなる。その礎となるのは、宗教・宗派、民族、地域、性別にかかわらず、すべての国民に適用される平等な市民権であり、それにより表現、結社、政治活動、組合活動の自由などは保障される。これは、シリア国民が自らの運命を自ら決定すると規定した権利国連安保理決議第2254号の精神にも合致している。
この「シリア平等市民権同盟」(タマースク)設立声明の署名者は、すべてのシリア人、あらゆる勢力や組織に対して手を差し伸べ、同盟の内外を問わず、上に示した主要な国民的任務を実現するための門戸が開かれており、国を安息後へと導き、シリア人を尊厳と権利が守られる状態に導くことができる考えている。
ダマスカス 2025年3月22日
ANHAは、結成には33組織が参加したと伝えていたが、タマースクの専用アカウントによると、結成に参加したのは、以下28組織。
1. 変革解放戦線(旧変革解放人民戦線)
2. シリア民主評議会(シリア民主軍の政治部門)
3. シリアのための第3潮流
4. 人民意思党(カドリー・ジャミール元副首相が主導、ロシアの支援を受ける)
5. 国民刷新運動
6. 市民潮流
7. シリア芸術家独立連合
8. アラブ山国民イニシアチブ
9. 平等市民センター
10. シリア民主連合(2024年12月8日に結成)
11. シリア国民民主連合党
12. 民主変革運動
13. 国民対話会合
14. バアス民主党
15. 民主労働運動
16. 共産主義行動党
17. 母なるシリア青年連合
18. シリア国民の道
19. 民主青年連合
20. シリア国民青年党(アサド政権下で認可を受けた政党、ナビール・ムルヒジュ党首)
21. アラブ民主団結党
22. 民主市民潮流
23. サフナーヤー交流クラブ
24. シリア民主帰属党(ラジャー・ダーマクスィー代表)
25. 市民連合
26. 政治青年運動
27. エンパワーメント運動
28. 平和的変革の道潮流
なお、ANHAによると、シリア民主評議会からは、ライラー・カッラ共同議長、アリー・ラフムーン共同副議長、アフラーム・イスハーク共同副議長が参加した。
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進歩国民戦線の加盟政党だったシリア共産党は、タマースクに参加したとの一部情報を否定した。
シリア記者連盟(パリ)も声明で参加を否定した。
また、トルコに拠点を置くシリア・テレビが23日に伝えたところによると、同じく進歩国民戦線の加盟政党だったシリア民族社会党は、声明に「クルド問題の解決」と明記されていたことを理由に脱退したことを明らかにした。
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