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アサド大統領のインタビュー
アサド大統領はレバノンのマナール・チャンネル(ヒズブッラーが運営)のインタビューに応えた。
アラビア語全文はhttp://sana.sy/ara/2/2013/05/31/485036.htmを参照。英語全訳はhttp://sana.sy/eng/21/2013/05/30/485037.htmを参照。
インタビューでのアサド大統領の主な発言は以下の通り:
「クサイルで起きていること、我々が耳にする悲鳴は、すべてがイスラエルをめぐる問題とつながっている。クサイル攻撃のタイミングは、イスラエルによる空爆とつながりがある…。(イスラエルが)めざしているのは、レジスタンスを地上、海から締めつけることだ。こうした古くもあり新しくもある戦いは、いつもさまざまなかたちをとって行われている」。
「もしヒズブッラーがシリアを防衛したいのなら、何人の戦闘員をシリアに派遣するだろう?我々は数十万のシリア軍兵士と数万のテロリストの間で行われている戦いについて話をしている…。テロリストへの増援は周辺諸国、外国の支援を受ける国々によって続けられている」。
「ヒズブッラーが(シリアという)国家の防衛のためにこの戦いのなかで貢献し得る(戦闘員の)数は、テロリストやシリア軍の数、そしてシリア領(の広さ)を踏まえた場合…、(シリアの)体制も国家も護るには十分でない」。
「彼ら(ヒズブッラーの戦闘員)が国家を護っていると言うのなら、なぜ今日なのだ?なぜこのタイミングなのか?戦闘は2011年のラマダーン(8月)に始まり、2012年夏までにエスカレートした。彼ら(反体制武装集団)はダマスカス解放作戦を始め…、4人の士官(国防大臣ら)を暗殺した。シリアで多くの国家からの脱出(離反)作戦が行われた。多くの人々が、あのとき、体制が崩壊するかしないかと考えた。しかしあのときにもヒズブッラーは介入しなかった。なのになぜ今なのか?」
「ダマスカス、アレッポでなぜヒズブッラーを目にしないのか?最大の戦闘はダマスカスとアレッポで起きている。クサイルではない。クサイルは小さな都市に過ぎない。なぜヒムス市でヒズブッラーを目にしないのか?こうしたデータは不正確だ。クサイルは戦略的に重要で、すべての国境地帯がテロリストにとって戦略的に重要だ。すべての国境地帯がテロリスト、武器の密輸に利用されている。しかしヒズブッラーをめぐって提起される問題とは関係がない」。
「アラブ諸国のメディアで提示されている問題、アラブ諸国、諸外国の高官の発言…これらすべてを我々がレジスタンスを締めつけようとする行為と結びつけるのであれば、この問題(ヒズブッラーをめぐる問題)はシリア国家の防衛とは何ら関係がないのだ」。
「レジスタンスは自らの武器を敵、つまりは南方に向けねばならないと言われる…。シリア軍はイスラエルと戦わねばならないと言われる…。我々はきわめて明確に言いたい。シリア軍は敵を見つければどこでも戦いを行うし、レジスタンスも同様だ、と…。なぜヒズブッラーがレバノン領内の国境地帯やシリア領内に駐留しているのか?…なぜなら彼らの戦いは、イスラエルという敵、そしてシリアやレバノンにいるその代理人との戦いだからだ」。
(アサド政権が地中海岸にアラウィー派国家の建設をめざしているとの宣伝に関して)「(シリアの)分割に向けて戦いを行う者などいない…。この戦いは、シリアの統合を維持するための戦いであって、その逆ではない」。
(イスラエルの越境空爆への対応に関して)「我々が連絡をとったアラブ諸国、諸外国などのすべての当時者に、我々はいずれ報復するだろうと通告している。むろん、イスラエルの侵害に対しては何度も報復、ないしは報復の試みが行われた。直接的なかたちでの報復が行われた。しかしこうした一時的な報復には価値はない。つまり報復は政治的性格を持つものとなる。我々がイスラエル報復するのであれば、戦略的な報復となる」。
「イスラエルによる度重なる敵対行為、軍武装部隊のシリア領内での任務…など、こうした方向(ゴラン高原の戦線開放)を促す複数の要因がある。こうした要因は、多くの市民に、我々は今、行動を行い、ゴラン方面での軍を支援しなければならないとの念を与えている」。
「我々は通常、軍事にかかわる問題について公言はしない…。しかしロシアに関して言うと、契約(S-300供与)は今時の危機とは無関係だ。我々は彼らと数年にわたり様々な兵器をめぐって交渉している。ロシアはシリアに対してこうした契約を遵守している」。
(ジュネーブ2会議に関して)「大統領の進退は、シリア国民に関わる決定だ。この問題について言及するすべての者が、誰を代表しているかを宣言しなければならないし、シリア国民でなければならなず、シリア国民を代表していなければならない」。
「我々がこの大会(ジュネーブ2会議)に向かうとき、我々は交渉のテーブルに座る者の一部が誰なのかを明確に知らねばならない。「一部」と行ったのは、大会の形式がいまだ不明確だからだ…。愛国的なシリアの反体制勢力の立場とはどのようなものなのか?…在外の反体制勢力…ではなく、その背後にいる国々と交渉するために大会に参加するということを我々は知っている。表に出ている奴隷と交渉する際、我々はその実体である主人と交渉するのだ」。
(大会参加の条件に関して)「唯一の条件は、(ジュネーブ2会議)を含む国内国外でのいかなる会合も…シリア国民の見解に従い、シリア国民の信任を得ねばならないということだ…。シリア国民の意思に基づかずして、いかなることも実施されない。我々は合法的に国民を代表しており、恐れるものなどない」。
「彼ら(反体制勢力)は、大統領が権限を持たない移行期政府を望んでいるが、現行の大統領制に従うと、大統領は政府の長ではない。また彼らは、絶大な権限をもつ政府を望んでいるが、現行憲法は政府に全権を与えている…。大統領権限の変更は、憲法に準じるものであり、大統領は権限を譲歩することはできない…。憲法(の変更)は国民投票を必要とする。こうしたこと(大統領権限の縮小)を彼らが(ジュネーブ2会議)で提案したいのであれば、そして我々がこれに関して何らかの合意をするのであれば、それを国民投票にかけねばならない。シリア国民がどのように考えているかという判断を受けねばならない…。しかし彼らはこれに先立って今度は憲法を修正するよう求めている。しかしこれは、大統領も内閣も実行できない。我々は憲法の規定においてこうしたことを行う権限がない」。
(2014年の大統領選挙への出馬に関して)「シリア国民の意思以外にいかなる意思もない。この問題はいずれ明らかになるだろう。しかし、時間が来れば、立候補の要請を感じるだろう。この要請は、市民とのコミュニケーションを通じて明確になるだろう。彼らが立候補を望んでいると私が感じたら、私は躊躇しない。一方、シリア国民が立候補を望まないと私が感じたら、立候補しないのは自明だ」。
(カタール、サウジアラビアなどに関して)「テロリストを支援する国は変わらず、依然としてテロリストを支援している」。
「レバノンはシリアへの介入を阻止し得るだろうか?シリアへのテロリスト、武器の密輸を阻止できるだろうか?テロリストに避難所を提供するのだろうか?…レバノンはかつてはシリアの危機に消極的だった」。
国内の暴力
ヒムス県では、シリア人権監視団によると、クサイル市および同市郊外に対して軍が大規模な空爆を行い、またこれに先立ち、ヒズブッラーの支援を受けた軍がアルジューン市の大部分を制圧した。
また軍は、ガントゥー市、ラスタン市などにも空爆を行った。
一方、SANA(5月30日付)によると、軍がアルジューン市で反体制武装集団の掃討を完了、タウヒード旅団の戦闘員全員を殲滅、同市の治安を回復した。
また軍は、ブラーク村、ジャウダーニーヤ村も制圧し、治安を回復した。
このほか、クサイル市、ラスタン市で軍が反体制武装集団の拠点を攻撃、破壊、複数の戦闘員を殺傷した。
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ハマー県では、シリア人権監視団によると、ヒムス市ダッバーガ地区などで、軍が逮捕摘発活動を行った。
また、軍は、トゥライスィーヤ市、ズグバ村を空爆した。
これに対して反体制武装集団は、マアッル・シャフール市、マルユード市で軍を要撃し、兵士5人を殺害した。
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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、アレッポ中央刑務所施設内で軍と反体制武装集団が交戦した。
またカフルハムラ村に対して軍が砲撃を加えた。
アフリーン市郊外のバースィラ村で、反体制武装集団と民主統一党人民防衛隊が交戦し、後者の民兵5人が死亡した。
一方、SANA(5月30日付)によると、マンナグ航空基地周辺、アレッポ中央刑務所周辺、カフルハーシル村、マンナグ村、フライターン市で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。
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ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、ハラスター市、バイト・サフム市、アルバイン市、ムライハ市などで、軍と反体制武装集団が交戦、軍が砲撃を加えた。
一方、SANA(5月30日付)によると、バイト・サフム市、ハラスター市、フジャイラ村、クワイル・ザイト市、アドラー市、ムライハ市、ダーライヤー市で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、シャームの民のヌスラ戦線、アッラーの獅子大隊メンバーら複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。
またハラスター市郊外の医療センター近くに反体制武装集団が撃った迫撃砲が着弾し、市民1人が死亡した。
このほか、ハラスター市でSANA(5月30日付)によると、スポーツ総連合ダイル・ザウル支部指導部メンバーのアブドゥルワッハーブ・ムハンマド氏が反体制武装集団に襲撃され、死亡した。
さらに、カナーキル村では、反体制武装集団が車に仕掛けた爆弾が爆発し、市民5人が死亡、複数が負傷した。
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ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、アッシュ・ウルール地区、バルザ区に、軍が砲撃を加えた。
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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、ダルアー市マハッタ地区が軍の砲撃を受けた。
一方、SANA(5月30日付)によると、ブスラー・シャーム市にいたる街道で、反体制武装集団が仕掛けた爆弾2発が爆発し、市民2人が死亡、複数が負傷した。
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ハサカ県では、シリア人権監視団によると、ハサカ市空港地区で爆弾が仕掛けられた車が爆発した。
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ラタキア県では、SANA(5月30日付)によると、リーハーニーヤ村、フルナルク村で、軍がシャームの民のヌスラ戦線の拠点を攻撃、破壊し、複数の戦闘員を殺傷した。
シリア政府の動き
『ワタン・アラビー』(5月30日付)は、アサド大統領がラタキア県カルダーハ市で、「シリア分割」に備えて、「アラウィー派国家」建設を準備するための会合を開いたと報じた(未確認情報)。
同報道によると、会合には、アラウィー派ウラマー委員会のアフマド・ドゥユーブ・アフマド議長、ムハンマド・フーリー、イブラーヒーム・サーフィー、イブラーヒーム・フワイジャ、アリー・ハサン・ハサンが出席したという。
反体制勢力の動き
トルコの複数のメディア(5月30日付)によると、「化学物質」を保持し、「テロ組織」とつながりがあると思われる12人がアダナ県で身柄拘束された。
同メディアは、容疑者12人がシャームの民のヌスラ戦線とつながりがあると報じたが、アダナ県知事は、アナトリア通信(5月30日付)に対して、容疑者の所属は確認されていないと述べた。
『ラディカル』(5月30日付)は、容疑者逮捕とともに、トルコの警察当局はサリンガス2キロをアダナ市で押収したと報じたが、アダナ県知事は、「化学物質」は現在当局が成分を分析中だと述べた。
なお県知事によると、拘束された12人中、6人が取り調べ後に釈放された。
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民主的変革諸勢力国民調整委員会のハサン・アブドゥルアズィーム議長は『ラアユ』(5月30日付)に対して、ジュネーブ2会議への参加に向けて「我々は政治的解決に向けたイメージを発表しており、それをロシア大使館、中国大使館、アラブ連盟、国連にすでに提出している」と述べた上で、2012年6月のジュネーブ合意に基づいたかたちでの暴力停止、武器供与停止、移行期政府樹立に向けた交渉をめざしていると述べた。
また「我々には、シリア最大のクルド政党である民主統一党が委員会にいる」と述べ、クルド民族主義勢力と連携していることを強調した。
一方、「シリア革命反体制勢力国民連立は、反体制勢力、国民、そして革命の唯一の合法的代表になろうとしているが、排外的な視座を持っており、他者を尊重しない」と非難した。
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シリア革命反体制勢力国民連立は声明を出し、「正義の原則、犯罪者処罰に基づかずして、いかなる政治解決も不可能だ」として、ジュネーブ2会議への参加に関して、アサド政権の退陣・処罰を前提条件とするとの姿勢を示した。
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シリア革命反体制勢力国民連立のジョルジュ・サブラー暫定議長はイスタンブールで記者会見を開き、ジュネーブ2会議への不参加を表明した。
サブラー暫定議長は「イラン、ヒズブッラーがシリア領を侵略するなか、こうした(ジュネーブ2会議のような)いかなる大会、そして国際的な努力にも参加しない」と述べた。
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シリア・ムスリム同胞団は声明を出し、シリアの紛争へのヒズブッラーの戦闘員の参加に関して、「バッシャール・アサド、ハメネイ、マーリキー、ハサン・ナスルッラーの悪党たちが暴露した(紛争の)宗派主義的次元は、国際的な宗派紛争勃発の門戸を開き…、アラブ諸国、イスラーム諸国、国際社会で沈黙する者たちは地域全土を焦土とし、近隣諸国・地域諸国に紛争を拡大させる責任を負う」と警告を発した。
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クッルナー・シュラカー(5月30日付)は、民主統一党アサーイシュがシャイフ・マアシューク・ハズナウィー大隊司令官、クルド青年調整連合メンバーらクルド人活動家7名およびシリア・クルド民主党(アル・パールティー)バッシャール派のメンバー約80人をハサカ県で釈放したと報じた。
諸外国の動き
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣は、シリア革命反体制勢力国民連立のジュネーブ2会議参加拒否に関して、紛争解決に向けた「政治プロセスの開始を全力で阻止し、軍事介入をもたらそうとしている」印象を受けるとしたうえで、「こうした方法を我々は受け入れない」と非難した。
ラブロフ外務大臣は「連立は、前提条件なしで大会に参加する準備ができていない。こうした条件は(大会を)無力化するものだ…。誰も最後通告を行うことはできない」と述べた。
また「連立には建設的な計画はない…。彼らをまとめている唯一のものは、アサド大統領の即時退任だ。しかし…西側諸国はこうした姿勢が現実的でないと理解している」と付言した。
そのうえで、連立は「シリア国民の唯一の代表ではない」と断じた。
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イスラエルのスィルヴァン・シャローム水利資源大臣は、国営ラジオ(5月30日付)で、「対シリア戦線の緊張を高める意思はない。これは我々の目的はなかったし、今後も目的になることはない」としつつ、「こうした兵器(化学兵器)が別の当時者の手にわたり、我々に対して用いられるのであれば、我々は行動する」と述べた。
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バーレーンのラーシド・ブン・アブドゥッラー・アール・ハリーファ外務大臣は、「バーレーンの若者は、地域紛争ではなく、自分たち、祖国、そして自らの社会を建設することに集中しなければならない」と述べ、反体制武装集団に参加して、シリアで破壊・殺戮行為を行わないよう自国民に呼びかけた。
ラーシド外務大臣のこの発言は、スンナ派のシャイフ、アーディル・ハマドが、ビデオ声明で、19歳のバーレーン人青年がシリアでの戦闘で死亡したと発表したことを受けたもの。
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国連安保理の制裁委員会は、シャームの民のヌスラ戦線を武器禁輸や資産凍結などの制裁対象に指定した。
この措置は、EUでシリアに対する武器禁輸措置緩和を主導した英国とフランスの要請を受けたもので、英国の国連代表部は「我々はシリアの穏健な反体制勢力を支持する」との立場を改めて示した。
AFP, May 30, 2013、al-Hayat, May 31, 2013, June 1, 2013、Kull-na Shuraka’, May 30, 2013、Kurdonline,
May 30, 2013、Naharnet, May 30, 2013、al-Ra’y, May 30, 2013、Reuters, May 30, 2013、SANA, May 30, 2013、UPI, May 30, 2013、al-Waṭan al-ʻArabi, May 30, 2013などをもとに作成。
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