英シンクタンクがシャームの民のヌスラ戦線の起源や現構成、戦略に関する詳細な報告書を発表、同戦線は「イラク・イスラーム国と直接」(2013年1月8日)

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国内の動き

シリアのウムラーン・ズウビー情報大臣はダマスカスで記者会見を開き、そのなかでアサド大統領が演説で示した危機解決に向けたプログラムが「いかなる期限とも関係がなく、危機克服のための国民的プログラム提示の機が熟したことを受けて、”シリア時間”に沿って提示された」と述べた。

SANA, January 8, 2013

SANA, January 8, 2013

そのうえで「国民対話参加の呼びかけはすべての反体制勢力に対して向けられており、同対話は、主権尊重、外国の干渉拒否…に基づいている」と付言した。

また「議論は、暴力とテロ、テロ組織の存在に関わる問題から始まり、経済問題、一般的自由と人権をめぐる問題、逮捕者の問題、国民対話の詳細と本質、対話の相手などを経て、すべての問題をとりあげることになる…。議論は長く、包括的で、困難なものとなろう。なぜなら、非常に多くの見解、提案、概念があるからだ」と述べた。

そのうえで「内閣に委員会を設置し、すべての政治的・愛国的・社会的勢力・活動家と連絡をとり、国民対話の開催を進める」とのヴィジョンを示した。

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ワーイル・ハルキー内閣は、アサド大統領の演説で示された危機解決に向けたプログラムに必要な仕組みを構築するための特別閣議を開催した。SANA(1月8日付)が報じた。

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SANA(1月8日付)は、与党の進歩国民戦線加盟政党各党、人民意思党、そして野党の民主前衛党が相次いで、アサド大統領の演説で示された危機解決に向けたプログラムへの支持を表明した、と報じた。

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アサド大統領が1月6日の演説で危機解決に向けたプログラムを示したことを受け、シリア国民対話準備委員会がダマスカスで会合を開き、その活動の整備と活性化のための分科会設置の是非を決定した。

準備委員会が発表した声明によると、設置が審議された分科会は、広報委員会、組織委員会、法務委員会、社会委員会、経済委員会。

国内の暴力

イドリブ県では、『ハヤート』(1月9日付)が複数の住民、活動家の話として、マストゥーマ村への侵入を数日前から試みていた反体制武装勢力を軍が撃退、制圧した。

その際、軍は民間人17人を処刑した、という。

一方、シリア人権監視団は、反体制武装勢力がタッル・カラーティーン村上空でヘリコプターを撃墜した、と発表した(未確認情報)。

このヘリコプターはタフタナーズ航空基地に向かっていたという。

他方、SANA(1月8日付)によると、タフタナーズ市、トゥウーム村、サイルーン市、クマイナース村、ワーディー・ダイフ地区、マストゥーマ村周辺などで軍が反体制武装勢力と交戦、追撃し、多数の戦闘員を殺傷した。

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アレッポ県では、『ハヤート』(1月9日付)によると、軍がアレッポ市北西部のアシュラフィーヤ地区を再制圧した。

同地区はクルド人が多く居住する地区で、反体制勢力が数日前から侵入していた。

またアレッポ国際空港周辺では、軍と反体制武装勢力の交戦が続いた。

一方、SANA(1月8日付)によると、アレッポ市ブスターン・カスル地区、カーディー・アスカル地区などで軍が反体制武装勢力の拠点を攻撃し、多数の戦闘員を殺傷した。

またマンナグ村、ハーン・アサル市、マーリア市、マンスーラ村、ドゥワイリーナ市、ナッカーリーン村などでも軍が反体制武装勢力の拠点を攻撃し、多数の戦闘員を殺傷した。

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ダマスカス県では、『ハヤート』(1月9日付)によると、バルザ区で軍と反体制武装勢力が交戦した。

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ダマスカス郊外県では、『ハヤート』(1月9日付)によると、ダーライヤー市、ムウダミーヤト・シャーム市、バイト・サフム市、ザバダーニー市、ドゥーマー市、アルバイン市、ジャルマーナー市などで軍が反体制武装勢力掃討のため砲撃を加えた。

一方、SANA(1月8日付)によると、ダーライヤー市、ドゥーマー市などで軍が反体制武装勢力の追撃を続け、多数の戦闘員を殺傷、拠点・アジトを破壊した。

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ヒムス県では、『ハヤート』(1月9日付)によると、ヒムス市ハーリディーヤ地区で軍が反体制武装勢力掃討のため砲撃を加えた。

一方、SANA(1月8日付)によると、反体制武装勢力がクサイル市郊外のダブア村に至る街道で爆弾を仕掛けた車を爆発させ、4人の市民を殺害した。

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ダイル・ザウル県では、シャームの民のヌスラ戦線がユーチューブにビデオ声明をアップし、女性を強姦しようとしていたシリア軍兵士3人を殺害したと発表した。

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ハマー県では、SANA(1月8日付)によると、ムハルダ市で破壊行為を行っていた反体制武装勢力を軍が殲滅した。

反体制勢力の動き

英国のキリアム基金(Quilliam Foundation)は、シャームの民のヌスラ戦線が約5,000人の戦闘員を擁し、イラク・イスラーム国に直接連絡をとっているとの報告書(http://www.quilliamfoundation.org/wp/wp-content/uploads/publications/free/jabhat-al-nusra-a-strategic-briefing.pdf)をまとめた。

同報告書によると、ヌスラ戦線は「ジハード主義イデオロギー」に基づき戦闘を行う「少数集団」で、体制転換を第一義とする「ほとんどの革命家」とは異なる、という。

また「すべての革命家は体制と戦うという最低限の目標を共有しているもの、アサド政権が崩壊した場合、長期的な目標をめぐって深刻な対立が生じるだろう」としている。

同報告書によると、ヌスラ戦線の起源は、2000年にアブー・ムスアブ・ザルカーウィーのもと東アラブ地域で結成されていった細胞と関係がある、という。

またアブー・ムハンマド・ジャウラーニーの名で知られる指導者は、かつてシリア国内の細胞で活動し、反米武装闘争を行うための戦闘員をイラクに送り込んでいたが、シリアがジハード主義者への締め付けを強化した2007年にイラクに逃れ、その後2011年に再びシリアに戻ったのだという。

さらに同報告書によると、ヌスラ戦線は現在でもイラク・イスラーム国から戦略的・イデオロギー的な指導を受け、イラクのアル=カーイダの監督下にあり、いずれは「ビラード・シャームのアル=カーイダ機構を名乗るだろう」としている。

同報告書によると、ヌスラ戦線の目標は以下の5点からなっているという。

1. すべてのジハード主義者からなる強固な集団の結成。
2. 現下の紛争における「イスラーム主義」の前衛としての意識の強化。
3. 武器入手と実効支配可能な安全地帯の確保。
4. シリアでのイスラーム国家の建設。
5. ビラード・シャームにおけるカリフ制建設宣言。

同報告書によると、ヌスラ戦線のメンバーは、高度な知識、訓練、専門性を有する戦闘員であるのに対して、多数派を占める自由シリア軍は、民間人や元軍人の烏合の衆に過ぎないという。

ヌスラ戦線は、シリア革命をイスラームに関わる問題と定義し、それを宗教的テキストで正当化している一方、「イラクでの教訓」をもとに、民間人を標的とした自爆テロや、アラウィー派、シーア派の異端視することを控え、アル=カーイダとの結びつきを避けるかのように現在の組織名を使用している、という。

またイラクでのアル=カーイダの活動に対抗するのに貢献した覚醒評議会の台頭が繰り返されることにも警戒している、という。

一方、軍事的には、大都市周辺の農村を占拠することで体制に対する消耗戦を仕掛け、都市内では仕掛け爆弾、軍・治安機関の爆破に重点を置く他、戦闘員の犠牲を減らすために自爆作戦も行っている、という。

その組織は、約5,000人の「正規」戦闘員と、共闘する数千の「ジハード主義者」からなり、ダマスカスでは複数の細胞が個別に活動しているが、アレッポでは複数の大隊・軍事組織が体系的に戦闘を行っている、という。

またアブー・ムスアブ・カフターニーを名乗る「大ムフティー」を長とする少人数からなる「シューラー会議」がある。

この人物はサウジ人、ないしはモスル出身のイラク人だと言われている。

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自由シリア軍参謀委員会政治広報調整官を名乗るルワイユ・ミクダードなる活動家は、「革命家は、ほぼ解放されたシリア北部の一県上空に初出撃した」と発表した。

同活動家によると、出撃は「捕獲したヘリコプター」による「試験」飛行で、「自由シリア軍の二つの拠点の間を約30分間」飛行したという。

なお同活動家によると、自由シリア軍は飛行可能なヘリコプター2機を保有している、という。

諸外国の動き

WHO報道官はジュネーブで声明を出し、約250万のシリア人が食糧の深刻な不足を感じており、そのなかの100万人が飢餓に苦しんでいると発表した。

その理由として報道官は、人道支援の輸送にタルトゥース港が使用できないとの理由を挙げるとともに、「我々の主要なパートナーであるシリア赤新月社は任務超過状態でこれ以上それを拡大することはできない」と同情を示した。

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米財務省高官は『ハヤート』(1月9日付)に対して、「ロシアの大手銀行は、米国の制裁リストに記載されているシリア中央銀行、シリア商業銀行との取引に慎重にならねばならない…。(こうした取引は)世界の金融セクターとの関係で損害を被る危険に曝すことになる」と脅迫した。

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フランス外務省報道官は、アサド大統領の演説に対するフランスの対応の遅れに関して、その内容が「現実と完全に乖離している」ことを踏まえ、「軽蔑」と「無視」の態度をもって対処しようとしたが、その後、外務省報道官の声明とローラン・ファビウス外務大臣によるツイッターへの書き込みをもって対応することにした、と述べた。『ハヤート』(1月9日付)が報じた。

AFP, January 8, 2013、Akhbar al-Sharq, January 8, 2013、al-Hayat, January 9, 2013、Kull-na Shuraka’, January 8, 2013, January 9, 2013、al-Kurdiya
News, January 8, 2013、Naharnet, January 8, 2013、Reuters, January 8, 2013、SANA,
January 8, 2013などをもとに作成。

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