アサド大統領は英紙『サンデー・タイムズ』の単独インタビューに応じた。
インタビュー映像は大統領府がYoutube(https://youtu.be/Wb7Kmoe4MUg)を通じて公開、また英文全文およびアラビア語全訳はSANA(http://sana.sy/en/?p=63558、http://www.sana.sy/?p=308127)が配信した。
インタビューにおけるアサド大統領の主な発言は以下の通り:
**
「我々は紛争当初から、英国とフランスがシリアのテロ組織を支援する急先鋒であるとういことを知っている。我々はこれらの国にそうした意思(テロと戦う意思)がないことを知っている…。(軍事介入は)包括的でなければならない。空、そして地上から行われねばならず、地上部隊、すなわち国軍と連携せねばならず、干渉や(軍事作戦への)参加は合法的でなければならない。シリアの正統な政府と協力して初めて合法的になる。だから、これらの国には(テロと戦う)意思はなく、どのようにテロを打ち負かすのかというヴィジョンを持ち合わせていないと見ている」。
「(有志連合の軍事介入を)評価したいのであれば、現実を評価しよう…。有志連合は1年以上も前に作戦を開始したが、その成果とは何か? ダーイシュ(イスラーム国)、シャームの民のヌスラ戦線、そしてどうようの組織が自由に勢力を伸ばしていた。しかしロシアがテロとの戦いに直接参加して以降どうなったか? ダーイシュもヌスラ戦線も縮小している。つまり、まず、有志連合は何の成果も上げられないと言いたい。そのうえで、それは有害、違法であり、テロを支援していると言いたい…。なぜならテロはガンのような存在だからだ。ガンは切りとるだけでは駄目で、摘出しなければならない」。
「ダーイシュが国家を名乗り公に活動を始めたのは2006年、イラクにおいてだ…。英国もフランスも当時からダーイシュ(の原型)が存在することを知っていたし、それがシリアでの紛争の当初に混乱に乗じてシリアに入ってきたことを知っていた…。英国の高官、とくにトニー・ブレア前首相はそう告白している」。
「二つの組織(ダーイシュとヌスラ戦線)、その違いを評価するのであれば、双方とも同じイデオロギー(ワッハーブ主義から派生したイデオロギー)を擁している点で違いはない…。またその値、支持者、メンバーについて言うのなら、その違いを見つけることはできない。なぜならそのメンバーは次から次へと所属する組織を変えているからだ。時に争い合うのはそのためだ…。だが、彼は実際には、すべてのレベルで協力し合っている。どちらがより危険だということは言えない。なぜなら、彼らのメンタリティは一つだからだ」。
「(デヴィッド・キャメロン首相が英下院で7万人の「穏健な反体制派」と連携できると証言したことに関して)「彼が行っている7万人の穏健派はどこにいるのか? 彼らはいつも「シリアの穏健派」について云々しているが、これは事実ではなく、「疑似事実」を大衆に示すだけの茶番だ…。ロシアも2ヶ月前から…穏健派はどこにいるのかと(米国などに)尋ねている。しかし誰も答えようとはしない。実際のところ、紛争当初から、シリアには「穏健な武装集団」などいなかった。彼らはみな過激派だ…。パリでの最近の攻撃、シャルリー・エブドーでの攻撃、10年前に起きた英国やスペインで起きたテロ、ニューヨークでの9・11事件を行ったテロリストを「穏健な反体制派」だと言うようなものだ。そんなことは世界のどこでも認められない」。
「クルド人はシリア軍と同じ場所でテロリストと戦っている…。(米国から支援を受けているが)主にシリア軍から支援を受けている。そのことを示す文書もある。彼らはシリア人であり、テロと戦う意思があるので、我々は武器を供与している。我々はシリアの多くの組織に対しても同じことをしている。なぜなら、シリア全土にシリア軍を派遣できないからだ。クルド人だけではない。それ以外のシリア人も同じだ」。
(ウィーン・プロセスで欧米諸国が求めている大統領選挙の前倒しに関して)「選挙の前倒しは紛争が終わることとは無関係だ。紛争終結はテロとの戦いを通じて、そして西側諸国、地域諸国がテロリストの支援を停止することで起こるものだ。早期大統領選挙の実施が行われるとすれば、それはシリアの政治勢力、市民社会が行う未来に向けた包括的な対話の一部分としてだ。つまりそれは大統領の意思に関わるものではなく、シリア国民の意思に関わる問題だ。つまり政治プロセスに関わる問題だ。このプロセスで合意がなされれば、私はほかのシリア市民と同様に出馬する権利を得る。その際の私の決断は…シリア国民から支持を得られるかどうかによる」。
「地上部隊と連携せずに、空爆だけでは、ダーイシュを打ち負かすことはできない…。有志連合は見せ掛けのもので…、現地でのテロとの戦いで何の成果も上げていない…。しかし、我々は現実主義的だ…。もし欧米諸国が真剣にテロと戦う用意があるのであれば、我々はいかなる国、政府、そしていかなる政治的努力であってもそれを関係する。この点に関して、我々はプラグマティックだ。我々は究極的にはシリアの情勢を改善し、さらなる流血を止めたいと考えている。これが我々の任務だ。それは愛だの憎しみだの、認めるだの認めないだのという問題ではない。現実に関わる問題だ…。テロ組織が地域諸国や西側から得ている支援を排除できれば、我々の任務完了には数ヶ月と要さないだろう」。
「すべての戦争で常に多くの無実の人々が犠牲になる。これを回避するには戦争を終わらせるしかない…。しかし西側で繰り返されているレトリックにおいては、テロリストが無実の人を殺しているという事実が無視されている。また殺害された多くの人々がシリア政府を支持していたという事実が無視されている」。
「ロシアの役割は極めて重要だ…。しかし、ロシアの支援がなければ、シリア政府、国家が崩壊していただろうというのは仮説に過ぎない」。
「(ラタキア県フマイミーム航空基地に設置された)航空基地の軍事要員や航空機とともに派遣された人員以外にロシアの地上部隊は存在しない…。(ロシア軍地上部隊の展開は)まだ議論されていないが、現時点でその必要はないと考えている」。
「いかなる戦闘機であれ、我が国の領空を侵犯することを阻止することが…我々の権利で…、それは完全に合法的である。我々は自国の領空を守るためのあらゆる手段を用いるだろう…。しかし現在のところ、そうした手段を用いるには至っていない…。現時点での我々の最優先事項は地上でテロリストと戦うことだ」。
「もし彼ら(サウジアラビア)が、自らの政策、とりわけ対シリア政策を変更する用意があるのであれば、彼らと会うことに何の問題もない」。
「我々は、シリア国内で(反体制派との)会合が行われ、それに彼らが出席したいというのであれば、彼らが逮捕拘束されないことを保証すると述べてきた。何度も言ってきた」。
「サウジアラビアで予定されている(反体制派の全体)会合に関して、サウジアラビアはこれまでテロを直接、明確、そして公然と支援してきた。こうした会合は国内の状況を変化させることはないであろう。会合が行われる前も後も、サウジアラビアはテロリストを支援し、今後も支援続けるだろう」。
「我々は当初から、我々の政策の支柱の一つにすべての紛争当事者との対話を開始するということを掲げてきた。シリア国内にいようと国外にいようとだ。我々はすでに多くのテロ組織と交渉してきた…。一部の戦闘員はシリア軍に復帰し、戦っている…。しかしこれは、我々がダーイシュ、ヌスラ戦線などといった組織と交渉することを意味しない」。
「(樽爆弾使用に関する非難について)いわゆる「樽爆弾」と高性能ミサイルの違いではなく、どのように兵器を使用するかの問題だ。どのようにこうした武器を使用するのか、どのような情報を得て、どのような意図を持っているのかにかかわる問題だ。我々に無実の人々を殺す意思があるのか? 国家が国民を守っているなかで、どうしてそのようなことが可能となるのか? そんなことをすれば、我々は国民をテロリストの側に押しやってしまう…。それは我々の国益に反している…それは現実的でも論理的でもない。そんなプロパガンダはどこでも売れはしない」。
AFP, December 6, 2015、AP, December 6, 2015、ARA News, December 6, 2015、Champress, December 6, 2015、al-Hayat, December 7, 2015、Iraqi News, December 6, 2015、Kull-na Shuraka’, December 6, 2015、al-Mada Press, December 6, 2015、Naharnet, December 6, 2015、NNA, December 6, 2015、Reuters, December 6, 2015、SANA, December 6, 2015、UPI, December 6, 2015などをもとに作成。
(C)青山弘之 All rights reserved.