アサド大統領は米NBCニュースの独占インタビューに応じた(http://www.nbcnews.com/news/world/syria-s-president-bashar-al-assad-speaks-nbc-news-n608746)。
インタビュー映像は大統領府がYoutube(https://youtu.be/kb_Lq1VrTxM)を通じて公開、また英語全文はSANA(http://sana.sy/en/?p=82569)が配信した。
インタビューでのアサド大統領の主な発言は以下の通り:
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「(シリア軍による全土掌握を妄想だとする米国務省の発言に関して)米国の発言は国際法、国連憲章を反映していない。全国土を支配する権利を有する国家を守る者たち権を反映していない」。
「(紛争を終結させるうえで)もっとも重要な要素はテロ支援者、とくにトルコ、カタール、サウジアラビアが米国を含む一部西側諸国とともに、いつまでテロリストを支援するかということだ。こうした支援がなければ、数ヶ月とかからない」。
「ロシアによるシリア軍の支援がテロリストに不利なかたちで局面を変えた…。同時に、トルコとサウジアラビアはロシアの正当な介入が開始されて以降、多くの戦闘員を送り込んだ。しかし、ロシア軍の支援が決定的な要因だ」。
「彼(ロシアのヴラジミール・プーチン大統領)は何も要求しなかった…。なぜなら…、まず、ロシアの政策は価値観に根ざしている…。第2に、ロシアと我々の国益は共通している。なぜなら彼らはロシアで戦うべきテロリストと(シリアで)戦っているからだ。我々は欧米など世界中で戦うべきテロリストと戦っている」。
「ロシアの交換は何度も明言している。シリアの問題はシリア国民の問題だと。昨日(13日)も、セルゲイ・ラブロフ外務大臣はこう言っていた。我々はシリア人がしたいことを決めるために米国と席を共にするのではない、と…。シリア国民だけが自分たちの国の将来を決め、自分たちの問題を解決できる。ロシアと米国の役割とはシリアへの介入を阻止する国際的な環境を作り出すことだ…。ロシアの政策は取引を行うというものではない。価値観に基づいている…。これに対して米国の政策は価値観と無関係に取引を行うというものだ」。
「(米国によるダーイシュ(イスラーム国)への空爆を歓迎しているか、との問いに対して)していない。なぜなら違法だからだ…。これに対してロシアはシリア政府によって合法的、公式に空爆を要請されている…。しかも、米国の空爆は始まって以降、テロは拡散したのであって、その逆ではない。ロシアが介入して初めて、テロは縮小した。これが現実だ…。米国のテロは非生産的だ…。米国にはテロリストを打ち負かそうとする意志がない。彼らを掌握し、アフガニスタンの時と同じようにそれをカードとして利用しようとする意志しかない」。
「問題は私と彼(バラク・オバマ米大統領)の勝負ではない。それは私とこの国を破壊しようとする者、とりわけシリア国内のテロリストとの間の問題だ。我々がテロリストを排除し、シリアで安定を回復すれば、そこが我々がシリア人として勝利できる場所となる…。もちろん、彼ら(米国)は(アサド政権退陣という試みにおいて)成功しなかった。しかし、彼らの計画が成功しなかったからと言って…、そのことは我々が戦争に勝利したことを意味しない
「私は他の国の大統領が言うことなど気にしていない。私が大事だと思っているのはシリア国民が何を望むかだ。国民が私にとどまって欲しいと思えば、とどまるし、去って欲しいと思えば、去る」。
「ダーイシュは(シリアと米国の)共通の敵ではない。なぜなら我々はダーイシュだけでなく、シャームの民のヌスラ戦線やアル=カーイダとつながりのあるシリア国内のすべての組織と本気で戦っているからだ…。一方、米国はテロ組織を利用してシリア政府を倒そうとしてきた」。
「(米国大統領選挙後の米国との関係に関して)我々はいつも米国の新大統領が前任者よりも賢明であることを望んでいる…。しかし実際にはさして違いはないだろう。我々は希望を持ち続けるが、この希望に賭けることはしない…。米国人どうしの争い(大統領選挙)についてあまり気にはしていない」。
「(ドナルド・トランプ氏がアサド大統領を「悪い奴」と評していることに関して)それは彼の個人的見解だ。私を「良い奴」だと思ってもらう必要もない。私にとって重要なのは、シリア国民が私を「良い奴」ないしは「悪い奴」と見ることで、米国人やその大統領、あるいは大統領候補がどう見るかではない」。
「(ヒラリー・クリントン氏がアサド大統領退陣を主唱してきたことに関して)危機当初から、「アサドは去るべき」という同じ発言を西側のあらゆる高官が繰り返してきたのを耳にしてきた…。しかし我々はそのことを気には留めていない…。私がシリア国民から指示を得ている限り、米国大統領を含めて外国の誰が何を言おうと気には留めない…。クリントン、トランプ、オバマが何を言おうと関係ないと言っているのはそのためだ…。米国が世界中にさらなる混乱をもたらすことに関心があるかどうかは…、誰が大統領になるかとは別の問題だ」。
「(ダーイシュが米国を攻撃しようとしていることを知ったら、米国にそれを警告するか、との問いに対して)「原則的にはする。なぜなら、彼らは民間人を攻撃するからで…、それは正しい行為ではないからだ…。私はこれまで何度も、米国が我が国を占領しない限りは直接の敵とはならない、と言ってきた。しかし同時に…、我々と米国の間には関係はなかった。情報交換や協力関係は、政治的協力に根ざした治安部門での協力が必要だが、そうしたものはない」。
「我々が(シリアで)ダーイシュを打ち負かすことができれば、我々は世界を救うことになる…。ただし、彼らをここで打ち負かし、さらに彼らが(欧州などの出身国に)戻ることができないようになって、我々は他者を救うことができる。彼らが帰国してしまえば、世界中にとって危険な存在になる」。
「(シリア軍が無差別な攻撃を行っているのでは、との質問に対して)我々は米国がアフガニスタンで使用した無人航空機や高性能ミサイルと同じ、正確な兵器を使用している。これまでに米国はどれだけのテロリストを殲滅してきたのか? 米国は同時に多くの民間人や無実の人々も殺してきた」。
「あなたは、軍によって何ヶ月、何年も包囲されている地域があると言う。そこでは食糧や基本的な物資がなく、政府がそれを禁じている、という。しかし同時に、彼らは2年間も戦い続けている、と…。つまり、こうした話に従うと、我々は彼らが武器を得ることを許しているが、食糧を与えようとしていないということになる…。こうした説明は矛盾している」。
「(シリア軍がマリア・コルヴィン氏を攻撃し死亡させたのか、との問いに対して)違う。軍はマリア・コルヴィン氏がどこにいるかなど承知していなかった…。なぜなら、今起こっているのは戦争で、彼女はシリアに不法入国し、テロリストとともに活動していたからだ。彼女は不法入国したのだから、彼女の身に起きることの責任は彼女にある…。我々はシリアに合法的にやって来る人々に関しては責任を負う」。
「我々が危機当初に下して決定は二つある。テロリストから我々の国を守ること…、そしてすべての人と対話を行うことだ。我々は武器を棄てる意思のあるテロ組織とでも対話をしてきた…。テロリストがいない地域を攻撃するといった決定は一度も下していない」。
「(シリア軍が市民を殺害していることにアサド大統領が気を留めない、とする記者の発言に対して)この手の質問は、次のような質問に答えるのなら、答えたい。100万人ものイラク人が2003年のイラク戦争以降死亡していることに関して、あなたはジョージ・ブッシュ前大統領を追究するのか…。私は原則について話しているのだ。同じ原則についてだ。彼は主権国家を攻撃したが、私は自分の国を防衛している。一つの基準を用いるのと、ダブルスタンダードに依拠するのは別問題だ…。私は米国の聴衆に語っているのだ。この二つのことから答えを類推すべきだと…。彼がイラク国民をイラクで殺す一方、我々は世界中からやって来たテロリストに主に対峙し、国を守っている。そうすることが我々の権利だ。犠牲者が出ず、民間人や無垢の人々が殺されない「きれいな戦争」について話すのであれば、そんなものは存在しない。そのような戦争は誰もできない」。
AFP, July 14, 2016、AP, July 14, 2016、ARA News, July 14, 2016、Champress, July 14, 2016、al-Hayat, July 15, 2016、Iraqi News, July 14, 2016、Kull-na Shuraka’, July 14, 2016、al-Mada Press, July 14, 2016、Naharnet, July 14, 2016、NBC, July 14, 2016、NNA, July 14, 2016、Reuters, July 14, 2016、SANA, July 14, 2016、UPI, July 14, 2016などをもとに作成。
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