ホワイト・ヘルメットとは何者か?

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シリア:ホワイト・ヘルメットとは何者か?

2016年10月07日付 その他紙

■ホワイト・ヘルメット:疑惑に満ちた人道事業

【ベイルート:al-Safir*】

2016年のノーベル平和賞受賞者の氏名が今日発表されるノルウェーの首都オスローに注目が集まっている。ノーベル研究所発表によると、今年の受賞候補者は、376の個人・団体に達するが、有力な候補者のなかにあって、欧米諸国から異例とも言える支援を受けるシリアの団体の存在がとりわけ目立っている。「ホワイト・ヘルメット」、あるいは「シリア民間防衛隊」の名で知られる組織が、ローマ法王フランシスコ、アンゲラ・メルケル独首相、昨年欧州諸国の海岸に押し寄せた難民数十万人の救出や支援に貢献したギリシャの島々の住民と接戦を繰り広げているのだ。

受賞争いがヒートアップするなか、ノミネート数の多さがホワイト・ヘルメットにとって有利に働いている。彼らはまた、CNN、スカイ・ニュース、フォックス・ニュースといったテレビ・ネットワーク、『ワシントン・ポスト』、『ガーディアン』といった日刊紙など、米国や英国のさまざまなメディアで異例とも言える支持を受けてきた。さらに、ノミネートは、ホワイト・ヘルメットの隊員3人を題材としたドキュメンタリー・フィルムをネットフリックスが制作したのと時を同じくしている。このフィルムは現在、欧州諸国で公開されており、英王立国際問題研究所でも、募金活動の一環として上映会が開かれた。

■ホワイト・ヘルメットとは何者か?

ホワイト・ヘルメットは、アレッポ市民間防衛隊隊長のビーブルス・ミシュアル氏によると、「人命救助というスローガンを自らに課したチーム」だという。ミシュアル氏によると、「2011年のシリア革命開始を受けて登場した市民の(デモ)調整組織を母胎としている。これは(既存の)救援団体・組織が負傷者救出という任務を放棄したことを受けた動きで、2012年末に8県に約100のセンターを設置するかたちで成立した」という。また2013年には、アレッポ市内の複数の地区にセンターが設置されたという。

ホワイト・ヘルメットは約3,000人の「ボランティア」によって構成され、ラーイド・サーリフ氏がシリア国内の代表を務めている。彼らは声明で、シリア・ロシア両軍戦闘機の都市部に対する空爆による瓦礫のなかから5万1,000人以上を救出したと発表している。

■誰が背後にいるのか?

この組織の背景、財源について英国および米国の複数のインターネット・サイトが行ったの調査をまとめると、彼らは「欧米諸国政府が作り出し、一方で民間人救助のために活動する広告企業が売り込み、他方で米国のシリアへの軍事介入に向けたプロパガンダを拡散するのに貢献している」と言うことができる。

米国のオルターネットやカナダのグローバル・リサーチはホワイト・ヘルメットが米国の国際開発庁(USAID)、国務省、諜報機関、そして英国外務省の支援を受けて結成されたと述べている。また英国、日本、オランダがこのプロジェクトへの資金供与に貢献している。USAIDの文書によると、このプロジェクトに対して2,300万米ドルが拠出された。この額は、米国が「戦争地域の民生」を目的に行った支援のなかで最大規模だという。

個人単位で行われてきた国内での民間人の活動の取り組みをまとめ、「統合評議会」に統合する任務を負ったのが、2013年にトルコでホワイト・ヘルメットを結成した英国人のジェームズ・ルムジュリアー(James LeMesurier)氏だ。ルムジュリアー氏はサンドハースト王立陸軍士官学校を卒業し、コソヴォで北大西洋条約機構(NATO)の諜報調整官を務めた経歴の持ち主で、外交官として国連使節団で勤務した後、「民生組織」の教練分野で活動するようになった。英国、米国など多くの国から寄付金を得た彼のもとで、ボランティアの教練が開始された(米国務省はロジュムリアー氏の教練プロジェクトを支援するため、たびたび資金援助を行い、その額は一度に30万ドルに及ぶこともあった。加えて、USAIDもその後、2,300米ドルを供与した)。

■ホワイト・ヘルメットと「ヌスラ戦線」

ホワイト・ヘルメットを支援するメディアでのキャンペーンが行われるなか、世界中の複数のインターネット・サイトは、活動家レベル、そして政治志向やイデオロギー志向といったレベルでのホワイト・ヘルメットと「シャームの民のヌスラ戦線」(現「シャーム・ファトフ戦線」)の関係を監視してきた。英国のUKコラム・ニュースは、「ホワイト・ヘルメット:人道主義者か死刑執行人か?」と題した特集番組(https://youtu.be/IVVAmJ-NVN4)を放映した。この番組は、ホワイト・ヘルメットのボランティアたちが、ヌスラ戦線の犯罪を隠蔽するなどの非人道的行為に関わっていることを示す一連の証拠を紹介した。例えば、ホワイト・ヘルメットの一団がヌスラ戦線による民間人の処刑に立ち会い、処刑後に遺体を処分する様子を撮った映像は、インターネットで公開されては削除された。またこの特集番組では、多くのボランティアがヌスラ戦線に参加して戦闘するシーン、さらにはボランティアがヌスラ戦線のスローガンを連呼したり、ヌスラ戦線によって処刑されたシリア軍兵士の遺体の上でヌスラ戦線の旗を掲げたりしているシーンを撮った写真や映像が紹介された。

Youtube, August 19, 2016

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al-Akhbar, April 30, 2016

al-Akhbar, April 30, 2016

al-Akhbar, April 30, 2016

al-Akhbar, April 30, 2016

ヌスラ戦線とホワイト・ヘルメットは密接な関係にあるがゆえに、ロシア政府は9月19日にアレッポ市近郊で支援物資を積んだ車列に対する攻撃の責任がホワイト・ヘルメットにあると非難した。ロシアがシリア領内で軍事作戦を開始して以降、ホワイト・ヘルメットはシリア軍やロシアに対抗するための広告塔となり、そこでは、民間人への砲撃、即決処刑、遺体切断といった過激派の犯罪行為が指摘されることはなかった。

ホワイト・ヘルメットは、様々な方法を駆使してシリア軍やロシアに嫌疑をかけるために活動している疑いもある。複数の活動家によると、2015年9月にホワイト・ヘルメットのツイッター・アカウントで公開された負傷した女児の写真とそこに添えられていた「(この女児は)ロシア軍の空爆の犠牲者で、ヒムスでは民間人33人が死亡した」という書き込みは、その一例だという。しかし、その後、この写真は、ホワイト・ヘルメットが主張した「攻撃」発生の5日前に別の場所で撮影されていたことが判明した。

al-Akhbar, April 30, 2016

al-Akhbar, April 30, 2016

ホワイト・ヘルメットは、武装勢力、具体的にはヌスラ戦線の支配下にある地域で大衆基盤を持っている点を特徴としている。アレッポ市の住民の一人アブー・ムハンマド氏は『サフィール』紙に対して「ホワイト・ヘルメットは自発的に活動していると言ってよく、事件現場にすぐさま駆けつけてくれる」と述べたうえで、親類の一人がメンバーとして活動していることを明らかにした。

一方、ボランティアの一人は、匿名を条件に『サフィール』紙に対して、ホワイト・ヘルメットが国際社会や支援諸国と関係を築いていることは承知していないとしつつも、「昨年(2015年)になって外国の専門家がやって来た」と指摘、「彼らのもとで、メディアへの登場を想定した訓練が、救助活動の基礎的訓練とともに、我々に対して施された」と明かした。

ホワイト・ヘルメットのメンバーには、その活動のすべてを記録し、写真やビデオを撮影・制作するメディア・チームが同行している。彼らは世界中のメディアで写真やビデオを拡散することに大いに貢献し、きわめて多くのメディアで共感を得ることに成功した。また、さまざまな武装勢力が、ホワイト・ヘルメットが活動できるよう便宜を図っている。

「ホワイト・ヘルメット」は、ヌスラ戦線の本拠地であるイドリブ県であれ、現在、シリア内戦における最激戦地と目されているアレッポ市であれ、シリア北部で精力的に活動している。一部の消息筋は、ホワイト・ヘルメットの任務の一つが「テロ組織のもとで市民生活が営まれているというイメージを与えることで、テロ組織の犯罪を隠蔽するために活動している」と見ている。

ホワイト・ヘルメットが欧米諸国の庇護を受けるかたちで「人道的」な「売り込み」活動を行う一方で、多くの消息筋が、ホワイト・ヘルメットの活動と米諜報機関を結びつけている。一部では、ホワイト・ヘルメットが米諜報機関と過激派を強固に結びつける要素となっているとさえ見る向きもある。また、シリア国内でのホワイト・ヘルメットの活動を統括するラーイド・サーリフ代表が2015年5月に訪米した際、米政府が彼の入国を禁じたことに関して、ホワイト・ヘルメットとテロ組織の関係を示す証拠だと考える者もいる。『ニューヨーク・タイムズ』紙は、その直後「テロとつながりがある者の入国阻止を目的として、諜報機関が作成したデータベースに、サーリフ氏の名前が記載されていたか否かは明らされてない」というコメントを掲載している。

*al-Safirは、al-Naharと並ぶレバノンの大手日刊紙。2005年の「杉の木革命」まではシリア政府に批判的だったが、2006年のレバノン紛争以降はシリア政府寄りの論調が目立つようになっている。

この記事の原文はこちら

(翻訳者:メディア翻訳アラビア語班)

この論考は東京外国語大学が運営する「日本語で読む世界のメディア」(TUFS Media)の翻訳記事(記事ID:41425)をそのまま転載しました。