パリで開かれたシリアの友連絡グループ会合で仏大統領および米国務長官がロシアによるアサド政権支援を非難する一方、軍・治安部隊がイドリブ県ラターミナ町を制圧(2012年7月6日)

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シリアの友連絡グループ会合

パリでシリアの友連絡グループの会合が開かれ、西側諸国、湾岸諸国、国際機関の代表など107国・団体の代表が参加し、フランソワ・オランド仏大統領やヒラリー・クリントン米国務長官が、ロシアと中国によるアサド政権支援を非難し、自国の無能を取り繕おうとした。

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オランド大統領は、ジュネーブ会議の合意が「正しい方向へのステップだが、完全に満足のいくものではない」としたうえで、シリアの危機が国際の安定と平和を脅かしていると指摘、反体制勢力への全面支援を訴え、自らの発言とは裏腹に危機をさらに煽った。

またロシアと中国に関しては、「政権打倒が混乱をもたらすと恐れている者は、この体制が混乱と不安定化をもたらしていることを直視せねばならない」と述べた。

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クリントン国務長官は、ロシアと中国にアサド政権支持を止め、シリアの友連絡グループに参加し、政権支持の代表を払うべきだ、と述べた。

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サウジアラビアのアブドゥルアズィーズ・ビン・アブドゥッラー外務副大臣は、国連憲章第7章に依拠してアナン特使の停戦案履行をめざすべきだと主張した。

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在外の反体制勢力の一つ、シリア国民評議会はアブドゥルバースィト・スィーダー事務局長が代表として参加した。

スィーダー事務局長は、アサド政権が徐々に支配力を失っているとの見方を示したうえで、飛行禁止空域や人道回廊の設置を通じた軍事介入を求める一方、国連憲章第7章に基づいた制裁発動を呼びかけた。

また「アラウィー派の同胞に対して、彼らが国民の一部で、我々が彼らを差別することはないと言いたい」と敢えて述べ、国内の宗派主義的な亀裂を強調した。

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参加国は閉幕時に声明を発表した。その内容の骨子は以下の通り:

1. 移行プロセスの信頼を損ねる人物を排除する必要、アサド大統領退任の必要を確認。
2. 反体制勢力の相互間および外国との通信手段確保を支援。
3. シリア国民への支援と、人道に対する罪など、一連の権利侵害の責任者の処罰のための情報収集。
4. 国連憲章第7章第41条に依拠したシリア政府への制裁決議の採択を安保理に要求。

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次回はモロッコが会合を主催する予定。

マナーフ・トゥラース准将の逃走

「アフバール・シャルク」(7月6日付)はシリア政府に近い消息筋の話として、トゥラース准将はラスタン地方、ダルアー県での反体制勢力との和解交渉を担当していたが、成果が上げられず、数ヶ月前に軍務を離れ、ダマスカスで「軍服を脱ぎ、私服をまとい、髭と髪を伸ばして」暮らしていた、という。

al-Hayat, July 8, 2012

al-Hayat, July 8, 2012

別の消息筋によると、トゥラース准将は今年2~3月のヒムス市バーブ・アムル地区制圧に際して、同地区攻撃部隊の指揮を拒否し、政府との関係が悪化、自宅軟禁状態にあった、という。

また同消息筋によると、トゥラース准将は少将への昇進をアサド大統領に願い出たが拒否され、立腹していた。

なおトゥラース准将のおじのアブドゥッラッザーク・トゥラース氏は自由シリア軍のファールーク大隊の司令官として国内で反体制武装闘争を指導している。

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フランスのローラン・ファビウス外務大臣はシリアの友連絡グループでの会合で記者団に対して「彼はパリに向かっている」と述べ、シリア国内から逃走したマナーフ・トゥラース准将がフランスに向かっていることを明らかにした。

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米国防総省報道官は、マナーフ・トゥラース准将の離反に関して、「この離反を歓迎し、重要な出来事だとみなす」と述べた。

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シリア国民評議会はアブドゥルバースィト・スィーダー事務局長は、マナーフ・トゥラース准将の離反をアサド政権への「大きな打撃」だとしたうえで、同准将と「協力」する移行を示した。

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マナーフ・トゥラース准将はAFP(7月6日付)に対してメールを送り、自身がシリア国外に逃走した事実を認めた。

メール全文は以下の通り。

حفاظا على مبادئي العسكرية وعلى حبي للوطن، لقد حاولت دائما القيام بواجبي حرصا على الحفاظ على وحدة الوطن والشعب طبقا لما يمليه ضميري علي. لم أدخل المؤسسة العسكرية مؤمنا يوما… أنني أرى هذا الجيش يواجه شعبه، وخاصة أن الحل السياسي لم يستنزف بعد.

ويجدر بالذكر أن سبب امتناعي عن تأدية مها مي ومسؤولياتي داخل الجيش يكمن في أنني لم أوافق إطلاقا على سير العمليات الإجرامية والعنف الغير مبرر الذي سار عليه نظام الأسد منذ أشهر عديدة.

فاليوم أدعو زملائي العسكريين مهما تكن رتبهم والذين ينجرون في قتال ضد شعبهم ومبادئهم إلى عدم تأييد هذا المصار المنحرف. وأقر بشرعية النضال الذي تقوده المعارضة وخاصة

على الأرض. وأشكر كل من مكنوني من مغادرة الأراضي السورية التي أصبحت فيها حياتي وحياة أقاربي مهددة وفي خطر. وبعد أيام قليلة سأتكلم بشكل مفصل عن دوافعي وخطواتي نحو المستقبل.

عاشت سوريا أرضا وشعبا !

العميد مناف طلاس

国内の暴力

イドリブ県では、反体制武装集団戦闘員のアブー・ハマームなる活動家は、自由シリア軍が弾薬を使い果たし、ラターミナ町から撤退し、軍・治安部隊が同市を制圧したと語った。

また反体制活動家によると、軍・治安部隊はヘリコプターなどを動員し、ハーン・シャイフーン市の反体制武装集団を掃討、同市を制圧した。

一方、シリア人権監視団によると、マアッラト・ニウマーン地方で反対武装集団が軍の兵員輸送車を爆破し、8人を殺害した。

他方、SANA(7月6日付)によると、アリーハ市郊外で軍・治安部隊と武装テロ集団が交戦し、ムハンマド・アブドゥルカーディル・ハリーマ、ジュムア・ザーヒル、ハーニー・ザーヒルらを含むテロリスト多数が死亡した。

またハーン・シャイフーン市では治安維持部隊が掃討作戦を行った。

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ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、カフルスーサ区で軍・治安部隊と反体制武装集団が交戦した。

また軍・治安部隊は市内中心地のサーリヒーヤ区で逮捕・摘発活動を行った。

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ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、ダーライヤー市での砲撃で、1人が死亡した。

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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、ナワー市での砲撃で、5人が死亡した。

この砲撃に関して、ハウラーン調整の報道官を名のるルワイユ・ラシュダーンなる活動家によると、自由シリア軍が市内の軍事情報局のビルを襲撃したことの報復として、軍・治安部隊が砲撃を加えた、という。

一方、SANA(7月6日付)によると、ナワー市にある武装テロ集団のアジトを治安維持部隊が攻撃し、テロリストのフサイン・ヤースィーン・ディヤーを殺害した。

攻撃では治安維持部隊兵士2人も負傷した。

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ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団によると、ブーカマール市で軍・治安部隊と反体制武装集団が交戦した。

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アレッポ県では、アレッポ・トルコ街道で軍・治安部隊と反体制武装集団が交戦し、軍・治安部隊兵士6人が殺害された。

またシリア革命総合委員会によると、フライターン市で軍・治安部隊の掃討作戦が続いた。

一方、『ザマーン・ワスル』(7月6日付)は、自由シリア軍がアレッポ県アアザーズ市でロシア人の狙撃主を身柄拘束したと報じた。真偽は定かでない。

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ヒムス県では、地元調整所為委員会によると、ヒムス市クスール地区、ジャウバル区、スライマーニーヤ地区などで砲撃が続いた。

一方、SANA(7月6日付)によると、クサイル市近郊のアクラビーヤ市、ラブラ村、ナザーリーヤ市で軍・治安部隊と武装テロ集団が交戦し、テロリスト多数が死亡、大量の武器弾薬が押収された。

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スワイダー県では、『クッルナー・シュラカー』(7月10日付)は、スワイダー市で反体制活動家2人の葬儀が行われ、会葬者数千人がその後反体制デモを行ったと報じた。

デモに対して、政治治安部は催涙弾などを使用して強制排除、市民約50人を逮捕した。

反体制勢力の動き

反体制活動家はフェイスブックなどを通じて「人民解放戦争」と銘打って反体制デモを呼びかけた。

しかし金曜礼拝後の反体制デモはこれまでになく低調で、アラブの主要メディアはほとんど報じなかった。

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シリア・ムスリム同胞団は声明を出し、パリでのシリアの友連絡グループを「ロシアと中国の拒否権によってもたらされた安保理の機能不全に対処する動き」だと高く評価した。

諸外国の動き

ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官は「ロシアはシリアのあれこれの政治ボスを支援する事には関心はなく、政府と反体制勢力の代表どうしの不可欠な対話がなされることに関心がある」と述べた。

イタルタス通信(7月6日付)が報じた。

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国連総会で、米国とトルコが提出したシリア非難決議が41カ国の賛成で採択された。

ロシア、中国は決議案に反対、ウガンダ、フィリピン、インドは棄権した。

決議は、シリア国内での人権侵害、シャッビーハによる犯罪、政府の民間人に対する「無差別」な弾圧を非難、すべての当事者に暴力停止を求めている。

またアナン特使の停戦案実行を妨げる障害だと非難している。

採択に際して、ロシアは「シリア国内でのテロ活動を強く非難する」との文言の追加修正を求めたが、47カ国がこれを拒否した。

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国連人道問題調整室(OCHA)は、シリア国内の暴力によって国外避難民が急増し、その数は10万3000人に達したと発表した。

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アナン特使は『ル・モンド』(7月6日付)に対して、「この危機は16ヵ月間続いているが、私の介入は3ヵ月前に始まった。この状況を平和的・政治的に解決するため最大限の努力を払ってきたが、まだ成功していない。また我々が成功する保障もない」と述べた。

またアナン特使は『ガーディアン』(7月6日付)に対して、「ロシア、西側、アラブ諸国が破壊的な対立を止め、発砲を停止させ、政治プロセスを開始させなければ、シリアは内戦に向かうだろう」と述べた。

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トルコのハタイ県(シリア領アレキサンドレッタ地方)のヤイラダーイ市にあるシリア人避難民キャンプで火災が発生し、2人が死亡、2人がやけどを負った。

AFP, July 6, 2012、Akhbar al-Sharq, July 6, 2012、The Guardian, July 6, 2012、al-Hayat, July 7, 2012, July 10, 2012、Kull-na Shuraka, July 6, 2012、Le Monde, July 6, 2012、Naharnet.com, July 6, 2012、Reuters, July 6, 2012、SANA, July 6, 2012、Zaman al-Wasl, July 6, 2012などをもとに作成。

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