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国内の主な動き
アサド大統領は、テロ撲滅に関する3法(2012年法律第19、20、21号)を施行した。いずれも人民議会で6月28日に承認された法案。
法律第19号(テロ撲滅法)は、「テロ行為」を「人々の間で混乱をもたらし、治安を麻痺させ、国家のインフラに損害を与え、武器・爆弾などをもって恐怖を与えるすべての行為」と定義し、また「テロ組織」を「テロ行為を目的とした3人以上の集団」と定義し、それぞれを刑事罰に処することを定めている。
具体的には、テロ行為を行ったものに対して最高で無期懲役刑を科すことを定めている。
また、テロ組織の結成、組織、運営に関わった者に10~20年の懲役刑、テロ組織のメンバーに7年の懲役刑、テロ組織への資金支援者・教練者に10~20年の懲役刑、武器等の提供者に懲役15年(ただし武器提供の結果、殺人が発生した場合は死刑)を科すことを定めている。
法律第20号は、テロ活動を実行した公務員、テロ集団に所属した公務員、物心面でテロを支援した公務員の解職を定めている。
法律第21号は、誘拐罪に対して10~20年の懲役刑を科すことを定めている。
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『ワタン』(7月2日付)は、進歩国民戦線加盟政党以外の与党および野党からなる国民民主ブロックが現政権と反体制勢力双方が参加する「国民救済内閣」の発足を通じた危機解消と多元的民主的市民国家建設をもとめるイニシアチブ草案を発表したと報じた。
それによると、同イニシアチブ草案は、①シリア社会のすべての構成要素からなる制憲協会の設置(第1~2ヵ月目)、②同協会による新憲法草案作成および、軍事裁判所長を首座とする無所属委員会の設置、選挙法案作成、恩赦、被害者補償、国際機関参加のもとでの国民合意大会の開催(第3~4ヵ月目)、③国際機関による新憲法、選挙法、政党法などの実施状況監視(第5~7ヵ月目)、という3段階からなる。
国内の暴力
ダマスカス郊外県では、地元調整諸委員会によると、ドゥーマー市に軍・治安部隊の兵士数百人と戦車数十両が進入し、掃討作戦を行った。
シリア革命総合委員会によると、ハムーリーヤ市の農園が軍・治安部隊による砲撃に曝された。
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ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団によると、ダイル・ザウル市で迫撃砲が着弾し、4人が死亡した。
一方、SANA(7月2日付)によると、ダイル・ザウル市で、治安維持部隊が武装テロ集団と交戦し、テロリスト多数を殺害した。
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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、アアザーズ市で軍・治安部隊と反体制武装集団が交戦した。
一方、SANA(7月2日付)によると、アアザーズ市で治安維持部隊が武装テロ集団と交戦し、テロリスト多数を殺害した。
また、アレッポ市西部では治安維持部隊と武装テロ集団が交戦し、前者が2人、後者が多数死亡した。
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ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ラスタン市での砲撃により1人が死亡した。
また同監視団や地元調整諸委員会によると、ヒムス市ハーリディーヤ地区やタッルカラフ市も砲撃に曝された。
一方、SANA(7月2日付)によると、武装テロ集団がマリーミーン村の襲撃を試みたが、村人によって撃退された。
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ハマー県では、シリア人権監視団やシリア革命総合委員会によると、ハルファーヤー市やドゥーマー村に対する軍・治安部隊の掃討作戦が続いた。
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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、東ガーリヤ町、西ガーリヤ村、ヌアイマ村に対する軍・治安部隊の砲撃・掃討作戦が続いた。
シリア反体制勢力大会(カイロ)
アラブ連盟の主催のもと、カイロでシリア反体制勢力大会が開催され、主にシリア国外に滞在する反体制活動家約250人が出席した。
参加したのは、シリア国民評議会、シリア・クルド国民評議会、民主的諸勢力国民調整委員会、シリア民主フォーラム、シリア・アラブ部族評議会、シリア民主世俗主義諸勢力連立、自由革命家連合、シリア革命調整連合(スハイル・アタースィー女史)、シリアのための国民行動グループ(アフマド・ラマダーン)など。
大会には、アラブ連盟首脳会議議長国のイラク、連盟の今期の議長国であるクウェート、シリア危機に関する委員会の議長国であるカタールの外務大臣、アナン特使が出席したほか、そしてシリアの友連絡グループを代表した、トルコ、チュニジア、フランスの外務大臣が招聘された。
大会では、準備委員会が準備した二つの文書、①新憲法制定のための「国民誓約文書」案、②アサド政権打倒および政権打倒後の移行期間に関する「政権打倒・移行期間文書」案の審議が予定されている。両文書の原案はhttp://alhayat.com/Details/415574。
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アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長は開会式で「シリア国民の犠牲は…党派間の対立以上に深刻だ。反体制勢力が統一できないと非難する者たちにチャンスを与えようにしなければならない。隊列を統一せねばならない」と力説した。
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開会式に出席したエジプトのムハンマド・ムルシー大統領は、「シリア国民の闘争の勝利と、国民の合法的且つ公正な要求すべての実現のための実質的なステップ」を踏み出すようシリアの反体制勢力に対して呼びかけた。
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シリア・クルド国民評議会の使節団は、大会において「政治的な分権主義」を求めるとの立場を明示した。
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地元調整諸委員会報道官のリーマー・フライハーン女史は、「大会への招聘に関して多くの間違いがあり、出席できない多くの人がいる」と述べ、国内の反体制活動家の多くが大会に参加できない実情に不満を表明した。
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自由シリア軍国内合同司令部のカースィム・サアドッディーン大佐は声明を出し、カイロで開催されているシリア反体制勢力大会へのボイコットを宣言した。
声明において、サアドッディーン大佐は「我々は、シリアの反体制勢力がカイロで開催している陰謀の大会への参加をボイコット、拒否する…。カイロで開かれている陰謀は、シリア国民の救済・保護のための国際的な軍事介入を拒否し、安全地帯、人道回廊、飛行禁止空域、そして国内の自由シリア軍への武器支援といったきわめて重要な問題を無視している…。(大会は)シリア政府の救済、政権との対話、罪人バッシャール・アサドが作り出した戦争政府において国民や子供を殺害している者たちとの合同政府の発足を求めたジュネーブ大会の危険な決定を受けるかたちで開催されている…。殺人犯罪集団とのいかなる対話や交渉も拒否する」と述べた。
なお同声明は、無所属革命運動との共同声明として発表された。
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このほか、調整連携事務局、そして各地の軍事評議会も、自由シリア軍国内合同司令部と同じく、カイロでのシリア反体制勢力大会をボイコットした。
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国内で反体制活動を続けるダマスカス民主変革宣言のアリー・アブドゥッラー氏は、カイロでのシリア反体制勢力大会に関して、「新たなことも重要なこともそこからは生じないだろう」と述べた。
AKI(7月2日付)が報じた。
その他の反体制勢力の動き
シリア国民評議会メンバーのファウワーズ・タッルー氏(イスタンブール在住)は、シリアの反体制勢力内にイスラーム主義者がいることの恐怖を米国が克服し、対戦車ロケット砲、ヘリコプターなどを供与すべきだとの見解を示した。
ロイター通信(7月2日付)が伝えた。
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シリア人権監視団は、6月30日に軍・治安部隊がダマスカス郊外県ザマルカー町の葬儀を砲撃し、65人が犠牲となったと発表した。
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シャームの民にヌスラ戦線は声明を出し、ダマスカス郊外県でのイフバーリーヤ・チャンネル施設に対するテロを認めた。
SANA(7月2日付)が報じた。
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アナトリア通信(7月2日付)は、シリア軍の上級士官3人、下士官18人、兵士85人が離反し、家族とともにトルコ領内に避難した、と報じた。その数は同報道によると、293人にのぼる、という。
レバノンの動き
LBC(7月2日付)などによると、シリア軍が北部県アッカール郡ワーディー・ハーリド地方に進入し、レバノンの総合情報総局の兵士2人を約1時間拘束した。
ミシェル・スライマーン大統領はこの事件に関して、国際法違反だと非難の意を示した。
またマルワーン・シルビル内務地方自治大臣も「シリア軍には身柄拘束する権限はない…。受け入れられない」と非難した。
その後、総合情報総局は声明を出し、出入国管理センターを襲撃した武装集団を追跡して、シリア軍がワーディー・ハーリド地方内に進入したと発表した。
なおこの襲撃により、シリアの国境警察1人が負傷した、という。
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進歩社会主義党のワリード・ジュンブラート党首は党機関誌『アンバー』で、「シリア国民はいずれ犯罪集団を打倒するだろう」と述べ、アサド政権を批判するとともに、ロシアとイランに対して、シリア政府ではなくシリア国民を支持するよう呼びかけた。
諸外国の動き
トルコ軍司令部は、F16戦闘機6機が、同国国境3カ所へのシリア軍のヘリコプター3機の接近を受け、スクランブルをかけたと発表した。
シリア軍ヘリコプターは、ハタイ県(シリア領アレキサンドレッタ地方)の国境地帯から3~4キロの地点を旋回したが、トルコ領空は侵犯しなかった、という。
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インテルファクス通信(7月2日付)は、ロシア軍消息筋の話として、シリア軍によるトルコ空軍機の撃墜に関して、撃墜がシリア領海上で行われたことを示す正確な情報をロシアが持っていると報じた。
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イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、外務安全保障委員会会合で、イランとヒズブッラーの支援がなければ、アサド政権は存続しないとの見方を示した。
AFP, July 2, 2012、Akhbar al-Sharq, July 2, 2012、AKI, July 2, 2012、al-Hayat, July 2, 2012, July 3, 2012、Kull-na Shurakaʼ, July 2, 2012、Naharnet.com, July 2, 2012、Reuters, July 2, 2012、SANA, July 2, 2012、al-Watan, July 2, 2012などをもとに作成。
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