安保理が6項目停戦案の受諾をアサド政権・反体制勢力に要求する議長声明を採択するなか、シリア国民評議会などが「シリア国民評議会組織改編合同委員会に関する声明」を発表(2012年4月5日)

SANA, April 5, 2012

SANA, April 5, 2012

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国連の動き

国連総会で、ナースィル・アブドゥルアズィーズ議長(カタール人)の要請に基づき、コフィ・アナン・シリア危機担当国連・アラブ連盟合同特使がシリア情勢に関する報告を行った。

この報告のなかで、アナン特使は「ダマスカス時間で4月12日午前6時がシリア政府と反体制勢力の発砲停止時刻となり、これを受け国際監視団が展開する」と述べた。

また暴力停止と「政府とすべての反体制勢力による包括的対話」を通じた政治的な解決が「急務」だと強調し、シリア政府が「増援部隊の一部が近く展開を完了」するとともに「イドリブ、ザバダーニー、ダルアーで軍が部分撤退を行った」と通達したことを明らかにした。

しかし「暴力が依然として続き、犠牲者が増えていることが懸念を高め、政府軍の市街地での作戦も停止されていない」と付言した。

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潘基文事務総長は国連総会で、アナン特使による任務が「シリア危機の平和的解決の最後のチャンス」だとしたうえで、「外交努力が失敗すれば、内戦が発生するだろう」と述べた。

また「暴力と民間人への脅迫は停止されていない」と述べた。

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アブドゥルアズィーズ総会議長(カタール人)は、アサド政権を執拗に批判するカタール政府の姿勢を代弁するかのように、「犠牲者の数は現在、9,000人を越えている。重要なのは実施であり、言葉でない」と述べ、アサド政権に一方的に暴力停止を求めた。

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国連安保理は議長声明(S/PREST/2012/10)を採択し、アナン特使の6項目停戦案の受諾をアサド政権と反体制勢力の双方に迫った。

同議長声明は、アサド政権に、人口密集地での作戦停止、重火器使用停止、撤退を至急実施することを求める一方、反体制勢力に対しても政権による暴力停止後48時間以内の戦闘停止を求めている。

議長声明全文は以下の通り(http://www.un.org/News/Press/docs/2012/sc10601.doc.htm)。

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“The Security Council recalls its presidential statements of 3 August 2011 and 21 March 2012 and its press statement of 1 March 2012.

“The Security Council reaffirms its strong commitment to the sovereignty, independence, unity, and territorial integrity of Syria, and to the purposes and principles of the Charter.

“The Security Council expresses its appreciation for the 2 April 2012 briefing of the Joint Special Envoy of the United Nations and the League of Arab States, Kofi Annan. The Security Council notes that the Syrian Government committed on 25 March 2012 to implement the Envoy’s six-point proposal.

“The Security Council calls upon the Syrian Government to implement urgently and visibly its commitments, as it agreed to do in its communication to the Envoy of 1 April, to (a) cease troop movements towards population centres, (b) cease all use of heavy weapons in such centres, and (c) begin pullback of military concentrations in and around population centres, and to fulfil these in their entirety by no later than 10 April 2012.
“The Security Council calls upon all parties, including the opposition, to cease armed violence in all its forms within 48 hours of the implementation in their entirety by the Syrian Government of measures (a), (b), (c) above. The Security Council further calls upon the opposition to engage with the Envoy in this regard.

“The Security Council underscores the importance of an effective and credible United Nations supervision mechanism in Syria to monitor a cessation of armed violence in all its forms by all parties and relevant aspects of the Envoy’s six-point proposal. The Security Council requests the Secretary-General to provide proposals for such a mechanism as soon as appropriate, after consultations with the Government of Syria. The Security Council stands ready to consider these proposals and to authorize an effective and impartial supervision mechanism upon implementation of a cessation of armed violence in all its forms by all parties.

“The Security Council underscores the central importance of a peaceful political settlement to the Syrian crisis and reiterates its call for the urgent, comprehensive, and immediate implementation of all aspects of the Envoy’s six-point proposal. The Security Council reiterates its full support for the Envoy’s six-point proposal aimed at bringing an immediate end to all violence and human rights violations, securing humanitarian access and facilitating a Syrian-led political transition leading to a democratic, plural political system, in which citizens are equal regardless of their affiliations, ethnicities or beliefs, including through commencing a comprehensive political dialogue between the Syrian Government and the whole spectrum of the Syrian opposition.

“The Security Council reiterates its call forthe Syrian authorities to allow immediate, full and unimpeded access of humanitarian personnel to all populations in need of assistance, in accordance with international law and guiding principles of humanitarian assistance. The Security Council calls upon all parties in Syria, in particular the Syrian authorities, to cooperate fully with the United Nations and relevant humanitarian organizations to facilitate the provision of humanitarian assistance. To this end, the Security Council calls on all parties to immediately implement a daily two-hour humanitarian pause as called for in the Envoy’s six-point proposal.

“The Security Council requests the Envoy to update the Council on the cessation of violence in accordance with the above timeline, and progress towards implementation of his six-point proposal in its entirety. In the light of these reports, the Security Council will consider further steps as appropriate.”

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ロシア外務省によると、セルゲイ・ラブロフ外務大臣は、アナン特使と電話会談を行い、そのなかで国連安保理議長声明が、シリアの反体制勢力に対して停戦案受諾の最終期限を科すものだと理解したうえで支持する旨、伝えた。

そのうえで、西側諸国に関しては、依然としてアサド政権に対して「警告や脅迫」を声明を通じて発しようとしている者がいると暗に批判した。

アサド政権の動き

シリア高官(匿名)は、『ハヤート』(4月6日付)などの取材に対して、「アナン特使が武装テロ集団への武器資金供与停止の保障を得ることで、彼の停戦案実施が完了する」と述べ、西側諸国、湾岸アラブ諸国の介入の排除が停戦の条件になるとの見解を示した。

同高官は「シリア政府が一方の当事者だが、もう一方の当事者が不明瞭だ…。(アナン特使の和平案にシリア政府が合意した際)アナン特使がテロリストを武装解除させ、彼らへの武器親近援助を停止させるために活動する必要がある点が確認された」としたうえで、「域内の国がテロリストに武器資金援助を行うと表明しているなかで、同時にシリアに暴力停止を求めることなどできない」と主張した。

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『ワタン』(4月5日付)はシリア高官の話として、シリア軍の都市部からの撤退が、4月10日という期限とではなく、「他の当事者(反体制武装集団)によるアナン特使の停戦案受諾の程度」と関わっている、と述べたと報じ、反体制勢力の活動が収束しない場合、軍の展開が続く可能性を示唆した。

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シリアのバッシャール・ジャアファリー国連常駐代表は、SANA(4月5日付)を通じて、自身の総会での発言時にアブドゥルアズィーズ国連総会議長がテレビ放送を中断し、メディア関係者の退出を求めたと抗議の意を示し、同議長がカタールとサウジアラビアの方針に沿って会議を利用していると批判した。

国内の暴力

al-Hayat, April 6, 2012

al-Hayat, April 6, 2012

「調整」や「革命評議会」の活動家らが、ダマスカス県、アレッポ県などで弾圧が激化したと宣伝し、停戦実施予定日(4月10日)が近づくなかで、都市部での軍・治安部隊による攻撃が続いていることを強調した。

しかし、これらの宣伝は、停戦実施予定日が近づくにつれ、死者数を明示しないなど「粗雑さ」が目立っており、アサド政権側の発表と同様、そのほどんとの真偽は実証できない。

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ダマスカス県・ダマスカス郊外県では、ダマスカス郊外県革命指導評議会、シリア人権監視団、シリア革命指導評議会(アフマド・ハティーブ氏)によると、ドゥーマー市で複数の爆発(シリア人権監視団によると18回以上)と重火器による銃撃が発生した。

軍・治安部隊が4日未明にドゥーマー市に増援部隊を派遣し、同市に砲撃を加え、その後自由シリア軍が隣接するバサーティーン市に撤退した、という。

この攻撃により、多数の死傷者が出たというが、人数は発表されなかった。

複数の活動家によると、ランクース市でも軍・治安部隊が約50輌の戦車を展開し、ザバダーニー市、マダーヤー町、ワーディー・バラダー地方、グータ東部でも軍・治安部隊の掃討作戦が続いている、という。

ダマスカス革命指導評議会によると、空軍情報部がラウワーン地方で青年2人を殺害した(シリア人権監視団はカフスルーサ地区で殺害されたと発表している)ほか、ダマスカス県内のカフルスーサ区、カダム区、カーブーン区、バルザ区、ダマスカス郊外県ハジャル・アスワド市で軍・治安部隊が発砲、サーリヒーヤ区では無差別逮捕が行われた、という。

地元調整諸委員会はダマスカス郊外県ハラスター市で軍・治安部隊と離反兵が交戦した、と発表した。

ザバダーニー調整のアブドゥッラー・アブドゥッラフマーンを名のる活動家によると、ザバダーニー市からの軍の撤退という政府側の発表は「正しくなく、依然として検問所を設置し、往来を制限している」という。

ダマスカス県・ダマスカス郊外県調整連合のムハンマド・シャーミー氏によると、ダマスカス県ジャウバル区で軍・治安部隊と離反兵が交戦した。

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アレッポ県では、アレッポ調整連合(ムハンマド・ハラビー)などによると、アナダーン市、フライターン市、ハイヤーン町、アターリブ市に対して、軍・治安部隊がヘリコプターなどを動員して砲撃を加え、また軍・治安部隊と離反兵の交戦が続いた。

シリア人権監視団によると、これにより、軍兵士3人が死亡した、という。

これに対し、SANA(4月5日付)は、ユーフラテス川沿いの灌漑施設を武装テロ集団が破壊した、と報じた。

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イドリブ県では、複数の活動家によると、ザーウィヤ山の対シリア国境地帯で軍・治安部隊と離反兵による交戦が発生した。

シリア人権監視団によると、ハーン・シャイフーン市で治安部隊が離反兵1人を射殺した。

シリア革命総合委員会によると、タフタナーズ市で、軍・治安部隊がヘリコプターなどを動員し、離反兵に対する掃討作戦を展開し、数十人が死亡した、という。

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ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ラスタン市で軍・治安部隊の砲撃によって4人が死亡した。

これに対し、SANA(4月5日付)は、タッルカラフ地方でレバノンから潜入を試みた武装テロ集団を拘束し、大量の武器を押収したと報じた。

また同報道によると、クサイル市近郊で、治安部隊と武装テロ集団が交戦し、テロリスト2人を殺害、多数を逮捕、武器・弾薬を押収した。

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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、カフルシャムス町、ヤードゥーダ村、インヒル市、ムザイリーブ町、ブスル・ハリール市などで治安部隊による逮捕・摘発が行われた。

またヌアイマ村では離反兵が軍車輌を要撃し、2人を殺害した。

一方、調整諸委員会によると、ダルアー大学で学生が反体制デモを行った。

国内のその他の動き

『クッルナー・シュラカー』(4月5日付)によると、トルコ政府がアサド政権に対する西側のバッシングに与するなか、ハサカ県ダワーディヤ村でPKK系のクルド民族主義政党、民主統一党の支持者が、アブドゥッラ・オジャラン氏の63歳の誕生日を祝う祝典を開催した。

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アラビーヤ(4月5日付)は、レバノン民主主義人権機構から得た情報として、レバノンの山地県アレイ市で失踪(2011年5月)したシブリー・アイサミー氏(バアス党創設者の一人、ドゥルーズ派)がダマスカス県マッザ区にかる空軍情報部の拘置所で死亡した、と報じた。

国外の反体制勢力の動き

シリア人権監視団は、「多くの農村地域で砲撃と作戦が続くなかで、一部の地域からの軍の撤退について言及することはできない…。必要なのは即時撤退であり、メディアでの撤退(宣言)ではない」と述べた。

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シリア国民評議会などの反体制活動家が「シリア国民評議会組織改編合同委員会に関する声明」を発表し、反体制勢力の結集・統一のための組織改編のための委員会が設置されたことを宣言した。

同委員会のメンバーは以下の通り。

シリア国民評議会:アナス・アブダ、ジョルジュ・サブラー、サミール・ナッシャール、アブドゥルアハド・イスティーフー、ナズィール・ハキーム。
その他:アブドゥッラッザーク・イード、イマード・ラシード、アンマール・クルビー、ナウワーフ・バシール、ワリード・ブンニー。

AFP, April 5, 2012、Akhbar al-Sharq, April 5, 2012、al-Hayat, April 6, 2012、Kull-na Shuraka’, April 5, 2012、Naharnet.com, April 5,
2012、Reuters, April 5, 2012、SANA, April 5, 2012、al-Watan, April 5, 2012などをもとに作成。

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