各地で体制打倒および自由シリア軍への武器供与を求める「数万人」規模の反体制デモが組織されるなか、アサド政権が国連上層部に「あらゆるテロ行為への資金提供を禁止するための必要な措置」を講じるよう要請(2012年4月6日)

Contents

国内の暴力

『ハヤート』(4月7日付)は、反体制勢力の情報をもとに、各地で「数万人」が反体制デモを行い、「複数の活動家や目撃者によると民間人と軍人合わせて少なくとも40人が死亡した」と報じた。

**

ヒムス県では、『ハヤート』(4月7日付)によると、ヒムス市各地に対する砲撃で離反兵4人を含む10人が死亡した。

またマヒーン町では、離反兵との交戦で、軍兵士2人が殺害され、ハウラ地方では軍・治安部隊の発砲で数十人が負傷した、という。

一方、SANA(4月6日付)によると、ヒムス市各地区など県内各地、軍・治安部隊と武装テロ集団が交戦し、テロリスト多数を殺害、逮捕した。

**

ダマスカス郊外県では、『ハヤート』(4月7日付)によると、ドゥーマー市で治安部隊が女性1人を射殺した。

またドゥマイル市では、離反兵との戦闘で軍兵士1人が、サクバー市、アルバイン市、バサーティーン市周辺では兵士3人が殺害された、という。

一方、SANA(4月6日付)によると、ドゥーマー市では軍・治安部隊と武装テロ集団が交戦し、テロリスト3人を殺害、多数を逮捕した。

**

イドリブ県では、『ハヤート』(4月7日付)によると、ハーン・シャイフーン市で軍に逮捕されていた男性の遺体が発見された。

ロイター通信(4月6日付)は、タフタナーズ市からトルコに避難してきたムハンマド・ハティーブ氏の話として、「軍は建物が灰になるまで砲撃して破壊した…。軍は人々に家から出て行くように求めた。住民が拒否すると、彼らが中にいるまま家々を破壊した」と伝えた。

AP(4月6日付)は、ファーディー・ヤースィーン氏なる活動家の話として、タフタナーズ市での掃討作戦を終え、軍が撤退した後、住民が数十人の民間人が遺棄されている集団墓地を発見した、と報じた。

**

アレッポ県では、『ハヤート』(4月7日付)によると、アナダーン市、フライターン市での軍・治安部隊と離反兵の戦闘で、市民7人、兵士4人が死亡した。

一方、SANA(4月6日付)によると、アナダーン市を軍・治安部隊が武装テロ集団との交戦のち、同市を制圧した。

**

ハマー県では、『ハヤート』(4月7日付)によると、ハルファーヤー市で治安部隊が男性1人を射殺した。

**

ダルアー県では、SANA(4月6日付)によると、ゴラン高原のサヒム村で武装テロ集団が市民1人を脅迫の末に殺害した。

反体制デモ

シリア人権監視団はAFP(4月6日付)の取材に対して、軍・治安部隊が厳戒態勢を敷いていたにもかかわらず、「数万人」が「ダルアー、ダマスカス、アレッポ、カーミシュリー、ダイル・ザウル」で反体制デモを行ったと述べた。

しかし、そこで主唱された「自由シリア軍への武器供与」はデモの「平和性」や「民主性」に疑問を投げかけるものだった。

なおこの好戦的な要求は、主に在外の反体制勢力がフェイスブックなどでは「攻撃を準備する者なら攻撃する」金曜日と銘打って呼びかけていたものである。

**

Kull-na Shurakāʼ, April 6, 2012

Kull-na Shurakaʼ, April 6, 2012

ダマスカス県・ダマスカス郊外県では、ダマスカス革命指導評議会のディーブ・ディマシュキーなる活動家によると、クドスィーヤー市、ザバダーニー市、マイダーン地区、アサーリー地区、カダム区、マッザ区などで反体制デモが行われ、体制打倒と自由シリア軍への武器供与が叫ばれた。

**

アレッポ県では、アレッポ調整連合報道官のムハンマド・ハラビーを名のる活動家によると、アレッポ市内32カ所でデモが発生し、各デモで数百人から数千人を動員し、体制打倒と自由シリア軍への武器供与を訴えた。

**

ハマー県では、ハマー・革命指導評議会のアブー・ガーズィーをなのる活動家によると、ハマー市各地、カルナーズ町で金曜礼拝後に反体制デモが発生し、カルナーズ町では治安部隊がデモ参加者に発砲した。

**

ダルアー県では、ハウラーン調整のルワイユ・ラシュダーンなる活動家によると、ハッターブ村で「過去数週間で最大規模の」デモが実施され、軍・治安部隊による掃討作戦への怒りが表明された。

またブスル・ハリール市でも数千人がデモを行った、という。

**

ハサカ県では、『クッルナー・シュラカー』(4月6日付)は、カーミシュリー市、アームーダー市、ラアス・アイン市、ハサカ市、ダルバースィーヤ市などで、クルド人らが反体制デモを行った。

その他のシリア国内での動き

Kull-na Shurakāʼ, April 6, 2012

Kull-na Shurakaʼ, April 6, 2012

シリアン・デイズ(4月6日付)は、ダマスカスのダマスローズ・ホテル(旧メリディアン、旧デデマン)の経営者にブサイナ・シャアバーン大統領府情報顧問の長男のムスナー・サーリフ氏が就任したと報じた。

ラミヤー・アースィー観光大臣が任命した。

シリア政府の動き

SANA(4月6日付)は、シリア政府が国連事務総長、安保理議長に宛てに書簡を送付し、「あらゆるテロ行為への資金提供を禁止するための必要な措置」を講じるよう要請した、と報じた。

同書簡はまた、シリア政府がアナン特使の和平案を受諾して以降、武装テロ集団のテロ行為と、複数の当事者による扇動がエスカレートしている、と西側諸国、トルコ、湾岸アラブ諸国の姿勢を暗に非難した。

**

ロイター通信(4月6日付)はフェイスブック「シリア軍の高名なる兵士達」(Shurafā’ Jaysh al-Sūrī)が反体制運動掃討作戦での軍・治安部隊、シャッビーハの被害に関する統計データを発表したと報じた。

それによると、反体制勢力との戦闘で死亡したシリア軍・治安部隊、シャッビーハは50,000人以上。

うち6,000人以上がアラウィー派だが、政府は遺族への補償ができないため、その氏名を公表していない、という。

また死亡した兵士らの約70%がヒムス県ガーブ地方、タルトゥース県ミスヤーフ地方、タルトゥース県およびラタキア県の海岸地方、ヒムス市郊外、アレッポ市郊外の出身者だという。

一方、脱走兵の数は10万人を越え、ダルアー県ハウラーン地方の兵士は99%、20,000人以上が離反し、うち半数がヨルダンに避難した、という。

このほか、同統計は、戦車368輌、装甲車379輌、軍用バス146輌などが破壊されたとしている。

**

『ザマーン・ワスル』(4月6日付)は、ヒムス市インシャーアート地区およびワーディー・ザハブ地区の信頼できる消息筋の話として、軍・治安部隊が両地区を房する高さ3メートルの壁の建設を始めた、と報じた。

また同消息筋は、シリア政府がヒムス市バーブ・アムル地区を閉鎖し、住民を強制移住させ、政権支持者を新たに居住させていることを明らかにした。

**

UPI(4月6日付)は、シリア司法当局が、政権を離反したアブドゥー・フサームッディーン石油次官の資産を凍結した、と報じた。

**

『ハヤート』(4月7日付)は、ナジーブ・ミーカーティー内閣の複数の消息筋の話として、シリア当局がレバノンに避難したシリア人避難民の引き渡しを求めている、と報じた。

国内の反体制勢力の動き

『クッルナー・シュラカー』(4月6日付)は、シリア・クルド国民評議会およびクルド人の青年調整諸組織が2012年3月7日に、西クルディスタン人民評議会と相互協力・調整を継続し、すべてのクルド人居住地区におけるあらゆるレベルでの努力を統合するための合同諸委員会設置準備を開始することで合意していた、と報じた。

西クルディスタン人民評議会はPKK系のクルド民族主義政党民主統一党の支持者らが結成した自治組織で、両者はアサド政権による反体制勢力弾圧に協力的な姿勢をとっている。

**

「アフバール・シャルク」(4月6日付)は、シリア当局が4月4日に、汚職撲滅委員会(内閣担当国務大臣付)前委員長(2002~2005年)で国民民主イニシアチブのメンバーのフサイン・ムルヒジュ・アンマーシュ氏を逮捕した、と報じた。

国民民主イニシアチブはムハンマド・サルマーン元情報大臣が国内で結成した政治組織。

在外の反体制勢力の動き

自由シリア軍司令官のリヤード・アスアド大佐は、ロイター通信(4月6日付)に対して、シリア大統領が最終期限の来週木曜日(4月10日)までに戦車と軍を撤退させれば、アナン特使の停戦案を履行すると述べた。

アスアド大佐はアナン特使の使節団と今週会談し、その旨伝えたというが、会談場所、使節団メンバーについては明らかにしなかった。

**

シリア・ムスリム同胞団は声明を出し、アサド政権は国家を代表する正統性を失っていると改めて主張、2011年3月15日以降の政権との契約の一切は無効であり、履行不要であると国民に対して呼びかけた。

レバノンの動き

『サフィール』(4月6日付)はUNHCRの代表がヒズブッラー幹部と、レバノン国内のシリア人避難民の現状に関して意見を交換したと報じた。

同報道によると、両者は2週間前に会合を行い、レバノン国内のシリア人避難民の救済について議論、ヒズブッラー側はレバノン国内での避難民キャンプ設置に難色を示すとともに、ナジーブ・ミーカーティー内閣のみが避難民救済の権限を持っていると主張した、という。

**

米国務省のマーク・トナー副報道官は、レバノン軍団のサミール・ジャアジャア代表暗殺未遂計画の発覚に関して、アサド政権とヒズブッラーへの批判的姿勢ゆえに標的とされた、と述べた。

諸外国の動き

トルコのアフメト・ダウトオール外務大臣はテレビで、「我々はシリア人避難民の受け入れの努力を惜しまないが、もしこのようなペースが続けば、国連や国際社会の介入が必要となる」と述べた。

またダウトオール外務大臣は国連の潘基文事務総長と電話会談を行い、トルコ領内でのシリア人避難民の「現地状況を監視」するための高官派遣を要請し、「バッシャール・アサド(大統領)がアナン特使の停戦案を実行すると述べて以降、避難民流入のペースが倍増した…。彼(アサド大統領)に次官を与える者は、シリア人避難民が増加している事実を知るべきだ」と述べた。

一方、トルコの複数高官は4月5日だけで2,800人以上のシリア人が国内での砲撃、逮捕・摘発を恐れて、トルコ領内に避難してきたと述べた。

高官の一人はロイター通信(4月6日付)に対して、シリア人避難民をハタイ県(シリア領アレキサンドレッタ地方のレイハンリにあるキャンプに44台のバスで移動させた、という。

複数の反体制活動家とトルコ高官によると、シリア軍・治安部隊はイドリブ県の対トルコ国境地帯に地雷を敷設し、離反兵の潜入・脱出や避難民の脱出を阻止しようとしている。

**

イスラエル紙『ハアレツ』(4月6日付)は、イスラエル国防省筋の話として、ヒズブッラーとイラン(革命防衛隊)がアサド政権への武器供与、軍事教練など軍事支援を増加させている、と報じた。

AFP, April 6, 2012、Akhbar al-Sharq, April 6, 2012, April 7, 2012、AP, April 6, 2012、Haaretz, April 6, 2012、al-Hayat, April 7, 2012、Kull-na Shuraka’, April 6, 2012、Naharnet.com, April 6,
2012、al-Safir, April 6, 2012、SANA, April 6, 2012、Syrian Days, April 6, 2012、UPI, April 6, 2012、Zaman al-Wasl, April 6, 2012などをもとに作成。

(C)青山弘之 All rights reserved.