UNSMISの派遣をめぐりロシアと西側が相次いで安保理決議案を提出、一方国連事務総長はアサド政権のみに停戦を呼びかけ(2012年4月20日)

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国内の暴力

各地で金曜礼拝後に反体制デモが発生し、「数万人」が参加する一方、軍・治安部隊兵士18人を含む70人が死亡したと報じられたが、死者のほとんどは、治安部隊のデモ参加者への弾圧ではなく、軍・治安部隊と反体制勢力の戦闘によって発生した。

al-Hayat, April 21, 2012

al-Hayat, April 21, 2012

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反体制組織のシリア人権監視団によると、ダルアー県、ダマスカス県、ダマスカス郊外県、ヒムス県、ハマー県、イドリブ県、ダイル・ザウル県、ラタキア県、ハサカ県で体制打倒を求めるデモが金曜礼拝後に発生した。

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ダマスカス県・郊外県では、UPI(4月20日付)がダマスカス県のマアーッズ・シャーミーを名のる活動家の話として伝えたところによると、ドゥーマー市、カーブーン区、マイダーン地区、バルザ区、マッザ区などで、治安部隊が厳戒態勢を敷くなか、反体制デモが発生し、数万人が参加した。

これに対して、治安部隊は威嚇射撃などを行い強制排除した。

またシリア人権監視団などによると、バイト・サフム市、アサーリー地区でも反体制デモが発生した。

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ヒムス県では、ラスタン市で軍・治安部隊が掃討作戦を継続するなか、反体制デモが断行された、という。

またヒムス市では、サイフ・アラブを名のる活動家によると、ハーリディーヤ地区、ジャウラト・シヤーフ地区、旧市街に、軍・治安部隊が砲撃を加えた。

さらにクサイル調整のジャーッド・ヤマーニーを名のる活動家によると、軍・治安部隊がクサイル市を砲撃した。

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ハサカ県では、カーミシュリー市で反体制デモが実施された。

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アレッポ県では、アレッポ調整連合報道官のムハンマド・ハラビーなる活動家によると、アレッポ市内各所、バーブ市、アナダーン市、マーリア市、タッル・リフアト市、バヤーヌーン町、ダイル・ジャマール村など同市郊外の数十カ所で大規模なデモが発生した、という。

またシリア人権監視団によるとバーブ市での金曜礼拝後のデモで1人が死亡した、という。

一方、SANA(4月20日付)によると、アレッポ市内のダウワール・ハルワーニーヤで武装テロ集団が仕掛けた爆弾が爆発し、市民1人が死亡した。

また市内のサイフ・ダウラ地区のインターネットカフェが武装テロ集団に襲撃され、店長が殺害された。

さらにバーブ市では武装テロ集団の発砲で民間人4人が死亡、治安維持部隊兵士7人を含む15人が負傷した。

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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、フラーク市で反体制デモが発生する一方、インヒル市、ダルアー市などに軍・治安部隊が突入し、活動家の逮捕摘発を行った。

一方、SANA(4月20日付)によると、サフム・ジャウラーン村で武装テロ集団が治安維持部隊のバスを爆弾で爆破し、治安維持部隊兵士10人を殺害した。

また武装テロ集団が、ムハッジャ村と、スワイダー県に向かう街道にあるハルバー交差点でそれぞれ治安維持部隊を襲撃し、兵士2人を殺害した、という。

さらにジャースィム市では、武装テロ集団が小学校教員を暗殺した。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、ハマーマ村で軍・治安部隊の発砲で活動家1人が射殺された。

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ハマー県では、SANA(4月20日付)によると、ハマー市で武装テロ集団が治安維持部隊の車輌に発砲し、兵士3人が負傷、また別の武装テロ集団が治安維持部隊の兵士を狙撃・射殺した。

また同市内で武装テロ集団が仕掛けた爆弾が爆発し、民間人3人が負傷した。

さらにマアッル・ダッス橋、タイバト・イマーム市交差点近くで武装テロ集団が自爆攻撃を行い、治安維持部隊兵士2人が死亡、17人が負傷した。

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フェイスブックなどでは、反体制活動家が「我々は勝ち、アサドを打ち負かすだろう金曜日」で反体制デモを煽動していた。

反体制勢力の動き

反体制系通信社と目される『クッルナー・シュラカー』(4月20日付)は、フランス委任統治時代の1935年に作成された宗教・宗派分布地図を公開した。

Kull-na Shurakā’, April 20, 2012

Kull-na Shuraka’, April 20, 2012

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SANA(4月20日付)は、祖国シリア党(公認政党)が、経済通商省前で座り込みを行い、物価高騰に抗議、市民の安全と権利保護を監督する委員会の設置と、生活必需品の物価上昇時以前の価格への値下げを求めた。

アサド政権が野党によるデモ実施を認める(黙認ではなく)のは異例。

レバノンの動き

国連レバノン特別調整官のデレク・プルムブリー氏は、『ナハール』(4月20日付)に対して、レバノン国内にシリア人避難民キャンプを設営する計画はない、と述べた。

諸外国の動き

国連の潘基文事務総長は、国連安保理にUNSMISの派遣に関する早期の決議採択を求める一方、シリアでの暴力の継続に関して、「懸念を高める情報」があると述べ、アサド政権のみに停戦を呼びかけた。

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UNSMISの派遣をめぐって、ロシアと西側が相次いで安保理決議案を作成・提出した。

『ハヤート』(4月21日付)によると、ロシアの決議案は、アナン特使の停戦案とUNSMISの「即時」派遣を求めているほか、「すべての当事者」にUNSMISの安全を保障するよう呼びかけている。

一方、西側の決議案は、シリア政府が軍の住宅地からの撤退、重火器の使用停止など、アナン特使の和平案を完全履行したうえでのUNSMISの派遣を求める一方、アサド政権が決議内容に従わない場合、制裁を科すとの文言が含まれている、という。

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フランスのアラン・ジュペ外務大臣はテレビ番組で、UNSMISに関して、ヘリコプターを通じた500人規模の停戦監視が必要としたうえで、「数日中、ないしは数週間中に監視団の活動が成功しなければ、次の段階に入り、ヒラリー・クリントン米国務長官が指摘した通り、制裁や干渉のための新決議を準備する」と述べた。

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イラクのホシュヤール・ゼバリ外務大臣は『ハヤート』(4月21日付)に、「アナン特使の国際監視団のイニシアチブに積極的に対応」するようアサド政権に求め、「このイニシアチブを妨げることは代償を伴う」としたうえで、「シリア国内で完結した政治プロセスの開始が必要」と述べ、諸外国の介入を暗に牽制した。

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『毎日新聞(インターネット版)』(4月21日配信)によると、ジェイ・カーニー米大統領報道官は記者会見で、アサド政権の「崩壊間近」としてきた従来の認識を修正し、「政権の終幕時期を特定することは困難だ」との考え方を示し、同政権に対する西側の介入が奏功しないことを暗に認めた。

AFP, April 20, 2012、Akhbar al-Sharq, April 20, 2012、al-Hayat, April 21, 2012、Kull-na Shuraka’, April 20, 2012、al-Nahar, April 20, 2012、Naharnet.com, April 20, 2012、Reuter, April 20, 2012、SANA, April 20, 2012、UPI, April 20, 2012、『毎日新聞(インターネット版)』2012年4月21日配信などをもとに作成。

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