青山弘之「シリア紛争から3年:アサド政権と反体制勢力の暴力の応酬をめぐる「善」と「悪」
Asahi中東マガジン、2014年3月18日 http://middleeast.asahi.com/report/2014031600001.html
「シリア革命」と呼ばれた反体制運動が高揚し、シリアが未曾有の混乱に苛まれてから3月15日で3年が経った。「今世紀最悪の紛争」と評されるこの武力紛争は、「政権崩壊は時間の問題」といった主張が欧米諸国や日本のメディアから姿を消して以降、大きく取り上げられることはなくなった。2013年8月のダマスカス郊外県グータ地方での化学兵器使用を受けて、シリア情勢への関心はにわかに高まりを見せたが、そこで注目されたのは、シリアそのものというよりは、むしろバッシャール・アサド政権に「懲罰的」な攻撃を行おうとした米英仏のヒステリーだった。
シリアの紛争への関心が薄れるなか、「自由を求める無垢な市民に対する独裁政権の一方的弾圧」というイメージだけが記憶にとどまり、多くの人がそれを現実だと錯覚している。だが、今日のシリアはこうしたイメージでは到底理解し得ない結末へと向かっており、実態に即した理解と対応が求められている。
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「アラブの春」が波及するかたちで発生したシリアの紛争は、既存の政権(独裁政権)を「悪」、抗議行動を行う民衆を「善」と位置づけ、「悪」は滅び、その後に「善」なる「民主制」が実現する(実現せねばならない)という予定調和に沿って捉えられることが多い。しかし、拙稿(『混迷するシリア:歴史と政治構造から読み解く』岩波書店、2012年)で詳述した通り、この紛争は、争点や当事者を異にするさまざまな局面が折り重なるかたちで展開しており、重層性を無視した過度の単純化は、実態の把握を困難なものとした。
予定との調和を見せずに混迷を続けたシリア情勢は、中東政治を説明する際にしばしば引き合いに出される「宗派対立」という視点から説明されることもあった。アラウィー派政権とスンナ派からなる国民・反体制勢力の闘争、といった図式がそれである。しかし、宗派対立は、アサド政権を非難する欧米諸国と、シリアでのテロを自己正当化するアル=カーイダ系組織の言説が作り出す仮想現実だった。宗派への帰属やその教義は、…「続きはログイン・ご購入後に読めます」