2011年11月15日のシリア情勢

反体制勢力掃討

アラブ連盟の決議に伴うシリア・バッシングの激化に伴い、反体制人権団体は14日と15日の被害を加算して報じることで、事態の深刻さを印象づけようとした。

しかし被害状況を精査すると、11月に入ってからの死者数は2桁代で推移しているなか、被害者の増減は反体制勢力・離反兵だけでなく軍・治安部隊兵士の死者数によって左右されていることが分かり、反体制運動が「平和的民主化」の様相を失いつつあることがわかる。

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イドリブ県では、同監視団によると、カフルルーマー村で軍設備を標的とした爆破が3件発生した。また同村で離反兵と軍・治安部隊が交戦し、軍・治安部隊の兵士14人が殺害された。また子供1人が戦闘の巻き添えとなって死亡した。

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ダルアー県では、シリア人権監視団のラーミー・アブドゥッラフマーン所長によると、ハーッラ市で、離反兵と思われる武装集団と軍・治安部隊が衝突し、軍・治安部隊の兵士5人が殺害された。

また地元調整諸委員会によると、サナマイン市近郊に展開する第15旅団内でも激しい銃声が聞こえた、という。

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ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ヒムス市で身元不明の遺体19体が発見された。

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SANA(11月15日付)は、武装テロ集団から応酬したとされるハイテク機器(衛星電話など)を公開したと報じた。

SANA, November 15, 2011

SANA, November 15, 2011

反体制勢力の動き

シリア国民評議会の使節団がロシアの首都モスクワを訪問し、セルゲイ・ラヴロフ外務大臣と会談した。

使節団を率いたブルハーン・ガルユーン事務局長は、「体制内で血に手を染めていない勢力との対話の用意はある」としたうえで、「軍事介入や内戦を回避するために平和的政権移行」をめぐって交渉したいとの意思を伝えた。

また「アサドの辞任が交渉実施の余地を与える」として、ロシアにアサド大統領の退任を呼びかけるよう求めるとともに、アサド政権の人道に対する犯罪を支持する姿勢とも受けとれられない安保理での対シリア非難決議採択での拒否権発動を行わないよう訴えた。

ラヴロフ外相は使節団に対して、「国際監視団の派遣、メディアの入国許可といったアラブ連盟の決議のほとんどを支持する」と述べたが、国内で政府と対話を行い危機を解決することが重要であるとの主張を行った。また外務省声明によると、ロシア側は、シリアが直面する事態正常化に向けた建設的な姿勢、すべてのシリア人のための改革実施を強調する一方で、外国の軍事干渉に反対の意思を示した。

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シリア国民評議会執行部のバスマ・カドマーニー報道官は、16日に予定されているラバトでのアラブ連盟緊急外相会談に関して、民間人保護と監視団派遣のしくみを確定するよう求めた。

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AKI(11月14日付)は、アッシリア教徒の反体制活動家スライマーン・ユースフ氏が、キリスト教徒とりわけアッシリア教会が、現政権の保護を求めたり、現政権と運命をともにすることはないと述べたと報じた。

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国内で活動する反体制活動家のアーリフ・ダリーラ、ブトルス・ハッラーク、サミール・イータ、ハーズィム・ナハール、ミシェル・キールー、ムハンマド・マフルーフ、ファーイズ・サーラ、フサイン・アウダート、リヤード・ラビーウ、イリヤース・ワルダ、ザカリヤー・サッカール、ムンズィル・イスビル、サルキース・サルキース、ハビーブ・ハッダード、ムンズィル・バドル・ハッルームは連名でヒムス市でのあらゆる暴力停止を呼びかけた。

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シリア国民協会(2011年9月に発足した反体制組織)は11月15日、アラブ連盟に対して「アラブ抑止軍」の派遣を要請した。

アサド政権の動き

SANA(11月15日付)は、「シリアでの事件に関与したが、その手を血に染めていない逮捕者1,180人を釈放した」と発表した。

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シリア外務省は11月16日にモロッコのラバトで開催されるアラブ連盟緊急外相会談に欠席すると発表した。

SANA, November 15, 2011

SANA, November 15, 2011

当初はワリード・ムアッリム外務大臣が出席すると見られていた。

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ムハンマド・シャッアール内務大臣は殉教者バースィル・アサド警察アカデミーの研修生らの前で訓辞を述べ、武装テロ集団逮捕に引き続き努力するとの意思を表明した。

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アラブ社会主義バアス党民族指導部とシリア地域指導部は共同声明を出し、アラブ連盟の決議が、アラブの共同行動を傷つける危険な先例になると非難した。

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SANA(11月15日付)は、シリア各地で前日に引き続き、アラブ連盟の決議に抗議する小規模なデモが行われたと報じた。

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『クッルナー・シュラカー』(11月15日付)は、米『ニューヨーク・タイムズ』記者がトルコ高官に対して40分にわたりインタビューを行い、同高官が、「シリアにおける問題は、大統領の母、アニーサ・アフマド・マフルーフが息子のバッシャール・アサド大統領に、父ハーフィズ・アサド前大統領が1980年代にハマーで用いたのと同じ方法でシリアの現状に対処するよう忠告したことにあると述べたと報じた。image2

レバノンの動き

ナジーブ・ミーカーティー首相は閣議で、アラブ連盟外相会議での対シリア決議にレバノン代表が反対票を投じたことに関して、「徹頭徹尾、レバノン国内の安定を守るため」と述べた。

しかし『ハヤート』(11月16日付)は、ミーカーティー首相がGCC諸国大使との会談では「私が知らないところで、私との調整なしに行われ、それに驚いた」と述べたと報じた。

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自由国民潮流代表のミシェル・アウン元国軍司令官は、変化改革ブロックの定例会合後の記者会見で、アラブ連盟における対シリア決議採択に関して「アラブ諸国は誤った道を選んでしまった」と非難した。

諸外国の動き

GCCのアブドゥッラティーフ・ズィヤーニー事務局長は、アサド大統領によるアラブ連盟緊急首脳会談開催の要求に関して「GCCはこの時期の開催には効果がないと考えている」と述べた。

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トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相はAKP会合で「シリアの政府は非常に危険な道、刃のうえを進んでいる」と述べた。

Kull-nā Shurakā’, November 15, 2011

Kull-nā Shurakā’, November 15, 2011

エルドアン首相はシリア国内でのトルコ大使館、領事館への包囲に関して、「トルコ高官やトルコの旗に対する攻撃を改めて強く非難する。我々はシリア政府が直ちに謝罪に必要な措置をとることを望んでいる」としたうえで、「バッシャールよ、お前はトルコの旗を攻撃した者の処罰を求められている。我々はシリア政府にトルコ人やトルコの旗を尊重するよう望んでいるだけではない。自国民を尊重するよう望んでいる」と述べた。

そして「我々はもはやアサド政権が誠実で、勇敢で、満足行くような精緻な指導ができるとは思っていない」と述べ、アラブ連盟が加盟資格停止を行うことを評価した。

さらに「我々は現在(2006年以降)シリアに電気を供給している…。このような状況が続けば、この決定のすべてを再考せざるを得ない」と述べた。

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EUは官報で追加制裁(14日に決定)の対象となる18人の氏名を公開した。追加制裁の対象となった18人の氏名は以下の通り(『クッルナー・シュラカー』(11月15日付は対象となった18人に関する追加情報を発表した)。

ジュムア・アフマド准将(特殊部隊司令官)
ルワイユ・アリー大佐(軍事情報局ダルアー支部長)
アリー・アイユーブ中将(副参謀長、共和国護衛隊第105旅団の前司令官)
ジャースィム・フライジュ一等中将(参謀長)
アウス・アスラーン准将(共和国護衛隊付旅団長、アリー・アスラーン元参謀長の息子で故バースィル・アサドおよびアサド大統領の友人)
ガッサーン・ビラール准将(マーヒル・アサド大佐事務所長)
アブドゥッラー・ビッリー(ビッリー家の首領で、民兵を組織)
ジョルジュ・シャーウィー(シリア・インターネット軍メンバー)
ズハイル・ハマド少将(総合情報部次長、EUの官報には軍事情報局次長とある)
ウマル・イスマーイール(シリア・インターネット軍代表、民間人)
ムジャーヒド・イスマーイール(シリア・インターネット軍メンバー、シャッビーハのリーダー)
サクル・ハイルベク(内務次官)
ナズィーフ・ハッスーン少将(EUの官報には姓は明記されず、総合情報部次長)
キファーフ・ムルヒム(第4機甲師団付士官、故バースィル・アサドおよびアサド大統領の友人)
ワジーフ・ムハンマド少将(第18師団司令官)
バッサーム・サッバーグ弁護士(ラーミー・マフルーフ、ハドゥーン・マフルーフの法律顧問)
ターラー・ムスタファー・トゥラース(EUの官報には准将とされているが、ターラーは女性の名前。なおマナーフ・トゥラース准将の妻の名がターラー・ハイイル)
フアード・タウィール准将(空軍情報局次長)

なお8月以降の制裁を通じてEUが資産凍結とビザ発給停止の対象としたアサド政権高官らの数は56人におよぶ。

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米民主党のクリス・コーンズ上院議員、ボブ・カーシー上院議員、共和党のマーク・ケリー上院議員は、ヒラリー・クリントン国務長官、ジョン・ブライソン商務長官に書簡を提出し、アサド政権が反体制勢力を監視するためにインターネット監視システムを購入したとの情報への懸念を表明するとともに、調査を求めた。

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イランのIRNA通信は、アリー・アクバル・サーレヒー外務大臣がアルジェリアのムラード・マドリスィー外務大臣と電話会談を行い、シリアの改革を前進させることの必要を強調、また外国の介入を拒否するべきとの姿勢を明示したと報じた。

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パレスチナ解放人民戦線(DFLP)はパレスチナの政治組織のなかで初めて、アラブ連盟によるシリアの加盟資格凍結に関する声明を発表した。

DFLP政治局が発表した同声明のなかで、DFLPは「シリア、シリアの人民民主運動、アラブ地域全体、そして民族安全保障にマイナスに作用する可能性がある」と非難し、外国の干渉、とりわけNATOの軍事介入をもたらす危険への懸念を表明した。

またアラブ連盟の決議に対するパレスチナ代表の姿勢を「危険すべきだった」と述べ、賛成票を投じたことが、シオニズム・帝国主義の利益に資することになると非難した。

なおファタハ、ハマースをはじめとするパレスチナ諸勢力はシリアでの反体制運動に原則、不関与の方針をとっている。

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サウジアラビアのトゥルキー・ファイサル皇太子はワシントンDCでアサド大統領が暴力停止のためのアラブ連盟の努力に応えようとしなかったと非難し、「こうしたなかで、民衆の反体制運動はさらに増大し、殺戮行為も毎日繰り返されている。何らかのかたちで退任する以外に逃げ道はないと思う」と述べた。

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国連安保理はシリア国内での各国大使館包囲・襲撃に関して「深い懸念」を表明した。

AFP, November 15, 2011、Akhbār al-Sharq, November 15, 2011, November 16, 2011、AKI, November 15, 2011、Al-shorfa.com, November 19, 2011、al-Ḥayāt, November 16, 2011、Kull-nā Shurakā’, November 15, 2011, November 19, 2011、Naharnet.com,
November 15, 2011、Reuters, November 15, 2011、SANA, November 15, 2011などをもとに作成。

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