国民民主変革諸勢力国民調整委員会がシリア国民評議会と体制転覆後のビジョンに関して合意に達したと発表するも、後者はこれを否定したうえで自由シリア軍に対し「完全なる支援」を提供する意思を改めて明確にする(2011年12月31日のシリア情勢

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アラブ連盟監視団

クウェートの『アンバー』(12月31日付)のシリア人特派員フダー・アッブード氏は、「信頼できるシリアの複数の消息筋の話」としてダマスカス郊外県ハラスター市で30日、金曜礼拝後にアラブ連盟監視団の1人がデモ参加者に対して武器を持って反体制活動を行うよう煽動し、武器が配布されたと報じた。

SANA, December 31, 2011

SANA, December 31, 2011

『クッルナー・シュラカー』(12月31日付)によると、アッブード氏はシリアの総合情報部付大佐の妻だという。

反体制勢力の動き

国内で反体制活動を行う国民民主変革諸勢力国民調整委員会は声明を出し、在外のシリア国民評議会と体制転覆後の移行期間に関する行程表に関して合意に達したと発表した。

合意は29日にカイロで調印され、合意文書への署名はシリア国民評議会のブルハーン・ガルユーン事務局長と国民民主変革諸勢力国民調整委員会のハイサム・マンナーア氏が行った。

合意文書は、アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長に1月1日午後に提出される予定。

合意文書の骨子は以下の通り。

1. 主権、独立に抵触する外国の軍事干渉、アラブ連盟の干渉の拒否。
2. 民間人の保護。
3. 宗派主義的非難、扇動の拒否。
4. 民間人への発砲命令に対する士官・兵士の拒否の奨励・支持。
5. 現体制打倒から新憲法制定、国会選挙、大統領選出にいたるまでの移行期間を始動し、民主的市民的多元的体制を確立。
6. 現体制打倒後に暫定連立政権を樹立。暫定連立政権の任期は1年とし、一度だけ1年間任期を延長できる。
7. 国民主権、シリアの主権、独立、統合の維持、三権分立、市民的民主主義の確立。
8. シリア国民の基本的歴史的一員としてのクルド民族の存在の承認。
9. 基本的人権の保障、民族、宗教、宗派、人種に基づく暴力・差別の禁止。
10. 国際法の順守。

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しかし、シリア国民評議会における最大勢力のシリア・ムスリム同胞団のズハイル・サーリム報道官はロンドンで声明を出し、両組織の合意に関して、「文書の文言の議論、採否、宣言は、シリア国民評議会の諸機関において決定された原則・規則に従っていない」と非難し、それが依然として「議論の余地を残したヴィジョンに過ぎない」と却下した。

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これを受けるかたちで、シリア国民評議会のブルハーン・ガルユーン事務局長は声明を出し、合意文書の発表に関して、「国民民主諸勢力国民調整委員会が、文書案を双方の関係指導部での審理を経ずして最終合意として発表した」と述べ、「これは共同行動全体の基礎に反しており、今後の相互理解プログラムに対する最初の違反である」と非難した。

合意(案)そのものに関して、「シリアの領土保全と独立に抵触するような陸上部隊による外国の介入を拒否しているが、飛行禁止空域、航行禁止海域の設定を通じた緩衝地帯を設置するための外国の介入については合意している」と述べた。

またシリア国民評議会が「シリア・ファイルの国際問題化と、同ファイルの早急な安保理への付託」をめざすとともに、自由シリア軍への「完全なる支援」を行うとの立場を確認した。

一方、国民民主変革諸勢力国民調整委員会については「広範な大衆基盤を持っていない」と非難した。

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ガルユーン事務局長の声明を受け、国民民主変革諸勢力国民調整委員会在外事務局のハイサム・マンナーア代表は声明を出し、「シリアの民主的反体制勢力、アラブ同胞、国際世論に対して、事態に関する詳細な報告を提示し、とりわけ最近の会談の内容や国民調整委員会の使節団の視点について明らかにする必要が生じた」としたうえで近く反論する意思を示した。

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シリア国民評議会内のクルド・ブロックは声明を出し、同評議会と国民民主変革諸勢力国民調整委員会の合意文書成立の報道に関して、評議会の総合委員会がその内容を確認しないまま発表され、しかもこれまでの評議会の決定に反した内容を含むとして、同文書を不当なものとして拒否するとの意思を示した。

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シリアの俳優、音楽家、芸術家ら約160人が「自由のためのシリア芸術家・創作家連合」の名で共同声明を出し、アサド政権による弾圧を抑止するよう国際社会に呼びかけるとともに、市民的不服従を呼びかけた。

Kull-na Shuraka’, December 31, 2011

Kull-na Shuraka’, December 31, 2011

反体制運動掃討

シリア人権監視団によると、ダマスカス県ドゥーマー市で12月29日に死亡した犠牲者の葬儀に参列していた市民数千人が反体制デモを行い、治安当局が空砲などを発射し、強制排除を試みた。

また同監視団によると、イドリブ県イドリブ市で12月30日に死亡した犠牲者の葬儀に参列していた会葬者が反体制デモを行い、治安当局の発砲を受けた。

一方、ヒムス県でもタイバ村で12月30日に治安当局の発砲で負傷していた青年が死亡した。

SANA(12月31日付)によると、関係当局はヒムス県内の対レバノン国境のジスル・スワイド村で武装テロ集団が保有する大量の武器、弾薬、麻薬を押収した。

諸外国の動き

パレスチナのハマースのイブラーヒーム・ハニーヤ首相は、スイス滞在中にシリアの反体制活動家に対して、「我々の心はあなたたちとともにある、我々の本質的立場はあなたたちへの支持である」と述べた映像がYoutube(12月31日付)から配信された。

http://www.youtube.com/watch?v=fT_SBNsc2lA&feature=share

AFP, December 31, 2011、Akhbar al-Sharq, December 31, 2011, January 2, 2012、al-Anba’, December 31, 2011、al-Hayat, January 1, 2012, January 2, 2012、Kull-na Shuraka’, December 31, 2011、Reuters, December 31, 2011、SANA, December 31, 2011などをもとに作成。

 

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