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アサド大統領の演説
バッシャール・アサド大統領がダマスカス大学講堂で2時間にわたって演説を行った。
アサド大統領が演説するのは2011年3月の反体制運動開始以降4度目。
アサド大統領は演説で次のように述べた(アラビア語全文はhttp://www.sana.sy/ara/2/2012/01/10/393386.htmを参照)。
「外国の陰謀は誰にとってももはや隠し事ではない…。しかし現在、霧は晴れ、シリアの安定を揺るがそうとしていた(中東)地域や国際社会の当事者たちが現実や事態を欺くことなどできなくなっている」。
「もちろん彼ら(西側メディア)は一つのことを連呼している…。彼らは、国民や西側に対して、この人物(アサド大統領)は繭に閉じこもっていて、何が起きているかを知らない、と言うために、国のトップを標的にしようとしたのだ。彼らは国民、とりわけ在外居住者に対して、国のトップが責任を負っていないのなら…、収拾がつかなくなるのは当然だと言おうとしているのだ…。彼らは地位と責任を混同しているに過ぎない。2000年に、私は(大統領就任演説で)、「地位など望んでいないが、責任逃れはしない。地位に価値はない。それはツールに過ぎない、地位ばかり望む者は尊敬に値しない」と言っている」。
「彼ら(反体制分子)は当初、望まれるような革命をめざした。しかしあなたがたの彼らに対する革命、彼らの破壊行為に対する革命が彼らとそのとりまきたちの道を閉ざした。そしてあなたがたの統合力に衝撃を受けると、彼らはその統合力を解体しようと、宗派主義という武器を持ちだした…。この目的を実現する望みが絶たれると、彼らは今度は破壊・殺戮行為に出た…。彼らのこうした試みのすべてが破綻すると、外国の役割が生じた。外国の干渉以外に選択肢はなかったのだ。我々が通常、外国と言うと、(非アラブの)諸外国が思う浮かぶだろう。しかし残念なことに、この外国には、非アラブ諸国とアラブ諸国が混ざったものとなった。しかもこのアラブ諸国はしばしば非アラブ諸国以上に敵対的で邪悪であった…。アラブ諸国はその政策において統一されていない…。一部のアラブの高官は、我々を心情的に支持していても、政治的に反対してきた。なぜかと問うと、「私はあなたがたを支持していますが、外国の圧力があるのです」と彼らは言う」。
「我々が今日突如目にするようになったアラブの役割とは、これまでにアラブ諸国による関与ではなく…、外国や超大国の関与に際して目にしてきたものである。すなわち多くの場合、諸外国はアラブの国々を犠牲にして特定の国を救済したり、破壊してきた。イラクやリビアで起きたのはこうしたことである。しかし今日我々が目にしているのはアラブがシリアに対してこうした役割を果たそうとしている事態だ。安保理で自らの欺瞞で世界を満足させられなくなった彼らは、アラブという隠れ蓑が必要になった。アラブという地位が必要となった…。こうしてあの(アラブ連盟の)イニシアチブが登場した…。実際のところ、こうしたイニシアチブや監視団の問題をアラブ連盟の使節団に数ヶ月前に提案したのは私だった…。もちろんシリアのこうした提案への関心はまったくなかった。しかし数ヶ月後、突如として我々はこの問題が世界的な関心事になっていることを目にした…。なぜなら外国で監視団の名のもとに計略が始まったからである」。
「我々は今日、アラブ連盟を非難していない。なぜなら我々はその一部だからだ…。また私は、アラブ連盟、ないしは一部のアラブ諸国がシリアの加盟資格を剥奪・凍結したから、連盟について話すのではない…。人々の強い不満を目にしているから話すのだ…。アラブ連盟からの脱退や加盟資格などは問題ではない。問題なのは誰が損をするかだ。シリアが損をするのか、アラブ連盟が損をするのか?アラブ情勢が慢性的に劣悪である限り、我々皆が敗者なのだ…。心のない体が生きることができようか?シリアが鼓動するアラブの心臓だと言ったのはシリア人ではない。ガマール・アブドゥンナースィル(エジプト元大統領)がそういったのであり、この状況は今も続いている…。シリアにとってこうした問題、そしてアラブ性(ウルーバ)は単なるスローガンではなく行為である…。もし一部の国が我々のアラブ性を凍結しようとするなら、我々はこう言おう。彼らは連盟のアラブ性を凍結するが、シリアのアラブ性を凍結することはできないだろう。シリアなき連盟は凍結されたアラブ性となるだろう、と。シリアを連盟から排除できると考えている者がいるとしても、我々からアラブ性を排除することはできない。なぜならアラブ性とは単なる政治的な決定ではなく、遺産であり歴史そのものだからだ…。彼らはシリアを連盟から脱退させることに腐心しているのではなく、連盟にシリアの名を残したまま加盟資格を凍結することに腐心している。しかしそうしたことで、アラブ連盟は連盟でも、アラブ的でもなく、アラブを志向する(ムスタアリブ)連盟に成りさがり、相応しい政策や役割を果たさなくなるだろう…」。
「我々は今日、二つの側面から内政改革に取り組んでいる。第1に政治改革、そしてもう一つが腐敗との戦いである。改革プロセスに関して、今日我々が行っていることは、現下の危機を解決すると考えている者もいる…。しかしこの言葉は正しくない。我々はこうした理由で改革を行っているのではない。改革と現下の危機との間には限定的な関係しかない。破壊目的のために改革を主唱する者と真に改革を望む者を峻別するプロセスを決定した当初は、この関係は重要だったに過ぎない。だが峻別は終わった…。では改革プロセスと外国の計略との関係とはどのようなものか?我々が今日、改革を実行できれば、外国のシリアに対する計略は止むか?私はあなたがたにこう言いたい。外国、とりわけ西側でのシリア情勢に関する話の多くにおいて、犠牲者の数や改革に関心を示す者はほとんどいない。シリアの政策について話しているだけだ…。二つ目のポイントは改革とテロの関係のありように体現されている。我々が改革を実行すれば、テロはなくなるだろうか?殺戮や破壊を行うテロリストは政党法、選挙法、地方自治砲の類を望んでいるのか?テロリストにとって改革は意味はないし、関心事でもない。改革はテロリストがテロを行うことを封じるものではない…。大部分のシリア国民は改革を望み、法に背かず、人を殺さない。我々にとって改革は日常のプロセスなのだ」。
「(戒厳令解除、政党法制定、地方自治方改正、情報法制定などに加えて)、改革のもう一つの軸が憲法だ。(シリア・アラブ共和国憲法草案準備)委員会は最終段階に入り、憲法草案は複数政党制、政治的多元性といった本質的基礎に議論を集中させていると思う。委員会メンバーは憲法第8条について審議するだろう。我々は憲法を抜本的に改正せねばならないといった…。憲法は国家の法であるだけでなく、シリア国民一人一人に関わる問題だ。それゆえ、我々は委員会が任務を完了し、憲法草案を提示した後、それを国民投票にかける。憲法に関する国民投票は3月初めには行えるだろう」。
「現在、我々には危機に対処する新たな政治的行程表がある。また新憲法、政党法とともに、新たな政治勢力が台頭し、我々はこれらの勢力を考慮せねばならない…。私はこう言おう。中道派、反体制派、新体制派などすべての政治勢力を考慮せねばならないと。政府は祖国の政府であって、一政党、一国家機関の政府ではない。政府の拡大は良い発想だ…。どのように名づければよいかは分からないが、国民和解という人もいれば、参加拡大という人もいる。重要なのは我々はすべての勢力の参加を歓迎しているということであり、実際に我々が最近になって対話を開始したということだ…。我々が反体制勢力を含むすべての勢力の参加について話す際の反体制勢力とは誰だろうか?我々は大使館前に座り込み、国家と対話するなと言う外国からの指図を受けるような野党を望んでいるのではない…。国民的な基準、人材が確保できれば…、我々は今すぐにでもそうした政府を発足するために動きだろう…。我々はこの問題をまもなく始めるだろう」。
「戦争状態ないしは対決状態において、国というものはその優先事項を再編する。現下の最優先事項は…、治安の回復である…。これはテロリストを鉄拳で打ちのめすことなしには実現しない。テロとの休戦はなく、罪深い武器を用いて混乱や分裂を助長する者との協力はない。平和な市民を脅迫するものとの妥協もない。祖国と国民に敵対する外国人と結託する者との関係正常化はない」。
アサド政権の動き
『クッルナー・シュラカー』(1月10日付)は、アサド大統領の演説が行われた11時から午後まで全国で停電は一件も発生しなかったが、演説が終わった直後の午後1時に停電した、と報じた。
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SANA(1月9日付)によると、アサド大統領の演説内容を支持し、現政権による包括的改革の推進、挙国一致、外国の干渉拒否を訴える大規模集会が、アレッポ県アレッポ市、ラッカ県ラッカ市、スワイダー県スワイダー市、ダルアー県ダルアー市など各地で開催された。
反体制勢力の動き
パリで亡命生活を送る反体制活動家のアブドゥルハリーム・ハッダーム前副大統領はアラビーヤの単独インタビューに応え、「アサドはレバノン閣僚である私の友人の一人に、いかなる譲歩も行うつもりがないと述べ、もしそうすることを余儀なくされ、圧力が強まったら、国内で宗派間戦争を発生させ、海岸地域に国家を建設するだろうと告げた」と語った。
また国際社会、とりわけ西側諸国に対して、「シリア国民を保護するため、軍事的措置を含む真剣な措置を講じるべく安保理を通じて行動する」よう呼びかけた。
一方、シリア国民評議会に関して、「一部が政府との対話を支持し、政府への参加を狙っている。この点こそが、反体制勢力における最大の内部対立点で、彼らは二つの派閥、すなわち穏健派と、バッシャール・アサド打倒をめざす急進派に分かれてしまっている」と述べた。
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シリア国民評議会のブルハーン・ガルユーン事務局長はアサド大統領の演説に関して、「危機の政治的脱却のためのアラブおよびそれ以外の国々のあらゆるイニシアチブへの道を閉ざし、シリアをさらに悪い状態に追いやる」内容と非難し、アラブ連盟に対して、シリアをめぐる問題を国連に付託するよう改めて求めた。
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民主変革諸勢力国民調理委員会在外事務局のハイサム・マンナーア代表は、『ハヤート』(1月11日付)に対して、「(アサド大統領が呼びかけている)対話と我々は何の関係もない。もし明日、彼が私に組閣を要請したとしても、私は彼に、先ず大統領職を退任するよう求めるだろう」と批判した。
シリア革命支援国民連立は声明を出し、アサド大統領の演説に関して、「危機の存在を認めず、殺戮、逮捕といった罪を謝罪せず、陰謀の幻想に身を沈め、アラブ連盟を攻撃し、鉄拳による弾圧を続けることを約束した」と非難した。
国内の暴力
『クッルナー・シュラカー』(1月10日付)は、ハサカ県カーミシュリー市で、PKKに近いクルド民族主義政党の民主統一党に近いクルド人青年3人が殺害されたと報じた。
この3人は兄弟で、父親が民主統一党のメンバーだという。
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シリア人権監視団によると、ダイル・ザウル県ダイル・ザウル市で治安部隊がデモを弾圧、10人が殺害され、40人が負傷した。またヒムス県ヒムス市でも市民2人が殺害され、イドリブ県イブリーン村では士官の命令に背いた兵士が逃走しようとして殺害された、という。
さらにダマスカス郊外県ドゥーマー市では、殺害された離反兵の葬儀に数万人が参列したが、治安部隊によって強制排除された。
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シリア革命総合委員会によると、ダイル・ザウル県で反体制デモに対する治安部隊の弾圧で12人が殺害され、35人が負傷した。
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アラビーヤ(1月10日付)、ジャズィーラ(1月10日付)などは、ヒムス市で暮らすアッファーフ・マフムード・サラーキビーちゃん(4ヵ月)が国内の刑務所で拷問を受け、死亡したと報じ、遺体の映像・写真を公開した。
アラブ連盟監視団
クウェート軍参謀長府は、1月9日にラタキア県ラタキア市で、アラブ連盟監視団に参加しているクウェート軍士官2人が暴行を受け、軽傷を負い、病院に搬送されたと発表した。
ラタキア市を訪問した監視団は、クウェート、UAE、イラク、モロッコ、アルジェリアの士官から構成されていた。
アドナーン・ハディール作業部長は、デモ隊が監視団の車を襲ったことを明らかにしたうえで、この暴行事件によっても監視団の活動を中断することはなかったと述べた。
アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長は、暴行事件に関して強く批判し、「ラタキアなどに展開する監視団の不充分な補語は、シリア政府による本質的・体系的な不履行とみなされる」と述べ、アサド政権の「完全なる責任」を追求した。
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シリア外務省のジハード・マクディスィー報道官は声明を出し、ワリード・ムアッリム外務大臣がアラブ連盟監視団のムハンマド・アフマド・ムスタファー・ダービー氏と会談し、「監視団の安全と保護に対する責任を引き続き負い、その任務遂行を妨害するいかなる行動も許さない」ことを確認したと述べた。
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UAEのシャイフ・アブドゥッラー・ブン・ザーイド外務大臣は、アラブ連盟監視団の派遣後も「殺戮行為が減少しているとは思えず、監視団の行動に関してシリア側がコミットしているとも思えない。反体制勢力ではない一部の勢力によって残念ながら監視団は攻撃を受けている」と述べ、GCC諸国も参加している監視団への暴行について審議するよう、アラブ連盟事務総長に呼びかけた。
レバノンの動き
サウジアラビアで実質避難生活を送るレバノンのサアド・ハリーリー前首相はツイッターでアサド大統領の演説を「自分の国で起きていることを陰謀だとみなすことで現実から目を反らしている」と批判し、その姿勢を「滑稽」だとつぶやいた。
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レバノン軍団代表のサミール・ジャアジャア氏はアサド大統領の演説に関して記者団に「アサドは現地で実際に起きていることとは無縁の状態について語った…。陰謀だとしたらなぜ数十万の人々を動員できるのか理解できない…」と非難し、「シリアの事態が本当に陰謀によるものだとするなら、国連のもとで国民投票を行うだけで事は解決する…。そうすれば、アサドの陰謀説は検証される」と述べた。
諸外国の動き
イスラエル国防軍参謀長は、アサド政権が崩壊した場合、ゴラン高原のアラウィー派を難民として受け入れる用意があると述べた。
クネセト外務国防委員会報道官が発表した。
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SANA(1月10日付)は、日本(NHK)、イタリア、スペインの取材チームがダルアー県を訪問し、現地を視察・取材したと報じた。
AFP, January 10, 2012、Akhbar al-Sharq, January 10, 2012、Alarabia.com, January 10, 2012、Aljazeera.net, January 10, 2012、al-Hayat, January 11, 2012、Kull-na Shuraka’, January 10, 2012、Naharnet.com, January
10, 2012、Reuters, January 10, 2012、SANA, January 10, 2012、Twitter、Youtubeなどをもとに作成。
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