2012年3月21日のシリア情勢

国連の動き

国連安保理で、フランスが提案したシリア情勢に関する議長声明が、若干の修正を経て、全会一致で採択された。

国連安保理議長声明の骨子は以下の通り。

1. シリア情勢の悪化に対して重大な懸念と、数千人の犠牲者への深い哀悼の意を表明。

Kull-na Shuraka’, March 21, 2012

Kull-na Shuraka’, March 21, 2012

2. シリアの主権、独立、領土保全、国連憲章を尊重することを確認。
3. コフィ・アナン・シリア危機担当国連・アラブ連盟合同特使任命を歓迎。
4. アナン特使による6項目からなる停戦案を全面支持し、シリアが主導する政治プロセスにおいて特使と協力するとともに、戦闘停止と国連による停戦監視をめざす。
5. シリア政府に対する市街地での重火器の使用禁止と軍撤退、特使への協力を要請。また 1日2時間の休戦を実施し、人道支援の輸送を認めるよう求める。
6. 恣意的に逮捕された人々、平和的活動からの釈放の促進。
7. 報道関係者の国内での自由な移動。
8. 法律で定められた集会、デモの権利の尊重。
9. 特使への進捗状況の定期的報告の要請。と報告結果を鑑みて、必要に応じて別の措置を検討。

なおこの国連安保理議長声明により、アサド大統領の退任(副大統領への権限移譲)などを骨子としたアラブ連盟の行程表は事実上破棄された。

**

ロシアのヴィタリー・チュルキン国連代表大使は議長声明に関して、「我々は(アナン特使の停戦案に基づく)政治プロセスによってもたらされる結果を支持するだろう…。(安保理は)シリアの現状に関するプラグマティックなヴィジョンを採用するに至った。我々はシリア人に政治プロセスの主導権を委ねねばならない」と述べた。

**

西側各国は、議長声明の採択を歓迎するとともに、アサド政権に対してアナン特使のミッションに協力するよう改めて求めた。

ヒラリー・クリントン米国務長官は、「協力な声明は…積極的なステップである…。(安保理は)声を一つにして、国連監視下でのあらゆる発砲停止を求めた。これは政府軍の市街地からの撤退と人道支援を必要とするすべての地域への支援許可をもって始められる。またシリア国内で、すべてのシリア国民の合法的な提案に対処し、民主的転換に至るための政治プロセスをもって始められる」と述べるとともに、アサド政権に対して「この路線(アナン特使の停戦案)を採用するか、さらなる圧力と孤立に向かうか」の対応を決するよう呼びかけた。

**

国連の潘基文事務総長は、訪問先のジャカルタで、シリア情勢に関して、「危機は地域と世界を震撼させる結果をもたらすだろう…。我々は事態の収拾ときわめて危険なこの危機の解決に対して責任を有している」と述べた。

国内の反体制運動

SANA, March 21, 2012

SANA, March 21, 2012

SANA, March 21, 2012

SANA, March 21, 2012

ダマスカス郊外県では、『クッルナー・シュラカー』(3月21日付)は、ダマスカス郊外県のジャルマーナー市で約30人の妊婦がデモ弾圧で犠牲となった活動家の母たちとの連帯を訴えデモを行ったと報じた。

また同報道によると、ダマスカス郊外県アルトゥーズ地方で反体制デモを行ったクナイトラ県住民約30人が逮捕された、と報じた。

**

ヒムス県では、SANA(3月21日付)によると、ヒムス市で武装テロ集団が多数の市民が誘拐・殺害されたと報じた。また同市内クスール地区で武装テロ集団が、乗り合いタクシーを攻撃し、子供2人を殺害した、という。

**

ダルアー県では、SANA(3月21日付)によると、ダルアー市で武装テロ集団の発砲により市民1人が殺害された。

その他の国内の動き

SANA(3月21日付)は、ダマスカス県カッサーア地区のキリロス教会で、3月17日の自爆テロの追悼ミサが開かれたと報じた。

**

SANA(3月21日付)は、ダマスカス郊外県など全国でクルド人が21日にノウルーズ(クルド人の新年にあたる)で大々的に祝ったと報じた。

シリアでは3月21日は「母の日」の祝日に定められている。

**

SANA(3月21日付)は、国連のイスラーム諸国会議機構の合同使節団がイドリブ市を視察したと報じた。

**

『クッルナー・シュラカー』(3月23日付)は、PKK系のクルド民族主義政党、民主連合党が主催した21日のナウルーズの祝典が狙撃手による監視や厳重な警備のもとに行われた、と報じた。

反体制勢力の動き

AFP(3月21日付)は、「シャームの民のヌスラ(救済)戦線」を名のるイスラーム主義組織がウェブ上で映像を配信し、17日のダマスカス県内での同時自爆テロの犯行声明を発表した。

声明で同組織は「救済戦線の兵士は、複数県の体制の巣窟に対する一連の軍事作戦を実行した。そのもっとも顕著なものが、ダマスカスの空軍情報部施設と刑事保安局に対する攻撃だ」と述べ、このテロがアサド政権のヒムス市などへの掃討作戦への報復であることを明らかにした。

なお同組織は1月6日のダマスカス県内での自爆テロに関しても2月末に犯行を認めるビデオ映像を配信している。

**

国民変革潮流が声明を出し、国連安保理議長声明に関して、アナン特使による停戦に向けた努力を支持している点のみを高く評価すると述べ、条件付きで歓迎の意思を示すとともに、民間人保護のための軍事介入も含めた安保理決議の採択を改めて要求した。

レバノンの動き

NNA(3月21日付)は、ベカーア県バアルベック郡バニー・サフル地方でシリア領内から機関銃が撃ち込まれたと報じた。

諸外国の動き

AFP(3月21日付)は、EU外交筋の話として、EU外相会議で近く、イラン、ベラルーシ、シリアに対する追加制裁が審議される、と報じた。

同報道によると、シリアに関しては、これまで制裁リストに記載されている約150の個人、機関に加えて、新たに12人・機関を制裁対象にするという。

**

日本の外務省は「シリアにおける治安情勢の悪化に鑑み」、3月21日付でダマスカスの日本大使館を一時閉鎖すると発表した。

西側諸国および湾岸諸国は既に3月15日前後に在シリア大使館を閉鎖しているが、国連安保理で議長声明が採択され、シリアの危機回避をめぐる国際社会のコンセンサスが情勢されるなかでの大使館閉鎖は、アサド政権に対する圧力強化をめざす西側諸国との共同歩調と評価するには、時期を逸した感がある。

ただし、議長声明採択によってアサド政権の存続を前提とした国際協調が既定路線となりつつあるなか、大使館の一時閉鎖を通じて、同政権の正統性を(シリア国民の総意に配慮せず)否定してきた日本政府がシリアとの関係を「リセット」し、人道支援などのための関係再構築の布石とするなら、プラグマティクな政策決定として評価に値するだろう。

AFP, March 21, 2012、Akhbār al-Sharq, March 21, 2012、al-Ḥayāt, March 22, 2012、Kull-nā Shurakā’, March 21, 2012, March 23, 2012、Naharnet.com,
March 21, 2012、Reuters, March 21, 2012、SANA, March 21, 2012などをもとに作成。

(C)青山弘之All rights reserved.

カテゴリー: シリア政府の動き, レバノンの動き, 反体制勢力の動き, 国内の暴力, 諸外国の動き パーマリンク