シリア・ロシア軍がイドリブ県への攻撃を激化、シャーム解放機構の軍事部門公式報道官の殺害に成功、民間人4人も犠牲に(2021年6月10日)

イドリブ県では、シリア人権監視団、ドゥラル・シャーミーヤ(6月10日付)、ザマーン・ワスル(6月10日付)などによると、ロシア軍戦闘機が早朝、「決戦」作戦司令室の支配下にあるザーウィヤ山地方のカフル・ウワイド村、ファッティーラ村、マウザラ村、ハルーバ村、フライフィル村、マジュダリヤー村、カンダ村、サーン村に対して12回以上の爆撃を行った。

「決戦」作戦司令室は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構とトルコの庇護を受ける国民解放戦線(シリア国民軍)などからなる武装連合体。

また、シリア軍もザーウィヤ山地方のバイニーン村、バーラ村、サーン村一帯に対して迫撃砲・ロケット弾40発以上、地対地ミサイル20発以上を打ち込んで攻撃を行った。

シリア人権監視団によると、シリア軍の攻撃は、トルコ軍が「決戦」作戦司令室支配下のザーウィヤ山地方やイドリブ市一帯の各所に設置されている基地や拠点から、シリア政府支配下の県南部(カフルナブル市など)やサラーキブ市一帯を砲撃したことを受けて行われた。

シリア軍の反撃を受けて、トルコ軍は県南部、サラーキブ市一帯に対する砲撃を激化、シリア軍もバーラ村に設置されているトルコ軍の拠点一帯を狙って砲撃を行った。

一連の攻撃に関して、SANA(6月10日付)は、「ヌスラ戦線(シャーム解放機構)が率いるテロ組織」がカフルナブル市やサラーキブ市を迫撃砲やロケット弾で攻撃、住宅などに物的被害が出たと伝えた。

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シリア人権監視団によると、一連の戦闘でシャーム解放機構とシャームの鷹旅団の戦闘員8人と住民4人の合わせて12人が死亡、少なくとも11人が負傷した。

死亡した戦闘員8人のなかには、シャーム解放機構の軍事部門公式報道官のアブー・ハーリド・シャーミー氏、メディア関係局のアブー・マスアブ・ヒムスィー氏とアブー・ターミル・ヒムスィー氏が含まれている。

ドゥラル・シャーミーヤ(6月10日付)によると、シャーミー報道官は、トルコの記者を含む報道関係者とともに現場を視察中に戦闘に巻き込まれ、イブリーン村に対するシリア軍の砲撃によって負傷した民間人を搬送しようとしていたところを狙われて、死亡した。

シャーム解放機構に近いイバー・ネット(6月10日付)も、シャーミー報道官の死亡を伝え、弔意を示した。

アブー・マスアブ・ヒムスィー氏もこのシャーミー報道官とともに死亡した。

アブー・ターミル・ヒムスィー氏を含む戦闘員6人は、負傷者を収容するために民間の車輌で現場に向かおうとしていたところをシリア軍の地対地ミサイルの攻撃を受け死亡した。

一方、住民4人のうち2人が子供、1人が女性。

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ザーウィヤ山地方では、6月6日にロシア軍兵士1人が死亡して以降、シリア軍と「決戦」作戦司令室の戦闘がにわかに激化しており、ザマーン・ワスル(6月10日付)によると、住民が連日数千人単位でより安全な「決戦」作戦支配地域への避難を続けている。

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ハマー県では、シリア人権監視団によると、シリア軍が「決戦」作戦司令室の支配下にあるガーブ平原のカルクール村近郊の土塁に乗り上げていたトルコ軍の重機1輌と車1台に向かって地対地ミサイルを発射した。

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ロシア国防省は声明を出し、過去24時間で「緊張緩和地帯設置にかかる覚書」への違反を35件(イドリブ県16件、ラタキア県11件、アレッポ県0件、ハマー県3件)確認したと発表した。

シリア政府によると、停戦違反は31件。

一方、トルコ側の監視チームは、停戦違反を15件確認したと発表した(ただし、ロシア側はこれらの違反を確認していない)。

AFP, June 10, 2021、ANHA, June 10, 2021、al-Durar al-Shamiya, June 10, 2021、Ministry of Defence of the Russian Federation, June 10, 2021、Reuters, June 10, 2021、SANA, June 10, 2021、Shabaka Iba’ al-Ikhbariya, June 10, 2021、SOHR, June 10, 2021、Zaman al-Wasl, June 10, 2021などをもとに作成。

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