米露外相がシリアの化学兵器の国際管理・廃棄に関する両国の合意内容を発表するなか、自由シリア軍参謀委員会は「著しく裏切られた」としてその内容を拒否(2013年9月14日)

Contents

反体制勢力の動き

自由シリア軍参謀委員会のサリーム・イドリース参謀長はイスタンブールで記者会見を開き、シリアの化学兵器廃棄に関する米露の合意について「著しく裏切られた…。危機を解決するものでない」と非難し、拒否すると発表した。

イドリース参謀長は「我々は米露の合意を拒否する。化学兵器が破壊される2014年半ばまで、世界の誰も待っていられない」と述べた。

また「バッシャール・アサドの軍は、化学兵器の一部をレバノンとイラクに移動させ始めている」と主張、米国に対して、ロシアのイニシアチブに騙されないよう忠告するとともに、「(ジョン・ケリー米国務長官は)私に、(シリア)攻撃の脅迫は依然として選択肢のなかにあると述べた」ことを明かした。

イドリース参謀長はさらに、ジュネーブ2会議に関して、アサド政権が政治プロセスから排除されなければ、参加を受け入れないと述べた。

**

シリア革命反体制勢力国民連立はイスタンブールで前日に続き総合委員会会合を継続、ガッサーン・ヒートゥー氏の後任として、アフマド・トゥウマ氏を移行期政府首班に選出した。

首班選挙では総合委員会(定数114人)メンバーの75人がトゥウマ氏を支持し、10人が反対を表明、12人が棄権、17人が欠席した。

トゥウマ氏は、1955年生まれ、ダイル・ザイル県出身の歯科医師。2001年に反体制組織「市民社会再生諸委員会」に参加、2005年には「ダマスカス民主変革宣言」に参加し、2006年に同宣言国民評議会のダイル・ザイル県代表に、2007年は同書記長に選出された。

トゥウマ氏は選出後に演説を行い、解放区の行政に関する戦略計画を策定し、人道支援活動、治安対策、経済復興をめざすとの姿勢を示した。

**

反体制活動家のリーバール・アサド氏(アサド大統領のいとこ)はCNN(9月14日付)に、化学兵器の国際管理・廃棄に関するロシアの提案をアサド政権が受け入れたことを歓迎し、「誰の手にこうした兵器が渡るか分からないなか、この提案は非常によい」と述べた。

**

シリア軍化学兵器局の元局長だったという離反士官のアドナーン・サルウ少将はアラビーヤ(9月14日付)に、シリアの化学兵器を廃棄するのに1ヶ月も必要ないとしたうえで、アサド政権が化学兵器を隠すために時間稼ぎをしていると批判した。

またサルウ少将は、アサド政権がダマスカス県ジャウバル区で新型の化学兵器を使用したと主張した。

国内の暴力

ダマスカス郊外県では、AFP(9月14日付)が治安筋の話として、マアルーラー市周辺で軍と反体制武装集団が交戦を続けたと報じた。

同治安筋によると、軍は、反体制武装集団の拠点が依然としてサフィール・ホテルおよび同ホテル周辺などにあるが、教会や史跡が多いマアルーラー市一帯に対して迫撃砲などを使用できないために、戦闘には困難が伴っているという。

このほか、シリア人権監視団によると、スバイナ町、アルバイン市郊外、ザマルカー町郊外、ダーライヤー市、ムウダミーヤト・シャーム市を、軍が空爆し、ムウダミーヤト・シャーム市では子供2人が死亡した。

**

ハサカ県では、クッルナー・シュラカー(9月13日付)によると、ラアス・アイン市東部のジャフファ・ダルダーラ村、アルーク村にイラク・シャーム・イスラーム国、シャームの民のヌスラ戦線が潜入し、民主統一党人民防衛隊と交戦した。

**

ダマスカス県では、ロイター通信(9月14日付)によると、バルザ区、ジャウバル区で、軍と反体制武装集団が交戦し、軍が砲撃・空爆を行った。

**

ダルアー県では、シリア人権監視団によると、アトマーン村、タファス市、ダーイル町を軍が空爆し、子供1人と女性3人が死亡した。

これに対して、反体制武装集団はタッル・ジャービーヤにある第61旅団本部を砲撃し、複数の兵士を殺傷した。

**

アレッポ県では、SANA(9月14日付)によると、ダイル・ハーフィル市・アレッポ市街道、バーブ市・アレッポ市街道、フライターン市で、軍がトルコから武器弾薬を運び込もうとした反体制武装集団の車輌を攻撃、破壊した。

またキンディー大学病院周辺、クワイリス村、アレッポ市ジュダイダ地区、ライラムーン地区、旧市街で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

**

イドリブ県では、SANA(9月14日付)によると、アブー・ズフール航空基地周辺、ダルクーシュ町、アイン・バーッラ市、タイイバート村、シュグル市、ビンニシュ市、バザーブール村、ハミーディーヤ市、ウンム・ジャリーン村、ジャルジャナーズ町、マアッラト・ヌウマーン市、カフルルーマー村で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

**

ヒムス県では、SANA(9月14日付)によると、レバノン領内からタッルカラフ市方面に潜入しようとした反体制武装集団を軍が撃退した。

**

ハマー県では、SANA(9月14日付)によると、ハマー市郊外のハルサーン市で、軍が反体制武装集団の掃討を完了し、同市の治安を回復した。

またビッリー村で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

レバノンの動き

ベカーア県バアルベック郡のシリア国境に近いラブワ村、ジャッブーラ村に迫撃砲弾3発が着弾し、NNA(9月14日付)によると、2人が負傷したと報じた。

諸外国の動き

ジョン・ケリー米国務長官とロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣は、スイスのジュネーブでシリアの化学兵器の国際管理・廃棄の具体案に関する協議(3日目)を行った。

3日間の会談を終えた両国外相は記者会見を開き、シリアの化学兵器の国際管理・廃棄に関する米露の合意内容を発表した。

合意内容の骨子は以下の通り:

1. 米露は数日以内に、化学兵器禁止機関に、シリアの化学兵器の検査、廃棄に関する計画書を提出する。
2. 米露は、上記計画書の実施を定める国連安保理決議の採択において協力する。
3. 米露は、化学兵器の使用、無許可での移送など、シリア政府が合意を履行しなかった場合、国連憲章第7章に基づく措置をとるべきだという点に同意する。
4. シリアの化学兵器の量と種類について、米露の見解は一致した。
5. 米露は、シリア政府が保有するすべての化学兵器の種類、量、保管場所、保管形態、研究・製造施設を、1週間以内に完全に申告するにことをシリア政府に求める。
6. 2014年前半までに化学兵器の廃棄を完了し、化学兵器、原材料、専用機材、弾薬、製造・研究施設を破壊する。
7. シリア政府は化学兵器禁止機関(OPCW)と国連調査団によるあらゆる施設への完全な査察を認める。
8. 以下の日程を目標にする。2013年11月までに最初の査察を実施し、同月までに製造施設を破壊する。

会談で、ケリー国務長官は「シリアが保有する化学兵器の種類や量に関して、米露の見解は一致した…。アサド政権に1週間以内に化学兵器と製造施設の完全な目録を提出させる」と述べた。

米政府は、シリアがサリンガスなどの化学兵器を約1,000トン保有しているとみている。

また「世界は、アサド政権に約束の履行を求める。引き延ばしや回避は許さない」と述べ、シリア政府が廃棄プロセスを履行しない場合、「国連憲章第7章に基づく措置」をとると明言した。

しかし「武力行使は、安保理がとるかもしれず、またとらないかもしれない選択肢の一つだ」と付言した。

一方、ラブロフ外務大臣は、米国との合意を「共通理解と自動的な制裁に基づく合意」だとしたうえで、「シリアは化学兵器禁止条約に正式加盟する前から加盟国としての義務を履行する」と述べた。

また「今回の合意が実現すれば、化学兵器を廃棄できるだけでなく、軍事的シナリオを回避できるだろう」と強調した。

一方、シリア政府の公約不履行に対処するための国連憲章第7章に基づく安保理決議に関して「武力行使や自動的な制裁を意味するものではない。すべては安保理で承認されなければならない」と述べた。

**

バラク・オバマ米大統領は、シリアの化学兵器の国際管理・廃棄に関する米露合意に関して「化学兵器の最終的な廃棄に向けた重要で具体的な一歩だ」と歓迎の意を示した。

そのうえで「外交が失敗すれば、米国は行動する用意がある」と付言した。

**

クッルナー・シュラカー(9月14日付)は、ジョン・ケリー米国務長官がシリア革命反体制勢力国民連立のアフマド・ウワイヤーン・ジャルバー議長と自由シリア軍参謀委員会のサリーム・イドリース参謀長と電話会談を行い、化学兵器使用に関するアサド政権への制裁(軍事攻撃)について説明した、と報じた。

同報道によると、電話会談で、ケリー国務長官は、アサド政権への制裁(攻撃)が、シリアのためだけでなく、国際機関や国際世論に対する米国の信頼のためになされねばならない、と述べたという。

**

フランスのローラン・ファビウス外務大臣は、シリアの化学兵器の国際管理・廃棄に関する米露合意に関して「重要な一歩だ」とする声明を出した。

**

英国のウィリアム・ヘイグ外務大臣は、シリアの化学兵器の国際管理・廃棄に関する米露合意について「歓迎」の意を示し、「合意履行のための早急な行動は今から始まる」と述べた。

**

ドイツのギド・ヴェスターヴェレ外務大臣は、シリアの化学兵器の国際管理・廃棄に関する米露合意について「歓迎」の意を示すとともに、シリアの紛争に関して「軍事的解決ではなく、政治的解決があるのみ」と強調した。

**

トルコのアフメト・ダウトオール外務大臣は、シリアの化学兵器の国際管理・廃棄に関する米露合意について「シリア政府の戦闘機が今も複数の地域を砲撃し…、民間人を殺している」と述べたうえで、「(合意は)過去の犯罪を帳消しにしない…。ダマスカスが時間稼ぎをしようとしていることに対して(国際社会は)目を覚ますべきだ」と異議を唱えた。

**

国連のプレス・センターは、声明を出し、国連がシリアの化学兵器禁止条約加盟に必要なすべての文書を受理し、30日後の10月14日にシリアが同条約に正式加盟することになるだろう、と発表した。

ロイター通信(9月14日付)が報じた。

**

国連報道官は、シリアの化学兵器の国際管理・廃棄に関する米露合意について潘基文事務総長が「シリア国民の苦しみを終わらせるための政治的解決を促すことを強く希望する」と述べたと伝えた。

AFP(9月14日付)が報じた。

**

イタリアの沿岸警備隊は、過去24時間の間にイタリア南部の海岸にシリア人約500人を乗せた船舶複数席が漂着した、と発表した。

AFP, September 14, 2013、Alarabia.net, September 14, 2913、CNN, September 14, 2013、al-Hayat, September 15, 2013、Kull-na Shuraka’, September 14, 2013、Kurdonline, September
14, 2013、Naharnet, September 14, 2013、NNA, September 14, 2013、Reuters,
September 14, 2013、Rihab News, September 14, 2013、SANA, September 14, 2013、UPI,
September 14, 2013などをもとに作成。

(C)青山弘之 All rights reserved.