2012年7月19日のシリア情勢

国内の暴力

「イスラーム国」を名のる組織が、シリア・トルコ国境のバーブ・ハワー国境通行所を「完全制圧した」と発表した。

Youtube, July 19, 2012

Youtube, July 19, 2012

同組織シューラー会議のメンバーを名のる「アブー・ムハンマド・シャーミー博士」は、トルコへの通行、そしてシリアからトルコへの通行は完全に開放されたことを明らかにした。

http://www.youtube.com/watch?v=9olv3ukQifs

一方、シリア革命指導部最高評議会なる組織の報道官は、アラビーヤ(7月19日付)に対して、自由シリア軍の戦闘員がイドリブ県の対トルコ国境に位置するバーブ・ハワー国境通行所を制圧したが、撤退を余儀なくされた、と述べた。

Youtube, July 19, 2012

Youtube, July 19, 2012

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ロイター(7月19日付)は、反体制武装集団がアレッポ県の対トルコ国境に位置するジャラーブルス市の国境通行所を制圧した、と報じた。

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『ハヤート』(7月20日付)は、ダイル・ザウル県の対イラク国境に位置するブーカマール国境通行所も反体制武装集団の手に落ちた、と伝えた。

シリア国境警備隊の大尉は「シリア国旗が自由シリア軍の旗に換えられ、民間人の服を着た武装集団が通行所を歩き回っているのが見えた」と証言した。

一方、イラク内務省のアドナーン・アサディー内務次官はAFP(7月18日付)に対して、「イラク・シリアの国境通行所は、カーイム、タンフなどすべて自由シリア軍の手に落ちた。スィンジャールでは依然として戦闘が続いている」と述べた。

また「これ(制圧)は当然だ。なぜならこの地域の住民はシリア政府や首都に集中している軍に反対している。この地域は首都からは遠い…。だから陥落して当然だ」と続けた。

しかし「国境通過点に近いフジャイジーン村で、自由シリア軍は地元住民2人を殺害し、大尉の両手を…イラク兵の目の前で…切り落とした…。ハザーイー村、サラーマ村近くでも警官22人を惨殺した」と付言した。

こうした事態を受け、「自由シリア軍はいまだ承認されておらず、事態は深刻になっているため」、イラク側が、ブーカマール・カーイムの国境通行所を完全に閉鎖するとともに、それ以外のすべての通行所も閉鎖するだろうと明言した。

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ダマスカス県では、シリア人権監視団のラーミー・アブドゥッラー代表によると、カーブーン区で、反体制武装集団との戦闘で、軍・治安部隊の兵士が少なくとも15人死亡し、軍・治安部隊が初めて戦車を投入した。AFP(7月19日付)が伝えた。

またマッザ区で、早朝から反体制武装集団と軍・治安部隊が激しく交戦、後者の兵士が少なくとも5人死亡した。軍・治安部隊はヘリコプターや迫撃砲を投入している、という。

マイダーン地区やタダームン区でも迫撃砲などによる攻撃は続き、それ以外にもダマスカス郊外県のドゥンマル市、クドスィーヤー市、ムウダミーヤト・シャーム市で早朝から激しい爆発音や銃声が聞こえたという。

ダマスカス県南部および北東部での反体制武装集団と軍・治安部隊の戦闘激化に伴い、マッザ区、マイダーン地区、カフルスーサ区など数百世帯が砲撃を避けるため、パレスチナ人難民が多く暮らすヤルムーク・キャンプ地区などに避難したという。

AFP(7月19日付)は、シリアの匿名治安筋の話として、ダマスカス県マイダーン地区とタダームン区での戦闘は「非常に激しい」としたうえで、「48時間以内、ラマダーン月開始まで、ダマスカスからテロリストの掃討は続くだろう…。軍は現在のところ作戦を自制しているが、(民族治安局ビルでの)爆発後、ダマスカスの武装集団殲滅のためあらゆる武器を使用することを計画している」と報じた。

同消息筋によると、軍は「住民に戦闘地域から退避するよう求めているが、テロリストは住民を人間の盾にしようとしている」という。

一方、シリア・アラブ・テレビ(7月19日付)やドゥンヤー・チャンネル(7月19日付)は、ダマスカス県のタダームン区、マイダーン地区、カーア地区、ナフル・イーシャ地区で、軍服をまとい、共和国護衛隊の紋章を付けた武装集団が、軍に対する国民の信頼につけ込むかたちで犯罪行為を犯そうとしているとの速報を流した。

また『ティシュリーン』(7月20日付)は、マイダーン地区およびその周辺で軍・治安部隊が反体制武装集団と交戦を続け、少なくともテロリスト20人を殺害し、また多数のテロリストが投降したと報じた。また同地区内のアジトを制圧したほか、武装した四輪駆動車、RPG弾、手榴弾などの武器弾薬、外国貨幣を押収したという。

同報道によると、カーブーン区でも交戦が続き、多数のテロリストが死亡、投降した。しかしその際、一部のテロリストが仲間の遺体を焼却し、彼らが外国人であることを隠そうとした、と報じた。

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ダマスカス郊外県では、反体制活動家によると、軍・治安部隊はヘリコプターを使用し、サイイダ・ザイナブ町を攻撃し、少なくとも60人が死亡したと主張、ユーチューブ(7月18日付)に映像をアップした。

シリア人権監視団のラーミー・アブドゥッラー代表によると、サイイダ・ザイナブ町の住民が多数、ナジュハー市方面に避難したという。

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ヒムス県では、シリア革命総合委員会によると、ヒムス市ハーリディーヤ地区、ジャウラト・シヤーフ地区、カラービース地区、ガントゥー地区、クサイル市、タルビーサ市に対する砲撃が続いた。

一方、『ティシュリーン』(7月20日付)によると、タッルカラフ地方、クサイル地方で軍・治安部隊による反体制武装集団の掃討作戦が続いた。

またレバノンからの潜入を試みる反体制武装集団の戦闘員と対峙、撃退した、という。

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ダイル・ザウル県では、シリア革命総合委員会によると、ダイル・ザウル市、ブーカマール市、ハリータ村、シュハイル市で発砲があった。

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ハマー県では、シリア革命総合委員会によると、ハマー市で朝の礼拝を済ませて街に出た市民に治安部隊が発砲した。

一方、『ティシュリーン』(7月20日付)によると、ハマー市のマシャーウ・アルバイーン地区、旧アレッポ街道地区、ワーディー・ジャウズ地区で軍・治安部隊による反体制武装集団の掃討作戦が続き、大量の武器弾薬を押収、容疑者を逮捕した。

またラブダ村では軍・治安部隊が反体制武装集団と交戦し、テロリスト多数を殺害、逮捕した。

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ダルアー県では、『ティシュリーン』(7月20日付)によると、ブスラー・シャーム市で治安維持部隊と反体制武装集団が交戦し、内務省筋によると、テロリストのガッサーン・ズウビーが死亡した。

シリア政府の動き

シリア国営テレビ(7月19日付)は、アサド大統領がファフド・ジャースィム・フライジュ新国防大臣の宣誓式を主催する映像を放映した。

al-Hayat, July 20, 2012

al-Hayat, July 20, 2012

ラージハ国防大臣らの暗殺以来、公の場に姿を現していなかったアサド大統領に関しては、「暗殺現場で負傷した」や「ラタキアに非難している」といった憶測が飛び交っていたが、映像公開により、シリア政府は大統領が通常通りの執務を行っていることをアピールした。

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AFP(7月19日付)は、ダマスカスの治安筋の話として、暗殺されたダーウド・ラージハ国防大臣、ハサン・トゥルクマーニー副大統領補佐官、アースィフ・シャウカト副参謀長の国葬が20日(金曜日)にダマスカスで行われると報じた。

暗殺された3人のうち、ラージハ国防大臣はギリシャ正教徒、トゥルクマーニー副大統領補佐官はイスラーム教スンナ派、シャウカト副参謀長は、家族がアラウィー派が多く住むタルトゥース県マドハラ村に移住したのちアラウィー派に改宗した、ないしは母親がアラウィー派の家系とされる。

なおシャウカト副参謀長の経歴については、拙稿「アースィフ・シャウカト少将は失脚したのか?:シリアをめぐる地域情勢の変化のなかで」(『国際情勢』No. 79、2009年、333-351ページ)を参照。

反体制勢力の動き

シリア国民評議会のジョルジュ・サブラー報道官はAFP(7月19日付)に対して、ラージハ国防大臣らの暗殺が「この体制の終わりの始まり」と述べ、「体制とその抑圧的治安機関に大打撃を与えた」との見方を示した。

レバノンの動き

CNA(7月19日付)は、ダマスカスでのラージハ国防大臣らの暗殺事件発生後、シリア人約400人が新たにレバノン領内に避難、南部県スール郡、ザフラーニー郡、ナバティーヤ県ナバティーヤ郡、ビント・ジュベイル郡に向かったと報じた。

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ナビーフ・ビッリー国民議会議長は、ダマスカスでのラージハ国防大臣らの暗殺に関して、「このテロ行為が、国の統一を保障するために活動してきたシリア軍を寸断するために…行われたことは疑う余地がない」と非難した。

また「軍の寸断はシリアの分割と、アラブ地域におけるその役割の根絶をもたらすだろう」と警鐘をならし、「我々はシリアが危機を乗り越え、国内平和を達成すると信じている」と述べた。

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『ティシュリーン』(7月20日付)は、ミシェル・スライマーン大統領がアサド大統領と電話会談し、18日に暗殺されたラージハ国防大臣らに哀悼の意を示すとともに、爆破テロに対する強い反対の意を示した、と報じた。

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アドナーン・マンスール外務大臣はワリード・ムアッリム外務在外居住者大臣に対して、ラージハ国防大臣ら爆弾テロの犠牲者への哀悼の意を伝えた。

イラクの動き

イラクのジャラール・ターラバーニー大統領は、アースィフ・シャウカト副参謀長の暗殺を受け、妻でアサド大統領の実姉のブシュラー・アサド氏に弔電を送った。

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イラクのターリク・ハーシミー副大統領(テロ活動支援容疑で欠席裁判中)は現在滞在中のカタールで、離反したナウワーフ・シャイフ・ファーリス駐イラク・シリア大使と情報収集のため会談する用意があるとの意思を示した。

クルディスタン自治区にある副大統領暫定事務局が発表した。

国連の動き

国連の潘基文事務総長は声明を出し、ラージハ国防大臣らの暗殺を「厳しく非難」する一方、シリアの治安当局による(報復の)重火器使用への懸念を表明、安保理に対して、「自らの責任を果たし、集団的・実効的な行動」を呼びかけた。

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コフィ・アナン特使は、シリア政府への制裁とUNSMISの任期延長に関する決議案に関して、安保理諸国による一致団結と、流血停止と政治的転換の準備に向けた協力且つ協調的な行動を呼びかけた。

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国連安保理で、シリア政府への制裁に関する決議案が採決され、米英仏、インド、コロンビア、ドイツ、ポルトガル、トーゴ、モロッコ、グアテマラ、アゼルバイジャンは賛成したもの、ロシアと中国が拒否権を発動し反対、また南アフリカとパキスタンが棄権し、廃案となった。

米英仏独ポルトガルが共同提出した決議案は、UNSMISの任期を45日間延長することに加えて、シリア政府が10日以内にアナン特使のイニシアチブに従い停戦しなければ、国連憲章第7章に基づき(経済)制裁を科すことを求めていた。

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スーザン・ライス米国連大使は、「安保理の外で友好国とアサド体制への圧力を検討し続ける」と述べた。

またUNSMISに関しては「安全かつ組織的な撤退のための任期延長の用意がある」と述べる一方、露中の拒否権発動に関しては「シリア情勢の混乱を増す」と非難し、シリア政府に対して化学兵器の使用・移転を行わないよう警告した。

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ロシアのヴィタリ・チュルキン国連大使は、UNSMISの任期延長のみを目的に英国が準備した新たな決議案に関して「英国はこっけいな決議案を提出した。我々には検討の時間が必要だ」と述べ、20日に採決に応じるか否かを決する意思を示した。

また拒否権の発動に関しては「シリアへの制裁と軍事介入の脅迫を拒否する…。アナン特使の停戦案やジュネーブでのシリア協力グループの決定を実行するための行動に換えて、シリア危機の軍事化や紛争激化の試みを反故にした」と述べた。

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なお英国が提出した新決議案はUNSMISの任期を「一度だけ30日間延長する」ことを定めるとともに、アサド政権と反体制勢力の勢力の停戦を任期再延長の条件としている。

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UNSMISのロバート・ムード団長はダマスカスで記者会見を開き、ラージハ国防大臣らの暗殺に関して、犠牲者遺族や負傷者家族に哀悼の意を示すとともに、シリア情勢に関して「平和への途上にはない…。過去数日間でダマスカスで起きていることがそのことを示している」と述べた。

任期最終日を受けてダーマー・ルーズ・ホテルで記者会見を開いたムード団長はまた「私は去る。私は私と約400人の勇敢な男女が重大な課題に直面する状況下で最大限の努力をしたことに満足している」と述べた。

その他諸外国の動き

ロシアのユーリ・ウシャコフ大統領顧問は記者団に対して、ウラジミール・プーチン大統領がトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相との会談やバラク・オバマ米大統領との電話会談で、アサド大統領退任後の亡命先について協議してないと述べた。

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フランス外務省のベルナール・ヴァレロ報道官は、「暴力がとりわけダマスカスでここ数日エスカレートし、離反も増大している。このことは、ダマスカスの体制が日々、状況を制御できなくなりつつあることを示している」と述べた。

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英国のデビッド・キャメロン首相は、アサド大統領が「去る時が来た。彼の体制は変革を必要としている…。転換が起きなければ、内戦が起きることは明白だ」と述べた。

その根拠として同首相は、「体制は国民に対して恐るべき行為を犯した。そしていまだに犯している」からだと続けた。

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ヨルダンのアブドゥッラー国王は、CNN(7月18日付)に対して、「我々は政治的解決を切望しているのだが、最悪のシナリオの一つは、化学兵器の武器庫が敵(テロリスト)の手に落ちることだ」と述べた。

またラージハ国防大臣らの暗殺に関して、シリア政府にとって「大きな打撃」となったとしつつも、「近い将来に体制が終わるという結論に飛躍すべきだとは考えない」と述べた。

そのうえで「我々が政治的解決を後押ししたいと願っても、現地情勢は我々を追い越して推移するかもしれない…。内戦を回避する最後のチャンスだ」と付言した。

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イスラエルのエフド・バラク国防大臣は占領下のゴラン高原を視察、ラージハ国防大臣らの暗殺に関して、「アサド家の体制の崩壊を加速するだろう。この事件はシリアの体制と、イラン人とヒズブッラーからなる過激な枢軸に大きな打撃となっている」と述べた。

AFP, July 19, 2012、Akhbār al-Sharq, July 19, 2012、al-Ḥayāt, July 20, 2012、Kull-nā Shurakāʼ, July 19, 2012、Naharnet.com, July 19,
2012、Reuters, July 19, 2012、SANA, July 19, 2012、Tishrīn, July 20, 2012などをもとに作成。

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