公認野党6党を含む政治同盟「国民民主ブロック政党勢力連立」が結成、国連人権理事会ではハウラでの虐殺を調査するための独立国際調査委員会の設置を支持する声明が採択(2012年6月1日)

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国内の暴力

『ハヤート』(6月2日付)は、各地で金曜礼拝後に反体制デモが断行され、「数千人が参加した」と報じた。

Kull-na Shurakā’, June 1, 2012

Kull-na Shurakā’, June 1, 2012

「数万人が参加した」とされる前週以前の金曜日のデモに比べ、参加者数は少なかったと見られる。

また、シリア人権監視団は、治安当局が一部のデモに対して発砲するなどして強制排除したとしつつ、死者がでたとは発表しなかった。

フェイスブックなどではハウラでの虐殺に抗議するため、「ハウラの子供たち、勝利の炎」と銘打った反政府デモが呼びかけられていた。

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ヒムス県では、AFP(6月1日付)がサリーム・カッバーニーを名のる活動家の話として報じたところによると、クサイル市郊外の検問所で労働者12人が乗ったバスが治安当局に静止させられ、その場で「戦場処刑」された。

カッバーニー氏によると、殺害された労働者は後ろ手に縛られ、銃で撃ち殺された、という。

このほか、シリア人権監視団によると、ヒムス市のスィバーア地区、バーブ・タドムル地区で軍・治安部隊と反体制武装集団が激しく交戦し、多数が死傷した。

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ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、ダーライヤー市に軍・治安部隊が突入し、市民5人が死亡した。

また同監視団によると、ドゥーマー市で銃声・爆発音が聞こえた。

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ダマスカス県では、SANA(6月1日付)によると、バサーティーン地区にテロリストの家で爆弾の準備中に誤爆し、テロリスト2人が死亡した。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、マストゥーマ地方で大きな爆発音が聞こえた。

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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、サイダー町、西ガーリヤ村で軍・治安部隊と反体制武装集団が交戦した。

またシャイフ・マスキーン市では、男性1人がモスクから出たところを射殺された。

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ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団によると、ブーカマール市で市民1人が治安当局によって射殺された。

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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、シャッアール地区で反体制デモが発生し、治安部隊が強制排除した。

アサド政権の動き

シリアの外務在外居住者省は国連人権理事会の関係各局に対して書簡を送り、米国の複数の企業が傭兵の教練などを通じて、シリアでの人権侵害を行っていると指摘した。

その他の国内での動き

SANA(6月1日付)などによると、各地のモスクでハウラでの虐殺の犠牲者を追悼するための礼拝が行われた。

SANA, June 1, 2012

SANA, June 1, 2012

追悼礼拝は、ダマスカス県のウマイヤ・モスク、アレッポ市、ラタキア市などのモスクで行われたという。

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Syria News(6月1日付)によると、国内で認可された野党6党と、公認申請中の1党、および無所属活動家らがダマスカスで記者会見を開き、「国民民主ブロック政党勢力連立」の名で政治同盟を結成したと発表した。

参加したのは以下の党。

シリア・アラブ団結党
国民青年公正成長党
アンサール党
シリア民主党
シリア国民青年党
アラブ民主団結党
国民ブロック党(公認申請中)

反体制勢力の動き

Elaf.com(6月1日付)は、紛争地域での世論調査を専門とする「プチュテル」研究所が、シリア国内で反体制活動家を対象に秘密の世論調査を行ったと報じた。

調査は暴力が激しい5地域で行い、回答者186人を無作為抽出した(ただし回答者の3分の1はダマスカスに居住)。

質問の内容については紹介されていないが、回答結果から以下の点が明らかになったという。

1. 回答者の約半数がシリア・ムスリム同胞団に批判的で、約3分の1が好意的。
2. ほとんどの回答者がシャリーアの適用や、ウラマーの政治参加に反対。
3. 73%がキリスト教の権利保護を重視。
4. サウジアラビアを好意的に捉えていた回答者は5%のみ。
5. 82%がトルコを政治・経済的モデルとして高く評価。また67%が米国を政治的モデルとして高く評価。
6. チュニジア、エジプトを政治的モデルとして高く評価していたのはそれぞれ37%、22%と低い。
7. イランを政治的モデルとして高く評価していたのは2%のみ。
8. 90%がヒズブッラーを低く評価。

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シリア国民評議会は声明を出し、クサイル市郊外での「戦場処刑」を強く非難し、国連安保理とアラブ連盟に対して、政府による犯罪を停止させ、民間人を保護するための措置をとるよう改めて求めた。

また別の声明では、イランがアサド政権に武器・資金援助を行っていると非難、アラブ連盟に対してイランに援助停止を求めるよう呼びかけた。

レバノンの動き

アレッポ市・郊外革命評議会のアブー・アブドゥッラー・ハラビー報道官は、アレッポでのレバノン人巡礼者誘拐への関与を否定した。

また「アレッポ農村シリア革命家」の犯行声明に関しても、「自分たちではなく別ルートで(ジャズィーラ)に届けられた」と述べた。

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ヒズブッラーのハサン・ナスルッラー書記長がイマーム・ホメイニーの命日に合わせて、テレビ演説を行い、シリア情勢に関して、平静、対話、そして国民統合維持を呼びかけた。

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アナン特使がレバノンを訪問し、ナジーブ・ミーカーティー首相と会談し、シリア情勢、とりわけレバノンからシリアへの武器密輸問題について意見を交換した。

諸外国の動き

国連人権理事会で、ハウラでの虐殺を調査するための独立国際調査委員会の設置を支持する声明が41カ国の支持により採択された。

ロシア、中国、キューバは反対票を投じ、3カ国(ウガンダ、エクアドル、フィリピン)が棄権・欠席した。

理事会では、ハウラ地域での虐殺を「人道に対する犯罪」とみなし得るとのナバネセム・ピレイ人権高等弁務官の言葉が代読された。

ピレイ人権高等弁務官は、シリア情勢に関して「全面紛争に陥る」危険があると懸念を表明し、虐殺問題を国際刑事裁判所への提訴を呼びかけた。

シリアのファイサル・ハマウィー代表は、ハウラでの虐殺が「テロ集団」の犯行で、使用された武器のほとんどがイスラエル製だと反論、「シリアで内戦を煽ることでイスラエルが行う殺戮を隠蔽しようとしている」と非難した。

一方、国連の拷問防止委員会は声明を出し、シリア国内でのデモ弾圧などを改めて非難した。

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ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はドイツのアンゲラ・メルケル首相と会談した。

会談後の記者会見で、プーチン大統領は、シリア国内で内戦の兆候が現れ始めていると警鐘を鳴らす一方、ロシアによるシリアへの武器供与を続けているとのクリントン米国務長官の発言を否定した。

またロシアが、シリアのいかなる当事者をも支持していないと述べた。

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続いて、プーチン大統領は、フランスのフランソワ・オランド大統領と会談した。

会談後の共同記者会見で、オランド大統領は、「アサドの退任以外に現状からの出口はない…。UNSMISが任務を実施できれば…、政治プロセスは、治安と安全を回復するための第2段階に入る…。こうした結果に到達したいのなら、さらなる制裁と圧力が必要である」と述べ、シリアの混乱を助長する必要を強調した。

これに対して、プーチン大統領は、「我々が懸念しているのは事態の過激化であり、事態が制御不能となり、民間人が犠牲になることだ…。我々の目的は敵対し合う当事者どうしの和解である…。我々はすべての当事者を支援し、政治的解決を望んでいる」と反論した。

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一方、ロシア外務省は声明を出し、ハウラでの虐殺に関して、「資金援助や武器密輸がいかにして破壊分子に届いているかを明らかにした」と発表し、外国の支援を受けたテロリストの犯行と断じるアサド政権の立場を支持した。

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ヒラリー・クリントン米国務長官は、ロシアがシリアに武器供与を継続していることへの「重大な懸念」を表明した。

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アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長は、『シャルク・アウサト』(6月1日付)に対して、「シリアでの軍事的行動の意思は今のところない」と述べるとともに、「反体制勢力は武装したとしても、政府に太刀打ちできない」と述べた。

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英国のウィリアム・ヘイグ外務大臣は、イスタンブールでシリアの反体制勢力や潘基文国連事務総長らと会談し、シリア情勢に関して「全面内戦の縁にある」と述べ、アナン特使の停戦案の履行の必要を強調した。

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自国政府に対する抗議運動が認められていないカタールの首都ドーハで、シリア国民との連帯を訴えるデモが開かれ、シリア国民評議会のブルハーン・ガルユーン事務局長らが参加した。

AFP, June 1, 2012、Akhbar al-Sharq, June 1, 2012, June 2, 2012、Elaf.com, June 1, 2012、al-Hayat, June 2, 2012, June 3, 2012、Kull-na Shuraka’, June 1, 2012、Naharnet.com,
June 1, 2012、Reuters, June 1, 2012、SANA, June 1, 2012、al-Sharq al-Awsat, June 1, 2012、Syria News, June 1, 2012、UPI, June 1, 2012、などをもとに作成。

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