サファル新内閣が発足するも、ダルアー市では政権打倒を求める数千人規模のデモが行われる(2011年4月14日)

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国内の暴力

SANA(4月14日付)は、シリア高官筋の話として、バーニヤース市で狙撃集団がパトロール中の軍兵士に発砲し、兵士1人が死亡、1人が負傷したと報じた。

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al-Hayat, April 15, 2011

al-Hayat, April 15, 2011

タルトゥース県では、ロンドンで活動するシリア人権監視団のラーミー・アブドゥッラフマーン会長によると、バーニヤース市民使節団とシリア政府高官使節団が、治安維持のために軍が市内にただちに展開することなどに合意した。

合意は、バーニヤース市での事件に関する恩赦、すべての逮捕者の釈放、市内に治安機関が入らないこと、いかなる家に対しても捜索を行わず、いかなる個人も逮捕しないことなどを骨子とし、「バーニヤース市の限られた地点、クスール地区、カウズ地区に軍が入り、検問所を撤廃する」と定め、住民に「市民保護を行う存在として軍を心から受け入れる」よう呼びかけており、13日に成立し、市内のモスクからその内容が市民に告知された。

なおアブドゥッラフマーン会長によると、「市民は軍が入ることを歓迎」しており、「女性たちが座り込みで叫んだシュプレヒコールのなかには「アッラー、シリア、軍、人民」というシュプレヒコールもあった」という。

他方、英『ガーディアン』(4月14日付)は、複数の目撃者の証言として、バーニヤース市でデモ弾圧を拒否する治安部隊の兵士複数が上官らによって射殺された、と報じた。

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ダルアー県では、複数の目撃者などによると、ダルアー市に隣接する村々出身の約100人がヨルダン国境に通じる道を閉鎖し、タイヤを燃やした。

また『アフバール・シャクル』(4月14日付)によると、ダルアー市のウマリー・モスク前のカラーマ広場に数千人が集まり、アサド政権と会談した使節団が市民を代表していないと非難、政権打倒を訴えた。

Kull-na Shurakāʼ, April 14, 2011

Kull-na Shurakaʼ, April 14, 2011

同目撃者によると、デモ参加者が集まったのは、国境から約30キロの地点だ、という。

アサド政権の動き

4月14日政令第146号に従い、アーディル・サファル内閣が発足、17閣僚を留任させ、14人を新閣僚に任命した。また副首相職は廃した。

新内閣閣僚は以下の通り。http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/aljabal/biladalsham/syria/ministers/2011_04.htm

SANA, April 14, 2011

SANA, April 14, 2011

アーディル・サファル首相(アラブ社会主義バアス党)

ファイサル・アッバース運輸大臣(アラブ社会主義バアス党)
ワリード・ムアッリム外務大臣兼在外居住者大臣(アラブ社会主義バアス党)
ジョルジュ・マラキー・スーミー灌漑大臣(シリア共産党ファイサル派)
ラーミヤー・アースィー観光大臣(アラブ社会主義バアス党)
サーリフ・ラーシド教育大臣(アラブ社会主義バアス党)
ムハンマド・ニダール・シャッアール経済通商大臣(アラブ社会主義バアス党)
アドナーン・サラーフー工業大臣(アラブ社会主義バアス党)
アブドゥッラッザーク・シャイフ・イーサー高等教育大臣(アラブ社会主義バアス党)
アリー・ハビーブ国防大臣(アラブ社会主義バアス党)
ムハンマド・ジュライラーティー財務大臣(アラブ社会主義バアス党)
ラドワーン・ハビーブ社会問題労働大臣(アラブ社会主義バアス党)
ムハンマド・ムハンマド・アブドゥッサッタール・サイイド宗教関係大臣(無所属)
ハーラ・ムハンマド・ナースィル住宅建設大臣(アラブ社会主義バアス党)
アドナーン・ハサン・マフムード情報大臣(アラブ社会主義バアス党)
スフィヤーン・アッラーウ石油鉱物資源大臣(アラブ社会主義バアス党)

ウマル・イブラーヒーム・ガラーワンジー地方自治大臣(アラブ社会主義バアス党)
カウカブ・スバーフ・ムハンマド・ジャミール・ダーヤ環境担当大臣(アラブ社会主義バアス党)
アブドゥルガニー・サーブーニー通信技術大臣(アラブ社会主義バアス党)
イマード・ムハンマド・ディーブ・ハミース電力大臣(アラブ社会主義バアス党)
ムハンマド・イブラーヒーム・シャッアール内務大臣(アラブ社会主義バアス党)
リヤード・ファリード・ヒジャーブ農業・農業改革大臣(アラブ社会主義バアス党)
ムハンマド・リヤード・フサイン・イスマト文化大臣(無所属)
ワーイル・ナーディル・ハッキー保健大臣(アラブ社会主義バアス党)
タイスィール・カラー・アウワード法務大臣(アラブ社会主義バアス党)
マンスール・ファドルッラー・アッザーム大統領担当国務大臣(アラブ社会主義バアス党)
ユースフ・スライマーン・アフマド国務大臣(シリア共産党バクダーシュ派)
ハッサーン・サーリー国務大臣(社会統一主義者党)
ギヤース・ジュルアトリー国務大臣(統一社会民主主義党)
ジョセフ・スワイド国務大臣(シリア民族社会党マハーイリー派)
フサイン・ファルザート国務大臣(アラブ社会主義者運動アフマド派)

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SANA, April 14, 2011

SANA, April 14, 2011

『ハヤート』(4月15日付)はシリア高官筋の話として、アサド大統領が「祖国と国民に対して犯罪行為を行わなかった者など、最近の事件でのすべての逮捕者の釈放」を指示したと報じた。

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『ワタン』(4月13日付)によると、バッシャール・アサド大統領は、ドゥーマー市(ダマスカス郊外県)市民使節団と2時間にわたって二度目となる会見を行った。

同使節団は市民の要求を聴取するための国民諸委員会の16人から構成されていた。

同紙によると、ドゥーマー市民の要求は「非常事態令解除、法律第49号におけるシリア・ムスリム同胞団メンバーへの極刑に関する文言の修正」などからなっており、「要求に関して合意が得られたうえで、政党法、平和的デモを求める法を承認する必要があることを強調していた」。

また『ハヤート』(4月15日付)によると、アサド大統領は、各地の住民代表との懇談の一貫として、ダルアー市民使節団50人と会談した。

使節団のなかにはウマリー・モスクのイマームも参加した。

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『シャルク・アウサト』(4月15日付)は、ムスタファー・トゥラース元国防大臣がヒムス県住民使節団と会談し、反体制デモ弾圧をめぐる一連の騒動に関して意見を交わしたと報じた。

使節団はヒムス市の人民議会議員、キリスト教、イスラーム教の代表、商業会議所、工業会議所の代表のほか、タルビーサ市、ラスタン市の代表からなっており、治安当局による過剰な弾圧の停止、非常事態令解除などを要求した、という。

トゥラース元国防大臣はハーフィズ・アサド前政権において約30年にわたり国防大臣、軍・武装部隊副司令官を務めてきた。

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アリー・アブドゥルカリーム・アリー在レバノン・シリア大使は、ムスタクバル潮流の反体制デモ支援疑惑をめぐって、レバノン司法当局に法的行動をとるよう求めた。

反体制勢力の動き

シリア人権監視団は声明を出し、シリア治安当局が13日晩から14日早朝にかけて、数百人の逮捕者を釈放したと発表した。

しかし同声明によると、逮捕者のなかには「激しい拷問」を受けた者がいるとし、「拷問の状況に関する生きた証言を聴取するための独立人権委員会の設置と、拷問を行った者、拷問を命令した者を法廷に突き出すこと」を要求した。

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シリア・ムスリム同胞団が声明を出し、反体制デモ煽動に同胞団が関与しているとのシリア・アラブ・テレビの報道(4月12日付)を否定した。

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シリア人権機構(SWASIAH)会長のムンタハー・アトラシュ女史はロイター通信(4月14日付)に対して、シリア政府が破壊活動を行っていると非難する「武装集団」は自由と民主主義へ向けた市民の要求をもみ消すための「作り話」だと非難した。

レバノンの動き

SANA(4月15日付)は、レバノン治安当局筋の話として、14日にシリア国内に武器を持ち込もうとした2人がレバノン領内ベカーア県東部の国境地帯で逮捕された、と報じた。

アシュラフ・リーフィー内務治安軍総局長は、レバノンからシリアに武器を密輸しようとしていた車2台をベカーア県東部で取り押さえたとの報道を否定した。

諸外国の動き

マーク・トナー米国務省副報道官は『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月14日付)に対して「イランがシリアにデモ弾圧の支援を行っているとの信頼できる情報がある」と述べた。

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ドイツ外務省は声明を出し、英仏独伊・スペインの在シリア大使がワリード・ムアッリム外務大臣に対して、国内でのデモ弾圧への懸念を伝えたと発表した。

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ヒューマン・ライツ・ウォッチは声明を出し、アサド政権の逮捕者に対する拷問を非難した。

AFP, April 14, 2011、Akhbar al-Sharq, April 14, 2011, April 15, 2011、The Guardian, April 14, 2011、al-Hayat, April 15, 2011、Kull-na Shurakaʼ, April 14, 2011、Naharnet.com, April 14, 2011, April 15, 2011、Reuters, April 14, 2011、SANA, April 14, 2011, April
15, 2011、al-Sharq al-Awsaṭ, April 15, 2011、al-Waṭan, April 14, 2011、The Wall Street Journal, April 14, 2011などをもとに作成。

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