2011年8月19日のシリア情勢

シリアの複数の都市では「勝利の吉報」金曜日と銘打って活動家がインターネット上で行った呼びかけに応じるかたちでデモが発生、数万人が午後の礼拝後に街頭で体制打倒を訴えた。バッシャール・アサド大統領による作戦停止宣言にもかかわらず、軍・治安部隊は実弾などでこれに対抗し、少なくとも22人が殺害され、数十人が負傷した。

米国および西欧諸国が国連安保理でシリア制裁発動と国際刑事裁判所への提訴を骨子とした決議採択をめざしてシリア・バッシングをエスカレートさせるなか、ロシアとトルコはアサド大統領退任に拒否の姿勢を示した。また中国、インド、南アフリカ、ブラジルも西側諸国の「行き過ぎ」への警戒感を強めている。

また西側諸国による石油・ガス部門への制裁には、早くもその効果を疑問視する意見が出始めており、こうした圧力がシリア国内の暴力を停止できず、国内のデモを煽るだけなら、シリアの政治的不安定を助長するとの批判は免れないだろう。

他方、西側によるシリア・バッシングのエスカレートと時を一にするかたちで、インターネット上で活発な反体制活動を続ける団体が「シリア革命総合委員会」の発足を宣言したが、こうした動きは、西側諸国にシリアへの「軍事介入」の口実を与えることへの危機感を「中立的なシリア人」(『アフバール』19日付)の間で高めつつある。

反体制デモ

反体制デモはダマスカス、アレッポ、ヒムス、ダルアー、イドリブ、ハマー、ダイル・ザウルなどで発生し、その映像はインターネットで多数配信された。アレッポ、ダルアーでは治安部隊が発砲し、デモ参加者を強制排除した。ヒムスでは軍・治安部隊とシャッビーハが合同で警備活動を行い、無差別発砲を行い、アサド大統領を支持するシュプレヒコールを連呼した。

複数の活動家、人権活動家によると、これにより少なくとも22人(子供2人を含む)が殺害された。

シリア人権監視団によると、ダルアー市郊外で15人が殺害された。このうちガバーギブ町では大人6人、子供2人)が、フラーク市では5人が、インヒル市では1人、ナワー市では1人が殺害された。いずれもデモ参加者への軍・治安部隊の無差別発砲による、という。

また同監視団によると、治安部隊がダマスカス郊外県のハラスターでのデモ強制排除中に1人を射殺した。さらにダマスカス県カダム区ではデモ参加者に対して治安部隊が発砲し、複数が負傷、カーブーン区には多数の軍・治安部隊が展開し、モスク周辺を警備、デモ発生を抑止した。しかしダマスカス郊外県ハジャル・アスワド市では反体制デモが敢行された、という。

別の活動家らによると、ヒムス市では3人が殺害された。うち1人はカラービース地区、1人はバーブ・アムル地区、1人はジャウバル区で殺害された、という。同市のデモでは「バッシャールよ、バイバイ…。ハーグで会おう」とのシュプレヒコールが連呼されたという。ハーグは国際刑事裁判所所在地である。一方、シリア人権監視団によると、同市のほぼすべての地区でデモがあり、ハーリディーヤ地区のデモには約20,000人が参加した。これに対して軍・治安部隊はバーブ・ドゥライブ地区、マイダーン地区で激しい発砲を行い、またマイダーン地区とカラム・シャーミー地区では大規模な逮捕・捜索を断行した。

シリア人権監視団によると、ラタキア市ではファターヒー・モスクで午後の礼拝を終えた市民が街頭に出てデモを行ったが、シャッビーハによって強制排除された。一方、バーニヤース市では治安部隊が多数展開していたにもかかわらず、マイダーン地区で体制打倒を求めるデモが発生した。

ダイル・ザウル市でも同様にデモが発生した。

他方ハサカ県では、人権活動家のハサン・バッルー氏によると、カーミシュリーで5,000人、アームーダーで4,000人が反体制デモを行った。同氏によると、治安部隊が多数展開していたが、逮捕や排除は行われなかった。またクルド調整連合はイード・フィトルをクルド人が暮らすすべての地区で自粛すると発表し、クルド民族主義政党もこれに同調したと発表した。

これに対して、SANAは、ダルアー県フラーク市、ダルアー市、ダマスカス郊外県ハラスター市で武装集団が警察署などを襲撃し、治安維持警察4人、民間人2人が殺害、17人の治安部隊が負傷したと報じた。SANAによると、その際、武装集団メンバー2人も殺害された、という。

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西側諸国がアサド大統領に退任を求め、経済制裁強化、国際刑事裁判所への起訴をめざすなか、インターネットなどを通じてデモを組織しているとされる約50の団体が18日に「シリア革命総合委員会」を発足したと報じられる。フェイスブックに公開された発足声明によると、国内外の反体制勢力を糾合し、民主的市民国家、すべてのシリア国民の自由、平等、尊厳、人権尊重を保障する制度を持った国家の建設をめざししている。同委員会の発足声明には以下50以上の団体が参加を表明しているが、そのほとんどがフェイスブックなど仮想空間においてのみ活動を行っている団体(ないしは個人)であり、シリア国民の総意を代表しているとは到底思えない。

1. シリア革命調整連合、2. 反バッシャール・アサド・シリア革命2011ページ、3. シャーム・ニュース・ネットワーク、4. 地元調整委員会5団体(ラタキア、サラミーヤ、バーニヤース、ザバダーニー、マダーヤー)、5. シリア青年民主変革連盟、6. 自由シリア革命青年連立、7. ハマー県調整委員会、8. ヒムス自由人連合6団体、9. ヒムス再生連合、10. ハマー市調整連合、11. ダルアー・革命指導評議会、12. ダイル・ザウル市革命家評議会、13. ジャブラ革命指導評議会、14. ラタキア革命指導評議会、15. シリア革命クルド青年連合、16. クルド調整連合、17. マイダーン・シャーム自由人連合、18. ヒムス・反バッシャール・アサド・シリア革命2011ページ、19. ブーカマール革命、20. 我ら皆ハウラーンの殉教者ネットワーク・ハウラーン調整委員会、21. 我ら皆ハムザ・ハティーブ・ページ、22. シリア革命ページ調整諸委員会、23. イドリブ調整連合、24. 海岸革命家連合、25. マアッラト・ニウマーン調整委員会、26. 灰色のアレッポ調整委員会、27. ヒムス部族調整委員会、28. ザーウィヤ山調整委員会、29. ジスル・シュグール調整委員会、30. イドリブ・ニュース・ネットワーク、31. カラムーン調整委員会、32. シリア変革青年、33. ジスル・シュグール避難民調整委員会、34. ナバク自由人青年連合、35. 夢のシリア、36. カーラ市調整委員会、37. ヤブルード青年連合、38. ヤルムーク・パレスチナ人・ダッフ・シューク調整委員会、39. ハジャル・アスワド・リ・アブナー・ジュールン・ムバーウ、40. キスワ・ムカイラビーヤおよび近郊地域調整委員会、41. サフナ調整委員会、42. ハマー・イドリブ闘争者連合、43. ハサカ・シリア革命青年調整委員会、44. ザーヒラ地区調整委員会、45. 連合調整委員会55団体、46. ジャラーブルス自由人。

アサド政権の動き

 

SANA, Agusut 19, 2011

SANA, Agusut 19, 2011

シリア国連代表のバッシャール・ジャアファリー大使は、シリアへの制裁発動と国際刑事裁判所への提訴を行うための国連安保理決議採択をめざす欧米諸国に関して、シリアと中東地域に対して「一部の国は合法的でない戦略をとるための道具として安保理を利用し…帝国主義的な意図を再生しようとしている」と非難した

『クッルナー・シュラカー』(19日付)によると、弁護士組合ダマスカス支部は8月18日にダマスカス裁判所の弁護士会館の閉鎖を解除することを決定。弁護士会館は反体制集会などに使用されることを警戒した当局によって、改装を口実に閉鎖されていた。

SANAによると、ダマスカス県バーブ・トゥーマ門で、シリア人数千人が(官制)集会を行い、シリア国旗とロシア国旗を掲揚、アサド政権による改革を支持するとともに外国の干渉に反対した。またダマスカス県ヤルムークでも同様のデモ行進が行われた。この集会は「我々はシリアとその指導者を愛する」と銘打たれていた。

ダマスカス郊外県でウカイダート部族の長老や部族が「国民テント」を解説し、アサドを支持。スワイダーの部族が多数参加した。

Kull-na Shuraka', Agusut 19, 2011

Kull-na Shuraka’, Agusut 19, 2011

 

そのほか諸外国の対応

西側諸国が国連安保理を通じてシリア・バッシングを激化させるなか、ロシア外務省は「ロシアはアサド大統領退任をめぐる姿勢を米国やEUと共有していない。シリアに関する我々の原則的立場を護り続ける」と述べ、アサド大統領退任要求を拒否した。また「暴力停止が必要だとの明確且つ曖昧でない兆候がシリア人の間で与えられたと見ている。そしてこれは反体制勢力にも向けられており、彼らは政府との対話を初め、過激派を遠ざけねばならない」と主張し、アサド大統領が自らの約束に従って改革を実施するには時間が必要だとの立場を示すとともに、現体制下での政治解決を求めるとの方針を改めて確認した。

AFPは、匿名のトルコ政府高官の話として、トルコもまたアサド大統領の退任を求める西側諸国の姿勢に同調していないことと報じた。AFPによると、同高官は「我々はまだこれほどの態度を持つには至っていない…。シリア国民がまずアサド大統領に出て行けと言うべきだ。しかし、シリアの反体制勢力は統一されておらず、エジプトやリビアとは異なり、今のところ、シリア人全体がアサド大統領に出て行けと行っているのを耳にしていない」と述べたという。

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米国と西欧諸国(米仏独ポルトガル)は、アサド政権への制裁発動とシリア情勢を国際刑事裁判所での調査を骨子とする安保理決議案の作成を開始した。数日中に安保理への提出をめざすという。

またフランス外務省は、国連安保理での国連人権最高弁務官の提言に従い、シリア情勢の国際司法裁判所を提訴することを支持するとの姿勢を表明。

さらにスペイン外務省は英仏独ポルトガルによる国連安保理での動きを支持し、これに加わると発表。

これに対してロシアと中国は、決議案提出に反対し、制裁発動、国際刑事裁判所への提訴の必要はないとの姿勢を示している。またインド、南アフリカ、ブラジルとともに、国連人権調査団の再派遣・調査を支持している。西側諸国は調査団の派遣の必要はないとの立場をとっているが、国連のバレリー・アモス事務次長は、4日以内に調査団が訪問するだろうと述べ、シリア側が使節団の自由な視察を行うことの保障を得たことを明らかにした。

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EU諸国政府は、アサド政権高官15人と政府関係機関5機関を制裁リストに追加するとともに、石油禁輸措置発動の計画を策定することに合意した。これまで大統領を含む35の個人・機関が制裁対象となっているが、追加制裁では、「体制に関係がある機関や弾圧に関与した個人だけでなく、銀行、通信、そして石油部門をも対象とする」と外交筋は明かした。

しかし、欧米諸国による対シリア制裁、とりわけ石油・ガス部門への制裁に関して、ロバート・フィスク氏は『インティペンデント』(19日付)で、「アサド大統領にとっての真の恐怖は石油禁輸制裁でなく、銀行への制裁」と指摘。同氏によると、アサド大統領は2月までシリア中央銀行に預金されてきた12,000,000,000ポンド相当の外貨準備高が、毎週50,000,000ポンドのペースで減っていることを懸念している、という。またシリアの銀行預金の約10%は2011年の最初の4ヶ月で消えたと指摘、約800,000,000ポンドが引き出され、レバノンの複数の銀行に移転されたと述べている(フィスク氏の論説については19日付『インティペンデント』を参照)。

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国際刑事裁判所のルイス・モレノ=オカンポ検事総長は声明を発表。シリア情勢に関して、「現時点で検事総局は(国連安保理での)報告に関して調査する権限はない。なぜならシリアは国際刑事裁判所に関するローマ規程の参加国ではなく、本法廷の権限を承認していないからである」と述べた。しかし「国連安保理は、公正はこの国の平和や安定に資すると見なすのであれば、国際刑事裁判所にシリア問題を提訴できる」と述べる。

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マーク・トナー米国務省副報道官はCNNのインタビューでシリアの反体制勢力に関して「5ヶ月前よりもシリア社会を体現、代表するようになった」との評価を下す。

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日本の松本剛明外務大臣は、シリア情勢をめぐって「もはや正当に国を統治することはできず、道を譲るべきだ」との談話を発表。

al-Akhbār, August 19, 2011、AFP, August 19, 2011、Akhbār al-Sharq, August 19, 2011、al-Ḥayāt, August 20, 2011, August 21, 2011、The Independent, August 19, 2011、Kull-nā Shurakā’, August 19, 2011, August 20, 2011、Reuters,
August 19, 2011、SANA, August 20, 2011などをもとに作成。

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