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反体制勢力の動き――ロシア連邦議会使節団との会談――
ロシア議会の使節団がシリア訪問を終えた。最終日には、ダルアー市、ヒムス市、ハマー市を視察し、地元の住民や代表らと会談した。またダマスカスで晩に反体制勢力の代表10人と会談した。
ロシアの使節団と会談したのは、マルワーン・ハバシュ人民議会議員、シリア共産党カースィユーン派のカドリー・ジャミール書記長、ハムザ・ムンズィル氏、ミー・ラフビー女史、経済学者のアーリフ・ダリーラ氏、そしてアントゥーン・ドゥーラー・マロン派神父、アフマド・ファーイズ・ファウワーズ氏、サリーフ・ハイルベク氏。
ロシア使節団の一人のミハイル・カーブラ連邦議会法務委員会委員長は、使節団の訪問目的が「ロシア政府に現状に関して可能な限り多くの情報と真実を伝え、それによりロシアの今後の対応を決定すること」と述べるとともに、「問題解決はシリア人の手によるべきである。なぜなら外国による解決は異なったものとなるからだ」と強調した。
ハバシュ人民議会議員はロシア使節団との会談後、「治安専制体制を終わらせ、民主的・多元的国家を建設し、そしてまた外国の内政干渉を拒否する必要があるとの点で一致した。このことは、ロシアがシリア国民を支援せねばならないということである。しかしシリアでの若者たちの革命の方法、活動家をめぐって見解は一致しなかった。一方、調整委員会のメンバーは、会談で、革命が外国の陰謀によるとの見方を否定した」と述べた。
これに対して、AKI(9月21日付)によると、国民民主変革国民調整委員会の複数の幹部はロシア連邦議会の使節団と会談した反体制勢力に関して、「使節団は委員会に接触してこなかった。委員会は使節団と会談するかなる使節団も結成しなかった。ロシア側と何らの対話も行わなかった。会談したメンバーは委員会の知らない間に個人の資格で対話したに過ぎない」と述べた。また「ロシアの使節団と対話した面々の見解は、シリア政府の見解とさして変わらない」と批判した。
反体制運動をめぐる動き
ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ヒムス市のバーブ・アムル地区、インシャーアート地区で2人が殺害された。複数の活動家によると、軍・治安部隊はヒムス市の入り口を閉鎖した。
同市では19、20日と大規模な反体制デモが行われていた。
ヒムス市郊外のフーラで小中学生が登校を拒否し、体制打倒を求めるデモを行った。これに対して軍・治安部隊、シャッビーハが発砲し、10歳の子供一人を含む5人を殺害。
またバアルバ市、ダイル・バアルバ市、タドムル市、ラスタン市、カラム・シャーミー市、タルビーサ市、そしてヒムス市内各地(ハッターブ村バーバー・アムル、インシャーアート、クスール)などでも小中学生が同様のデモを行った。
一方、ヒムス市バーブ・スィバーア地区の住民がシャッビーハの一人を捕らえ、その蛮行を自供させた。彼の自供によると、シャッビーハは活動家を降伏させるため、その姉妹を誘拐し、強姦したうえ殺害したと自供した。彼自身も、人権活動家のムハンマド・ディーブ・ヒスニーさんの妹のザイナブ・ヒムスィーさん(19歳)を8月17日に誘拐し、兄に投降を迫った。
9月17日、ヒスニーさんの父親は治安当局の聴取を受けた後、ヒムス市軍事病院で遺体を引き取った。遺体はクビ、手足が切り離され、黒い袋に入れられていた。
これを受け、さらにヒムス市各所ではザイナブ・ヒスニーさんを讃えるデモが断行された。
これに対して、SANA(9月21日付)は、ヒムス市クスール地区の大ハディージャ学校近くで武装テロ集団が治安維持部隊に発砲し、1人が殉職、3人が負傷したと報じた。
またヒムス市内の国立病院周辺でも同様の事件があったが死傷者は出なかった。またシリア軍部隊は、ヒムス市バーブ・アムル地区西のジュダイダ・アースィー地区を通る石油パイプラインにしかけられた爆発物(TNT25キロ)を撤去したと報じた。
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ダマスカス郊外県では、キスワ市に兵員輸送車輌約40台が突入し、デモ参加者への逮捕・追跡作戦を展開。また活動家によると、治安部隊はドゥマイル市で離反兵8人に発砲し、2人を殺害、4人を逮捕した。2人は逃走したという。
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ダマスカス県バルザ区でも生徒が反体制デモを行った。
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イドリブ県では、カフル・ウワイド村で警官が何者かに殺害された。同村では軍・治安部隊による逮捕・捜索活動が続いていた。
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フェイスブックの「シリア革命2011」ページは「フサイン・ハルムーシュへの忠誠の火曜日」を呼びかけたが、これに呼応するようなデモはほとんど発生しなかった。
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アラビーヤ(9月20日付)は軍・治安当局に逮捕されたのち、拷問・殺害されたギヤース・マタル氏の家族の話が、同氏の遺体が家族に引き渡される前に臓器が盗まれたと語ったと報じた。
同氏の家族によると、マタル氏の腹部には大きな傷跡があったという。
またシリア人権委員会によると、複数の逮捕者の遺体から臓器が盗まれていたという。
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地元調整諸委員会が声明を出し、イスタンブールで発足したシリア国民評議会への支持を表明。
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「アフバール・シャルク」(9月20日付)は、シリアのキリスト教徒有識者が声明を出し、レバノン・マロン派のビシャーラ・ラーイー総大司教やシリアのキリスト教会幹部のアサド政権支持の姿勢を拒否したと報じた。
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ジャズィーラの「イッティジャーフ・ムアーキス」(9月20日放送)でアサド政権を支持する作家・研究者のアブドゥルマシーフ・シャーミー氏とシリア国民評議会のムハンマド・アブドゥッラー氏が討論を行った。
番組終了直前にシャーミー氏がいすから落ちたことが、「アサド政権の崩壊を予兆する」、「体制を支持してきたことの報い」といった低俗な反響を呼ぶ。映像はhttp://www.youtube.com/embed/lKNqAx1BF5cを参照。
アサド政権の動き
ダマスカス県での国民対話会合が閉幕、挙国一致と社会的結束への参加と熱意に基づく充分な教育を通した社会的成長の重要性、家長による教育義務が確認されるとともに、対話、意見表明を通じた児童の教育を通じて、責任意識、リーダーシップ、自己への信頼を強化する必要が強調された。
また各県での開発・投資プロジェクトを通じて公正とバランスを実現すること、行政改革・制度再構築を通じた汚職撲滅、国内戦線の強化とレジスタンス支援などが確認された。
諸外国の動き
バラク・オバマ米大統領とトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相はニューヨークで昨晩(現地時間19日)、シリア危機とシリアでの民主主義への移行段階支援に向けた両国の調整について話し合った。
『ハヤート』(9月21日付)は複数の高官の話として、トルコは、アサド政権が「戻れない地点」まで来ていると認識し、過渡期を直接支援する措置をとるための最善の方法を検討している、と報じた。
一方、米国は、「アサド政権の崩壊は差し迫ったものではないが…、現状が続くことはあり得ず」、国際的孤立が政権崩壊において実質的な役割を果たすことになるとの見方をしている、という。
ホワイトハウス報道官は、バラク・オバマ米大統領が、レジェップ・タイイップ・エルドアン首相との会談し、「さらなる圧力をかける必要」がある点で一致したと述べた。
この会談をめぐって、『ワシントン・ポスト』(9月19日付)は、米国がトルコとの協調を通じて、シリアでの内戦の可能性に対処する方途を検討している、と報じた。米国高官によると、米国はシリアの反体制勢力に糾合を迫っているが、その背景には、イラク戦争後の状況の再発(ポスト・フセインへの具体的なビジョン計画を書いたままフセイン政権打倒に踏み切ったこと)への懸念があるという。
国連総会に先立って、ヒラリー・クリントン米国務長官は20日(現地時間19日)、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣が会見。複数の外交筋によると、この会談でクリントン国務長官は、「シリア政府が国民を殺害し、数千人を不当にも投獄するなかで、安保理で果たし得る確固たる役割を検討する」よう求めた。これに対して、ラブロフ外務大臣は、反体制勢力が「政府との対話を始め、過激派と距離を置こうとしている」と評価した。
また米国のスティーブン・チュー・エネルギー長官は、IAEA第55回年次大会で演説し、シリアに対して核開発疑惑問題解明のためIAEAに協力するよう求めた。
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一方、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣はニューヨークで、ロシアが「シリア問題に関する決議を支持しているだけでなく、特別な決議案を持っている」と述べ、「政府側および武装集団によるあらゆる暴力の停止」を求める安保理決議を準備していることを明らかにした。
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英国のウィリアム・ヘイグ外務大臣は、ジャズィーラのインタビューに対して、アサド政権が「戻れない地点にまで来て」おり、「我々は今安保理で、シリアへのさらなる国際圧力を科すための新たな決議を検討中である」と述べた。
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ヒズブッラーが運営するマナール・チャンネルは、レバノン北部県クーラ郡でレバノン治安当局がシリアに武器を密輸していた集団を摘発した、と報じた。しかし同郡選出のファリード・ハビーブ議員(レバノン軍団)は、この報道を否定した。
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アラブ議会連盟は第2回定例会合で、シリアとイエメンのメンバーシップを凍結し、本部をダマスカスから転出することをアラブ連盟のナビール・アラビー事務総長に提言。
Aljazeera.net, September 20, 2011、AP, September 20, 2011、AFP, September 20, 2011、Akhbar al-Sharq, September 20, 2011、September 21, 2011、Alarabia.net, September 20, 2011、DPI, September 20, 2011、al-Hayat, September 21, 2011、Kull-na Shuraka‘, September 20, 2011、SANA, September
21, 2011、al-Sharq al-Awsat, September 21, 2011、The Washington Post, September 19, 2011などをもとに作成。
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