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対トルコ関係
トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相は、バラク・オバマ米大統領と21日(現地時間20日)、ニューヨークで会談した。会談後の記者会見で、エルドアン首相は「シリア政府との連絡を絶った。このような段階に至るとはまったく期待していなかったが、残念ながら、この国の政府は我々にこのような決定をさせた…。我々は彼ら(米国)と協調して、可能な制裁を検討する…。もはやシリア政府を信頼できない」と述べた。
また首相は、アフメト・ダウトオール外相がヒラリー・クリントン米国務長官と会談を行い、ダマスカスに対して初となるトルコの制裁に関して調整を行うことを明らかにした。
ホワイトハウスのエリザベス・シャーウッド・ランダル報道官によると、両首脳は「シリア国民の要求に沿って事態を打開するため、シリア政府へのさらなる制裁を科す必要があるということを話し合い」、「さらなる圧力をかける必要」がある点で一致したと述べた。
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トルコ外務省は、トルコ領内のシリア人避難民キャンプで非道徳的な行為が行われているとのシリア国営筋の報道に対して、「暗黒のプロパガンダにして虚言」と反論し、遺憾の意を表明した。
シリア・アラブ・テレビは、トルコ領内の避難民キャンプで強姦されたとするジスル・シュグール出身のシリア人女性の複数の証言を放映していた。
またトルコの避難民キャンプで暮らすシリア人女性もシリア・アラブ・テレビでの報道内容をYoutubeなどを通じて否定した。
反体制勢力の足並みの乱れ
「アフバール・シャルク」(9月21日付)は、シリア国民評議会発足宣言にいたるまでのブルハーン・ガルユーン氏と「イスタンブール・グループ」の対立を、同氏のフェイスブックの書き込みをもとにまとめた。
それによると、シリア国民評議会発足に先だって9月10日にカタールのドーハで発足した「シリア国民連立」に関して、「イスタンブール・グループ」は「反体制勢力の統一を完了するためのシリア国民評議会の一機関」と連立を位置づけた声明の内容を不服として、署名を拒否したという。
また「イスタンブール・グループ」はガルユーン氏らに知らせることなく、シリア国民評議会の発足を宣言し、メンバーを近く公開すると発表した。
これを受け、ガルユーン氏はメンバー発表を遅らせるか、イスタンブールで人選を行うための審議するよう求めたが、「イスタンブール・グループ」は「そう約束したから」との理由で、これに応じなかった、という。
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地元調整諸委員会は声明を出し、イスタンブールで発足したシリア国民評議会への支持を表明。声明では「この評議会の活動、発足のしくみ、評議会内のメンバー構成に関していくつかコメントすべき点はあるが、地元調整委員会は、シリア国民評議会を支持し、同評議会が設置する各委員会への実質的な参加を決定し、反対政府勢力の統一と、分裂状態の克服をめざす」と述べた。またダマスカス国民民主変革宣言、クルド民族主義勢力などにシリア国民評議会への参加を呼びかけた。
なおシリア革命総合委員会は、20日に声明を出し、シリア国民評議会の発足について慎重な姿勢を見せている。
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AKI(9月21日付)は、ダマスカスで開催された国民民主変革諸勢力国民調整委員会の大会の閉幕声明に関して、アッシリア教徒の政治組織、代表が呼ばれなかったことに対して、アッシリア教徒たちが憤りを感じていると報じた。
反体制運動をめぐる動き
ヒムス県、イドリブ県で軍・治安部隊による活動家の逮捕・捜索作戦が続く一方、シリア革命調整連合によると、治安当局は生徒たちによるデモを阻止するため、ダマスカス郊外県、ヒムス県、バーニヤース市、イドリブ県などの複数の学校に突入し、多数の生徒を逮捕した。
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イドリブ県では、シリア人権監視団と複数の住民によると、ザーウィヤ山に近い対トルコ国境付近で潜伏する離反兵に対して軍・治安部隊が激しい攻撃を行った。
ラーミー・アブドゥッラフマーン所長によると、とりわけイドリブ県ザーウィヤ山一帯は離反兵の拠点となっている。またハーリドを名乗る住民によると、同地域では後ろ手に縛られた多数の遺体が発見された。また男性2人の遺体が家族に引き渡された。
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ヒムス県では、シリア人権監視団などによると、ヒムス市で軍・治安部隊の逮捕・捜索活動により、バーブ・スィバーア地区などで民間人6人が殺害され、3人の負傷者が病院で逮捕された。またヒムス市内の裁判所では反体制活動家のイマード・ダルービー弁護士が逮捕された。
これに対して、SANA(9月22日付)は、ヒムス市バーブ・アムル地区で武装テロ集団が治安維持部隊を攻撃し、3人が負傷したと報じた。
住民によると、ヒムス市郊外のフーラで一昨日から軍・治安部隊による激しい戦闘が行われているが被害は明らかになっていない。
シリア人権監視団によると、ラスタン市入り口で、軍・治安部隊がバスを襲撃し、11歳の少年とその母親が殺害、5人が負傷した。こうしたなか、同市では、離反兵が「ハーリド・ブン・ワリード大隊」を名乗る反体制部隊の発足を宣言した。
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ハマー県では、シリア人権監視団によると、フワイズ村で、逮捕されていた若者の遺体が発見された。
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バーニヤース市では、シリア人権監視団によると、反体制デモを行った生徒5人が逮捕された。
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ダマスカス郊外県では、シリア革命調整連合によると、ハラスター市、アルバイン市などで、学校に治安当局が突入し、多数の生徒が逮捕された。
キスワ市でもデモに参加していた市民1人が軍・治安部隊の発砲で殺害された。
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ダルアー県では、シリア革命調整連合によると、ジャースィム市で、学校に治安当局が突入し、多数の生徒が逮捕された。
これに対して、SANA(9月22日付)は、ダルアー市サッド地区の農場で、武装テロ集団を逮捕、彼らが隠し持っていた大量の武器弾薬を押収したと報じた。
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「アフバール・シャルク」(9月21日付)は、アレッポで青年医師ハーリド・マラーイジー氏が失踪したと報じた。
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世界的な芸術家のマーリク・ジャンダリー氏がフェイスブックの自身のページで、暴行を受けた両親の写真を掲載。
アサド政権の動き
AKI(9月21日付)は、シリアの複数の高官筋の話として、バッシャール・アサド政権が10月に2度目となる包括的対話大会の実施を計画していると報じた。
同消息筋によると、大会への出席は、一連の措置実施と結びついており、政府の対話への真剣な姿勢を示すことで、反体制勢力にとって満足のいくものだという。
具体的には、対話は、治安的解決に代えて、政治的解決を危機打開の唯一の策とし、軍・治安部隊を都市から完全に撤退させ、すべての政治犯を釈放し、弾圧の責任者を起訴するといった一連の措置の一環をなすという。
しかし、クルド民族主義反体制勢力筋は、この呼びかけにほとんどのクルド民族主義政党が拒否するとの姿勢を示している。
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アンカブート・サイト(9月21日付)は、シリア反体制勢力筋の話として、ルストゥム・ガザーラ少将が20日夜にダマスカス郊外県ドゥーマー市で士官2人とともに襲撃され、死亡したと報じた。
しかし、フサイン・ハルムーシュ大佐が釈放されなければ士官を殺害すると予告していた自由将校運動は襲撃を否定。また『シリア・ニュース』(9月21日付)は信頼できる消息筋の話として、「治安機関高官への暗殺未遂に関する報道は事実無根である」と、暗殺の事実を否定した。
諸外国の動き
バラク・オバマ米大統領は国連総会での演説で、アサド政権による反体制運動の弾圧を非難、以下のように述べて、国連安保理に対シリア制裁決議の採択を求めた。
「問われていることは明白である。我々は、シリア国民と連帯せねばならないのか、彼らを弾圧する者たちと連帯しなければならないのか…。合衆国はシリアの指導者らに厳しい制裁を科した。我々はシリア国民の要求に応えるような政権の交代を支持している。多くの同盟国が我々の努力に参加している。しかしシリアを解放し、世界の平和と安全のために声を一つにせねばならない…。行動しないことは許されない。安保理がシリア政府に制裁を科し、シリア国民と連帯する時が来た」。
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ロバート・フォード駐ダマスカス米大使は自身がダマスカスにとどまって職務を継続していることに関して、米国がアサド大統領の退任をあきらめたわけではないと述べた。
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EUは、石油部門への新規投資の禁止、複数の政権高官および機関を制裁リストに追加からなるダマスカスへの追加制裁(第7弾となる制裁)を科すことで加盟27カ国が合意に達したと発表した。同決定は9月23日に正式に発効する。
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イラクのヌーリー・マーリキー首相の顧問は、イラク政府がアサド大統領に退任を求めたとの一部報道を否定した。この報道は『ワシントン・ポスト』(9月20日付)が最初に「イラク政府はアサド大統領が退任することを長らく望んでいた、と報道官が述べた」と報じたもので、アリー・ムーサウィー首相付広報顧問は、AFPに対して、「この発言(に関する報道)は正しくない…。イラク政府は他国の内政に干渉するような性格を持っておらず、またそのような方法もとらない。ましては退任を求めることはない…。この報道を完全に否定する」と述べた。
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レバノンの自由国民潮流代表のミシェル・アウン議員はUPI(9月21日付)に対して、以下のように述べ、アサド政権のもとでの改革支持の姿勢を改めて示した。
「シリアの政権が崩壊しても、キリスト教徒とイスラーム教徒は自由を得られないだろう…。安定なき変化の導入は暴力と混乱をもたらす。変化のない安定の導入は独裁をもたらすだろう…。我々はシリアで自由と民主主義が実現する憲法改正を声高に支持している…。もし平和的解決が可能なら、暴力に訴えるかたちでの問題解決は支持できない」。
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マイケル・ウィリアムズ国連事務総長中東問題特別顧問はレバノンのアウン議員と会談。シリア情勢に関して「暴力がまもなく収束し得ると希望している。我々はともに改革の必要を認識している。抜本的な改革がシリアだけでなくより広い地域の情勢を安定化させると考えている」と述べた。
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IMFは中東地域の社会情勢や混乱がシリアの経済成長にマイナスに作用し、2011年の経済成長率は2%にとどまるとの見方を示し、4月時点の経済成長予測3%から1ポイント下方修正した。
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アズハル機構のシャイフ、アフマド・タイイブ師が反体制勢力の使節団と会談し、シリア国内での流血を止めるようアサド政権に呼びかけた。
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国連のIRINは9月21日付のレポートによると、シリアでの反体制デモ弾圧による犠牲者数は5,360人にのぼると発表した。シリア政府は犠牲者の数が1,400人と発表している。レポートはhttp://www.irinnews.org/report.aspx?reportid=93772を参照。
AFP, September 21, 2011、al-Akhbar, September 21, 2011、Akhbar al-Sharq, September 21, 2011、AKI, September
21, 2011、 al-Ankabut, September 21, 2011、al-Hayat, September 22, 2011、Kull-na Shuraka’, September 21, 2011、Naharnet.com,
September 21, 2011、Reuters, September 21, 2011、SANA, September 22, 2011、Syria
News, September 21, 2011、UPI, September 21, 2011などをもとに作成。
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